2021新年特別SSその2
結局間に合わず予約投稿。申し訳ないです。
「あれ?アズミさんもう起きてるんですか?」
ドングリの甘露煮の試作会から数日が経って迎えた新年。年明けは昨夜の年越しに呑んで食ったり騒いだりで宿泊客がまだ初夢の中でいることが多いが、ここミストル亭の従業員は年中無休だ。看板娘のキーナも朝早くに起きて両親の仕事の手伝いに取り掛かろうとしたところ、宿泊客共同の厨房で料理をしている梓美の姿を見つけた。そして足元には看板犬のロッキーが張り付いておこぼれを貰おうとしている。
「意外ですね。確かに今朝の食事の予約はありませんでしたけどてっきり昼頃までお休みになられてるかと思ってました」
「せっかくの年明けだから特別な料理を作りたかったからね。……でもそんなに意外?」
鍋でスープを作りつつもう一つの鍋で皮を取り除いて輪切りにした甘薯を着色用の木の実と一緒に茹でている。そんな梓美が首を傾げる首筋の甘噛みの跡が目立ってしまう。それが昨夜何があったかを如実に物語っておりキーナは頬を染めて気まずそうにもじもじとする。
「あー……その、新年の恋人同士の相部屋は昼まで起きてこないこと多いんですよ。アズミさんもミアルさんとそうなのかなー……って」
「あっ」
梓美は察した。新年早々に夜通しでお楽しみのカップルが昼まで寝てるのはキーナにとってよくある事なのだろう。咄嗟にミアルに甘噛みされた跡に手をやり顔を赤くする。
実はミアル達は三人で年を越している。フィリスを仲間外れにするのはどうかと思い抵抗するフィリスを二人がかりで部屋に引きずり込み、"奈落"の収納と取り出しを利用してツインベッドを連結。三人での年越しと洒落込んだのだ。ただ、三人での『お楽しみ』はまだフィリスにとって抵抗感が強かったことと新年用に特別な朝食を作るつもりの梓美が朝起きれないまでに消耗しては困るので三人で軽度のイチャイチャに留まった夜となった。それでもまだフィリスには刺激が強かったようで、一夜明けて熱に浮かれた頭も落ち着いたミアル共々頭を抱えていることだろう。
なお、二人部屋にフィリスが引きずり込まれる際、少し離れた廊下で血の海に沈むマオシャが発見され、傷害沙汰でも起きたのかと一時大騒ぎになったりもした。事件解決の決め手はそのマオシャがよくよく見るととてもいい笑顔サムズアップで倒れていたことで『いつもの事』と判明。廊下を血で染めたことと騒ぎを引き起こした罰で貧血でふらつきながら床掃除をで年を越すことになった。しかし件の二人部屋でナニが繰り広げられているか妄想がはかどりすぎるせいで拭いた端からまた汚し、結局『とうとい』と指文字を残して力尽きた娘を戻りが遅くて心配したケビンスが回収し、残りの掃除もする羽目となった。
閑話休題。
ひとしきり仕上げたところでスープの鍋の火は一旦消し、着色されて黄金色に茹で上がった甘薯を裏ごしし、複数に分けて火にかけたところで"収納"の魔道具の鞄からドングリの甘露煮を取り出す。
「あ!これが例のこの間作ってたドングリの甘露煮ですね?マオシャちゃんがずっと気にしてましたよ?新たな商売の匂いがする!って」
梓美達が大量のドングリを調理していたのはミストル亭宿泊の皆様の間でも知れ渡っており、多かれ少なかれ興味の対象となっている。特にシドーマ商会の親子は新たなビジネスの匂いを感じており本格的に使われる時を心待ちにしていた。しかし、現在貧血のマオシャの看病でそれどころではない。
「あれ?丸いドングリでもこれ漬けている物が違います?」
「そう、丸いのはアク抜きしても風味が強く残ってるからブランデーを足して漬けてみたのも用意してみたの。甘さ控えめで作っても美味しいかなって」
「おぉ~大人の味って奴ですか」
