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007 古代文字と予備の逃げ道

 お昼ご飯を頂いて午後の授業の開始です。お昼ご飯はバゲットサンドを頂きました。食パンで挟んだものではなく、フランスパンのようなものを使用するサンドイッチです。本日はローストビーフと玉ねぎのスライスを挟んだものを頂きました。

 普通の令嬢からは、大口を開けて食べるバゲットサンドは避けられがちなのですが、神殿の方にある人気のない噴水近くでいただきましたので、問題ありません。

 ええ、ボッチ飯ですが、何か?

 ところで午後は古代学の予定なのですが、神殿の近くにある棟に教室があります。ここら辺はゴシック調の建築が多く古い建物が多くありますね。

 趣のある建物ですよね、ルネサンス建築もゴシック建築も嫌いではありません。むしろなんというか、ファンタジーっぽいです!

 さて、古代学の授業のある教室に到着したのですが、他に生徒がいません。なぜでしょうか?


「それは、古代学が人気のない授業だからですわ。ヲタク向きといってもいいですわよ」

「まあヴァランティーヌ様。そういう貴女もつまりはヲタクということでよろしいのでしょうか?」


 私の背後から入ってきた唯一の生徒さんは、ヴァランティーヌ様のようです。他の方が入ってくる様子がないので、もしかしたら私達だけなのかもしれませんね。


「…すん。…薔薇の香りがしますが、お風呂に入ってたんですの?」

「ええ、歌唱の授業がちょっと…」

「ああなるほど。歌唱という名のエクササイズ授業ですものね」


 にっこり微笑んだヴァランティーヌ様は、やはりご存じだったのですね。腹パンしたいのですが、どうせコルセットを装着しているのでパンチが通る気がしません。


「ランジュミューア様が、お1人で古代学を受けるのはお気の毒と思い、私も古代学を受講することにしました」

「そうだったのですか」


 気を使ってくださったようです。それにしても、そんなに古代学というのは人気のない授業なのでしょうか?歴史学はそれなりに受講者がいると聞きましたが、不思議ですね。

 古代学授業、その名の通りこの国の歴史ではなく、世界の古い歴史を学ぶものになります。

 その中に古代文字の解読というものもありますし、魔法使いに関する歴史も触れられたりするので、私にはぴったりなのですが、そう考えるとヴァランティーヌ様には向かないのかもしれませんね。


「あ、始まりの鐘が鳴りましたね。先生はどのような方なのでしょうか?」

「そうですね、まさに研究者という感じです。というか、生徒を放っておいて、授業中にも自分の研究を始める方ですわ」

「そうなのです、か。……ご、ごきげんよう」


 話している最中に入ってきた方は、長いぼさぼさの髪を後ろで結んで、瓶底眼鏡のようなものをかけた無精ひげの生えた方でした。

 この方が先生でいらっしゃいますのね。


「ルイクロード=アルマン=バティストルだ。古代学を教えるが、古代学はロマンだ。夢だ。各自教科書など資料は自分で発掘して学ぶように。もしわからないことがある時だけ、聞きに来い。あー、2人の名前は知ってるから自己紹介はいらない」


 レディベル先生とはまた別の意味で、強烈なキャラですね。放任主義の先生なのでしょうか?古代学に関する事ならなんでもいいので、自分で学ぶ形式?それでたまに質問をしたり、経過報告をする感じでしょうか?

