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ウィレマの知らないウィレマのこと。②


確かに『成り代わり』と言っていい術だが、それは代償を含め完璧に行われたならば、の話。


それに『前世の記憶』と言うにもあまりに朧気なウィレマの話とは大分齟齬がある。

いや乖離しているとすら言える程、全く違うモノだ。


「術式は不完全、或いは術が失敗したのですか」

「いいえ、成功しているわ」


ウィレマに施された術はあくまでもそれに『近いモノ』であって、少し違うようだ。


「術式も、目的を鑑みたらきっとあれで完璧。 最初は『そこまで望んでいなかった』とか……『元々の代償が足りなかった上で目的を変えた』とか、そういうことかと思ったのだけれど……」


それは『成り代わり』という意味であれば不完全な術式だが、「多分、目的そのものが違う」と閣下は言う。


(リリイベルの目的……)


産んだ娘が死に追いやった姉に瓜二つ。

きっと最初は『ふたりのどちらにも似ていない』程度で、娘の成長に従い徐々にそれが判明していくのは、かなりの恐怖に思える。

後ろ暗いことがあるなら、尚更。


「見た目の変化による復讐、ですか」


辿り着いた答えはそれだ。


「──それもどうかしら」

「え?」


しかしそんな俺の単純な想像は、すぐに閣下に一蹴された。





「考えてもみて。 不利益を被るのは子供よ? 現に夫妻は他にも子供を作り、ウィレマは冷遇された。 そしてきっとそれも予測済み(・・・・)


閣下は渡した本を俺の手からスッと抜き取ると、ページを軽く一瞥して閉じる。


「あの『呪い』は……それのみを単体で見てしまえば『呪い』と言うにはあまりにもウィレマ自身への利が高い。 実際の術式はいくつかの部分が書き換えられている」

「利が高い、とは?」

「12歳になりウィレマの待遇が変わるまで、『病弱』という体で隔離されていたウィレマを自然死に見せ掛けて殺す方法はあった筈よ。 毒とかね」

「効かなかった……」

「ええ」


コクリと頷いた後、閣下はなにかを思い出すように視線を彷徨わせる。


「古代文字もそうだけど、術式そのものの知識のなさから当時の私では本質を見抜け無かった。 ウィレマが全てを私に捧げる代わりに庇護を求めてきた時、私は『呪いを解除しなきゃ』と思ったのだけれど、あの子はそれを拒んだわ。 『これは呪いかもしれませんが、私にとっては加護や祝福のようなモノです』と。 多分それが正しい(・・・)

「……『加護や祝福』」

「あの子の肉体を守る、という点では」


含みのある言い方をした後、閣下は聞いた当初のウィレマとのやり取りを、自身の見解を含めて話し出した。


「ウィレマが何故貴方に『前世』と語ったかはわからないけれど、コレはあくまでも『呪い』……当然前世ではないわ。 語った内容自体は概ね同じというか、私が質問したのもあって、より具体的と言ったところかしら」


『もう一人』については、俺が思った以上に孤独な日々の支えになっていたようで、閣下はそれを「『イマジナリーフレンド』だったのでは」と述べる。


曰く、『イマジナリーフレンド』とは『具現化して感じられる、空想上の友人』のことらしい。


「ウィレマの塔での生活はほぼ一人だったようなの。 子爵家は裕福でメイドも沢山いるものの、両親がそんなだから皆気持ち悪がって近寄らず、それも黙認されていたみたい。 食事は出たと言っていたけれど、おそらく最低限……『水場もある』とか『自分のことは概ね自分でやった』みたいな発言もあった。 掃除や洗濯まで自分でやっていたんでしょうね」


(自分の娘……ましてや幼子になんてことを)


貴族令嬢とは思えない過酷な状況に、強く憤りを感じて無意識で拳を握る。


「やっぱり虐待じゃないですか……」

「そうよ。 その割にウィレマにはその自覚が薄い、そう感じない? ソコよ」

「!」

「親への愛情と向けられる自分への愛情の期待や執着から、認めたくないのならまだ理解できる気がするけれど、ウィレマは両親にあまり関心がない。 精々『雇用主』程度にしか思っていないような」