試作の結果、アクの少ない細ドングリはシンプルな甘露煮に、渋味が強くアク抜き後には強い風味が残る丸ドングリは甘露煮の他にもブランデーを加えて漬け込んだ物も用意した。内部時間の停止する"奈落"に収納せずに"収納"の魔道具で保存したことでドングリにより味が染み込み、漬けている甘露にもドングリの風味が移っていることだろう。ドングリを漬けていたシロップを味見してから火にかけている甘薯にそれぞれ加えていく。それを混ぜながら砂糖や塩、ブランデー漬けのシロップを加えた物にはさらにブランデーを足してそれぞれの味を調えたらいよいよドングリの甘露煮本体を投入。軽く混ぜ合わせて広めの皿に広げて冷ませば栗金団ならぬドングリ金団の完成だ。
「うわぁ~、ドングリでこんな美味しそうなお菓子ができちゃいました!」
「キーナちゃんも食べてみる?加熱して飛ばしたとはいえお酒が入ってる丸ドングリのは駄目だけど」
「いいんですか!?やったあ!!」
黄金色に輝くドングリ金団に目を輝かせるキーナに細ドングリの金団を匙一杯分を掬って食べさせてあげるとカッ!と目を見開く。そして数秒の硬直の後に両手を頬に当ててうっとりと恍惚の表情を浮かべるのだった。
「ふわあ。甘ぁい……ねっとりとしたお芋の食感の中にほろほろしたドングリが美味しい……これがドングリなんて信じられません……」
「うん、他のも上出来上出来。ブランデー入りのも風味がいい感じ!さて、残りの料理の仕上げも済ませないと……ん?」
他のドングリ金団の味見も済ませて残りを仕上げようとした梓美だが、ふと強烈な気配を足元から感じる。視線をゆっくりと下げるとそこにはずっとおすそ分け待ちしていたロッキーが。
「……クゥーン……」
ずっと待ってたのに貰えるのはキーナだけ?僕の分は?と視線で訴えるロッキー。ぺしょんと伏せられた耳に哀し気な声と相まったその精神攻撃は屈強な冒険者すらも膝をつかせ甘やかさせる程の破壊力だ。そして、梓美にも例外なく大ダメージを与えた。しかし、ロッキーの健康の為にも心を鬼にしなくてはならない。
「待って。これ砂糖いっぱいなの。犬は食べちゃ……」
「クゥーン………」
視線が突き刺さる。なんか目がすごいうるうるしている。
「ほら、いつもの塩抜き干し肉ならあげれるからそれで……」
「クゥーン…………」
すっごい悲しそうな表情になった。心が痛い。
「あうぅ……」
「ロッキーぃ……」
これには飼い主のキーナも色々な意味で耐えられず両手で顔を覆った。結局ロッキーの為に新たに甘薯と細ドングリを茹でて一切の調味料を加えずに作ったドングリ金団ペットverを作る羽目になった梓美なのだった。
◇
その頃、未だ二人部屋にいるミアルとフィリスの間にはなんとも言えない空気が漂っていた。
「……」
「……」
お互い眠りに落ちる前から上半身に何も身に着けていない姿であるものの、裸自体は浴場で一緒に風呂に入ることもありそれ程抵抗は無い。かつては同性でも身内以外に風呂で裸を見られるのに抵抗のあったミアルもフィリス相手なら何度も風呂に入る内に問題無くなったのだ。
問題なのは裸ではなく、互いの体にはあちこちに見られる赤い虫刺されの様な跡。ミアルのそれは全て梓美が原因なのだがフィリスは一部異なる。そう、ミアルに吸い付かれた跡なのだ。
「……えっと、梓美もフィリスも可愛かったよ?」
「うぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
昨夜のあれこれを思い出してフィリスが頭を抱える。その動きに合わせて一切抑える物の無いたわわが揺れる。
「本当にミアル捕食者だったじゃねーか!触ってるだけの筈なのに梓美ふにゃふにゃに蕩けてたぞ!しかも梓美に便乗してあたしにもちょっかい出してただろ!ほら!腹のここ赤くなってんぞ!」