 そうでしたら、古代文字の研究を是非させていただきたいですね。


「ヴァランティーヌ様、この学校には個性の強い教師が多くいらっしゃるのですね」

「大半は普通の教師ですわ。ちなみに、歴史学と他国言語と他国歴史の授業は普通の先生ですが、武術のなかでも貴女の選んだ体術授業の教師は、熱血教師ですわ」

「OH・・・」


 まあ、生徒に手を出す教師が乙女ゲームの設定上とはいえ存在するのですし、どんな教師がいても不思議ではありませんよね。


「ところで、古代学では何を研究するおつもりですか?私は貴女のサポートをすることで共同研究という形にしますわ」

「ずるしてる気もしますが、手伝っていただけるのは助かります。古代文字の研究をしようと思っております」

「魔法使いですものね」

「はい。ところで、ヴァランティーヌ様というのは言いにくいのでランちゃんでいいですか?」

「では私はミューちゃんと呼びますわね」


 どちらも前世でのお互いの呼び名です。仲のいい兄妹でしたので、ちゃん付で呼び合っておりました。


「では古代文字の資料を探しましょう。この部屋にも基本的な資料はあるはずですわ」

「ランちゃん、古代文字って象形文字っぽいですよね。漢字だって象形文字なのに、どうしてこうも形が違うのでしょうね?」

「日本語が古代文字というのは、ファンタジーではよくありますが、希望はお捨てなさい」

「プゥ。…まあ、形からなんとなく意味は分かるのですけど、組み合わせや一文字に込められた意味が複数あって難しいですよね」

「今も専門家が研究しているぐらいですし……、資料が見つかりませんわね」


 ずらりと並んだ本を分かれてみているのですが、なかなか古代文字について書かれた本がありません。

 判明している文字でも他に意味があったりしますし、組み合わせで意味が変わる、というのは日本語の漢字に近いかもしれませんね。


「オンリーヌ、レモン水を用意してきてください」

「かしこまりました」

「あら、レモン水とは気が利くじゃないの」

「ランちゃん好きでしょ」


 それにしても、古代文字の専門書はありませんね。辞典のような物があればいいのですが見つかりません。

 関連しそうなものを5冊ほど見つけましたし、ランちゃんも数冊見つけてくれたみたいですので、てらし合わせて頑張ってみましょう。まずはアルファベットか50音的なものに並べてみる、とかすればわかりやすいかもしれませんね。

 漢字と考えると並べようがありませんけどね、うふふ。

 ランちゃんと二人で集めた書物を机の上に並べて、それぞれページをめくっていきますが、古代文字の訳が書かれた物もありますし、文字の意味だけを書いたものもありますわね。

 そうですね、漢字と同じで文面で意味が変わる物もあります。

 日本の漢字でわかりやすく言えば色紙ですかね「しきし」と読んだり「いろがみ」と読むのでは意味が全く違います。

 同じ発音の「あめ」でも「雨」なのか「飴」なのか等々、日本人でも耳で単語だけを聞くと、ちゃんとした意味がわからないときがありますよね。

 ですので、古代文字はそれに似たものがあるので、使い方を間違えると、弱火のつもりで書いたのに業火もしくは大爆発!になったりするのです。


「ミューちゃんは植物系の魔法ですし、植物関連でどのような魔法を展開したいかで、文字が変わってくるのではないでしょうか?薔薇を出す能力ですっけ?あとローズウィップ…プッ」

「笑わない!薔薇の攻撃手段で思い浮かんだのがそれだったんです。あとはこの樹脂で作った小太刀もありますわよ」


 そう言ってスカートを少しだけめくって小太刀を取り出します。


「ああ、日本刀好きだったものねえ……って、樹脂で作った!?」

「あ……あー、内緒ですよ」


 テヘ、と可愛らしく首をかしげてみましたが、手から樹脂で作った小太刀を奪い取られ、樹脂で作った鞘から抜かれて紙で切れ味を確かめられました。

 藁人形ぐらいなら切れますので、紙はすっぱりきれますよ。ついでに薪割にも使えました。刃こぼれしてもすぐに修復できますので安心安全です。

 ランちゃんは小太刀をまじまじと見て。ジトリという感じに私を睨みつけた後、深いため息とともに小太刀を鞘に戻すと、もう一を深くため息を吐きだしました。


「この国にはない武器を作って、目を付けられますわよ。あと、剣道どころか武術をしたことのない貴女が使えますの?」

「薪割は出来ました」

「使い方が間違ってますわ。私も剣道教室には通っておりませんでしたし、この国の剣は日本刀の引いて切るというのとは違いますものねえ、剣術授業はあまり参考にならないかもしれませんわね」

「まあ護身用ですので、なんとかなりますわ。普段はスカートの下に隠しておりますもの」

「そう考えるとこの時代のスカートは便利ですわね」


 そんな話をしながら二人で本を読んでいきますが、中々にコレというものが見つかりませんね。まあ、辞書のようなものがあれば、とっくの昔に古代文字の研究が終わっているということですものね。

 古代文字の文章と訳の文章から、それぞれの文字の意味を考察するしかありませんね。同じ文章でも、翻訳する人によって内容が全く違うものもありますし、難しいです。


「むぅ、難しいですわ」

「難しいからこそ、長年研究されているのですわ。文句を言わずに今はひたすら本を読んで古代文字に慣れるしかありませんわね」

「それは『薔薇の棘に刺された乙女の死』という解釈がある。もう一つ『薔薇の茨に苛まれる乙女』という解釈もある。共通しているのは『薔薇』と『乙女』だ。薔薇をあらわす文字はここからここ、乙女はここからここ」

「先生、いつのまに…」

「悩んでるみたいだったから、一応教師だし。あと俺の専門も古代文字だから」


 まあ!それは僥倖ですわね!


「薔薇というのは、ここからここの文字なわけだけど、これにこの文字、これをつけることでブルーセリアと訳される」

「む、むぅ…」


 桜っぽいあの青い花ですわよね。桜はバラ科の花ですので関連しているのかもしれません。


「古代文字は現象や物体、行動を文字に表したものと言われているから、解釈は人それぞれ。ただ、文字一つ一つが意味を複数持つものが多いから、不用意に扱うことは基本的に禁止されてる。魔法陣に組み込む魔法使いも多いけど、一応その場合はその魔法陣でちゃんと予定通りに発動するか、その実験をしないと実用は許可されない。植物系の魔法でも魔法陣に古代文字を使用する場合は、ちゃんと許可を得て実験をしてから使用すること」

「はい」

「…ところで薔薇の匂いがするけど、召喚でもした?」

「あ、はい。お風呂で」

「歌唱授業が午前中にあったそうなのですわ。ところで先生、未婚の女性の髪を香りを嗅ぐのはいかがなものなのでしょうか?」


 そう言えば距離が近いですね。授業ですし気にしてませんでしたけど、二人っきりの授業だったらちょっと変な噂が立ったかもしれません。ランちゃんがいてくれてよかったです。流石前世兄!


