挿話~二人の宝石選びその2~
誤字脱字修正しました。指摘ありがとうございます!
一体何事かと首を傾げるミアルとフィリスに顔を上げたターシャがすごい勢いで詰め寄る。
「便利なんて物じゃありませんよ!?先程言いましたよね!?魔力が籠っていない段階でも十分宝石としての価値があるって!それが魔力で可逆的に色が変わる!?そんな宝石私見たことありませんよ!先程色が薄いから透明の物より価値が落ちるって言いましたけど、むしろ少しでも色が残っている方が価値が出ました!今貴女達が持っている鉱石すら然るべき加工をすれば指輪サイズの大きさでも金貨数枚は下りません!いえ、それなりの魔法一発放てるだけの魔力が溜められる大きさで加工すれば緊急時や護身用としての機能性も加わって大金貨単位です!それがなんですか文鎮って!せめてもの救いは大きさに対する魔力の貯蔵量は一般的なマギキウムとそれほど変わらない点ですが……そういえば、工房にはもっと色の濃い部分があるんでしたよね?それも色が変わるのでしたらその価値は計り知れない物になりますよ!」
あまりの剣幕に後ずさるミアル達。純粋な宝石としての硬度は申し分なく、さらにマギキウムライトと同等の魔力貯蔵性を有し、貯蔵具合によって変色するという特異性、おまけに一つの隕石からのみ採集できているという希少性も加わるこの鉱石はターシャからすればとんでもないお宝に見えるのだ。そんなお宝がその価値に気付かれず雑に文鎮代わりにされているとなれば、これまで数々の宝石を見定めてきたリスタシア皇女からすれば到底許されざることなのだ。しかも、本命となる鉱石は現在加工中だという。
「ああもう、どうしてギルドマスターは隕石は自由にしていいって言ったんですかー!今加工されているという工房ってあの合金の時と同じですよね!?もしあなた方の持つ鉱石よりも上質な物が雑に扱われているのでしたら黙ってられません!」
「え!?ちょっと、ターシャさん!?」
隕石内の鉱物は彼女達の総取りという条件を出したのはマッスだ。生態系に混乱をきたした魔の森深層での調査という危険な依頼にミアル達を乗り気にさせる為の条件であり、過去の隕石の調査例では従来のそれとが多少変わった性質を持つ金属、時にオリハルコンやミスリル等の希少金属が稀に含有されていることはあれど今回の様な完全に未知かつ多方面に有用な鉱石の発見例は無かった。その為、このような事態の予想を期待するのは酷な話なのは百も承知だが、それでも彼に色々文句を言いたいターシャだった。しかし今はミアル達が持っている物よりも価値のある鉱石が今どうなっているかである。合金についての話し合いの為に訪れた記憶を呼び戻し工房の場所を思い出すと、すぐさまミアル達を置き去りにして全力疾走で駆け出すのであった。
◇
「ねえ、ボク達が来るまでに一体何があったの?」
ターシャを追いかけてミアル達が工房に到着して最初に目にしたのは泡を吹いて気絶している彼女の姿だった。ミアルは街の中を全力疾走した前科がある為また騎士団の世話になるわけにもいかず、速度を出して走れなかったのだが、到着の差に数分も無かったはずである。一体この僅かな時間に何が起きたのかミアル達には不思議でならなかった。
「どうしたも何も加工中の宝石部分見せろっていうからもう出来上がったこれを見せたら、ターシャさんしばらく固まって、泡拭きながら倒れちゃったのよ」
そう言って梓美が見せたのは台座に収まった加工済みの宝石。直径4センチ程のそれは遠目にも輝きを放っており、近寄って眺めればその仕上がりに宝石にあまり詳しくないミアルとフィリスでさえも思わず息を呑むほどだった。
「うわあ、綺麗……」
「ん?これ二重になっているのか?透明のが赤いのを覆ってるな」
フィリスが気が付いた通り、完成していた宝石はやや楕円系を帯びた深紅の宝玉とそれを覆う透明な層の二層に分かれており、表面を覆う完全に透明なマギキウムライトの層は角度をつけて多数の面を出すファセットカットが施され、その透明感による輝きがさらに際立っている。
「うわ、中の部分すごい真っ赤。しかもこれ、中にもやみたいのがかかってない?」
内部の深紅の宝玉は透明感は残っているもののミアル達が貰った文鎮用のそれとは比較にならない程鮮やかな赤色であり、しかもその中心部分には超微細な粒子状の物質がインクルージョンとなって無数に漂い、それが入り込んだ光の反射によってまるで星雲の様な光を放っている。
「なんかスタールビーやムーンストーンに似た性質かなってエリンちゃんは言ってたね。で、この鉱石、透明な程硬く頑丈になるみたいで、装備に使うから色の濃い部分が傷つかない様に外側の透明な部分を魔法で錬成して覆ったんだ。で、それをいくつも面を出す加工をして貰ったの。錬成の過程で汚れも取り除けるからすごい綺麗になったよ。」
この世界では魔法による錬成で鉱物だろうと術者の力量次第で粘土の様に形を変えることも可能となるので、梓美が須藤の使っていた手甲を使って地属性への適性を補って宝玉部分を頑丈な透明部分で覆ったのだ。天然のマギキウムライトは内部の不純物によって魔力の通りが悪くなることもある為、錬成時に不純物も取り除くことで魔力の通りと見た目の向上にも成功した。
ちなみにエリンちゃんとは親方の娘さんである。成人前にも関わらず宝石加工の技術は工房一で、杖の宝玉以外にもアクセサリー用の宝石加工も請け負っている天才少女なのだ。ちなみにドワーフ族なので実年齢よりも幼く見えるので時折店番をする彼女目当てに工房を訪れる紳士淑女(階級的にも)も多いのだとか。現在はマギキウムライトの加工に力尽きてお昼寝中だ。
