5話〜護衛依頼③〜
今年最後の投稿です。
一夜明けて出発すること数刻。いよいよ辺境伯領と隣領との境に差し掛かった頃、馬車の上から周囲を警戒しているミアルの耳が遥か先で起きた異変を捉えた。すぐさま"遠望"によって前方の様子を確認したミアルは声を張り上げてその情報を全員へ通達する。
「前方、対向の馬車がディノラプターの群れに襲われてる!数はメガ1、その他7!向こうでも護衛の冒険者……違うね、装備からして多分騎士が応戦中だよ!」
「そんな、メガディノラプターですって!?」
馬車の中、マオシャ達の表情に緊張が走る。メガディノラプターは魔の森の中層でも生存できる程の強力な魔獣だ。そして魔の森の外の個体は慢性的な餌の質不足により一種の飢餓状態に陥っており、なりふり構わず襲ってくる危うさを持っている。一方で魔の森に生息している個体と相手取れる冒険者にとっては魔の森の個体より身体能力は劣る上に飢餓によって知性も低下している為むしろ狩りやすい部類なのだが、戦闘のせの字も知らない商人にとっては例え弱体化していようが恐ろしい魔獣であることには変わり無い。
「いや、開けた街道にいる奴がミアルの探知に今引っかかったってことは相当距離が空いてる。今すぐに対処しなきゃならねえわけじゃねえから安心しな」
ミアルの風魔法を併用する索敵はそれなりの範囲を対象にしている為、戦闘の起きている現場はかなり離れている。そのことを馬車の右側で警護していたフィリスはマオシャ達に教えると今後の対応について考える。
このまま先方の護衛がメガディノラプター達を討伐できるのならば問題は無いのだが、倒しきれず撃退、あるいは戦闘が長引いた場合はこちらに矛先が向く可能性がある。最悪の場合はこのまま前方の馬車が護衛諸共餌食となってしまうことだ。現場や遺体の確認及び生存者の保護等、依頼主も巻き込んでこちらの負担が多くなってしまう。そのため救援に向かうべきではあるのだが、とある厄介な点をミアルは告げていた。
(これが同業者ならまだマシなんだが、向こうの護衛は騎士、つまり貴族付きだろ?しかも下手なタイミングで手を出して因縁を付けられたらそれこそ依頼に支障が出ちまうしな……)
街道の護衛依頼では時折メガディノラプターやホブゴブリン等の(魔の森の外では)大物率いる群れとの戦闘中に他の冒険者パーティーが遭遇することもあり、その後の討伐後の取り分で揉めるのは珍しい話では無い。基本的には冒険者同士なら先に戦闘を行っていたパーティーの取り分が多めに、しかし加勢前に戦況が劣勢だった場合は加勢側の貢献に応じて取り分を増やす、あるいは逆転させるというのが暗黙の了解になっている。
これは最初に戦闘していた方の負担が大きいということ、介入しなくとも討伐は可能だがそれまで通行ができない為止むを得ず加勢する場合が多いからだ。無論実力不足で追い込まれていたところを救って貰ったのならばそれなりの誠意を見せるべきだ。
しかし、これが騎士相手だと話が異なる場合がある。辺境は魔獣が出現しやすいという土地柄、冒険者もスカウトする程に実力を重視しているので問題となりにくいのだが、この国では基本的に騎士は相続権の無い貴族の家柄の者からの起用が多く、それらはプライドが高い傾向にある。殆どが平民出身の冒険者に助けられたとなればプライドから手柄を主張、あるいは余計な手出しをするなと難癖をつけられたり、酷い時には逆恨みをされることもある。加えて、今のフィリス達が優先すべきは自分達の護衛対象。それをほっぽり出して護衛を手薄にしては本末転倒だし、介入後のトラブルに依頼主を巻き込むのも良くない。
かといってわざと事態を放置して基本的には要人である騎士の護衛対象に犠牲を出させるのは以ての外なのでこの事態は非常に面倒なのだ。
「ミアル、戦況はどうなってる?目視できる距離になるまでに片がつきそうか?」
「まあ、片はつくと思うよ」
それなら安心だ、とフィリスは息を吐こうとして―――
「助けに行かないと向こうが全滅する」
「ごほっ!?」
盛大にむせた。全然安心できない。
