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挿話~その頃のクラスメート・聖王国の勇者~

お待たせしました!


 ヴィクター聖王国。

 その王城にて長い廊下を歩く黒い長髪の少女がいた。ほどよく筋肉がつき均衡のとれた体に清楚という表現の似合いそうなすっきりとした小顔。その姿には誰もが美少女として評価を下すだろう。

 彼女こそがこの世界に召喚された地球人、その中でも最強格の『勇者』、星山遥香である。

 しかし、その表情は曇り、目線も普段よりも下に向けられていた。


「星山さん、会議はどうだった?」


 遥香に駆け寄ってきたのは岸田聖也。勇者に次ぐ素質と実力を持つ『聖騎士』であり、実質クラスメイトの男子達のトップだ。その顔はこの数日で心なしか痩せこけたように見える。


「魔の森を超えた帝国への直接攻撃は見送り。……皆を治す為の治療薬の奪取は諦めることになったって」


 俯いたまま告げられたその言葉に岸田が歯噛みする。クラスメイトの多数を襲った要塞蜂の毒は今なお影響を残し体力の低下や魔力運用への支障をきたしている。この世界に召喚されて向上した身体能力が召喚前と同等、人によってはそれ以下にまで落ち込み、魔力も碌に扱えない状態なので戦闘はおろか訓練すら不可能なのだ。今は教会の城下町での慈善事業の手伝いをすることで対面を辛うじて保てているが、時折お荷物、無駄飯食らいと周囲の声は厳しい物となってきている。彼らを回復させることは戦力面だけでなく、彼ら自身の立場の為にも必要なことだったのだ。

 その為にも、要塞蜂の毒への解毒剤の原料となる同じ要塞蜂の蜂蜜と蜜蝋が必要だったのだが、基本的に深層に生息し、巣の堅牢さ、要塞蜂そのものの危険性、蜂蜜自体が匂いで他の魔獣を誘引しやすい危険さからその入手は極めて難しく、聖王国と協力関係にある国の伝手を使っても調達することは適わなかった。

 そもそも、聖光神教においては魔獣は不浄な存在とされている為食料は勿論素材を利用することも忌避されており、それらが蓄えられていることは殆ど無い。有用性の高さ、毒以外に魔力に依存した能力が無く誤魔化しが効くという点から要塞蜂の素材は一部の昆虫系の魔獣と共に例外扱いされているが。

 そこで、魔獣素材を積極的に収集、利用しているシメレア帝国の魔の森に接する辺境の魔獣産業の中心であるアダマートに聖王国の上層部は目を付けた。魔獣除けのアーティファクトを用いて魔の森を横断し、勇者の戦力を持って再度襲撃する計画を立てたのだ。


 しかし、先日の一件がその計画に待ったをかけた。


 勇者一行が要塞蜂の巣、およびゴブリンに攫われた美島麗華の捜索中に隕石が落下。その調査に赴いた岸田と須藤がクラスメイトの殆どが機能しなくなった事態の発端とも言えるヴァイラナに遭遇。奇襲によって重傷を負わせたが、同行していた魔人の冒険者の一人に手も足も出ず、貴重なアーティファクトの装備を破壊されたのだ。岸田が痩せているのは未だにその魔人との戦いがトラウマとなっており、精神的に疲弊し食事がまともに喉を通らない為だ。


「くそっ、なんであんな化け物がいるんだ!あいつさえいなければ……」


 岸田達を一蹴した魔人の女は爬虫類の尾を持ち、背から青い炎を吹き出しており、その炎の一撃はミスリル製のアーティファクトを破壊し、須藤の全力の拳を片手で受け止める程の膂力、さらには瞬時に傷を再生させたという質の悪い与太話の様な存在であり、聖王国の上層部には最初は深層で魔獣にやられたことを誤魔化す為の出任せを疑われた。しかし、教会の真偽を測るアーティファクトによって報告の全てが真実だと明かされた。加えて先の獣王竜によるアダマート襲撃も退けた存在らしく、同行する魔人があと二人いた。交戦することが無かった為実力は未知数だが、魔の森深層にたどり着けた時点で只者ではないことは明らかだ。そのような者達がいる場所に攻め込んだとしても今の戦力ではただ勇者一行という今後の要となる戦力を喪う結果になりかねないと判断した上層部によって計画は白紙となった。


