2021新年特別SSその1
あけましておめでとうございます。
少し長くなりそうなので区切りのいいところで投稿します。
隕石調査より少したった頃、街は新年の祝いの為に活気づいていた。
ミアル達の住む世界にも新年を祝う文化はある。ニオクス村やアダマートの位置するシメレア帝国辺境は日本の真夏や真冬の様な気候の変化は無いのだが、他では地域差はあるものの普通に四季は存在している。現在は寒期であり、意外にも季節の巡りは地球の北半球と大差は無いのだった。
そんな年明けが待つ中、全ては梓美の一言から始まった。
「栗金団食べたいなあ」
一体何事、そもそも栗金団とは?ミアルが聞いたところ梓美の故郷である日本では新年に『おせち』なる煮物や縁起にちなんだ料理を食する文化があり、その中の一つ甘薯のペーストに栗という木の実の甘露煮を混ぜて練り合わせた金運の向上を願う栗金団は梓美にとって新年の楽しみだったという。当然、金運よりも甘味目当てであるが。
「ミアル達はそういう縁起物の料理とかって食べないの?」
「うーん……村だとご馳走に大物の獣なんかをいっぱい狩ったり羊をシメたりして村の皆で食べたりするくらいで精々それで来年に向けての活力にしよう!程度かな?フィリスはアダマートでそれなりに活動してるよね。知ってる?」
「この街も酒やご馳走を楽しむくらいだな。縁起にちなんだ物なんて聞かねえし甘薯はともかくその栗ってのも初耳だ。というか、どんな実なんだ?」
「えーっと、ドングリを大きくした感じの実が針山みたいな棘に覆われた殻に包まれている木の実。あと花の臭いがちょっとあれっぽい」
「アレ?」
首を傾げるミアルに防音の魔法を使わせると耳元でつい最近臭いが栗の花に似ていることを身を以て知った物の正体を教える梓美。ミアルもそれの臭いを梓美と一緒に知ったのでみるみるうちに耳まで真っ赤に染まる。
「なっ!?ななななななな!?そんな花も木の実も知らないよ!何そのセクハラ植物!本当に梓美の故郷にそんな樹が普通に生えてるの!?」
「私も似た臭いだってことは最近知ったよ……それまで塩素っぽいなーって思ってたけど」
「おい、二人で盛り上がってないであたしにも教えろ」
仲間外れにされて半目で睨むフィリスに二人は顔を見合わせる。ミアルが頷くといたずらっぽい表情を浮かべて梓美がフィリスの耳元で囁く。妙に熱を籠めて。梓美が囁いた単語の意味を理解したフィリスは顔を赤くしてガタッ!と勢いよく立ち上がる。
「は?えっ、なあっ!?そんな樹なんて知るわけねえだろ!まさか昨夜のアレであたしを揶揄ってるんじゃねえだろうな!」
「いや、本当に似てるの。栗の花の臭いって」
「待ってフィリス。昨夜のアレって何?梓美との夜に一体何があったの?」
「今言える訳ねえだろうが!ちょっとそっち方面から離れろ!花の臭いより実の話に戻せ!」
「そういえば本とかに出てくる妖精族の種類に樹木系のドライアドもいるらしいけど栗の樹の種類がいたとしたら色々とすっごいリアルだと思わない?」
「梓美も黙れ!何で朝からこんな話をしなきゃならないんだ!」
頭を抱えるフィリス。幸いにもミアルの風魔法によって防音はバッチリなので周囲にこのピンク色な会話が漏れることは無い。
「まあその話は本当に置いといて、どっちにしろそんな特徴の樹は知らないや」
「ああ。ドングリとかならともかく、棘の殻なんてのは見たことも聞いたこともねえ」
「そっかー……今年は栗金団は食べれそうにないか……まあ異世界だし仕方ないよね。サツマイモのペーストに水飴とか練り込んだ感じので我慢するかなあ……」
いくらこの世界に来て料理上手になったとはいえ材料が無ければ再現のしようが無い。栗金団は諦めるしかないかと肩を落とす梓美。そんな梓美にミアルは首を傾げる。