「それは俺も感じました!」


5歳の頃から12歳になるまで。

仮に産まれた時から違和感を感じ遠ざけていたにせよ、5歳の頃までは一応は娘として扱っていた筈だ。

既に物心ついている、そこから7年もの間の虐待──愛情を求めないにせよ憎しみを抱いていてもおかしくないと思うのだが、ウィレマは妙に冷めていた。

それは諦念とすら感じられない程。


「虐げられて育った子供が皆ひねくれるワケではないでしょうけど、ウィレマは少し世間ズレしたところこそあれ、素直で優しい割にちゃんと自分の主張もできる。 なにより本人が『もう一人』を自分とは別の人格とし大切に思っている──」


『もう一人』こそウィレマにとっての『家族』であり、両親と妹は他人に過ぎない。


「……その『空想上の友人(イマジナリーフレンド)』が親代わりも務めたってことですか?」

「この術式からはよくわからないけれど、私はそう考えているの」


閣下の見解自体に異論はないが、『呪い』への疑問は膨らむ一方だ。





「それはもう『呪い』ではないのでは?」


結局のところリリイベルは、自分が儚くなる前に妹の第一子──つまり恨みとは別に家を継ぐ存在に『加護』を与え、彼女なりの矜恃を保ったのではないだろうか。


俺がそう説明すると、閣下は「アーヴィング。 それはなかなか鋭い推測だと思うわ」となんだか講師みたいな事を言ってから続けた。


「でも残念ながら……呪いは呪いよ。 術式がどうの、とかではなく。 おそらくヘイス・モルズが死んだのもそのせい」

「!」

「貴方、彼女の戦歴を知っていて? 『殺』を意識して攻撃に及んだと思われる相手は、皆死んでいてよ。 ……まあ、少ないけれど。 元々気が優しくて温厚だもの……ふふ。 きっとウィレマは、呪われたままの方が騎士には向いているわね」


閣下はそう言って力無く笑い、ため息を吐く。


「あれは呪いでありながら正しく『加護』なのよ、アーヴィング。 ウィレマの身体は魔力経路が常人のソレとは違う。 精霊の愛し子に近い……人工精霊を体内で飼っているようなモノ。 彼女の危機的意識に応じて増幅する。 それが無意識であってもね」


閣下はエディンブル侯に相談し術式の解析をある程度した上で、そのいくつかを封じる術を重ね掛けしたそうだ。

『解毒』は同時に薬も効かなくさせることもあり封じたらしいが、ウィレマの身体がアルコールを分解しづらいのもこれによる作用だそう。


「殺意に関しては封じていない。 温厚だからもあるけれど、彼女は辛抱強く任務に忠実。 これまでの状況を鑑みても生命の遣り取りまで発展した結果であり、問題はないと判断した……唯一のイレギュラーがヘイス・モルズの件だけど、まだ未熟なウィレマが全力で抵抗したとなればこれも当然。 それに同じ女としても許し難いから欠片の同情も湧かないわ」


ウィレマに話していないことが後ろめたいのか、やや早口の強めの口調で閣下は言う。

だがそれを察したところで別になんてことはない。

俺は女じゃないが、ヘイスの件も『その通り』としか思えないし。


「ウィレマは肝心な時に躊躇したりしませんが、安心材料が増えて有難いですね」


背中を守り合うような信頼関係を培い、騎士としてウィレマを尊重してきたつもりだが、それはそれだ。

いつだって(うしな)うのは怖いし、その時自分がマトモでいられる気がしない。


「そうよね。 アーヴィングならそう言うと思っていたわ!」


俺の言葉に、閣下は悪戯の共犯者を見付けたようなイイ笑顔を向ける。


「だから貴方の職権乱用も許してあげる」

「……なんのことです?」

「色々あるけど、学生時代のは騎士科の規律についての見直しに役立ったから褒めてあげてもいいのよ? 卒業後の噂の回し方は杜撰だったけど。 アレは相手の愚かさに助けられたわね。 もう少し上手くやりなさい、昨夜くらいには」

「……」


──全部知ってんじゃねぇか。


(怖……ッ!)


だが、バルケスが王族の子飼いっていうのはイイ線だったようだ。

なんなら学生時代から既に、見張り役として立ち回っていたのかもしれない。


してやったり、とでもような表情をして笑っていた閣下だが、話が本筋に戻ると途端に笑顔が曇った。


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― 新着の感想 ―
[一言]  ん~、自分の娘ってことならわかるんですけど、寝取った妹が産んだ子に加護を与えるというのは、ピンとこないなぁ。  もうちょい何かありそう。
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