幕間~領主とギルドマスターの苦労~
二章と三章の間くらいの話その1。
サブタイ、誤字修正しました。
辺境都市アダマートの冒険者ギルド。その執務室にて二人の男が頭を抱えていた。一人はギルドマスター、マッス・ルアオ。もう一人はアダマート含む辺境伯領領主、ダリウス・フォン・ベニーラインだ。今二人を悩ませているのはデスクの上の、とある報告をまとめた書類。先日の魔の森に落下した隕石の調査依頼の結果やその道中での出来事を依頼を遂行したミアル達から聞き出しまとめたものだ。
「この様相ではしばらくは中層に踏み込むのは危険だな」
「ああ。ディノレックスにダイアティグリスまで出没するとなると油断した冒険者はすぐに餌食になる。ギルドでも注意勧告はするさ」
魔の森深層に落下した隕石は落下地点を中心に甚大な被害を及ぼしたと予測され、それによる影響の調査も兼ねたものだった。結果、中層に本来生息しない筈の大型の魔獣が多種類進出し、それに伴い中層の魔獣が深層の魔獣から逃れる為に外縁部に出てくるという事態が発生。全体的に魔の森での危険度が上がってしまった。
「しかし、これは想定の範疇だ。こちらはそのうち収束するだろう」
「ああ。中層には奴らの腹を満たせるだけの餌が無いからな。外縁部からさらに魔の森に出る魔獣もいるからしばらくはそっちの依頼で冒険者達も食いつなげるだろうさ」
ダリウスの言葉をマッスが肯定する。深層に住む魔獣の多くは大型の種類が多いが、その巨体を維持するために大量の餌を必要としている。草食の種類にしても成長が速い深層の樹木や植物を好むし、ディノレックスの様な大型の肉食の魔獣も体の大きい獲物を優先的に狙う。しばらくすれば食料を得やすい深層に戻っていくことだろう。それまでの間、外縁部に出てきた中層クラスの魔獣を相手取れない(一般的な)Dランク以下の冒険者達が活動できないかというと案外そうでもなく、魔の森から逃げ出した魔獣の討伐依頼も出ているのでそちらに繰り出すことになるだろう。しかし、彼らの頭を悩ませていることは他にある。
「問題はそれ以外だな。アダマートだけで済ませられる問題では無い」
「あいつら、案の定厄介なネタ持ち帰りやがって……」
ある意味、いつも通りといえばそうなのだが、ミアル達が魔の森から戻ってくると大体何かしらの面倒ごとを持ち帰ってくる。特に今回は数日間かけた調査だったからか一度に複数の案件が雪崩れ込んできた。むしろ早期に判明するに越したことは無い物もあるだけに直視せざるを得ない。
「まず最初に、『妙に知能のあるホブゴブリン』。三体一組で行動していて、弱い物だが魔法も使えるらしいな」
「基本的に魔の森のゴブリンの討伐依頼なんて出さないし、大して金にならないからゴブリンなんざ向こうから仕掛けてこない限り手を出す奴はいないだろうが、一応周知させるか」
基本的にゴブリンの討伐依頼は魔の森の外に出てきたり、街道を狩場としている群れや個体等、直接領民に被害が出る場合が対象になる。これはゴブリンが他の魔獣にとって餌となる為である。真偽は明らかになっていないが、かつて無暗やたらとゴブリンを狩り過ぎた結果、餌を求めたディノラプターやさらにはシェルヘッドベアまでもが魔の森の外まで出てきたという話もある。ともあれ、餌が無くなったことでより危険な魔獣が魔の森の外に出てくることを避ける為、また素材に大した価値も無いので自己防衛や救助等の依頼以外で魔の森内のゴブリンが狩られることは少ない。しかし、腕試しとばかりに手を出して返り討ちに遭う者が出ないとも限らないのでこのホブゴブリンの情報もギルド内、他支部とも共有されることになるだろう。
「……まあ、個人的にはアズミがゴブリンから色々話を聞いたって部分に色々ツッコみたいんだがな。確かに聞き出したっていう内容は思い当たる節があるし嘘とは思えないが」