「授業の一部。召喚系魔法は呪文と魔法陣とあるけど、呪文?」

「はい」

「どんな?」

「『薔薇よ』です」

「それで召喚が出来るんだ。君は才能豊かな魔法使いになるのかもしれないね。まあ、魔法陣を使用しての魔法となると大規模な物になりやすい、魔法陣は補助にもなるけど過剰にもなるから気を付けること。特に古代文字を使用しての魔法陣は、取り扱いは厳重にすること」

「はい」


 教師っぽい言葉ですね、最初は自分勝手な教師かと思いましたが、こうして接していると意外とちゃんとした方なんですね。

 その後3人で本を読みながら意見を交換して、古代文字をひとつずつ解読していくのですが、既に解読されているものの暗記も苦労しますし、別の解釈が出てくるともう頭が混乱してしまいます。


「この本に書かれてる翻訳は『神は人を己に似せて作り地上に遣わせた。人は神を称え恩恵を受けるものである』ってあるでしょ」

「はい」

「でもこっちの本だと『神は己の真似をした人間を地に下ろした。人間は神に懺悔し称える』ってあるんだよ」

「意味が全く違いますのね。共通しているのは神が人間に似ている、もしくは人間が神に似ている。あとは称えるという部分ですわね」

「そう。当時の宗教にもよるから、解釈が難しいけど、古代文字はこんな風に正反対の意味を持つものがあるんだ」

「組み合わせによって意味が変わる文字というのは、まあ何となく親しめるのですが、古代文字そのものがわからないので難しいです」

「んんっ…、貴族の言葉で裏の意味を読み解くようなものですわね」


 あ、なんか今フォローされた気がします。


「これは草っていう意味の古代文字。組み合わせで意味が変わってくる」

「熟語ですね」

「熟語……、最近発表された考察の仕方だけどよく知ってるね、偉いよ」

「あ、あはは…」


 そうなんですか…。日本では熟語があってこそのものですけど、この世界ではまだそこまで広まってる考え方ではないんですね。だから古代文字の研究も進んでないのかもしれません。


「これを自分なりに訳してみて」

「えっと。草の大地、んー、草原を走る、かける?草原を駆ける小さい……少女?は羊を追う、指示する?んー?えっと、『草原を走る羊を少女は追いかけて指示を出す』でしょうか?」

「俺は『草の大地で少女は羊に追われ逃げる』って訳した」

「え!どこに逃げるってあるんですか?」

「むしろどれが指示っていう意味の文字に考えたの?」

「だって、きっとこれって羊飼いの少女のことを描いた文章じゃないですか、だったら羊を集めるために指示を出すって流れで、なんとなくそんな感じじゃないですか」

「羊飼いだから指示を出してる、というのは思い込み。思い込みで文章を構築しないこと。この部分が逃げるという意味の文字」

「でも!こっちの文字には指示という意味もあります!」

「指示という意味は確かにあるけど、示すという意味でもある。逃げ道を示すという訳も出来るんだよ」

「うう…」

「このように、古代文字は個人の解釈や、思い込みで全く意味が変わってしまうものであり、今も研究がなかなか進まず研究者同士で対立も多い」


 難しい分野なのですね。魔法陣に組み込もうとしているのが間違いなのでしょうか?

 その後も3人で一生懸命本を読みながら、時折議論を交えながら一文字ずつ解読していく作業は、ちょっと楽しい感じです。

 あっという間に授業時間が終わり、幾つか本を貸してくださいましたが、その代わり自分なりに翻訳することを課題として出されてしまいました。

 ランちゃんと並んで廊下を歩きながら話していると、前の方にアレクシアが見えます。グェナエル様とお話ししておりますが、ランちゃんの婚約者ですよね。

 ランちゃんはあの光景を見てどう思うのでしょうか?


「って、無表情!」

「え?ああ、あの光景ですか?特に何とも思いませんわ。そもそもあの方にはすでに想う方が居りますので、嫉妬とかそういうものはもう、なんというか達観いたしました」

「え!?想う方?浮気…ではなさそうですけど、アレクシアではないのですよね?」

「ええ」

「ど、どなたかお伺いしてもよろしいのでしょうか?」

「……派閥的には敵対している方ですので、叶わない恋のようですわ」


 敵対派閥ということは私の家の派閥側の派閥ですね。叶わない恋…ということはまさか!同性愛!