「あれ?栗ってドングリに似てるんだよね?それで代用できないの?」
「できなくは無さそうだけどこの時期に食べれそうなドングリってあるの?」
この世界でもドングリを食用にできなくはない。ただ、やはり虫食いの物を取り除いたり渋を抜いたりと手間がかかるので一般的では無く、大体子供のおもちゃ代わりにされている。そして地球で考えるならとっくに秋を過ぎたドングリの状態が良好かと考えると首を傾げざるをえない。大体虫か小動物に食われているか殻が朽ち始めていることだろう。
「いや、魔の森だとほぼ年中無休で落ちてるぞ?さすがに辺境の外だと採れる時期じゃないだろうけどな」
「マジ!?あ、でもそれくらい実を落とさないとあっという間に樹が無くなっちゃうのかな?」
魔の森、それも深層に行くほど大型だったり強大な魔獣が多く、大樹と言えども草食性の魔獣の餌にされたり縄張り争い等で何かの拍子にへし折られることは頻繁に起きる。故に雑草並みに種をばら蒔かないとあっという間に絶滅してしまうだろう。普段梓美は危険度の高い魔獣の気配探知に気を配っていることが多い為地面に落ちている木の実の事は意識から外れていた。
「よし!光明が見えてきた!今日はアトラクチュラ狩りのついでにドングリも探そう!」
「いや、まだ蜘蛛狩るのかよ!?」
アトラクチュラとは深層に生息する蜘蛛の魔獣だ。体長10m、脚を含むと倍近い大きさを誇り大樹の間に巣を張り中型のワイバーンをも罠にかける他、大きく発達した毒牙によって直接獲物に襲い掛かり、時にシェルヘッドベアも餌食にすることがある。その糸はかなりの強度を誇り、大型のワイバーンですら雁字搦めにされれば抜け出すことは不可能とされている。もっとも、大型のワイバーンなら基本的に甲殻に毒牙が通りづらく雁字搦めにされる前に暴れて巣を張った大樹ごと壊して抜け出せるので餌にできることは稀ではあるのだが。
梓美はその糸を生成する出糸腺の粘液を用いて自分の装備用の布を作れないか画策中なのだ。ただ、中層に生息するワイバーンイーターという3m程の蜘蛛魔獣の糸の方が布の手触りは優れているのでそれらを両立した配合比率の検証の為にもアトラクチュラ、ワイバーンイーター共にサンプルは大いに越したことは無い。
先の隕石落下の影響で中層にもアトラクチュラが出没することもあり、現在アトラクチュラの狩猟が容易なので最近のミアル達の魔の森での活動は蜘蛛魔獣狩りが殆どだ。なお、食用としての有用性からワイバーンイーターの方が出糸腺以外の価値は討伐難易度の高いアトラクチュラよりも上であり、丸ごと持ち帰っても討伐報酬含めた収入はほぼ同じなことに理不尽さを感じざるを得ない。
「年明けはワイバーンイーターで蟹鍋もどきもいいかも。日本だったらおいそれとできないご馳走だしね」
「梓美の故郷でもご馳走!?ボクも俄然やる気が出てきた!」
「美味い物が食えるならあたしも手伝うか」
ワイバーンイーターは加熱すると蟹に似た風味を出す。年明けのご馳走の材料も調達できることはミアルとフィリスのやる気を引き出させるのには十分だった。
◇
「それじゃ、早速ドングリの作りたいと思います!」
「おー!」
よくよく見れば本当にあちこちに落ちていたドングリを採集しつつワイバーンイーターとアトラクチュラを狩ってきた梓美達はミストル亭の厨房を借りてドングリの下処理に取り掛かった。
「とりあえずこの細い渋みの少ない奴から甘露煮にしていくから、ミアルは渋みの強い奴のアク抜きをお願いね」
「任せてよ!素材のアク抜きは慣れてるからね!」