「それに、信じられないけどガイルさんから私達の事が知られている以上向こうも警戒しているからアダマートを攻めたところで肝心の解毒薬の原料が無かったり、罠を用意されているかもしれないって」


 何より、アダマートへの攻撃時点での聖王国の情報はすべて漏れているであろう状況でシメレアの辺境が対策していない筈が無い。加えて今の勇者達では勝てるかもわからない相手がいる可能性がある以上アダマートに攻め込んだところで骨折り損どころか最悪全てを失うかもしれないのだ。


「それで、今動かせる戦力で隣国のムロアウィールドに攻撃を仕掛けに行くって。戦いながらスキルのレベル上げと実戦経験をさせるって。レベルが上がればその魔人にも対抗できるはずだから」


 遥香のスキル《聖剣化》、《聖鎧化》は共にレベルを持つスキルである。レベル持ちのスキルは何度も使用することによってレベルを上昇させ、それに伴い性能を向上させる。現在の遥香の両スキルは魔の森での捜索中での戦闘で共にレベル3まで上昇しており、両方のスキルを発動していれば既に聖王国の騎士ですら歯が立たない程の強さを発揮できる。そこで本来の召喚目的である魔人達の国家へ攻勢も可能と判断。隣接するムロアウィールドとの戦闘によってさらにスキルのレベルを上げてシメレアにいると思われる青い炎の魔人に対抗する力を付けることとなった。


「わかった。それで、当然俺と須藤もついて行くんだよな?……美島さんは?」


 遥香は首を振る。ゴブリンにさらわれた美島麗華は遥香の懸命な捜索の甲斐あって発見することができたが、その姿は遥香にとって筆舌に尽くしがたい物だった。身に着けていた一切が取り払われ、泥とゴブリンの体液にまみれた親友の姿に遥香は彼女をゴブリンに奪われ、助け出すことのできなかった己の無力さを呪った。

 さらに、身体だけではなく魔力による浸食によりかつての魔法運用能力は見る影も無く、何より精神面への影響が甚大だった。ゴブリンに汚され、さらにその子を産み落とした事実もあるのだろうが、救出時に『子』を殺されたことにショックを受ける程に精神が汚染されており、とても戦いに同行できる状態ではない。今も行方のしれない『娘』の安否を気にする程で、遥香もどう対応するべきかわからず腫物に触れるような扱いになってしまっている。何より、美島の目の前で彼女の『子』を殺したことから時折恨みの籠った眼差しを向けられることが遥香にとってかなり辛いのだ。


「だから早く役目を終わらせて日本に帰さないと……。日本に帰ればきっと麗華ちゃんも元の麗華ちゃんに戻ってくれる。皆が肩身の狭い思いもしなくて済むし、家族に会える。でも、勝てなかったら……」

「大丈夫だよ。星山さんならあの魔人にも勝てる。俺達も当然力を貸す。だから、皆で日本に帰ろう!」


 その言葉に遥香の表情が曇る。岸田の言葉は単純に星山を勇気づける為の物だということは遥香も理解している。しかし、その『皆』には『彼』も含まれているのだろうか。この世界に召喚された時に『無能』の烙印を押され、力を示しても周りから疎まれ、最後は敵側に亡命した彼のことを。


「前國君……」


 その呟きは誰の耳にも届くことは無かった。


これだけの文字数なのに結構苦戦しました……


『次章はよ!』

『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『もっとイチャイチャを!』


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! 星山さんはいろんなもの抱えて大変ですね、親友を助けたつもりが恨み買っちゃうし…。美島さんがやがて落ち着いたとして、理性では納得しても、しこりはずっと残るでしょうね…
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