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1話~フィリスの朝~

 魔の森で採集される素材が産業を支えているシメレア帝国の辺境において冒険者という職業は他の地域と比べて活躍の機会が多く、憧れの対象として見られることが多い。特に目立った活躍している冒険者には固有のファンが着くのも自然な流れである。

 フィリス・リルザもそのファンの多い冒険者の一人だ。美しい容姿だけで無く、冒険者登録から短期間かつほぼソロでCランクにまで上り詰めた実績、男勝りな一匹狼気質ながら最近判明したとある新人冒険者二人組に対する態度から見て取れる面倒見の良さ、爬虫人族にしては希少な魔法への高い適性から繰り出される炎の魔法とそれを組み合わせた派手な近接戦闘スタイル、そして先の聖光神教の襲撃事件では獣王竜の首を断ったという物語の一ページの如き活躍から男性だけでなく女性冒険者からも憧れの対象となっている。


 そんな彼女が、


「うへへへへへ……」


 現在、ベッドに寝っ転がりながら指輪を眺めてだらしなくにやけているとは誰が想像できようか。


 梓美のオーダーに基づいて作られたカボションカットのネビュラマギキウムの指輪には両側に小さくブリリアントカットされた透明のメテオマギキウムがサイドストーンとして飾られており、リングも梓美の新防具と同様の隕オリハルコンをベースに隕鉄と隕アダマンタイトからなる鋼を加えて錬成された合金製だ。

 無論、梓美はミアルにも同じ素材で作られた指輪を贈っているが、それぞれの指輪は石座に宝石を留める(プロング)やサイドストーンの配置が異なっており、どちらもこの世に二つと無い一品物だ。

 ここ最近のフィリスの朝の日課はこうして指輪を眺めることであり、その表情は魔獣(えもの)を前に獰猛な笑みを浮かべる普段のフィリスからは想像しがたい恋する乙女そのものである。


「それにして梓美の奴、あたしらの知らない文化を持ち出すのは卑怯だぞ……」


 この世界、少なくともシメレア帝国やムロアウィールドには婚約を申し込む相手に指輪を贈るという文化は存在しない。梓美が地球ではありふれたその文化の存在を明かしたのはミアルとフィリスも指輪を自分達で見つけた宝石と装備に用いた合金で作って貰い、それをいよいよ梓美と贈りあった時だった。

 頬を染めてはにかみながら「ねえ……地球だと婚約指輪ってあるんだけど、この世界だとどう?」と告げた梓美にミアルもフィリスも一瞬フリーズ。そして畳みかけるかの様に地球では求婚する時に指輪を贈る文化が存在することを教えられた二人は即座に顔の温度が急上昇した。ミアルは「え!?求婚って、え、そんな、早いけど、でも、えへへへ……」と混乱と照れがごちゃ混ぜになり、フィリスは「いやっ、違っ、そういう訳じゃ、待て、結婚したくない訳じゃなくてだな、でも女同士……あああああでもあたしらそこら辺の問題はクリアしてるし……」と完全にパニック状態に陥り、事態の収束に一時間を要したのも記憶に新しいし、今思い出しても顔が赤くなってしまう。


「……っと、駄目だ。そろそろ梓美達がこっちに来る頃合いだ。……ミアルも一緒に来るだろうし……昨夜、二人……」


 平常心を取り戻さないとまたどんな風にからかわれるかわかったものではないので頭を冷やそうとするがつい余計なことを考えてしまう。内容は昨夜の梓美と恋人シェア相手のミアルのことだ。


「昨夜もあんなこととか、こんなこととかしたんだろうなあ……いや、梓美は『される』方だっけか……」


 最近はミアルと交代で梓美と一緒に寝ているので二人がどんな夜を過ごしたのかは容易に想像できてしまうし、芋づる式に自分の番だった一昨日の夜の事も思い出してしまう。


「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………あたしなんつー有様だよ……で、ミアルとの時は梓美があんな感じで……」


 フィリスに対しては攻め攻めな梓美だが、ミアルは相手にはほぼ受けらしいということはフィリスも知っている。記憶の中の痴態を晒している自分と、ミアルとの夜にはきっと自分と同じ様な有様な梓美を想像して顔以外にも身体が熱を帯びてしまうフィリス。その熱が梓美と触れ合う夜を思い出させて朝からフィリスの身体を疼かせていく。


(もう梓美達も起きてるだろうしあたしも身支度しなきゃいけないのに……)