マッスが言及しているのはそのホブゴブリンとの一連のやり取りに関する証言だ。梓美が《言霊》スキルによってそのホブゴブリン達との会話が成立していたことも報告書には記載された。荒唐無稽な話ならまだ良かったが梓美が聞き出したゴブリンの生態についても確認されたゴブリンの行動とも一致している部分もあるのが信憑性を増している。うまく利用すれば村や街道へのゴブリン被害を減らせる手掛かりになる為、大変助かる情報なのだが、そのゴブリンと会話できるのが何をしでかすかわからない梓美なので嫌な予感が付いて回る。
「なんか、アズミがゴブリンと希少素材の取引しようとしている姿が目に浮かぶんだが」
「さすがに希少素材はゴブリンに用意できないだろう。どちらかというとミアル嬢の姉君との取引の方が信憑性がありそうだ」
「そうだよな。そっちもあったな。というかマジで血縁関係だったとか……」
ダリウスが言うミアルの姉、すなわち妖精族の姫ヴァイラナとの接触についても彼らにとって面倒な案件である。魔の森を自由気ままに飛び回り、怒らせれば竜種並みの被害をもたらす彼女とミアルの血縁関係が今回明らかになった。もしミアルに何かあれば、それはヴァイラナの怒りに触れかねない。そしてこれからもヴァイラナ側からミアル達に接触する際にアダマート支部に妖精族の姫が乗り込んでくる可能性が高いことが彼らの胃をキリキリ痛めつける。まるで他国のお姫様を相手にしなければならない気分だ。
「実際ミアル嬢共々姫なのだろうがね。まあ、ミアル嬢については『鷹の目』から釘を刺されているのが杭になったようなものだ。今まで通りで問題無いだろうし、ヴァイラナ嬢も平時は穏やかだというのだから丁重に扱えばいい。他にも彼女関連で頭の痛い問題は『趣味』だな」
「ああ、あれか……」
マッスが遠い目をする。ミアルに歩く災害な姉がいたり、その姉が支部を訪れるよりも問題なのがヴァイラナの趣味だという、魔の森素材での高級品作りである。
「アムブロシアを要塞蜂の蜂蜜酒和えだって?私でも食べたことはないんだが。というか、皇帝陛下ですらそんな物口にしたことはないと思うぞ?」
ヴァイラナの趣味の産物の一例として挙げられた要塞蜂の蜂蜜とその他魔の森素材で作られた蜂蜜酒と幻の果実とされているアムブロシアの食べ合わせの記述を見た時、ダリウスは卒倒しそうになった。この国の貴族、それどころか皇族でもおいそれと手が出せない代物をしょっちゅう遊び感覚でヴァイラナは素材を調達しては作っているらしい。
「もしかしたら我々の知らない間に希少素材が彼女に独占され、失敗品へとなり果てたり彼女の胃袋へと消えているのだと考えると我が領的にかなりの損失なのだが……」
「だからと言って元々深層にまでに採りに行ける奴の方が少ないんだ。採れない以上は『無い』のと変わらねえんだから割り切るしかねえ。それよりも素材狙いでお姫様にちょっかい掛けて被害が出る方が問題だ」
「そこは愚かな考えを持つ者が出ないことを祈るばかりだな。……それよりも最大の問題は、これだな」
「ああ、異世界人との接触。まさか二人だけで深層に踏み込めるとはな」
聖光神教によって聖王国に召喚された異世界人。その二人とミアル達がクレーター付近で交戦したというのだ。正確には一向に同行していたヴァイラナが遠距離から不意打ちを受け、フィリスが応戦したのが正しく、向こうはミアルも梓美も確認することの無いまま撤退したのだが。
「フィリス嬢曰く、それほど苦戦せずに撃退できたらしいが、正直その評価はあてにならないな。《報復》のスキルと疑似精霊による大幅強化があったからこその一方的な戦いだったことを忘れてはならないだろう」
