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7話〜街での買い物〜

 梓美が"奈落"を構築した翌日。

 ミアルと梓美は荷馬車に乗っていた。ルルは御者である。梓美の生活必需品を含めた買い出しの為に街に向かうからだ。

 話は前日、ミアルが採集から帰ってきた時に遡る。



「つまり・・・梓美がいれば手に持ちきれない量の荷物を常に手ぶらで運べるってこと?さっき森で猪見かけたけど昨日の分含めて大量に薬草採集してきたから運びきれそうになくて諦めたけど、その必要もなくなるってこと?」


 ミアルの目が輝いていた。昨日は一昨日梓美が落ちてきたため途中で切り上げた分も採集したため、猪を運ぶ余裕が無く、狩猟を諦めたのだった。そうでなくても持ち運びの問題で熊のような大物は一部分しか持って帰れないことが殆どである。その問題を解消できる梓美の"奈落"はとても魅力的だ。

"奈落"の効果は以下の通りである。


 ・《舞台装置》による支配空間内に専用の時空間を生成する。《舞台装置》同様に常に発動状態にあり、術者に合わせて時空間も移動する。その空間体積は術者の魔力によって拡張可能。(現在100lタライ並みの体積。)


 ・時空間との出入り口となる黒い『孔』を有効範囲内に発生可能。


 ・時空間内部の物品はそれぞれ隔離された状態になり、術者以外は時間的変化を起こさない。術者は自由に時空間内の物品に接触、取り出し可能。


 ・時空間内には術者を除く一定以上の大きさの生きた動物の全身の侵入が不可能。


 ・時空間の体積が増えれば術者は《舞台装置》の効果範囲内を時空間を介して移動可能。現在は体積不足で使用不可。


 ルルの解釈では「無理矢理世界に舞台裏を作って好きに物をしまったり移動できる」魔法とのことだった。


「うわー・・・ミアルに限らず色んな人が喉から手が出るほど欲しい魔法ね。私だって冒険者時代にこんな魔法があれば、って何度思ったことか。そういう効果の鞄型魔道具ってあるけどとんでもなく高い上に容積も魔道具に使う鞄の一回り程度よ?それが容量増やせるなんてほぼ上位互換なんて商人とかは首輪つけてでも手元に置きたがりそうね」


 低コストかつ損壊や劣化を抑え、さらには術者が無事なら損失リスクも大幅に減らせるのだ。それこそどんな手を使ってでも手に入れようとする者が出てくるだろう。

 ちなみに時空間を介した移動は潜入に使えそうに見えるが時空間側から外の様子を認識することは不可能であり、移動の始点と終点に孔が発生し目立つため実際のところ潜入には不向きだ。


「とりあえずは鞄の内側で道具のやり取りをするか多少低い効果に見せるなりして上手く偽装した方がいいわね」


 いずれにせよ発覚すると面倒ごとに巻き込まれること間違いなしなので孔を隠さないような目立つ扱い方は避けるべきだとの結論に至った。


「ところで、つい先日、薬研(材料を磨り潰す車輪型の器具)がお亡くなりになったのよ」

「はい?」

「最近それが必要な調合は無かったけど近いうちに買わなきゃって思っててね」

「はい」

「あとお酒も買い足したいなーって思ったのよ。で、梓美ちゃんも色々調達しておきたいでしょ?下着とか歯磨き用の道具とかの生活必需品とか」

「あっ(なんとなく察した)」

「この際必要な物を一気に街に買いにいきましょう。『協力』してくれたら梓美ちゃんの必要な物はお金出してあげる。ミアルも売ってしまいたいものを纏めておきなさい?」


 梓美としても衣類の替えが必要だと思っていたので願ってもない話ではあったが、何やらルルがリストアップしている購入予定のラインナップの多さを見て少しでも"奈落"を魔力を注ぎ込んで拡張させることを決めた。

 翌朝早くから出発ギリギリまで光を魔力として変換、回復させる魔法も使用し、何とか1000リットルタンク並みに増やすことに成功した。


 そして現在。


「村長が馬車を貸してくれたのはありがたいけど追加で買い物を頼まれちゃったね」


 そう、ロンヌの馬車を借りる代わりに彼からも買い物を依頼してされた。街に入った珍しい酒をいくつか買ってきて欲しいとのことだった。


「お酒はかーさんに任せよう。まず『メラール』に着いたらボクの集めた素材の換金。その後にかーさんの薬研とかの調合器具の購入、売ってないなら発注だね」

「で、衣類含む生活用品の調達。流石に服毎日借りるのは悪いし、下着も毎日同じのを着て洗濯してだと傷むの早くなっちゃうからありがたいな。()()数少ない地球産の代物だし」


 そうして馬車に揺られること2時間。商業街『メラール』に到着する。

 メラールは辺境の中でも工業が盛んな街で商店も数多くある。近隣の村だけでなく魔の森近くの都市からもメラールの商品を求め多くの者が訪れる。

 馬を馬繋場に預け最初に向かったのは冒険者ギルド。ミアルの採集した素材の換金の為だ。

 冒険者ギルドは依頼者からの受注した依頼を登録した冒険者へ斡旋したり、採集した素材の買取や工房への売却等、冒険者が働く為の様々なことを取り持つ組織である。

 素材の買取に関しては買取額は1割落ちるものの冒険者以外の猟師等にも門戸を開いている。

 ミアルも冒険者ではないが集まった素材の売却の為にメラールに来た時には度々訪れる。

 メラールの街の冒険者ギルドは非冒険者向けの素材買取用の窓口が別館にある為、梓美が言うところのお約束の冒険者との衝突もなく無事に換金を済ませることができた。


 ミアル曰く冒険者向けの買取窓口と非冒険者向けの窓口が共通していると偶然狩れた大物を巡ってトラブルが起きることもある。

 よほど人口が多いか冒険者が扱わない普通の獣素材の需要がある地域でないと窓口を分けることの意義は薄いので『よくある』ことなのだろうとのことだった。



 ◇



 その後、ルルの買い物と村長からのお使いを終わらせた。

 ルルのチョイスにより村長へのお酒はサソリや蛇の魔物をブランデーに漬け込んだ物であり、酒に詳しくない二人は軽く引いていた。使われていたのが砂漠にいる種類の魔物らしく確かに珍しい酒ではあったが。