「そうだった。これ、防具に取り付ける予定だったんだな」
「いいのかな……?大丈夫なのかな……?こんなことに使っちゃって」
防具の装飾品にも関わらずすさまじく気合の入った加工にフィリスが引き気味になる。ミアルも先程のターシャの評価を踏まえると目の前の加工された代物の価値がとんでもない物になることがわかっているので防具に取り付けてしまっていい物なのかと不安になってしまう。しかし、梓美は特に気にする様子は無さそうだ。
「ただの宝石ならともかく、これはマギキウムってわかったし、《精霊術》の無い私だと周囲から魔力を吸収できない分ミアル達に比べて使える魔力量は限られてる以上、これを使わない手は無いよ。術式は仕込まずとも魔力貯蔵としてでも十分な有用性はあるしね」
「まあ、確かにそういう点じゃ必要ではあるんだろうけど。ところで梓美、これ、魔力入れた?」
「え?魔力の通りを見るだけでそんなには入れてないけど……」
「思いっきり入れてみて。大体半分くらい入れれば十分だと思うから」
この隕石から産出したマギキウムには隠された性質があるのを工房の面々はまだ知らないようだ。ターシャはその性質を知っているからこそ一目見ただけで意識が飛んでしまったのだろう。
「なんだい、お昼寝しようとしたら騒がしくして。あれ?アズミさんの仲間と領主様のところのメイドさん?なんでメイドさん泡拭いて倒れてるの?」
そしてミアル達のやり取りで起きてしまったらしく外見年齢十歳程度の少女がこちらにやってくる。彼女こそが工房の親方の娘であるエリンである。
「あ、エリンちゃん、ちょっとミアルがこれに魔力入れてみてだって」
「そういえば加工で頭が一杯でどのくらい魔力が入るか試してなかったね。アズミさん、やってもらっていい?」
エリンの許可も得たことで梓美が宝石に魔力を流し込み始める。
「えっ!?嘘、なにこれ!?」
そして、その変化は劇的だった。エリンが思わず叫び声を上げ、魔力を流し続ける梓美も目を見開く。
まず最初に、内部の宝玉の中心部分のもや部分が反射によるものでなく自ら僅かながらも光を放ち始めたのだ。そして、さらに魔力が貯まることで、内部がほのかに光るサファイアにも負けない青い宝石へとその姿を変えた。
魔力が籠っていない状態でも並みの宝石より美しく見えていたのに内部の色が青くなったことでより一層星雲が輝く夜空をそのまま透き通った水晶に閉じ込めたような見た目に変化を遂げた宝石に全員が言葉を失う。
「これ、宝石に詳しく無いあたしにもやべえってことはわかるぞ」
ここまでくるとむしろ戦慄してくるフィリス。そしてミアルはさらに恐ろしい事実に気がついていた。
「……ねえ、色が変わるのにボク達の持ってた鉱石の倍以上の魔力流してたんだけど、もしかして、貯蔵量は色でも決まる?」
宝石はミアル達の鉱石よりも一回りは小さかった。だというのに宝石が色を変えるにはミアルの《魔力知覚》で視た限りではそれ以上の魔力を必要としていた。つまり、色が濃ければ濃いほど硬度や強度は落ちるのかもしれないが魔力貯蔵量と美しさが増すということだ。ならばこのかなり色の濃いこの宝玉部分はどれ程の価値となるのだろうか。
「……ねえ梓美、ターシャさんが言ってたんだけどね」
ミアルとフィリスは梓美とエリンに先程のターシャのこのマギキウムライトの価値についての話の内容を語る。話が続くにつれ、そんなとんでもない価値を持つ鉱石をひよっこな自分が加工していたことに青褪めていくエリン。一方の梓美はむしろ目を輝かせると、
「ミアル、フィリス」
「……何?」
「何だ?」
梓美の声に聞き返す二人。その声色は言外にこれ以上聞くのが怖いという意思が込められているのだが非情にも梓美は言葉を続ける。
「カットした時の残りに同じような色の鉱石残ってるんだけど、どれがいいかな?いっそ選んでみる?今ならサイズも選べるよ?」
「「この状況でそれを言う!?」」
二人揃ってのツッコミが飛ぶがこと自分達の為のモノ作りに関しては自重しない梓美。とんでもない代物というよりもむしろそんな最上級の宝石を恋人に贈れるという喜びの方が勝るのだ。しかも自分で採取した物がその贈り物になるのだからその喜びもひとしおだった。
いそいそと宝玉部分のカットで残った部分の鉱石を"奈落"から取り出す梓美。いずれも指輪どころか小さめのペンダントにも使えるのではないかという大きさの美しい赤色で、中には梓美の宝玉同様に微細粒子のインクルージョンが残っている物もあり、加工されれば梓美の宝玉と同じ輝きを見せることだろう。とても一介の冒険者が身に着けていいような代物とは二人には思えなかった。
救いなのは指輪用に合わせた大きさに加工するので、傍目にはそれほど宝石の特異性が目立たないことだろうか。そもそもこの鉱石の知名度も無いので騒がれることはそうそう無さそうだが。
それよりもミアル達にはもう一つある問題が浮上していた。梓美がカットした残りの鉱石を"奈落"から取り出して並べている横で二人は目を見合わせる。
「フィリス、これに釣り合う宝石って何があるかな?」
「……あたしに聞くな。ターシャに聞いてみるか?」
その後、意識を取り戻したターシャに早速色の変わった宝石とカットした残りの鉱石を見せたところ、今度は直立不動のままアルカイックスマイルでターシャは再び気を失ったのだった。
このお話もう一話続きます。
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