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6話~護衛依頼④~

別視点のお話です。

 この日、辺境の隣に領地を持つミルズ子爵家の令嬢セリアは先日魔の森で発見された『ある物』を一目見るべく辺境の街サーファの魔獣研究機関を目指していた。辺境は魔の森から流れてくる魔獣との遭遇リスクはあるものの、護衛の騎士達はいずれも手練れであり、自身も魔法の扱いには覚えがある。さすがに魔の森により近くなるサーファへ向かう際には魔獣狩りに慣れた辺境伯領の騎士の同行が必要になるだろうが辺境伯が手配してくれた騎士達と合流する街までの道中は問題ないと踏んでいた。

 無論、これが辺境をはじめとする魔獣生息域でなければその認識は間違っていなかっただろう。盗賊や野獣程度なら騎士は決して後れを取ることは無いし、体の小さいディノラプターや人型のホブゴブリンも退けられる。

 しかし、辺境伯領に入ったばかりの地点で襲撃して来たのがディノラプターの群れがメガディノラプターに率いられていたことは一行にとって最大の不幸だった。馬よりも大きな体と魔力によって強化されたことで鋼の刃並みの鋭さを持つ爪、開けた街道で遺憾なく発揮される跳躍力を持つメガディノラプターは対人戦や精々野獣相手を想定して訓練された他領の騎士にとって勝手が違い過ぎる。騎士達は鉄の鎧に守られている為メガディノラプターの爪と言えど易々深手を負うことはないが、彼らの乗っている馬はそうはいかない。不意打ちで跳びかかって来たメガディノラプターの襲撃に騎士は致命傷を避けたものの、身を守る物の無い馬はその爪に貫かれて即死し落馬。魔力を有さない馬の死骸には見向きもしないメガディノラプター相手に騎乗したままでは一撃で馬が倒されむしろ不利と判断した騎士達は馬から降りて応戦することとなったが馬は逃げ出し、数頭が既に馬車を包囲していたディノラプターの爪にかかってしまった。

 本来なら魔法の心得のあるセリア嬢も加勢すべき状況ではあったのだが、魔力の乏しい環境で育ち故に凶暴性を増したメガディノラプターは馬車の窓越しであっても魔獣はおろか野生の獣にすら碌に相対したことの無いセリアの身を竦ませるには配下のディノラプターでも十分すぎるほど。馬車の中で縮こまる事しかできなかった。


「くっ、成長したディノラプターがこんなに厄介とは……っ」


 メガディノラプターに相対した騎士の一人が歯噛みをする。魔獣生息域から離れた地域程メガディノラプターと遭遇する可能性は低く、冒険者経験も無しに戦闘経験のある者は稀だ。子爵領の騎士であるこの男も精々時折討伐するディノラプターが大きくなっただけと最初は油断していたがその認識は間違っていた。否、大型化しているだけという認識そのものは概ね合っているのだが、それがどういう事かの認識が間違っている。

 その最たる物は大きくなったことによりディノラプター時には意識されていなかった腕の危険度が増したこと。ディノラプターは狩りの際に何匹かが噛みついて動きを封じた所を別の個体が跳びかかり後脚の発達した爪で仕留めるのだが、メガディノラプターは身体の大型化に伴い人相手なら十分有効な武器となったその腕の爪で引っかく攻撃も加わる。ディノラプターの噛みつきや跳びかかりと比べて隙も少なく体格差から騎士達の佩いた剣よりも広い間合いから繰り出されるそれは近接職にとって厄介な攻撃手段となるのだ。そしてそれはメガディノラプターにとっては牽制でしかなく大きな隙を晒せばいくつものナイフが並ぶかの様に生えた牙が、その脚力から繰り出される死神の鎌が如き後脚の爪が致命傷をもたらすだろう。故に魔の森を狩場とする冒険者はメガディノラプターを成長前とはほぼ別物の魔獣と意識して狩っている者が多い。

 そして相手取らなければならないのはメガディノラプターだけでは無いのだ。

 馬車はディノラプター達に囲まれ戦力を分散せざるを得ず、自分達の誰か一人でも倒されればディノラプターはその護りに空いた穴を抜け馬車を襲うだろう。そうなれば多少魔法の心得があったとしてもかよわい令嬢の身体など数秒もかからずその爪牙でズタズタにされてしまう。無論、騎士達もディノラプターに噛みつかれて動きを止められよう物ならば別の個体、あるいはボスのメガディノラプターが必殺の一撃をお見舞いすべく跳びかかってくる。

 結果、騎士達は馬車の護りを崩されないことを最優先にせざるを得ず、よしんば攻勢に出たとしてもメガディノラプターを倒しきれる確証は無く、むしろ背後の馬車を危険に晒す。ディノラプターが逸って跳びかかりでもすれば切り捨てられるのだが、決してそんなことはせずに牽制程度の攻撃を繰り返すばかり。戦力を分散させじわじわとこちらの消耗を強いる戦い方はまるで真綿で首を締められるかのように思えた。事実、攻撃を捌くのが精一杯で消耗の激しくなるメガディノラプター相手の陣営が崩れればこの場にいる全員が群れの餌食となるのは確実だ。

 ふと、騎士の一人が辺境では魔獣素材の産業、特に最近では食材加工にも力が入り始めているという話を思い出す。そして最近の流行りはディノラプターの揚げ物だとか。そう、今まさに自分達を追い詰めているこいつらだ。思わず乾いた笑いが口から出てしまう。


