位置が変われば色々変わるもんだ。
※注意※残酷描写少しあります。
「アーヴィングってば相変わらずゥ」
なにが『相変わらず』なのかわからないが、バルケスはそう言って笑う。
「護衛が聞いて呆れる。 お前なにしに来たんだ?」
「旧友とのジャレつきまで守る護衛はいねぇよ。 マークも傷一つ負ってないしね。 つーか俺は調べなくていいの?」
「お前を調べてもなんも出てこねぇだろ」
「まぁねぇ」
おそらく奴は、王家の子飼いとかそんな感じ。自由度の高さから緩い立場にはいそうなので、『影』とかじゃないんだろうが。
幸い王家は一枚岩だ。臣籍降下したとはいえ王族扱いの閣下との仲も円満である以上、とりあえず敵ではないと見て放置した。
バルケスの目的は不明だが、俺には関係ないし余計なことに首を突っ込みたくはない。
「お前は叩けば出てきそうだな? マークはギリギリセーフってトコだが、精々気を付けろよ」
(もしや……内務監査官か?)
「ヘイスとダットンのこと? 殺したかったのは否定しないが、俺はなにもしてない。 残念ながらね」
「やだなぁ、ジョークにそんなムキになるなよ」
「そっちもな。 はは、ジョークに決まってるだろ?」
俺の『ジョーク』にバルケスは「おお怖ッ」と呟き大袈裟に肩を竦める。
「……そもそも俺の護衛の任はマークと予定が合ったからでさ、王都に来るまでとここにいる間だけ。 アーヴィングとはまた会うこともあるかもね」
「そりゃ是非ともご遠慮願いたいね」
「はは、今日はご馳走様」
「ウィレマによろしく」──そう言うバルケスにやる気無く手を振って、俺は部屋を後にし騎士団隊舎に戻る。
仮にヤツが監査官だったところで、後暗いところはない。……まあ、人並み程度にしか。
俺はウィレマと共に騎士として並び立ちたかったのだ。
ウィレマが望むならまだしも、無茶な報復をして奴らの為に自分達の未来を潰す気など持っちゃいない。
幸いふたりは割と早くに死んだ。
ダットンは宝飾品を売ったり女や気の弱い知り合いを脅すなどして暫く王都に潜伏していたが、再起の為にヤバい方法で金を稼ごうとし、裏の組織の人間に殺されている。
俺がまだ騎士になったばかりの頃にあった違法賭博の一斉捜査の際に貧民街にも手入れが入ったのだが、その際見付かったダットンの遺体は路地で野犬に喰われており、ズタズタだった。
裏の組織とわかったのは見せしめの印があった為だ。ある程度拷問にかけてから殺し表に転がしてあったのを、犬が引き摺っていったようだ。
情報を精査する能力もない癖に胡散臭い噂程度の旨い話に食いつくのが悪い、自業自得だ。
(ヘイスは──)
「……はは、まさかな」
ヘイスは暫くしてから高熱を出して死んだ。
教官に捕まらないように森の中の獣道を抜け、傷口に正しい処置もせず安宿に泊まっていたというのだから、そんなに不思議な事でもない。
──『呪い』と繋げるなんて、馬鹿げている。
(それに『まさか』とは思うものの、別にそれならそれで……それこそ自業自得だ)
マークに今まで手を出さなかったのは、さっさと王都から出たからで、未遂だったからだ。
もしウィレマを穢していた場合、あの時の俺なら本当に殺していたかもしれない。
今なら上手く立ち回れる自信があるが、当時なら裏で手を回すとか出来なかっただろうし。
「……ちっ」
そんなことを考えていたら、思わず舌打ちが出た。
『叩けば出る』というバルケスのジョークをなにかの警鐘かと捉えてしまうくらいには、俺は昨日のジョッシュの言葉に案外ショックを受けているらしい。
──『君にはあの子は相応しくない』
『呪い』がどうとかではなく、この言葉に。
あの見目の良さや名家であるが故に苦労した筈のジョッシュが、ウィレマのことをあんな風に言ったことが。
既にウィレマ自身にもそう言われ、謝罪されていたことも大きい。
それがある種の現実というか、客観的事実であることを感じてしまって。
俺といるだけで、ウィレマにはごく自然に悪意を向けられることになるのだ。
隊舎といっても、戻るのは派遣先である第二騎士団隊舎。