「まあ!まあまあまあ!」

「……おい、暴走してんじゃねーですわよ」

「いえいえいえいえ!そうなのですか、叶わない恋なのですか、それは悲恋ですけれども美しいですわねえ!私大好物ですわ」

「盛大に勘違いしてそうですが、見てる分には面白いので、まあいいでしょう。………お気の毒に」


 そうですよねえ、お相手はどなたでしょうか?敵対派閥で同じ年頃の方でしょうか?それとも年上の方とか?お相手はもちろんイケメンでなくてはなりませんわよね!

 あ、いえでもここは大穴を狙って素朴な方というのもいいかもしれません。

 ああ、いいですわねえ。ロミオとジュリエットのような悲恋になるのでしょうか?確かグェナエル様は家柄ではなく、自分自身を見てほしいタイプの攻略対象ですものね、家に捉われずに恋をしてしまうのも仕方がないのかもしれませんわ。


「……顔」

「はっ!」


 思わずだらしなくにやけてしまいそうになりましたが、流石前世兄ですね。私の思考回路は把握済みという感じでしょうか?

 さて、アレクシア達から距離を取りつつ廊下を歩いてすれ違おうとしましたが、アレクシアと目が合ってしまいました。


「お姉様!それに……ヴァランティーヌ様」

「ごきげんよう」

「やあ、ヴァランティーヌ様にランジュミューア様。いつにもまして麗しくていらっしゃる」

「ごきげんようグェナエル様。随分楽しそうにお話しなさってましたけれど、授業がご一緒でしたの?私もミューちゃんと一緒でしたのよ」

「ミューちゃん……愛称で呼ぶほど親しくなったんだ」

「ええ、そうなんですの。グェナエル様達も仲良くなさっているようですし、お互い良き学友が出来ましたわね」

「違うんです!たまたま席が隣で、お話ししていただけなんです。誤解なさらないでください。で、ですから睨まなくても…あのっ私もう行きます!」


 そう言って走り去っていくアレクシアですが、廊下は走っちゃいけないと言われておりますのに、困った子ですね。

 残った私達ですが、なんというか微妙な空気です。

 やはり浮気現場そのものではないですが、婚約者が他の方に好意を寄せているとはいえ、自分以外の女子と話している現場を見るのは微妙な気分になるのかもしれません。

 そうなりますと私は立ち去ってお2人で話し合いをしたほうが良いのでしょうが、先ほどからランちゃんが私の腕をガッチリと組んで離してくださいませんので、離れることが出来ません。


「彼女は何か思い込みが激しいようだが、ランジュミューア様の家ではそのような教育をしているのですか?」

「いえ。あの子がちょっと特殊なのかもしれませんわね」


 思い込みが激しいなど、そんなことはありませんわ。


「ヴァランティーヌ様が睨んでいるなど、ありえないことだが、目つきが鋭いせいでそう思われたんだろう。隣の席に座った時も、やたらと俺自身のことをほめてきて、家に関係なく俺だからこそ話しているとかなんとかいって、さっきも」

「そ、そうですの…。それはご迷惑をおかけいたしました」


 アレクシアはやはり転生者なのでしょうか?乙女ゲームの序盤で対立する家の派閥で険悪なムードになりますが、グェナエル様の能力を褒めることで、派閥のせいであった険悪なムードが和らぐのですよね。

 選択肢で好感度の上がり方が違いますので、アレクシアはいい方の選択肢を選んだのかもしれません。

 それにしても、私も対立派閥の人間なのですが、険悪な雰囲気がありませんね。

 それでいったらランちゃんも対立派閥の家に嫁ぐことになっているので、最終的には対立する立場なんですよね。まあ、だからこそ乙女ゲームではライバル兼友人だったんでしょうけどね。

 現実は前世兄だったこともあり、親友というよりは姉妹のような感じがします。前世兄ですが、今世は兄様が居りますので、兄の役目は兄様がしてくださいますのでいりませんものね。

 姉の役目でしたら、まあさせて差し上げても構いませんわ。


「ランちゃん、私はお邪魔でしたら離れますわよ?」

「なにを言っていますの。ミューちゃんがいるからこそ面白いのではありませんか」


 面白い?はて、何のことなのでしょうか?

