33話~魔の森を出て~
「それでは皆様、お世話になりましたわ」
「ううん、こっちこそ手合わせしてくれたり色々教えて貰えて助かったよ」
夜が明け、一晩身体を休めたことで完全に回復したヴァイラナは一行と別れることになった。元々ヴァイラナとは一時的な同行であり、今回の件の一連の出来事は一族でも共有する必要もあり、回復した今一族の暮らす集落に帰ることにしたのだ。
「また会える日を楽しみにしていますわ。魔の森は広いので互いの探知圏内に入れる可能性が低いのが問題なのですが」
「それじゃ、深層近くに来た時はボクが定期的に雷打ち上げるってのはどうかな?遠くからわかるし目印に……いや、他の魔獣も呼んじゃうか」
「余計な戦闘が増えるし、その近辺にいるとも限らないしな。さすがに無暗にリスクを招くのは駄目だ」
今回の遭遇も偶然近くを通りかかったヴァイラナがミアルの存在に気付いてコンタクトをとったからこそだ。同じようなことが起きるにはこの広い魔の森で互いの接近にどちらかが気付けないといけない。ミアル達も魔の森に毎回どの領域まで踏み込むかも定かではなく、ヴァイラナも魔の森のどのあたりを回遊しているかは不定期なため、今回みたいに遭遇するのは難しい。
「どうしてもわたくしからお会いしたいときはアダマートの冒険者ギルドにでも伺いますわ。他の場所で活動していても連絡くらいはできそうですし」
「いや待て。妖精族の姫が乗り込んで来たって知ったらギルド騒然としそうなんだが?」
怒らせれば深層の魔獣並みの脅威と知られている妖精族、それも強力な資質を持って生まれた姫であるヴァイラナがギルドに堂々と入ってきた時のことを考えると、そろそろギルドマスター並びに職員一同の胃が心配になるフィリスだった。
「極力妖精族であることは伏せますわ。魔力翅を隠せば珍しい髪と瞳の色のエルフで押し通れますし」
「黒い髪や紅い瞳のエルフって見たことないけど大丈夫かなぁ……」
冒険者の間では間近で見た者はほとんどいないが目撃情報はいくつかあるためヴァイラナの特徴はそれなりに広まっている。一般的なエルフには見られない特徴なのでいくら妖精族の特徴である魔力翅を隠していても早々にバレるのではないかと不安になる一行だった。
「ミアル、色々大変だとは思いますけれど、頑張るんですのよ?」
「ありがとう。でもねーさんも気を付けてね?あちこちで恨み買ってるんでしょ?聖王国とか」
「売られた喧嘩を買ったまでですわ」
ふんす、とふんぞり返る姉に対して苦笑いするミアル。梓美によってこの世界の非常識に足を踏み込んでるばかりか同じく梓美の恋人となったフィリスとの兼ね合いと確かにミアルも色々大変なことには違いない。ヴァイラナは妹を抱き寄せると優しくその頭を撫でる。
「絶対また会いましょうね。それまで元気でいてくださいましね?」
「……うん、ねーさんも」
「アズミさんも、ミアルを悲しませたら承知しませんわよ?もしそうなったら紫電が降り注ぐと思ってくださいましね?」
「当然だけど肝に銘じる」
「でも泣かせることは内容次第ですわよ?嬉し泣きとかはむしろジャンジャンと、あと別の意味で啼かせるのも……」
「ちょっとねーさん!?」
嬉し恥ずかし方面ならむしろなかせてしまえというゴーサインに赤面して抗議するミアルだったが、ヴァイラナはするりと梓美から離れると魔力翅を羽ばたかせて宙を舞い、三人に向き直る。
「それでは皆様、ごきげんよう。短くて時に大変なひと時ではありましたがとても楽しかったですわ。妹達の旅路にどうか幸多からんことを」
そう言って一礼すると身を翻して魔の森の木々を縫うように飛び去って行き、あっという間に姿が見えなくなる。その姿を見送った三人は顔を見合わせ、ため息交じりに思い思いに笑みを浮かべる。
「……あたしらも帰るか」
「「うん!!」」
まだここは魔の森中層。しかも隕石の影響で深層の魔獣も進出している危険地帯に変わりはない。三人は気を引き締めて魔の森の外へ向けて歩みを再開させるのだった。
◇
「はい、調査を終えたことはアダマート支部にお伝えしますね。報告や納品はそちらでお願いします」
翌日、三人はアダマートとは離れた街で依頼の調査を終えた報告を冒険者ギルドにしていた。行きの中層を回り込んで深層に入った時とは違い、帰りは一直線に中層、外縁部を抜けて街道へ出て、近くの街でゆっくり休息をとることにしたのだ。
冒険者ギルドではギルド側から発注された依頼の清算は基本的に受注したギルド支部、あるいは依頼の活動先の支部で行われるが、依頼の完了を受注した支部への連絡は請け負ってくれる。
