34話~宿で二人~
日も落ちていたことで、早々に夕食を済ませた三人は時間も時間な為あちこちの宿の部屋が満室となっている中、何とか一晩止まれる宿を一件見つけることができた。部屋割りは三人同時に泊まれる部屋が無かったのでミストル亭と同じくミアルと梓美が二人部屋、フィリスが一人部屋だ。なお、三人部屋が無いことにミアルと梓美は残念がったが、フィリスはむしろ安堵した。梓美と恋人同士になり、さらにミアルも交えた三人の夜に何も起きない筈が無く、さすがにそれはハードルが高く、何も起こらなければそれはそれで一人悶々としそうだとはフィリスは口が裂けても言えなかった。言えば引きずり込まれそうな予感がしたからだ。
「やっぱり魔の森の中と屋内じゃ休まり方が全然違うね。こうやって気を抜けられるのいつぶりだろ」
「梓美ったら早速寝そべってる。そりゃそうだよ、魔の森でこんな薄着なんてたとえテントの中でも自殺行為だよ。いつでも身を守れるようにしなきゃいけないんだし」
現在ミアルも梓美も既に体の汚れを落とし終わり薄着となっている。水と光の属性を合わせた"浄化"系統の魔法のおかげで大した手間もかからずに身を清められるのだ。"浄化"は光属性に由来する魔法なのだが他の属性と組み合わせることでその効果を特化できる。特に水は対物的な洗浄に優れており、霧状にしてその身に浴びてから拭くなり流すなりすればあっという間に汚れが落とせる。風呂場なら石鹸で身体を洗わずともその"浄化"とかけ湯だけで一日の汚れを落とせるので梓美は一分もかからずに身体を綺麗にして湯に浸かってることが多い。最近はミアルも使えるようになったのだが、あまりに便利な"浄化"を使うところを目撃されて宿泊客に注目を浴びてからは浴場で同性とはいえ他人に裸を見られることを嫌うミアルは普通に体を洗うようになった。
「それにしても、こんな長い期間魔の森で探索したの初めてだったよね」
「うん、それに深層の探索なんてもっとずっと後になると思ってた。梓美と出会わずに冒険者になってたらもしかして踏み込むことすら無かったんじゃないかな?装備も普通に手に入る類の物じゃ深層で通用するかもわからないし、ボクのバザラゲートも防具もそういう意味だと梓美がいなければ今の装備になること無かった……って、バザラゲートや炫蛇の合金も梓美発案だった。うん、ここ最近のボク達が強くなれたの、殆ど梓美がいないと成り立ってないや」
そもそも梓美と出会ったことで冒険者デビューが早い時期になり、それに重なるように襲撃して来た聖光神教を梓美の"降神霊機構"によって力を得て退けることができた。疑似精霊の力もそうだが、獣王竜を斃したことで得た資金と素材が今のミアルを支える装備の元手になっている。深層でも通用できる程の力を身に着けたのは装備だけでなく『霆凰』の疑似精霊の影響で光属性が使えるようになり、精霊形態を抜きにしても全体的に魔法運用能力が上がったことも大きい。ミアルは改めて戦力の強化に梓美が貢献している部分が多いことを思い知った。
「梓美一人でこれなんだから異世界人がいっぱいいる聖王国ではどんなことになってるのか……って思うけど、フィリスの所感だと、ねえ?」
「特効があるとはいえ二人がかりでフィリスに手も足もでないって……」
フィリスの岸田と須藤を歯牙にもかけないレベルで圧倒したという話を聞いた梓美には信じられなかった。身体スペックはミスリル装備でも今の装備のフィリスに並んでいるのは確かに脅威だが、話を聞いた限りでは例え装備を合金にした希少金属を使ったとしても一対一では不完全な『焔鯢竜』の精霊形態フィリス以下、良くて同等程度だろう。自分のスキルや魔法の資質を考えるとその程度には思えないのだ。
「大体、聖王国にとっては虎の子なんでしょ?予算もふんだんに使って装備も整えさせるはずだし、たかが純粋なミスリル装備なはずは無いと思うんだけど……」
「向こうに希少金属を合金にする技術なんてあるのかな?ただでさえ地と闇を組み合わせた重力系の魔法と、それとは別に金属の錬成に長けた術師が必要で、さらに配合を間違えたら元の素材より質が落ちちゃうんだからすぐに諦める人の方が多いと思うよ?」