 グェナエル様の視線は険悪ではありませんが、私を見る目は熱心という感じがありますね。魔法使いで仮面をかぶっているので珍しいのかもしれません。


「あの、私の顔というか、この仮面がご不快なのでしょうか?」

「エ?!イや、そんなことハッ……んんっ不躾な視線を向けて失礼した」

「いえ、慣れてきましたので大丈夫です」


 って、ランちゃんが必死に笑いをこらえているのが腕の振動でわかります。確かに声が裏返ったのは面白いですけど、笑うのはかわいそうです。婚約者でしょう、ランちゃん。


「仮面を被っていても、ランジュミューア様の美しさはみじんも隠されることはない。むしろ仮面も貴女の美しさを際立たせています」

「そうでしょうか」


 大げさな誉め言葉ですが、社交辞令の得意な方ですのね。流石公爵家のご子息です。乙女ゲーム内でもチャラくはないですが、ヒロインを口説いてくるキャラでしたものね。

 まあ、授業が一緒のはずはありませんし、関わることはないでしょうし、今はこのお世辞を素直に受け取っておきましょう。

 敵対勢力の令嬢にもお世辞をちゃんと言うとか、出来た人ですよね。


「そうだ!もしこの後に授業がないのなら、カフェエリアでお茶でもいかがでしょうか」

「私は次は授業はありませんけれど、ミューちゃんは?」

「私も今日の授業は終了しているので、あとは帰るのみですからお付き合いするのは構いませんが」

「オつきアイ!?」

「お2人のお邪魔ではありませんか?」

「いいのいいの。ミューちゃんに来てほしいのよねえ、グェナエル様は」

「イヤッソぅぃうわケではっ」


 なんかもう声が裏返りまくって大変なことになってますが、大丈夫なのでしょうか?

 はっ!私に来てほしいとか、想い人との橋渡しをしてほしいとか、私の身近な男性が想い人とか?

 身近な男性と言いますと兄様ですが、兄様をお好きなのでしょうか?それとも、元婚約者のバスティアン様でしょうか?流石にスティーロッド様ではないと思いますが、いったいどなたなのでしょうか?

 兄様でもバスティアン様でも、敵対勢力の中心人物になる方々ですし叶わぬ恋、叶わぬ想い、まさにロミオとジュリエットですわね!同性ですけど!

 でも、だからこそいいのですわ!


「私で何かお役に立てるといいのですけど」

「いてくれるだけでいいの。面白いし」

「そうなのですか」


 確かにグェナエル様の反応は面白いですが、恋する人をからかうのはいけませんわ。

 前世兄だって失恋した時、私をカラオケ5時間コースにつき合わせるぐらい大変だったじゃないですか。

 まあ、あの時カラオケに連れ出したのは私ですが、まさか5時間歌いっぱなしになるとは思いませんでしたよね。前世兄ってば、失恋して部屋に引き込もりかけるとか、もう本当にあの時は大変でした。

 それを思えば、叶わぬ恋に身を焦がすグェナエル様はかわいらしいかもしれませんね。

 それにしても、乙女ゲームの関係者にはなるべく接触したくないのですが、ランちゃんが離してくれませんので仕方がありません。

 3人でカフェエリアに移動しましたが、案外人が少ないですね。

 この微妙な組み合わせに注目は集まってますけど、まあ構いません。


「えっと、ご馳走していただいてありがとうございます」

「構いません。それにしても意外です。ランジュミューア様は紅茶を頼むと思いましたが、ココアモカにキャラメルソースをかけたものを頼むとは、正直思いませんでした」

「ほほほ」


 飲み物の選択肢もあったのを思い出したので、好感度が下がるものを選んでみました。嫌いじゃないですしね。

 グェナエル様は甘いものが苦手なので、甘味系を選択すると好感度が変わらないとか下がったりするのです。


「お可愛らしいものを頼むんですね。まあ、ヴァランティーヌ様がキャラメルマキアートを頼むとは思いませんでした。しかも砂糖を山盛り入れるとか…」

「たまには飲んでもよろしいでしょう?」


 あら、私の時は優し気にお話ししてましたのに、ランちゃんには冷たい声ですね。好感度が下がっている感じですが、私の飲み物のほうが確実に甘いですよね?

 この差は何でしょうか?婚約者同士という気やすさなのでしょうか?ランちゃんはグェナエル様の恋を知っていますし、気心の知れた仲で、取り繕う必要がないとかそういう感じなのでしょうか。

 私とバスティアン様の間にはなかった信頼関係があるのかもしれませんね。少しだけ羨ましいです。

 もっとも、前世兄は私でもドン引きする甘党ですから、食事の嗜好はお2人は合わないのかもしれませんね。


「お2人はとても仲がよろしいのですね。私は白紙になった婚約者とは社交辞令のような付き合いでしたので、親しくなさっているお二人を少し羨ましく思ってしまいます」

「貴女と婚約しておきながらそのような態度だったのですか!?」

「ええ、アレクシアとのほうが会話が弾んでいたように思います。私が魔法使いとして開花したことで婚約が白紙になり、今は妹のアレクシアと婚約を結ぶかもしれないという話もあるそうで、二人がそれでいいのでしたら、私は心から祝福したいと思っております」


 だから私は婚約云々でアレクシアをいじめたり、対決を申し込んだりはしませんよー。


「ランジュミューア様は、その…今後はどうなさるおつもりですか?」

「今後は、そうですね…修行と研究の結果次第になりますが、領地の森に戻って住むのもいいですし、冒険者さんについて世界を巡るのもいいと思っております」

「なっ!」

「……あ、貴族令嬢らしからぬことを申しましたわね。申し訳ございません」


 そうですよね、普通の貴族令嬢が冒険者になって世界を巡りたいとか言いませんものね。驚かれるのも当然です。


「も、もしその際は…。もし、万が一冒険者になるのでしたら、後援者が必要でしょう」

「ああ、そうですわね。兄様にご迷惑をおかけしてしまうのは心苦しいですが」

「俺がっ!お、俺にその時は頼ってください!」

「はい?」


 敵対勢力の令嬢、まあ、魔法使いになるので幾分緩和するでしょうが、その相手を支援するとか、この人はお人好しなのでしょうか?