 梓美個人用の歯ブラシ(ただし植物の繊維を木の棒の先端にくくりつけた物。繊維は交換式)等の日用品を購入後、3人は衣服店に到着した。


 梓美は最優先で下着を選び始めたが上半身用にかなり悩み普段使い用のキャミソールタイプを1着と運動用のスポーツブラに似たタイプを2着購入。色合いに合わせたパンツも複数購入した。

 本来普段用も2着買うつもりだったのだがキャミソールタイプやスポーツブラタイプはマシだったが気に入った構造の物が無く梓美が「カップ付いてるのがない」と服の上からブラジャーを外して「これと同じ構造のありませんか?」と女性店員に見せた結果、仕立ても兼業していた彼女の職人魂に火を点けさせるハプニングがあった。


 結果として可能な限り(ルルが予算オーバーを懸念したが試作品かつ技術提供代として格安になった)構造を再現した2着を1週間後に渡すこととなり、その後1週間店員は睡眠時間を惜しんでカップ付き構造の再現に燃え、受け取りの時には人相が変わって見えるほどの目の下に濃い隈のやつれた姿になっていた。

 後にこの店は女性用下着の大手として発展を遂げていくがそれは別の話である。


 一方で普通の衣類に関してはそれなりの動きやすさがあればよかったので必要数を選ぶにもそれほど時間はかからなかった。



 ◇



「まさか胸の下着にここまで時間がかかるとは思わなかった」


 帰りの馬車でミアルが疲れた顔をしている。今日買った物の総量は荷馬車に積み切れない量だったが重かったり割れやすかったりして持ち運びの大変な物は梓美の"奈落"に収まっており、荷台にはそれなりにスペースが残っている。


「だって、ブラって結構大事なんだよ?しっかり胸を保持しておかないと形悪くなったり変な風に肉がつくって話だし」


 ミアルには殆ど胸がなく、日中動き回ることが多いのであの店に売っている物でも特に問題はなかったが、そこそこはある梓美は将来性も考えてあまり締め付けず、かつ保持する構造の物が欲しかった。


「かーさんも顔引きつってたよ?いいところのお嬢様が着ける様な物じゃないのか?って。割とウチってボクが狩りもするからお金あるけど普通の村民だとそこまでモノに拘れないよ?」

「あー・・・やっぱりそうなんだ・・・。今回ルルさんはお金は気にしなくていいって言ってたけど安い買い物には思えなかったんだよね」

「これで梓美が採集について行けたら積極的に狩りもできるから稼ぎも増えるんだけど、まだまだ未熟だからなあ」

「体力作りに魔法技術向上、店の仕事にこの世界の勉強ってやることいっぱいだね私」

「体力ついたら採集に同行できないかかーさんに掛け合ってみるよ。ニホンに帰る方法を探すなら各地を転々として情報を集めた方がいいだろうからそれがやりやすい冒険者やっていくのが無難だと思うし、そのためにも多少は経験積むべきだし」


 何より収穫物を多く持ち運べる"奈落"を店番で腐らせるのは勿体無いだろう。梓美も同様に考えており、


「それじゃ、"奈落"で獲物とか素材とか運ぶから稼ぎの何割かお小遣いに欲しいな!先立つ物も必要だし」

「勿論!取り分は半分でいい?」

「多いよ!?素材の目利きも狩猟も解体加工も基本ミアルがやるんでしょ!?正直3割でも多いと思うんだけど!」

「いやいや、かーさん曰く『荷運び役を冷遇して後々後悔する冒険者を山程見てきた』ってことだからしっかり報酬は払うよ」

「その前に私居候だよ?私の生活費も引いてもらうからミアルのお小遣い分でも十分すぎるくらいじゃないかな?」

「食費は採集すれば実質タダだからそれなりに家賃減額できるんじゃない?」

「それはそうかもだけど・・・」

「と、いうかボクは連れて行かないんだ」

「え?」

「言ったよね?ボクも旅がしたいって。ボクも二ヶ月後には15歳。つまり成人だし梓美と一緒に行くなら一人より色々と安心だと思うんだ」

「え、でもルルさん独りになっちゃうよ?」

「梓美が一人で旅立つのも心配だよ?梓美はボクを連れて行きたくないの?」

「それは・・・」

「ボクが一緒じゃ、嫌?」


 一緒に行ってくれるならそれは心強いだろう。しかし、ルルが独りになってしまうのは気がかりだ。自分も地球では行方不明扱いだろう。残された親を思うとどうしてもミアルに親不孝になることはさせたくないと思ってしまう。


「まあそれは梓美ちゃんが問題なく旅立てるようになってからの話ねー」

「「!?」」


 先方から声がかかるまで二人はルルが御者をしてずっと会話を聞かれていることを忘れていた。エルフの耳には夜に別室で会話するよりもしっかり聴き取れていることだろう。


「まずは基礎体力と魔力操作。それができなきゃ採集の同行は認めない。あと別にイチャつくなとは言わないけどあっという間に二人だけの世界に入るのはどうかと思うわよ?今もどんどん話を進めてたし」

「「はーい・・・」」


 別にイチャついてるわけではない。そうこぼしたら将来設計してるみたいに聞こえてると返される二人だった。

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