"解析"のおかげで有毒性や渋みの強さは判別できるので毒見無しで調理の方針を立てられるのが梓美の強みだ。今回使えそうなドングリは2種類であり、細く渋みの無いマテバシイに似た物と丸く大きいが渋みの強いクヌギや柏に似た物だ。まずは下処理の必要が無さそうな細ドングリから調理し、その間にミアルが丸ドングリを下処理で渋みの原因となるアクを抜く。素材のアク抜きはミアルも時折薬の調合の際に似たようなことをするのでより効率のいい方法を探すつもりだ。
そして残ったフィリスはひたすら採集してきたドングリの殻剥きなのだが……
「……これ全部か?」
それぞれダチョウの卵一つがぴったり収まりそうな袋いっぱいに詰まったドングリを眺めているフィリスの表情には絶望と悲壮感が浮かんでいる。これらの殻を全て剥くのがフィリスの担当だ。延々と続くであろう単純作業に始める前から心が折れそうだ。
「甘露煮が上手くできたら味見させてあげるから。なんなら一瓶丸ごとあげるから、ね?」
「……頑張る」
色々弱っている時だけ垣間見える女の子モードのフィリスにキュンとしながらも梓美も作業に取り掛かる。先だって殻と渋皮を剥いて水に漬けておいた細ドングリを鍋に移し弱火で茹でて火を通す。本来なら着色の為にクチナシを入れるのだが今回は試作の為割愛。火が通ったら一度取り出してドングリを砂糖を多めに溶かした水でゆっくりと煮詰め、最後に粗熱を取れば試作品の完成だ。この世界では砂糖は高級品とまではいかずとも決して安い代物ではないので一つの試作にドングリ5粒程度で作る。程よく冷めた一粒を楊枝で取り出して味を確認する。
「んっ、栗を扱うのと同じ要領でやってみたけど中々いい感じ。ほら、ミアルも」
「ほんとだ、美味しい!」
丸ドングリを煮沸しつつ水の魔法も併用して渋みの原因となる成分を抽出、一気に茶色に染まった鍋のお湯を捨てていたミアルも試作一号の味見をして目を輝かせる。
「それにしても魔法でこんな早くアク抜きできるのね。殆ど渋みが抜けてるね」
「水で流し続けてたらどれだけかかるかわからないし煮沸し続けても煮崩れちゃうからね。加熱し過ぎて薬効を駄目にすることもあるし薬の素材も時折こうやって短時間で終わらせてるんだ」
渋みを取り終わった丸ドングリは細ドングリに比べて風味が強かった。普通に甘露煮にするのではなくブランデーで香りを足す等味付けをアレンジすべきかと相談しているとそこに死んだ魚の如き目をしたフィリスがふらふらと器一杯分の剥いたドングリを持ってきた。
「剥いても剥いても減らない……半分も減らない……」
「でも結構早いペースだよ。ほら、試作品できたから食べてみて。あーん」
「あー……」
虚ろな目で口を開けたフィリスに試作一号を食べさせる梓美。もごもごと租借しつつ殻剥きの作業に戻っていく背中を眺めていると強烈な視線を感じる。
「あーん……」
振り返るとミアルが大口を開けてスタンバイ。明らかにフィリスに食べさせていたことにやきもちを焼いている。梓美が試作一号を楊枝に刺してミアルの前でゆらゆら動かすとミアルの視線ももゆらゆら。まるでおやつを目にした大型犬だ。そんなミアルにちょっと悪戯心が沸く梓美。しかしミアルにはそんなことお見通しだ。
「もし意地悪で梓美がそれ食べたらボク、梓美の口から貰っちゃうからね」
先に釘を刺してきた。しかもかなり目がマジだった。普段は人前で堂々といちゃつくのは恥ずかしがるミアルだがやきもちを焼くと暴走しがちである。梓美としては甘露煮を自分の口に含んで諸共いただかれるのもやぶさかではないのだがさすがに厨房では人目に着きそうな上に今腰砕けにされてこの後の作業に支障が出てはたまらない。大人しくミアルにも試作一号を食べさせ、丸ドングリでの甘露煮の試作に取り掛かるのだった。
皆さんは好きなおせちはなんでしょうか?私は黒豆と伊達巻が好物です。
明日中に次話を投稿できるよう頑張ります!
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