仮に無重力下での合金を思いついても聖光神教では忌避される闇属性魔法が必要な上に、求める性質に応じて適切な配合比率を導き出せなければ合成前の方が性質のいい金属である場合が多い。その比率を導き出すには希少鉱石を代償としたかなりの試行錯誤が必要な為、技術として確立できたかも怪しい。
実際、ミアル達の装備の為の合金もトライ&エラーの積み重ねによる物で、親方の経験から来る勘で大まかな比率の予想はできていたものの、もし親方の奥さんが金属の分離させる魔法が使えなければ損失額は装備の制作代の数十倍にもなっただろうし、そもそも実験すらできなかっただろう。しかしそのレシピは値千金、奥さんの魔力回復薬も梓美が保管していた獣王竜の血を用いた最高級品なため、分離に関する費用は請求されなかったのが幸いだった。
「合金にしなくても複数の希少金属を使う術はあるよ。例えばこのガントレット。これってほぼ純ミスリルでしょ?」
そう言って梓美が取り出したのは須藤が装備していた手甲。フィリスの蒼炎に包まれた際に捨てられたのを回収しておいた物だ。地属性魔法のコントロールを助ける機能があり、適性と魔力はあっても操作技術が無い須藤が地属性魔法を使いこなしていたのはこれによるところが殆どで、もはや地属性用に機能が限定された手甲型の杖と言っても過言ではない。ミスリル製なので鋼より頑丈で確かに武器としても優秀なのだが、梓美からすれば物足りない物がある。
「これさ、全部ミスリルである必要は無いよね?拳や装甲の表面の部分はより頑丈なアダマンタイトを使えば打撃力も防御力も増す。杖としての機能を優先して魔力の流れが鈍って魔法の射出を阻害するのを避けるんだったらヒヒイロカネは魔力は良く通すし軽いから機能を維持したまま軽量化を図れると思うんだけど。まあ、素人の感想だから本職に聞いたら違う意見が飛んでくるかもだけど」
「そっか、合金にしなくてもパーツごとに素材を最適な物に変えれば性能はもっと上がるんだ。鋼の装備をミスリルでコーティングすることもあるし、ボクのバザラゲートの刃もアダマンタイトにして強度と攻撃力上げてるもんね」
「そういうこと。全部ミスリルでも十分高性能だし、材料も希少金属は殆どミスリル単一だろうから生産はしやすいだろうけどね。まだまだ上は目指せるって話」
ミスリルの装備が主流なのは他の希少鉱石より魔力媒体としての相性が良く、それでいて鋼より優れた金属であるため、同一規格で複数作るなら最適だからだ。、単純に武器としての性能を重視するならオリハルコンやアダマンタイトの方が優れている場合もある。それらを組み合わせることでほぼオーダーメイドになるがより高性能な武器を製作することが可能だと梓美は考えている。
「……というかこれがあってそこそこの技量しか出せないってなんなの?」
「梓美が使ってみた方が使いこなせてたって話だもんね……」
この手甲だが、梓美も帰り道に使ってみた結果、地属性に適性が無いにも関わらずフィリスの見立てでは須藤以上に地属性魔法を使いこなせたのだ。土壁を出すと同時に自分の周囲は陥没させて身を隠したり、"重硬化"で質量を増した礫を飛ばす、足場を操作して相手の態勢を崩す、そのまま足を埋めた地面を飛ばした礫を媒体にして固めるといった相手にすると面倒くさい小技が増えた。
襲い掛かった為に練習台にされたダイアティグリスが土壁を突破したと思ったら地下に避難した梓美を飛び越えその先の落とし穴に落ち、脱出しようと跳躍の瞬間に足場を持ちあげられ、さらに反重力状態にされた勢いで空に吹っ飛んでいき最後には大型のワイバーンにキャッチされ連れ去られるという見事なピタゴラ状況にフィリスとミアルは頬を引きつらせて乾いた笑いを浮かべていたのは半日前のことだ。
「あれもだけど何より装備前に徹底的に手甲を"浄化"しまくってたのが何気に酷いと思う」
「だってあれがずっと身に着けてただろうし臭いが染みついたのを装備するのは普通に嫌だし」
梓美は手甲を装備する前に"浄化"で徹底的に洗浄していた。具体的には地属性で付着した成分を徹底分解、水属性で洗浄、火属性で乾熱滅菌の如く消毒してさらにもう一度水属性の洗浄と親の仇の様に"浄化"してやっと装備したのだった。理由は一つ。『汗が染みて臭そう。匂いが付くとか論外』とのこと。特に獣人族の様に匂いの敏感な種族がいる以上、ミアルやフィリス以外の他者の臭いが付着することはできるだけ避けたい梓美だった。
「ミアルだって右腕だけとはいえ私に男の人の臭いが付いてるって思われるのは嫌でしょ?」