昨夜、梓美がフィリスと触れ合っている際にも両方にミアルは『いたずら』をしかけ、二人がかりで責められたことで冒険者を始める前から仲睦まじい二人程この手の事に慣れてないフィリスはすぐにグロッキー。そうなればミアルの矛先は残った本命の梓美一人に向かう。まるで貪るかの様に口付けを交わし舌や手を身体に這わせてあっという間に梓美を蕩けさせたその捕食者っぷりを目の当たりにして戦慄したフィリス。だがそれはそれとして仲間外れも嫌なのでミアルに弄ばれている梓美を後ろから抱きしめつつ追い打ちをかけたのだった。
「フィリスの腕に収まって悶える梓美も可愛かったなあ……」
「う、まあ、否定しねえけどさ……」
いつも二人きりの夜は自分をいじめてくる梓美が自分の腕の中で弄ばれている様はフィリスにとってもゾクゾクとこみ上げる物があった。そして蕩けた目でフィリスにも甘えるように頭をすり寄せてきた時には危うく理性が飛びかけた。すんでのところで持ちこたえられたのは梓美を挟んだ向こうにミアルがいて、自分が理性を手放せば間違いなくミアルも大暴走すると判断したからだ。
「あれで幸せそうな顔を浮かべる梓美も相当だけどな。あんな風に甘えるんだなあいつ」
「とことんトロトロにするとすっごい甘えたになるんだよ梓美。あんな可愛い梓美を前にしてもっとイチャイチャしたかったけど我慢したボクの理性を褒めて欲しいな」
「いや我慢しないとせっかくの梓美の作る朝飯食えないだろが」
「まあ、それはそうなんだけど。梓美の故郷で新年に食べる料理をこっちの世界風にアレンジするって言ってたから楽しみだよ。こういう時女の子同士のイチャイチャは精神的なところで満足できるからいいよね」
「……本当に満足してるのか?」
「……」
ミアルは視線を泳がせる。フィリスのジト目が突き刺さる。
「……そろそろ梓美のご飯できる時間じゃないかな?」
「質問に答えろよ」
逃げるように冒険者活動用ではなく普段着用の着替えを済ませて食堂に向かうミアルとそれを追うフィリス。フィリスも普通のシャツ姿でありお腹の赤い跡が誰かに見られることはない。
そして幸か不幸か二人揃って部屋を出る瞬間を目撃したマオシャは新年早々廊下に血だまりを作るのだった。
◇
「と、いうわけでこの世界風新年料理!……とはいっても材料とか一度に食べる量の都合上ドングリ金団に黒豆風な煮豆とお雑煮もどき程度だけどね」
首を隠せる外套を羽織った梓美が料理を紹介する。この世界では新年の祝いは一日だけなのでお茶請けに使える為に多めに作られたドングリ金団はともかく他は一食で食べられる程度に抑える為に本来より種類や量が抑えられている。
「メインはこのスープなんだね。おぞーにもどき?……この浮かんでるのはパン?」
「お雑煮、そのもどきよ。で、浮かんでるのは小麦粉を練って茹でた団子だよ。辺境に餅、というか米が無いからその代わり。お雑煮って家庭レベルで別物らしいから辺境に合わせて作ってみたの。スープはククラプターの骨でダシをとって、ソイヤビーンズの醤で味付け。ククラプターは肉も具にしてるよ。具は他にはさっきも言った団子にキノコ、あとは見栄えを良くするために食用菊の葉を茹でて添えてるよ」
さらっと高級品のククラプターを使っていることに食堂を利用している他の客の視線が集中するがそれをスルーして梓美は説明を続ける。
「ドングリ金団は甘い細ドングリ。で、丸ドングリは普通に作ったのとブランデー効かせたのの二種類。それと丸ドングリの普通に作った奴ベースに細ドングリと丸ドングリのブランデー漬けも加えたのも作った計四種」
「わあ、これが栗金団なんだ。……ドングリだけど」
「味見させてもらったけどすっごく美味しかったんですよ?」
ひょこっとキーナが顔を出し、テーブルに並べられた梓美特性料理の数々を見て頬をぷくーと膨らませる。
