プロローグ ~準備完了~
長らくお待たせしました!三章開幕です!
「よしっ!予定していた装備の更新全部完了!」
ミストル亭の自室で両拳を高く掲げる梓美。その装いは以前の物とは一新されている。獣王竜の白い毛皮を用いたフード付きの外套や革のロングブーツこそそのままだが、外套の下はセーラーワンピースに似た白く大きい襟に袖の無い臙脂色をした膝よりやや上の丈のワンピースに変わっており、ウエストは革のベルトを巻いてシルエットが引き締められている。ベルトは勿論獣王竜の革製だ。胸当ても隕石から採取した希少金属による白銀の合金製となっており、さらにワンピースの襟の下を通して下げられているネビュラマギキウムの宝玉を用いたブローチが接続されている。そして右腕に装着されているのは先立って試作されていた手甲の完成型だ。左腕に新しい手甲は無いが指抜きグローブから覗く薬指には二つの指輪がつけられており、上側が黒いリングに赤を主体に橙色の炎の様な遊色を持つ宝石、下側が淡い金のリングに緑を主体にする玉虫色の輝きを放つ宝石の指輪だ。この二つの指輪は重ね付けも意識したデザインとなっており、まるで二つで一つの指輪の様にも見える。
「ちょうど皇都から加工された宝石が戻って来たのとほぼ同じタイミングで完成してよかったよ。今回もすごい凝りようだったんだから」
「あはは……色々巻き込んでごめん」
全身で喜びを表現していた梓美だったが、傍らで身支度を進めているミアルの言葉に両腕をすすすと下ろしながら苦笑いを浮かべる。
これらの新装備は隕石を持ち帰ってから二週間の間に隕石内の鉱物や深層級の魔獣の素材、さらにはヴァイラナから教わった太古の精霊の化石である『精霊の骸』の利用法も用いて作られていた。無論、各製造過程でパーティーメンバーのミアルとフィリスは当然足りない素材集めに同行し、各分野の職人たちはかつてない代物の予感に熱意を大きく燃え上がらせ、冒険者ギルドのギルドマスターのマッスやアダマート含む辺境伯の領主ダリウス達は物が物だけに素知らぬ振りができる案件ではなかったりと振り返れば多くを巻き込んでいる。何せ妖精族に伝わるという特殊な加工技術に聖王国に召喚された異世界人の用いていた武器の技術、そして隕石に含有されていた未知の鉱石も惜しみなく使われているのだから無理も無いのだが。
「アンジェラさんには出発前にもう一度謝った方がいいんじゃないかな?あれ以降カウンターに納品する時毎回身構えてるし」
ミアルが思い出すのは梓美のワンピースに使った生地、さらに突き詰めればそれを織った糸の原料を調達した時である。
魔の森中層には飛竜すら捕える程の大きな巣を作る『ワイバーンイーター』と呼ばれる体長3m程の蜘蛛型の魔獣が生息しており、その見た目とは裏腹に出糸腺(糸を分泌する器官)は上質な糸を紡糸する原液の材料に、胸部にある毒腺も薬の原料になり、脚は食用とそれなりに需要がある。そして、より巨大で糸も強靭な深層級の蜘蛛魔獣『アトラクチュラ』も先日の隕石の影響で中層に出没しており、冒険者ギルドでは警戒が促されていた。梓美がそれらのことを知ればどうするかはお察しの通りである。
後日、冒険者ギルドのカウンターにワイバーンイーターやアトラクチュラの(梓美にとって不要な)腹部以外丸ごとが大量に納品され、実は蜘蛛が苦手なアンジェラが悲鳴を上げることになった。特にワイバーンイーターの数倍の大きさのアトラクチュラの頭部が突然眼前に出てきたのは衝撃的だったとのことで、たまに夢に出てくるらしい。
その後、その手の魔獣素材加工の専門家に依頼してワイバーンイーター及びアトラクチュラの出糸腺から採取できた粘液やその他素材の混合比率の研究や精霊の骸を加えた上での紡糸から布に織るところまでして貰い、その布を用いてワンピースを仕立てたのだ。
余談ではあるが、アトラクチュラは食用には向かなかったが、毒腺が医療用の麻酔として有用性が見出されて高値がついた他、ワイバーンイーターの脚は加熱すると内陸のアダマートでは滅多に食べられない蟹のそれに似た食感と風味となり、それに目を付けたギルドの食堂では期間限定で蜘蛛脚の料理が出されて大きく売り上げを伸ばしたことも述べておく。
「それにしても、なんかここのところ事あるごとにギルマスや領主達が出てきてる気がするね。ターシャさんにも色々言われたし」
「梓美がぶっ飛んだ物ばかり作るからだよ。この一ヶ月だけでも前科何件だと思う?ボクがこの間お偉いさんたちに胃薬調合したらすっごい感謝されたよ?」