「フィリス、ここでいくつか持ち物整理していい?」
「ん?ああ、採集した物か。あたしらで使わない物は売ってもいいかもな」
「素材の売却ですね?鑑定も承りますのでこちらのカウンターにどうぞ」
「ではお願いします」
フィリスに確認を取った梓美はカモフラージュ用のポーチから取り出す振りをして深層で採集した素材をカウンターに乗せる。フィリスもてっきり売りに出すのは獣王竜の毛皮があるので特に使い道の無いダイアティグリスの毛皮だと考えていたのだが、ゴトリと音を立てて乗せられたのは長さ1mを超える竜の角。クレーター周辺で梓美が集めた中でドラゴン素材の中で最も数が多かった素材で、何気に一個でもそこそこスペースを取っていたので数もあることから比較的状態が良くない一つくらいは売ってしまおうと梓美は思っていた。
しかし、いくら状態が悪くとも本来超希少な素材であるドラゴンの角をそんな気軽に売りに出すとは誰が予想できようか。数のあるドラゴン素材、特に状態が良くなさそうな物はいくつか売るつもりという話はあらかじめ聞いていたとはいえ、フィリスとミアルは受付嬢の心境を察してつい天を仰いでしまう。
これがアダマートの冒険者ギルド、特にもはやミアル達に対して一種の悟りを開いてそうなアンジェラさんなら間違いなく平然と鑑定に入るのだが、彼女達に一切免疫の無い受付嬢は明らかに尋常ではない雰囲気を放つドラゴンの角にピシリと音を立てたかの様に硬直してしまう。
「あの……すみません、こちらの素材は?」
「ドラゴンの角です。色は茶色で、翼がもう一対の腕になってたやつです」
「ああ、岩とかぶん投げてきた奴か」
「それは……こちらの『豪腕竜』でしょうか……?」
受付嬢が恐る恐る取り出して開いて見せる本の頁には、翼膜が退化した代わりに翼が腕のように発達しているドラゴン『豪腕竜』の図があった。『豪腕竜』はその名の通り翼腕が特徴的なドラゴンで直接翼椀を叩きつける以外にも周囲の物を掴んで武器にすると言われている。飛行ができない為幼体時は天敵が多いからか多産なため、若齢含めれば比較的個体数が多いドラゴンでもある。過去の目撃例では聖光神教が獣王竜を伴い進攻しようとした時に襲撃した一種であるらしく、成体がその翼腕で獣王竜の首を絞め殺し、さらそのままへし折ってしまったとか。この一件は聖光神教にとっては強烈な事件だったらしく、時折宗教画に四本腕の悪魔の様な怪物が描かれるらしい。
「はい、それですね。あと背中の棘もありますのでこちらも鑑定してもらっていいですか?」
梓美がさらに首から尾にかけて背中の中心に沿って生えていた棘を数本取り出す。カウンターに追加されたそれは黒曜石のように光を反射して独特な艶を放っており、それを見た受付嬢の顔はみるみるうちに生気を失っていく。
「白じゃなくて黒……成体……!?……きゅう」
豪腕竜は成体になると棘の色が白から艶のある黒へと変わることが知られており、ドラゴンは若齢個体と成体では強さに大きな開きがある。もしこれが本物ならば三人は他のドラゴンすら腕力で屠る豪腕竜と戦って角と棘を勝ち取っているのだ。そんな目の前の現実についていけず精神的に限界を迎えた受付嬢はついに白目をむいて仰向けに倒れる。突然受付嬢が気絶、さらに泡も吹いていれば当然のごとくギルドは騒然となる。大至急この支部のギルドマスターが呼び出される中、目の前で受付嬢に気絶され目を白黒させる梓美にフィリスが手で顔を覆いながらその肩を叩く。
「梓美……もう少し手心をだな……」
「えっと、これ、まだ一体分なんだけど……」
「その一体は普通は人の手に負えない一体なんだよね。ボクも忘れかけてたけど」
「これは他の素材も売る余裕無いな……アダマートで換金するぞ」
ここでさらに残りのドラゴンや深層の素材を出せばギルドはさらなる混乱に見舞われる可能性が高く、これ以上の換金は無理だと一行は判断した。残りの換金予定の素材はアダマートで売却することが三人の中で決まったが、積み上がる深層素材やドラゴンの素材にアダマート支部の皆さんが悲鳴を上げるのはもう少し後の話である。
その後、この事態の原因の追及と出された豪腕竜素材の真贋の確認に時間がかかった為、結局三人が換金を終えてギルドを出られたのはすっかり日が暮れてからだった。
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