 頭の中ではさっさとベッドから起きるべきだと警鐘を鳴らしているのに徐々に心音は大きくなり身体が火照りを鎮めたがっている。梓美との夜を思い出しながら自分の身体を慰めたくて仕方なくてどうしても疼いてしまい、吐息にも熱が籠る。


(梓美のせいだ……あたしがこうなったのは絶対梓美のせいだ……ちょっと前までこんなことになんて絶対ならなかったのに……)


 人を惚れさせ身も心も恥ずかしいところを暴いて、数ヶ月前の自分からは想像もつかないくらいに変えてしまった元凶(こいびと)にフィリスは心の中で悪態を吐くも、それで高鳴る心音も身体の熱も収まるわけではない。むしろ余計に梓美のことを頭に思い浮かべてしまい身体の熱は増すばかりだ。


(うぅ……駄目だ……我慢できない……少しだけ……少しだけなら……)


 梓美に『色々』されたせいでそっち方面の耐久力は削られてしまっているフィリス。思考も熱に浮かされたように働かなくなってしまっている。ぼんやりとした思考のまま身体の疼きを鎮めようとより熱を感じる箇所に手を伸ばし、いよいよその指先が触れようとして――――――――


「フィリスー起きてるー?今後の予定の相談したいんだけどー?」

「うぎゃあああああああああああっ!?」


 部屋の扉の向こうからの声に一気に思考を現実に引き戻された。


 あまりの不意打ちについ大声を上げてしまうフィリスに扉の向こうからも驚きの声が上がる。


「ちょっと!?すごい声だったけど大丈夫!?」

「なんでもねえ!すぐ支度するから待ってろ!」


 急に冷水を浴びせられたかのように熱に浮かされた頭は冷え、体の疼きも血の気が引いたせいかきれいさっぱり失せたが、先程までとは異なる勢いで心臓がバクバク鳴りっぱなしなフィリス。数度深呼吸してようやく平静を取り戻して身支度を進める。


「だから、いつもいつもそういうところなんだよ……」


 フィリスのつぶやきは扉の向こうに一緒にいるであろう恋人の共有相手(ミアル)にも届かないくらい小さな物だった。確かにあのまま朝から自身を慰めていれば事が終わった時に自己嫌悪に陥っていたので助かったことには違いないのだが心臓に悪いことこの上ない。梓美は時折自分に対して絶妙なタイミングで『何か』をやらかしてくる。そしてその度に心臓がこうして悲鳴を上げるのだからたまったものではない。


「あー!もう!さっさと着替えよう!」


 こんな時ですら梓美に弄ばれている気がして釈然とせず、さらに『惚れたら負け』なんて言葉が脳裏がよぎるがそれらを必死に振り払ってベッドから立ち上がる。

 大切な指輪を左の薬指にはめ直して髪を留めて防具を身に着けていく。指輪は素材が素材だけに単体でも並みの短杖並みの魔法発動媒体としての機能を有しており、さらにフィリスの()()での運用にも耐えうる代物なので盗難防止の為にもこうして身に着けているのが最も損失リスクが低いのだ。


「左の薬指かぁ……」


 無論、その意味も梓美から教わっている。左の薬指に指輪を付ける意味を知るのはこの世界にはそういないので、周囲の人達からはパーティー共通のトレードマーク程度にしか思われていないだろうが、自分達三人に、特にフィリスにとってはとても大事な意味を持っている。


「結婚云々はまだ先の事だろうが、『家族』ってのには違いないよな」


 口元を綻ばせるフィリス。幼くして故郷を滅ぼされたフィリスには家族がいなかった。この指輪はフィリスにとって新しい家族、しかもより深い繋がりである伴侶の証なのだ。まさか同性、しかもシェア状態になるとは思わなかったが目に見えた形で証があることはそれだけでフィリスの心を温かくする。

 先程まで複雑だった心境などとうに吹き飛び、フィリスは上機嫌で扉を開く。一方の梓美達の方は先程の絶叫と現在の上機嫌なフィリスとの関連性がいまいちわからず首を傾げるのだった。


『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『もっとイチャイチャを!』


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[一言] 三章開始ありがとうございます! 創作活動は筆がのらない時もありますものね。 どうかご無理はなさらず。ちょっとずつでも読ませて頂ければ嬉しいです。 ほほう、マオシャちゃんが旅の友。姦しい事に…
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