特にマッスやターシャに余計な口外をしないように念を押されたことを思い出して梓美がぼやくがミアルはそれを呆れた目で見つめる。その視線に思い返せば聖光神教の嫌う魔獣素材の加工はともかくそれ以外は下手に放置してこちらが把握しないまま敵対勢力に技術が渡れば甚大な被害をもたらしかねない案件ばかりだったので梓美も仕方ないかと納得する。そしてさりげなくアフターケアをしてくれていた恋人に感謝するのだった。
ここまで梓美が装備を一新したのは、梓美が自身に付与した疑似精霊『天星の戦乙女』による力を振るう際、妖精族に連なる精霊の血を引いていない生粋の地球人の梓美には強い反動がかかってしまい、その対処が課題となっていたからだ。
とはいえ方法そのものは簡単に見当がついた。初の精霊形態時に梓美は自身の身体から直接適性を引き上げた四元素魔法をはじめとした『天星の戦乙女』の能力を行使しており、その為魔力路に反動が集中することになった。言わば銃弾を撃つのに自分の掌で火薬を爆発させているような物に等しい。そこで銃が内部で火薬を爆発させて弾を飛ばし銃身で弾道を安定させるように能力の行使を装備を介することで梓美の身体そのものへの影響を軽減させれば良いのだ。
その為に衣服も精霊形態の反動を軽減させる為の特別製を、そして防具にもより精霊形態と相性の良い物を梓美は必要としたのだった。
こうして各分野の関係者を巻き込みながらも梓美の新装備は完成を迎え、現在に至る。
「これで装備も整ったしいよいよムロアウィールド行きの依頼に行けるね」
「隕石のごたごたと梓美の装備一新で長引いたからなあ。ムロアウィールドに向かう様な護衛依頼があると一石二鳥だけどギルドにあったかな?」
ミアル達は現在、領主経由でムロアウィールドにとある貴族令嬢に獣王竜の肉を届ける指名依頼を受けている。ミアル達のパーティーが指名されたのは肉の要求量もさることながら運搬にかかる時間も考慮すると内部も時間を停止させての運搬が可能な"奈落"は重宝する。そして、獣王竜の肉を使った料理に慣れているのも梓美なのでこれ以上の適任がいない。
依頼を提示された直後に魔の森への隕石落下が重なり出発は先送りになっていたのだが、梓美の装備が完成したことでようやく出発の目途が立ったと言える。ムロアウィールドへの道中で装備を新調出来る保証が無いので済ませられる物はアダマートで済ませたかったのだ。
「まずはフィリスと合流してムロアウィールド方面に向かう護衛依頼を探しに行こうか」
ミアルがフィリスを迎えにここ数日は偶に自身が交代で寝泊まりしている一人部屋へ向かおうと部屋のドアを開けると、
「話は聞かせて貰いました!」
そこにはバーン!と効果音がつきそうな雰囲気満載で猫耳の少女が仁王立ちしており、ミアルが驚きの声を上げる。
「うわっ!?……って、マオシャちゃん!?」
「はい!シドーマ商会会長の長女、マオシャですミアルさん!いつもお三方からは素晴らしいネタを……ごほん、商品開発のアイデアをありがとうございます!」
マオシャ・シドーマ。ミストル亭に長期宿泊している猫獣人の少女でミアル達とも顔馴染みである。13歳という多感な時期にミアル達の宿泊初日に風呂でのミアルと梓美の仲睦まじい様子を目撃して以降、持ち前の妄想癖と相まって色々と目覚めてしまった淑女だ。時折物陰からミアル達(時折フィリスも混ざる)のやり取りを眺めては鼻血をだらだらと流しており、その恍惚とした表情を浮かべているのを家族に見つかって引きずられている様子はある意味ミストル亭の風物詩となっている。
そんなマオシャだが実は商会長の娘であり、覗き見する中で梓美が用いる明らかにこの国の物とは異なる知識から発想を得た新商品のアイデア企画を親に提案していたり密かにとあるジャンルの恋物語の開拓を目論んでいたりと実はできる女でもある。
商品開発については馴染みのある物が増えるのは喜ばしいと梓美は相談に応じており、そのついでにマオシャはガールズトークもしている。なお、ミアル達三人はマオシャの新ジャンル開拓計画のことは知らない。
「実はうちの商会、前々からムロアウィールドの国境近くの都市に向かう予定がありまして。どうですか?道中、私達の護衛を引き受けていただけませんか?」
マオシャの提案は、まさに渡りに船と言える物だった。
書き溜めると言いつつスランプに陥り結局ストックが貯まらず……
いつまでも更新を滞らせるのもいかがな物と思い、少しずつではありますが自分なりのペースで更新を進めていく所存です。
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