「明らかに劣勢だよ。取り巻きが馬車を狙おうとしてるのに気を取られてメガに戦力を回せてない。騎士一人一人は普通のDランク冒険者レベルかな?全員剣しか使ってないからメガ相手じゃリーチ的にも不利だよ。全身金属鎧じゃなかったらもう犠牲が出ててもおかしくないと思う」
ミアルの"遠望"の先では今も食らいつこうと涎を垂らしながら襲い掛かるメガディノラプターに騎士は防戦一方、さらに取り巻きのディノラプターが馬車を襲おうとしており、その牽制の為に戦力を分散させざるを得ない状況だ。そしてメガディノラプター相手の白兵戦は持ち前の俊敏性もさることながら体格差による前脚の爪の間合いのせいで斬り込み辛く、優れた身体能力やそれを補う"身体強化"か、魔法や矢による牽制が無ければ相手取るのは難しい。幸い金属鎧がディノラプター達の武器である爪から身を守ってはくれているが、メガディノラプターを倒せない以上ジリ貧は明らか。どこかで綻びが生じれば遅かれ早かれ馬車が襲われるのは想像に難くない。
この状況を放置できないと判断したフィリスは依頼主のケビンスに確認をとる。
「ケビンスさん、前方で馬車が襲われているが旗色が悪いようだ。救援に向かわせるとなるとこっちが手薄になるがどうする?一人向かわせる分には問題ないと思うが」
「構わないよ。放置しても結局戦闘に巻き込まれるのは同じだ。それに阻止できるのにわざわざ犠牲が出るのを容認する程我々は人でなしではないつもりだよ」
「あたしらにとっては依頼主の安全が第一だからな。さて、梓美!聞こえてるな?ちょっと向こうに行って片付けてこい!ミアルは梓美が離れている間左側のフォローも頭に入れとけよ!」
フィリスが声を上げて馬車の反対側、左側面を警戒していた梓美に指示を飛ばす。索敵に優れたミアルや護衛依頼の経験があるフィリスが護衛対象から離れるのは悪手だと判断、消去法で梓美が適任と考えたからである。
「りょうかーい!ミアル、私が離れる分のフォローお願いね?」
「任せてよ!」
「一応言っておくが実力主義の辺境ならともかく騎士ってのはプライドが高い。あまり反感を買うような真似はするなよ」
「大丈夫だと思うよ?だって――――」
梓美はにやりと口角を吊り上げて
「そんな気も起こさせないくらい、実力を示せばいいんだから」
そう言い残して梓美は"奈落"を利用して自身を収容、効果範囲ギリギリの距離で排出する短距離ワープを繰り返しあっという間に目視できない距離まで離れていった。それを見送りながらフィリスの胸中に不安がよぎる。
「……梓美の奴、何をやらかすつもりだ?」
梓美は基本的に支援職向きの魔法適性ではあるが《舞台装置》スキルによってイメージを基に魔法を構築、それを手本としてスキルに頼らずに扱えるよう練習することによって尋常じゃないペースで魔法を身に着けることが可能だ。本人の直接攻撃向けではない光と闇2つの魔法適性故に大規模、あるいは破壊力の高い攻撃魔法は不得意ながらも支援や小手先の類の手札の枚数ならば並みの魔法職顔負けである。故に味方にであっても自由に戦わせればどんな手段を使うかが読みにくくパーティーでの連携時には後方支援に務めさせているが、今梓美は単独で戦いの場に向かって行った。そして梓美の言動から気性が荒くなっているとはいえ普段魔の森で相手にするよりも弱体化しているメガディノラプター相手に苦戦している騎士に華を持たせる為に後方支援だけで終わらせるとは思えない。
早くも自分の判断に不安を覚えるフィリスだった。
次回、梓美無双!……と言いたいところなのですが新年向けのSSを書きたいと思います。なので梓美の活躍を待っているという方はちょっとお待ちください。
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他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を是非宜しくお願いします。感想貰えたりブクマが増えていると大変励みになります!
六月に初投稿をしてはや半年、これからも書き続けていきたいと思っています。
それでは皆さん、良いお年を!そして来年も本作をよろしくお願いします!