 相手を口説くというのも、もしかしたら気を使っているからで、不器用な表現なのかもしれませんね。


「お気遣いありがとうございます。けれど、私などを支援するとお家に知れたら、きっと大変なことになりますので、どうぞお気になさらないでください」

「いえ、そんなことは……」


 あら、せっかく気を使ってくださいましたのに、無下にしてしまったのでしょんぼりされてしまいました。

 どうしましょう?ランちゃんはニヤニヤしながら飲み物を飲んで助ける気はないようですし。というか、婚約者が落ち込んでいるのなら、慰めの言葉ぐらいかけるべきでしょう!

 そう思ってランちゃんを睨みつけると、ニヤニヤをやめて肩をすくめました。


「グェナエル様。貴方が卒業するまであと1年ありますので、気長に口説いてはいかがでしょうか?今フリーなのですから」

「そ、そうか。ゆっくりと…」


 ランちゃんってば、婚約者の恋を応援するとか、流石前世で夏と冬の祭りに付き合ってくれただけのことはありますね。


「そうですわグェナエル様。ランちゃんから叶わぬ恋心を抱いていると聞きました。私も陰ながら応援させていただきますわ」

「え゛?」

「え?」

「あ、いや…はい…」


 グェナエル様って、乙女ゲームでは甘い言葉でヒロインを口説いてくる人でしたが、現実に接してみると気遣いのできるいい人なのですね。

 禁断の恋に身を焦がしているのもポイントが高いですわ。


「そういえば、話は変わるのですが。グェナエル様は体術系の授業のご経験はありますか?」

「はい。一応は護身術も兼ねて修得しました」

「私も体術授業を選択したのですが、やはり走り込みですとか腹筋100回とかをするのでしょうか?」


 私の言葉に、ランちゃんが歌唱授業で洗礼を受けたという説明をしてくださったので、私の心配の理由が分かったのか、グェナエル様はおかしそうに笑って授業内容を教えてくださいました。


「体術の授業は確かに走り込みもありますが、最初の方は姿勢と型の練習になります。軽いストレッチのあとに、決められたポーズを維持、それを繰り返していき、慣れてきたところで型を連続して取り、最終的に対人戦になるんですよ」

「鞭の使い方とかは教えてくれないのでしょうか?」

「ハ?」

「あ、いえ…。魔法で薔薇の蔦を鞭のように出す事が出来るのですが、うまく扱えないので…」

「あ、ああ…なるほど。鞭さばきになると、武器の扱いになるのでまた別の授業ですね。棒術の授業の派生になりますので、来年に選択してみるのもいいかもしれません」

「はい!あと、異国の剣で、刀と呼ばれるものの扱いを知る人はご存じありませんか?」

「カタナですか?聞いたことがない武器ですね。ただ、剣術授業の教師なら知っているかもしれませんので、聞いてみるのもいいでしょう」

「なるほど。参考になります」

「お役に立てて何よりです」


 やはりいい人ですね。攻略対象でなければお友達になりたいぐらいですが、攻略対象なので今後はなるべく関わり合いになりたくありません。

 だって、アレクシアが絶対ついてきそうな気配がしますもの。

 よくあるじゃないですか、ヒロインと一緒にいるだけで、何もしていないのに悪役令嬢役が悪く思われるみたいなの。

 あれってかなり理不尽だと思うんですよ。というか、白タイなので生徒会のような仕事もしなければいけないんです。それで絶対関わってしまいますので、それ以外は接触を避けたいと思うのが逃げの鉄則だと思うんですよね。


「ミューちゃんと同じ授業が全くなくて、とっても残念なグェナエル様ですが、白タイ同士ですから生徒自治会の仕事ではご一緒になるかもしれませんわね。そういえば、元婚約者のバスティアン様と妹のアレクシア様も白タイでしたわねえ。今年の顧問はエジッヴォア先生なんですのよねえ」

「そ、そうですの」


 やっぱり生徒自治会って地雷のオンパレードな気がしますので逃げたいですが、これを逃げるわけにはいきませんものね。

 まあ、同じ学年ですので、乙女ゲームのようにお仕事を押し付けて「そんなことも出来ないのですか!」とかいうイベントはなさそうですし、まあその点では安全かもしれませんわね。