「むしろ本気のフィリス相手に持ちこたえて、逃げれたってだけでも相当な実力者なんじゃないか?」
フィリス相手に武器も心も折られた彼らだが、それでも精霊形態のフィリス相手に生き延びれた実力は無視できない。何より、ミアル達に劣る装備で魔の森深層までたどり着けているのだ。その為、ダリウスにはある懸念があった。
「……ギルドマスターから見て深層まで踏み込めた者が、そのまま魔の森を挟んで反対側の国までたどり着くことは可能だと思うか?」
ダリウスが懸念しているのは異世界人達が魔の森を直接乗り越えて辺境に攻め込んでこないかというものだ。深層を問題なく移動できるならそのまま向こう側の中層に到達もできる筈であり、。
「不可能、とは言い切れねえな。深層を抜けて中層にたどり着いちまえば難易度は下がっていく。ただ、問題は食糧だな。歩いて魔の森を抜けるにはかなりの日数がかかるし魔の森にいればいる程魔獣に遭遇しやすくなるし疲労も溜まって生存率も下がる。当然、大人数で移動すればその分リスクも増す。たどり着くにしても少数に減るだろうな」
今回ミアル達がたった数日で調査を終わらせられたのは魔力に物を言わせてかなり道中を急いだからだ。普通に歩いて目的地に向かっては一ヶ月近くかかってもおかしくはない。その移動時間を短縮する為にも魔の森の探索には"身体強化"が重要視されているのだ。そして、魔の森にいる間は極力持ち込んだ食料で食いつながなければならない理由が聖王国にはある為、より迅速に進まなければならない。
「連中、確か魔物の肉は不浄だとかで食わないんじゃなかったっけ?そうなると食料もあらかじめ用意した物に頼らざるを得ないから難易度はさらに増すだろうな」
「確かに、聖光神教では魔獣の肉や素材は忌避されていたな。精々小さい種類や蜂蜜の類が許容されるくらいか。現地調達の選択肢がない以上、我々に比べて困難な道行きになるな」
聖光神教において、魔獣の素材や肉は不浄の物として忌み嫌われている。魔力を帯びている為、食すると体質によっては体調を崩すという点ではあながち間違ってはいないのだが、食肉の確保を畜産に依存することになり、大規模な畜産地帯を必要とする為、ワイバーンの様な行動範囲の広い魔獣によって襲撃されることも多く、それによって甚大な被害を受けることもある。ともあれ、現地で魔獣の肉で食いつなぐ選択肢が無い以上、聖光神教側にとって持ち込んだ食料の枯渇は死活問題となる。
「そもそも、魔の森突っ切って攻め込むなんてあまり現実的な手段じゃないだろ。戦争での侵攻と違って魔の森を超えても後ろに味方の拠点が無いから孤立するしな。一度に大人数じゃまず魔の森は超えられない。大規模な行軍はスピードも落ちるし何より目立つ。深層じゃあっという間に嗅ぎつけた魔獣に食い散らかされるのがオチだな」
「で、目的地にたどり着く頃には満身創痍か。ならば辺境で警戒すべきは少数精鋭か。まあ、こちらは軍の領分、上手く騎士団や軍の者達と掛け合って対策を講じなくてはな。正直、彼女達がアダマートに残ってくれていると心強いのだがね。こんな時にムロアウィールドに行くなんて」
ダリウスがため息を吐く。こうして重要だが厄介なネタを持ち込んだ三人こそが異世界人に対して確実に渡り合える戦力である。できることなら辺境に留まって貰いたいが彼女達、主にミアルのバックにはかなり厄介な人達がいるので束縛はできない。下手をすれば矢文が災害が飛んで来かねないのだ。
「ムロアウィールド行きの依頼を持ち込んだのはそっちだろうに。ただ出発はもう少し後になるだろうな。深層で採れた素材や隕石でまた装備を作るらしい。そっちにまた合金の錬金と使用の許可を求めたんだろう?」