第零騎士団に隊舎はなく、第一騎士団の分隊扱いなので、派遣されてなければ王宮内にある騎士隊舎に戻る。
今日は幸い補助人員的な王都巡回任務だったので自由は利いたし緩い。報告書には『怪しい人物と接触、職務質問の上解放/問題ナシ』でいい。
とはいえ、滅茶苦茶公私混同した自覚はある。
宿代酒代を経費で落とすつもりはないが、基本的に真面目な俺はサボりがちょっと後ろめたいので、その分くらいは働くつもり。
どちらかというと補助が常に求められているのは書類仕事……皆脳筋ばかりなので仕事が遅いわ落とせない経費を計上しろと圧をかけてくるわで、担当文官は結構大変なのだ。
間に入って処理してやるのも俺の役目である。
日勤の担当上司である副団長は既に帰っていたので、報告書提出ついでに山積みになっている書類を勝手に浚う。
小一時間程サビ残をするつもりで面倒な書類から片付け、騎士団担当の文官に渡しに行った。
「いやー、ガーティン卿が来て下さると助かります!」
「ふっ、いいってことよ」
残業中の文官兄さんと事務補助のお姉さんに褒められて、俺もご満悦。
「あ、ねぇところでさあ」
ついでにこのふたりにちょっと聞いてみることにした。
「身分差があって恋人が色々言われてしまうご友人……ですか」
「うん、ソイツ『恋人を心無い言葉から守るにはどうしたらいいのか』って悩んじゃってさ」
俺のお悩み相談である。
内容は少し変えたが、大体こんなモノだろう。
「ああ、人の口に戸は立てられませんからね~」
「そうそう、そうなんだよ~」
「ご友人の方は、軟派な方です?」
「いやそんなことはない。 愛想はいいが、女性との関わりが多いワケでもないから『そう見られている』ってこともないと思う」
まあ俺なワケですけど。
女性には基本優しいが、特に軽口は叩かないので『女好き』とか『軟派』とか思われてはいないと思う。多分。
「色々言われるのでは、ご友人の方に付け入る隙があると思われているのでは? 高貴なお方の相手を貶めて得するのは『それよりも自分の方が』とか『自分の娘の方が』という方達でしょう。 勿論それだけではありませんが、身分の高い側がお相手の方にご執心であることを周囲に見せ付けたら、多少マシになるかと」
「な……なるほど……」
「『不仲』の噂も早く回りますが、逆も然りですわ。 女性は恋の話が大好きですから」
(『ご執心』……何気に難易度高いな?)
「ええと、ふたりの仲はいいけど友達っぽいというか、ソイツは割とシャイなんだ」
「あら、学生さんですか? お相手がお若いとか」
「いや、二人とも俺と同じ歳……」
「それはいけません! きちんと恋人扱いしないと、相手の方も周囲に言われたことを間に受けてしまってますよ?」
「うっ……確かに」
心当たりがあり過ぎる。
「ははは。 まずは相手の方に気持ちを伝えた方がよさそうな感じですね」
文官兄さんの方に、なんとなく察されてしまったっぽい。彼は眼鏡を上げながら俺にアドバイスをくれる。
「お相手の方に気持ちを伝えるのに有効なのは言葉だけじゃないので、とりあえず花を贈るとかはどうでしょう。 他にも女性に人気の店でプレゼントを買うとか一緒に食事をするとかは如何です? 周囲へのアピールにもなりますし」
「あら、慣れてらっしゃるのね? 意外にも」
「勿論慣れてますよ。 残念ながら職務の範囲ですがね……色々回ってくるんです」
「おかげで人気の店や流行りのジュエリー、花言葉にもそこいらの女性より詳しくなりましたよ……」とボヤく文官兄さんを見て、補佐のお姉さんは豪快に笑っていた。
ちなみに嫌に具体的だと思ったら、お姉さんの話は概ねクルーズ団長のことらしい。
そういえばあの人、ここの元団長だったわ。
俺は言われた通り『とりあえず花を贈る』ことにした。
(装飾品も今度見に行こう……あとは人気のレストランを予約せねば)
考えたらこういうの、したことがなかった。
ウィレマを『女性として扱ってはいけない』とか、勝手に思い込んでいたのかもしれない。
それも俺なりの気遣いではあったが、関係性が変われば気遣う内容も変わって当然なのに。