「そう言われたら嫌だけど、既にフィリスの匂いもベッタリ付いてるよね?ボクが鼻も良かったら絶対心穏やかじゃないと思うよ?……いや、既に魔力も混ざってるし同じかな。……ちょっとボクのも染みつけないといけないかなぁ……?」
「え?ミアル?ちょっと!?」
半目になったミアルは梓美の肩を軽く押して仰向けにベッドに倒すとそのまま覆いかぶさる。梓美の目には妖艶に目を細めた捕食者モードのミアルの顔が間近に迫っている。ミアルの左手が梓美の頬を撫で、反対側の左耳に口元を寄せるとビクッ、と梓美の体が震えるのを感じる。そのまま声に魔力を乗せて声だけで梓美が魔力を感じられるようにしてから囁きかける。
「……ねえ、他に恋人できちゃった梓美にはやっぱりお仕置きしなきゃいけないよね?」
「ひゃっ!?ミアル!?」
囁きかけながら左手は梓美の身体を首から胸、腰と流れる様に撫でていき、耳にも舌を這わせると梓美が体を捩らせて逃げようとするが、上に覆いかぶさったミアルの体で逃げることもできずにただ悶えるしかない。
「覚悟してよ梓美?今夜は徹底的にボクのものだってこと、匂いも魔力も内も外もとことん染みつけて思い知らせちゃうんだから。もう我慢する気なんて、無いから」
「え?あ、あ……!」
ミアルが言わんとしていることを理解して梓美の顔が朱に染まっていく。このままではマズイ、本当に『食べられる』と梓美は身体に力を入れてミアルを一度どかそうとするがそうはさせじとミアルの指が肌を撫でるたびにその力は霧散していく。
「ミアル……っそれは駄目だって……っ」
「フィリスがいいことを教えてくれたんだ。闇属性魔法を使えば一番の懸念が解消されるんじゃないかって。ねえ、本当は梓美も気づいてたんでしょ?」
「うっ!?」
「それに、今後フィリスと一緒の夜もあるよね。その時にもしかしたらもあるでしょ?ボク、先を越されるのは我慢できないよ。だから、ね?」
「……あぅ…」
お互いに具体的なことは明言しないが、何のことを話しているかは互いに理解している。梓美も"解析"と闇属性の併用で一線を越えても大事にはならない算段は立てていたのだが、味を占めるとどうなるかわかったものではなかった為、あえて黙っていた。その最後の言い訳も塞がれ、さらにミアルもフィリスに先を越されないかと不安を抱えていることを知ってしまっては、もはや梓美には受け止めるしか無かった。観念した梓美の身体から力が抜ける。実は梓美もその大事を防ぐ手段を用意してからはずっとミアルが一線を越えようとしてくることを期待していたのだ。
「二人でのめり込みそうになったとしても今はフィリスが止めてくれるだろうしこれで何一つ心配事は無くなったね?」
「……ズルいよぅ……」
「そんなこと言って梓美も嬉しそうだよ?」
「んんっ……そんなこと……」
実際フィリスがいるならあまりに度が過ぎれば止めるし完全に蚊帳の外にするわけにもいかないので二人だけでのめり込む事態にはならないだろう。口では抗議する梓美も目は期待するように蕩けていて、口角もわずかに上がっていては説得力の欠片も無い。ミアルが梓美の衣類の中に手を滑り込ませてもくすぐったそうにするだけで一切嫌がるそぶりも見せず、それどころか嬉しそうだ。そんな梓美にミアルが互いの唇を触れあわせる程度のキスを落とすと舌なめずりをした後ふわりと微笑む。
「二人一緒の初めてだけど、できるだけ優しくするからね?」
「ああもう、こうなったらいっそ遠慮しなくていいよ。……でも、一つだけお願いしていいなら」
「していいなら?」
「……いっぱい気持ち良くさせてくれたら、嬉しい。どうせなら……朝まで、楽しんじゃお?」
これからおいしくいただかれるにもかかわらず、嬉しそうに頬を染めてはにかむ梓美。そんな表情でそんな言葉を言われてしまえば、梓美が大好きで仕方ないミアルの理性など容易く吹き飛んでしまうのだった。
何があったか具体的に書くとノクターン一直線。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『もっとイチャイチャを!』
『というかとっとと三人でイチャイチャさせるんだよ!』
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