 同学年なので一緒に仕事をする機会もあるというのが、とてつもなく嫌なのですけど。

 もっとも、各学年から数人ずつでグループを作って作業するのが習わしですし、別グループになれば問題ありませんね。

 ヒロインである妹は、バスティアン様とグェナエル様と同じグループになるでしょうからね。男女比率を考えれば私がそのグループに入ることはありませんし、出来ればランちゃんと同じグループがいいですね。

 あ、でも乙女ゲームの中ではランちゃんはそっちのグループなのでしたっけ、ついでに悪役令嬢役のランジュミューアも。

 うーん、同じグループになるのは阻止しましょう。ええ、絶対に。

 さて、白タイによる生徒自治会ですが、基本的に生徒会と同じような仕事をします。とはいえ自治会という通り、入学式で新入生を補佐していたようなことや、もめ事の仲裁なんかも多いんですよね。

 あと、学校の予算を握ることは出来ません。それは教師の中でも経理の役職の方々の仕事です。

 行事で予算を使用する時も、経理に申請書を出さないと予算が認められませんが、その申請書は必ずしも生徒自治会を通す必要はありません。

 あくまでも自治会であって生徒会ではないので、生徒を取りまとめるものではないのです。

 というか、取りまとめるとなると、家の派閥だの家格だので、問題が多すぎて無理というのが実情です。

 こんな城塞国家で派閥とか馬鹿々々しいと思うのですが、数百年続いているせいでなかなかにこんがらがって、がんじがらめになっている感じなんですよね。

 我が実家はいわゆる革新派と言われる部類です。保守派と対立していますが、革新派といってもいつか聞いたように、世界の文化・文明が飛躍的に進化するということはこの数百年間ありません。

 とはいえファンタジーなので時折この時代ではありえない物もありますが、まあ、ファンタジーなのでしかたがありません。

 そもそも、この時代に学校がある自体おかしいんですよ。寄宿舎とかはあったかもしれませんけど、家から通う学校とか言う文化はなかったはずです。

 ダンスも社交ダンスのようなものですが、この時代のダンスは回って跳ねる、というようなダンスだったはずですので、これもファンタジーですね。

 どうせファンタジーなら、コルセットをせめて布製にしてほしいです。鉄製とか本当に防具ですよロボットですよ!

 スカートを膨らませるヴェルチュガダンという物も装着しますので、動きにくいんですよ!まあ、小太刀を隠すのには便利ですけどね。


「生徒自治会は基本的には、学内の治安維持が仕事になる。高位貴族の子女が集まっているせいで、あっちこっちで大小のもめ事が毎日発生してしまうんだ。あとは授業についていけなくて行き倒れるとか、友人同士のもめ事、恋愛のもめ事なんかだね」

「恋愛のもめごとにも関与しますの?」

「もちろん。殺傷事件になることもあるから早期解決は好ましいな。婚約者がいるのに遊びで浮気して刺されたなんて、わりとある話だったりするんだよ」

「そ、そうなのですか」


 なるほど、それなら乙女ゲームで私が学校で断罪されて家から切り捨てられて森に引き込もるというのも納得出来ます。

 12歳~15歳とはいえ男女ですものね、むしろ思春期真っただ中だからこそ感情がおさえられずに爆発するのかもしれません。


「でも荒事は基本兵士や騎士、冒険者を目指している白タイの役目だから。…あー、いやでも女性はあんまり荒事はしない方がいいんじゃないかな」

「そうですわね。私は今のところ特に好きな人もいませんので、そういう恋愛感情でのもめ事はわかりかねますが、大変なのですね」


 ええ、私は元婚約者や他の攻略対象にも興味はないので、アレクシアともめる気なんて全然ありませんわ。


「でも、生徒の模範となるようにというのは白タイの役目でもあるから。まあ、ランジュミューア様は婚約が白紙になったことだし大丈夫だろうけど、恋愛のもつれで騒ぎを起こしたり、派閥の関係でもめ事を起こすと、通常の生徒よりも厳しい罰則が科せられたりするから、気を付けるに越したことはないな」

「そうなのですか」


 まあ、私には関係ないですわね。ランちゃんはともかくとして、基本ボッチですから。

 そんなこんなで話が盛り上がっていると、本日最後の授業の終了の鐘の音が聞こえてきました。

 すっかり話し込んでしまったようですね。それはともかく、ココアモカはとってもおいしかったので、また今度注文することにいたしましょう。今度はシナモンをかけてもいいかもしれません。

 よくよく考えれば、ココアがあることもおかしいんですけど、きっと気にしてはいけないのでしょうね。


「では私は今日はもう帰宅いたしますので失礼いたします」

「俺の馬車でお送りしましょうか?」

「いいえ、お気遣いいただかなくて結構ですわ。兄様が馬車を用意してくださっておりますので」

「そうですか」

「ランちゃんはこの後すぐ帰るのですか?」

「いいえ、生徒自治会の役目で放課後の見回りをしてから帰りますわ。1年生は来月からそのお役目をしてもらいますので、心づもりをしておいてくださいませ。校内を回るので、時間がかかりますし、正直足が疲れますわ」

「覚悟しておきますわね」


 この広い校内を歩いて巡回とか、確かに時間がかかるお散歩ですね。2時間ぐらい歩くんじゃないでしょうか?