「ああ、許可したよ。異世界人の持っていた武器といくらかの竜素材と引き換えに、ね。早速竜素材を使った騎士たちの装備の発注とついでに聖王国の技術で作られた武器も解析してもらっているよ。まあアダマートよりもムロアウィールドの方が異世界人と衝突することになる可能性が高いのも事実だ。戦力増強を図れるなら出し惜しみさせるのも良くないだろう。」
「そもそも、何頭のもの竜とやり合って大した怪我も無く帰って来られるってのも大概な話なんだよ。それだけでも英雄譚になりうるってのにまるでメガディノラプター狩ってきたみたいなノリで話すか普通?実際に素材を持って帰ってる以上マジなんだろうが、あんなの一度に買い取ったらギルドが破産しちまう」
アダマートに戻ったミアル達が調査の報告をする合間にと、梓美がドサドサと竜の素材を取り出した時にはギルドが凍り付いた。成竜の素材が殆どということもあり、総額はギルドが一度に買いきれない程の金額となった。無論、他の冒険者の素材の買い取りやその他諸々の予算を残す上での話ではあるが。
「早めに利益にして次を買い取ることをおすすめするよ。もたもたしてると彼女達が自分で使ってしまうからね」
「わかってるよ!今も財務担当が青い顔してあちこちに掛け合ってる。何せドラゴンの素材だからな。買い叩かれないよう必死だろうよ」
なお、梓美の"奈落"にはまだまだ竜の素材が眠っている。ギルドの財務担当はしばらくの間は竜の素材を元手にして利益を得ることに追われることは間違いない。
「とにかく、例のホブゴブリンとヴァイラナ嬢に関してはギルド内に周知を頼むよ。私は隕石落下の件や異世界人についての報告を皇都にしなければならない。これで失礼するよ」
「ああ。お互いしばらくは忙しい日々が続きそうだな」
ダリウスが退室して行ったのを見届けると執務室の椅子に腰かけパラパラと調査書をめくるマッス。
「全く、色々助かるのは事実なんだけどよ。せめてもう少し持ち帰る物を減らしてくれねえか……?」
どんな星の元に生まれれば一度の調査依頼でギルドマスターと領主の仕事を一気に増やすものばかりを持ち帰れるのか。もう少し手心を加えて欲しいと願うマッスだった。
◇
「おおおおおおおお!完成だ!メテオリハルコンをベースに隕鉄と隕アダマンタイトによる鋼を合わせた純宇宙合金!地上のそれとは性質の異なる隕石素材だからこそ可能になった防御にも優れた性質!見よ!この白銀の輝き!また一つ新たな合金が出来上がったぞ嬢ちゃん!」
「いよっしゃー!これで私の装備も一新できる!触媒としての性質はちょっと落ちたけどそれ向けの合金との二重構造にすれば補えるかな?確か以前の配合で汎用性が高いのがあったよね?」
「よし!早速試すぞ!!うまくいったら二重構造の試作はこの地属性補助の手甲を模して作るか!こいつも中々面白い造りをしておるわ!だがここにドワーフの技術が加わることで……さらなる進化を遂げるッ!!」
「父ちゃん!この隕石に入ってた魔力質鉱、アタイにカットさせてくれ!」
「工房じゃ親方と呼べい!嬢ちゃん、うちの娘だ!まだガキだが宝石のカットなら工房一、きっと希望に沿った物が出来上がるぞ!」
「娘さんいたの!?是非お願いします!」
「あんたら!研究ばかりやってないで領主サマの発注もやりな!弟子達に任せっきりにするんじゃないよ!アズミちゃんも旦那と娘を焚きつけるんじゃないよ!」
そんなマッスとダリウスの苦労などいざ知らずな梓美。親方一家を巻き込んだこの一連の隕石内の鉱石による合金や聖王国の技術やその応用等の研究結果を皇都帰りにも関わらず持ち込まれたダリウスはその場で気絶したという。
ダリウスさんはその後皇都に戻って聖王国の装備の技術について再度報告することになりました。がんばれ。
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