秘密の力
何事もなくすくすくと成長し3歳になったミルキーとリアム。
ある日2人は、公爵領の森で遊んでいて迷子になった。
後ろに控えていた侍女を巻いてやろうといたずら心に火がつき、二手に分かれ、とっさにどちらについていけばよいのか判断に迷った大人達を尻目に森の中で合流し奥へと走った。
結果、当然双子は森の中で迷った。
子供のいたずらである為、当然計画性もなく、森の中でふらふらと手をつなぎ歩いた。
そのうち、歩き疲れたミルキーが泣き出した。
「もう、いえにかえりたい。」
「そんなことぼくだって・・・」
兄だからと妹を守れとは日ごろから言われているものの、だんだん暗くなる森で3歳の子供が出来ることは自分も一緒に泣くことはせず、ミルキーの手をぎゅっと繋いで歩いていることぐらいであった。
月明かりが辺りを照らすようになった頃、歩き続けることが限界になった双子は唐突に開かれた場所にでた。
「リアム・・・なにあれ?」
「わからない・・・。」
月に照らされた場所に黒い【何か】が倒れており、動いていた。
「うごいてる・・・」
「っ!?みて!ちが・・・」
動いたせいなのか、草に血が流れて黒く染まっていく。
「かわいそう・・・。」
ミルキーはそう言って恐る恐るそばに寄る。
「ミルキーだめ!もどってきて!」
リアムは必死に小声で呼びかけるが、ミルキーは【何か】に近づいて行った。
「・・・鳥さん?」
【何か】は大きな鳥であった。脚の付け根からおびただしい血が流れており、苦しそうに息をしている鳥を見てミルキーはそっと傷口に手を添えた。
「早く良くなぁれ。」
それは、母がいつも双子が怪我をした時にしているのを真似しただけのはずだった。
その言葉を紡いだとたんミルキーの手からは白い光が出て傷口に注がれた。
「えっ?」
突然の自分から出る光に動くことがができないミルキー。
「ミルキー!?」
そして突然の光に驚いたリアムが走ろうとした瞬間。
その光がはじけた。
「ミルキーっ!」
まぶしすぎて目を開けていられず、ぎゅっと目をつぶるリアムを後ろから誰かが抱きしめた。
「リアムっ!!」
「おとうさま!?」
彼を抱きしめたのは父であるハリーであった。
3歳のリアムは父に抱きしめられ緊張の糸が切れ、ボロボロと泣き出す。
「ミルキーが!ミルキーが!」
そう言って光を指すリアムに父は驚きを隠せない。
「これは・・・。」
呆然と光を見つめ動けないでいると、突如光が止んだ。
「ミルキー!」
リアムが走ってミルキーのそばに寄ろうとするのを父が止める。
何故父が止めるのが理解できないリアムは、父の腕の中から抜け出そうと必死にもがく。
父はリアムを逃がさないように抱きしめつつ、目は光のあったところに油断なく向けていた。
父は感じていた。気合で隠していたが【何か】のその魔力の大きさに内心恐怖すら感じていた。
『元気な子供だな。』
突然頭の中に語りかけられたリアムは、暴れるのををやめた。
否、【動けなくなった。】
ミルキーが心配で早くそばに行きたいのに足が動かない。
恐怖で身体が動かなくなることがあることをリアムは初めて体感した。
月明かりでよく見えないが、【何か】はムクリと体を起き上がらせ、リアムは目があった気がした。
ドサッ
複数の気配が一度になくなった。後ろの気配は自身を守るための侍従や影だろうが、自身の腕の中の者も同じように気配がなくなった。
「リアム!」
息はあるが、自然な呼吸ではない。おそらく【何か】が息子達の意識を奪ったのだを判断し、息子を守りながら、【何か】のそばで倒れているであろうミルキーを引き離そうかと瞬時に考えを巡らせていた。
『この子供は面白いな。お前の子か?』
そう【何か】が話かけた瞬間、父であるハリーは頭の中で【何か】の正体に合点がいった。
「はじめまして。精霊王様。この地の統治を任されております。ハリー・グロウと申します。
あなた様のそばにおりますのは私の娘、ミルキー・グロウでございます。」
そう言ってハリーは頭を下げ最上礼をした。
『ミルキー・・・そうか。』
精霊王は面白そうに自分を確認し、さらに目を細めてミルキーを見た。
『呪いで傷ついた我をここまで回復させられる程の魔力、それにこの感覚・・・。こんなことができる人間がまだこの世におったとは・・・。いや、誕生せざるおえなくなったのか・・・。』
すぅっと、ミルキーに精霊王は顔を近づけその額をミルキーの額と重ねた。
―キイィン―
ミルキーの額に緑の葉でできた輪が浮かび上がり、すぐに消えた。
『礼だ。』
そう呟き遠くで何が起こったのか、わからない様子の父親に向けて精霊王は話し出す。
『さて・・・ご覧の通り、貴様以外の意識は我が奪った。しばらくすれば起きるだろう。だが、我の姿を見たことは忘れるだろう。この娘もだ。貴様は我が対話することを許可した。貴様は我との約束を守れる者か?守れるならば話を進めよう。だが、守ることができないのであれば、貴様の記憶もここで消す。どうする?』
鳥の姿をしているこの精霊王の目は鋭く自分の力量を計られているのは明白だった。
「どんなことでも必ずお約束いたします。」
そう言ってハリーはリアムを抱きしめながら精霊王としっかり目を合わせた。
しばらく見つめた後、精霊王はフッとその鋭い気配をおさめた。
『いいだろう。では、貴様の娘の話をしようぞ。』
そう言って、優しくミルキーを見つめ父親に近寄ることを許可した。
わが子が森の中で行方不明になったと聞いて、夫達が探しに行ったきり帰ってこず、森の入り口で祈りながら寝ずに待ち続けていたアリアは、夜明けになって複数の足音が聞こえ、その中に自分の夫と侍従に抱かれた子供たちを見つけ涙を流した。
他の者も喜んでいたが、夫のハリーだけは表情が固く緊張していた。
泣いて抱き着いてきた妻には話しても良いと許可を得た。そうでないと話が進まないのだ。
「アリア・・・話がある。」
口から出た声は思いのほか固かった。