 自然と体力づくりをさせられるとか、貴族ですよね?私達って…。

 お二人と別れてオンリーヌと一緒に車止めのところに行くと、兄様の用意してくださった馬車が待っていてくれました。

 そういえば、授業が終わったら帰ると言っていたので、随分待たせてしまったことになりますね。まだ少し肌寒いというのに、御者の方には申し訳ないことをしてしまったかもしれません。

 馬車に乗ろうと足をかけたところで、聞きなれた声で呼び止められます。ええ、皆様想像出来ていると思いますが、アレクシアです。


「お姉様、今お帰りですか?」

「ええ」

「ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「帰る家が違いますし、貴女もお父様が馬車を用意してくださっているではありませんか。お父様の厚意を無下にするのはよろしくありませんわね」

「でも私、お姉様とお話ししたいんです!ずっと私のことを避けてお話をしてくださらないではありませんか!」


 森で過ごしていた1年間に実家に帰らなかった私も悪いのですが、様子見に来なかった貴方も悪いんじゃないかと私は思いますよ?

 そもそも、話ってあれですかね?『実のお母様がなくなって、お姉様はお可哀そうですね。私はお母様に先日寝る時にお歌を歌ってもらいましたの』とか『お母様は私のことが一番かわいいとおっしゃいますのよ。私がお姉様は実のお母様を亡くしてお可哀そうなのだから、お姉様にもお優しくして差し上げてと言ったら、褒めてくださいましたの』みたいな、自慢ですか?

 私がいない1年でどれだけ溺愛されたのかは知りませんが、自慢話を聞くほど暇ではありませんし、めんどくさいのでお断りしたいですね。


「避けるなんてひどいことを言いますのね。私は、貴女やお母様に何かあってはと思って、兄様と一緒に森で過ごしておりましたのに、手紙も下さらなかったのはアレクシアではありませんか。私は貴女に手紙を出しておりましたのに、返事がなくてどれほど悲しかったか…」


 まあ、アレクシア宛てではなく、お父様を含めた家族宛てでしたけど、嘘ではありませんものね。返事をくれたのはお父様だけでした。というか直接返事を渡しにいらっしゃいました。手紙の意味がありませんよね。

 下校のために車止めのところに集まってきた生徒の皆様に聞こえる声で言うと、ざわざわとした声が聞こえてきます。

 かわいらしい系美少女VS美人系(仮面付き)美少女の言い合いですが、家族の問題なので生徒自治会も遠くで様子見をしているようですね。


「魔法使いとして早すぎる開花で、私が不安になり、病弱だったこともあり貴女の傍から兄様を奪ってしまった、それは申し訳なく思っております」


 アレクシアは兄様にも馬鹿にした態度を取っていましたけどね。たまにぶりっこしてましたけど、ばれてましたよ。


「けれど、私もお母様やアレクシア、そしてお父様と1年も離れて暮らして寂しく思ってました。せめて手紙をと思ってましたのに…アレクシアは私のことがそんなに疎ましいのですか?前妻の娘だと、1歳しか変わらないからといつも比べられて、心を痛めていたのは私だって同じですのに、アレクシアは私に手紙を書くことすら嫌だと思うほど疎ましく思っているのですか?」

「そ、そんなことはありません。て、手紙は…なんて書いたらいいのかわからず、申し訳ないと思って…」


 ふふん、ヒロインとして同情を集めようとしてたみたいですけど甘いんですよ。こういうのは早い者勝ちというのです。

 実際、魔法使いの才能が開花したせいで家を追い出された、と解釈する貴族も結構いるらしいので、現時点での同情は私の方が高いんですよ。

 そのせいでボッチなのもありますけどね!


「いいのです。無理に私を気遣うふりなどしなくて…。今は私は家を出ている身です、貴女から接触しないのであれば、私が貴女に近づくことはありません。アレクシアは私と比べられて傍にいることが嫌なようですものね…。寂しいですけれど、母親が違うというだけでこんなことになってしまうのは、残念ですが、私は姉として貴女の幸せを願っております。では、さようなら」


 そう言い捨てて馬車に乗れば、すぐにオンリーヌも馬車に乗り込んで扉を閉めてくれます。

 離れた場所にランちゃんがいたので、この後のことは明日か今度会ったときに聞くことにしましょう。

 この状況でアレクシアはどんな言い訳を皆様にするのでしょうか?それとも泣いて誤解なのにとか言って同情を集めるのでしょうか?

 まあどちらにせよ、私は近づかないよ宣言をしたので、何かあれば彼方から寄って来たと皆様思ってくれますよね。

 逃亡の際は予備の逃げ道の準備と罠を張っておくに限りますね。

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