「というかアズミさん、さらっとうちで出す料理よりすごいのを出さないでくださいよ~。偶にうちの料理だと勘違いされるんですよ?」
「ほうほう、これが件のドングリのお菓子ですか」
「あ、マオシャちゃん、新年おめでと……って顔色悪っ!?」
続いて現れたマオシャに振り向いたミアルは驚愕した。まるで幽霊の如くマオシャの顔色から血の気が失せていたからだ。しかしマオシャは晴れやかな笑顔でサムズアップ。
「あはは……いえ、お気になさらず。とても良い物を見させていただいたので」
「すっごいいい表情だけど気にするよ!ほら貧血用の造血薬!水分多めで飲んで!ちょっと生臭いけど我慢してね」
貧血時に不足している鉄分やその他の栄養を補う目的で処方されているので味や臭いは二の次三の次。しかも消化吸収されて体内で血を作るので即効性では無いのだが飲まないよりはマシである。味の悪さに顔を顰めながらも丸薬を水で流し込んだマオシャは一息つく。
「ふう……。まさかこの若さで月の物で貧血に悩む女性向けの薬を飲むことになるとは思いませんでした」
「いや説明しないでいいよ!?」
「ところで梓美さん。このドングリ金団、聞くところによると金運向上の願掛けの料理とか。魔の森で比較的採集しやすい素材で金をイメージ。そして人気の出やすい甘味ですがドングリの種類やそれに応じて味付けも多彩のようですね。これ、是非うちの商会で扱わせてもらえませんか?」
先程までの淑女っぷりはどこへやら、完全に商人の目となったマオシャ。しかし今は食事の直前だ。
「マオシャちゃん、その話は後でしてあげるから。ほら、ドングリ金団分けてあげるから」
「本当ですか!是非ご相伴に預からせて貰います!」
「マオシャちゃんずるいです!私も食べたい!」
目の前に甘味を出されて目を輝かせる年相応なマオシャ。キーナも先程の味見程度では満足できなかったようだ。
このドングリ金団は後にシドーマ商会の新商品としてさらなる研究と改良が進められ、材料のバリエーションやそれに応じた味付けによる多様性、さらに短期間でいくつもの功績を残した美少女冒険者がゲン担ぎに食したという売り文句によって単なる甘味だけでなく冒険者にとって願掛けとしても人気を博すことになる。そして辺境を中心に絶大な支持を獲得、皇都でも流行となっていき、次の年末にちょっとした騒動を引き起こすのだった。
もっとも、そんな未来など今は知る由もないミアルは梓美に微笑む。
「梓美。梓美はこの世界に来て色々大変だと思うけどさ、ボクはやっぱりこうして梓美と新年を迎えられて良かったよ。勿論フィリスも」
「私もよ。そりゃあ故郷が恋しくはなる時もあるけど、それでもこの世界にミアルとフィリスがいてくれて、一緒に年を越せて幸せじゃないなんてありえないよ」
花咲くような笑顔を見せる梓美。きっとミアルとの出会いが無ければこうして笑顔で新年を過ごしては無かっただろう。
「まあ、ここに辺境の偉い各所の面々がいたら梓美が来てから一番大変なのは自分達なんだが、ってツッコミが飛んだだろうがな」
「フィリス、それは言わないの。実際胃を痛そうにしている人ばかりだけどさ」
「結局ミアルまで言ってるじゃん!?二人とも酷い!」
「あっはは、悪い悪い」
笑い合う三人。今年は昨年よりも良い一年であることを、そして来年もこうして笑顔で新たな年を迎えられることを祈って―――
「梓美、フィリス。今年もよろしくね!」
お雑煮も出汁から餅の種類、我に至るまで千差万別。
そんなこんなで今年もよろしくお願いします!
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『もっとイチャイチャを!』
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