「こいつらが食材だって?辺境の連中は狂ってるのか?」

「今は俺達がこいつらの腹に収まりそうだがな!」


 辺境の冒険者にはこいつらが肉屋にぶら下がっている枝肉にでも見えているのだろうか。きっかけは一人の発言だが追い込まれて誰もがそんな現実逃避にも似た思考に陥りそうになった瞬間、状況がひっくり返る。


 メガディノラプターが、吹き飛んだのだ。


「乱入失礼しますよ!」


 先程まで死地にあった状況に不釣り合いな鈴を鳴らしたような少女の声。騎士もディノラプター達も呆気に取られ声の方向を見ればこちらへ駆けてくる白い獣の毛皮の外套を身に纏う人間族の少女、そして彼女の持つ長杖(スタッフ)から放たれる幾つもの光弾。それらはディノラプター達を悉く撃ち抜き絶命させていく。


「討ち漏らしの始末はお願いしますね!」


 そう言い残しながら少女は騎士たちの目の前を駆け抜けて吹き飛んでいったメガディノラプターに向かって行く。あまりの衝撃的な出来事に思考が飛びかけるが何とか持ちこたえ彼女の言う『討ち漏らし』を探すがそんなのいない。全部頭を撃ち抜かれて絶命している。それは自分達の反対側で馬車を守っていた者達も同様だったようで必死に生き残りのディノラプターを探している。


「っていや待て!あの女の子今メガディノラプターに向かって行ったぞ!?」


 長杖に防御面に乏しい装備からして魔法職と思しき少女はメガディノラプターと距離を詰めようとしていた。遠距離から攻撃できるというアドバンテージを捨ててそれは無謀だとメガディノラプターの方に視線を向ければ彼らはさらに信じがたい物を目にする。


 少女が宙に跳び上がり、その下でメガディノラプターが首を刎ね飛ばされていたのだ。


 よく見れば少女が振りぬいた長杖からは光の刃が伸びている。おそらくはそれで切れ味を付与させたのだろうが自分達が一太刀も浴びせられなかったメガディノラプターが瞬殺された光景に騎士達全員が呆然とする。あまりにも劇的過ぎて目の前の光景が白昼夢やまるで絵物語の一ページにすら思えてしまう者もいる。

 魔法で勢いを殺したか少女がふわりと着地すると同時に糸が切れたかの如く倒れるメガディノラプターの胴体。少女はひょいと先に地に落ちたメガディノラプターの頭を抱え、次に胴体に視線を向けて動きを止め、一度こちらを向いてメガディノラプターに視線を戻す。するとむんず、とメガディノラプターの尾の先端を掴んでずるずるとこちらに引き摺りながら戻ってくる。正面から見た少女は外套の下に臙脂色のワンピース、胸を宝石が取り付けられた白銀の胸当てに右腕の手甲と魔法職なのか近接職なのか判別がつきづらい。平気で馬より大きいめメガディノラプターを引き摺れるあたり優れた身体能力、というよりその細腕と先の魔法から"身体強化"の扱いが上手いのだろう。おそらく魔法職メインだが必要に応じて近接もできるタイプだ。


「私は辺境側からの冒険者です。そちらとしても乱入されて思うところがあると思いますがこちらの護衛中の馬車の妨げになるので加勢しました。そのうち仲間と護衛中の商会の馬車が来るので物資の補充要請はその時にお願いしますね。あと、怪我人がいたら魔法で応急処置はします」

「あ?ああ、いや、救援感謝する。一人、というか俺が馬から落ちたくらいで後はおそらく大丈夫だ」


 軽く頭を下げて挨拶した少女はどうやら回復魔法も使えるらしい。耳の特徴から人間族なのは間違いなく、外見相応の年齢ならまだ成人したばかりの若い少女にも関わらず実に多彩。そしてなんてことは無いと言わんばかりに汗一つかかず平然としている。自分達の護衛対象の令嬢より年下のひよっこだろうにこれなのだ。果たして辺境の中堅、あるいはベテランの冒険者の実力は如何程なのか。そしてそんな優秀な冒険者からもスカウトされているという辺境の騎士達ともなればどんな存在なのか。子爵領の騎士達は盛大に顔を引き攣らせる。


(こんな若さでここまで強くならなきゃいけないなんて辺境過酷すぎるだろう……)


 そんな彼らの戦慄する内心などつゆ知らず、少女は自分の両腕の物と周囲に散らばる物を見渡す。


「わかりました。ここらのメガディノラプター達の死骸はどうしますか?あ、肉付きも良くない、どころか場所的に多分人食いの個体ですから肉は食用には向かないと思います。爪や牙も魔の森の個体より質は悪そうなのでこちらは『要らない』で満場一致かと。そちらでも不要なら仲間が来るまでにメガディノラプターは一応解体しておいて相談結果次第で不要部分はディノラプター諸共焼却処分しちゃいますが」

「……仲間、それに護衛対象と相談する。解体をするなら進めておいてくれ」


 自分達が苦戦したあれで肉付きが良くないし爪も牙も質が悪いときた。少なくとも目の前の少女には平気で素材を譲れる程度には取るに足らない物らしい。自分達の常識と照らし合わせても辺境における魔獣や冒険者の強さの基準が全く持ってわからず自分の頭が痛くなってくるのを騎士達は感じる。


「やっぱり辺境は狂ってる」


 そう呟いたのは誰だったか。街道の端でどこから取り出したかわからないナイフでザクザクとメガディノラプターの解体を始めた少女を背に酷く疲れた顔で馬車の中の令嬢への報告と仲間達との相談を始める騎士達だった。

第一村人もとい若手冒険者のせいでハードルの上がったベテラン冒険者及び辺境伯領騎士達。


『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『もっとイチャイチャを!』


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