32話~東谷梓美は共有物(こいびと)である~
サブタイの元ネタは某アニメより。
「まさか本当に美味しいとは思わなかった」
「梓美の食べてた蛹の方が美味しかったなあ。幼虫は中でジャリジャリしたのがあって避けるの面倒だったよ」
「下処理すればよかった。ごめん」
道中で発見できた希少な深層の特産品を採集しつつ、一行は日が暮れるまでには昨日ミアル達が手合わせした更地まで戻ることができた。そして夕食は予定通り要塞蜂の蜂の子や蛹をそのまま炒めて塩で味付けしたシンプルな物となった。
最初はあんまりなヴィジュアルにヴァイラナ以外が引き気味だったのだが一口齧るとナッツ類の様な濃厚な味と甲殻類の様な風味が混ざったなかなかの美味に三人は目を見開き、バクバクとかじりついていた。しばらく食べたところで一口分け合ったりした結果、アズミとヴァイラナが選んだ蛹の方が味に癖が少なく高評価で、幼虫の方を選んだミアルとフィリスは次があったら蛹を選ぶと決めていた。
なお、幼虫で特に不評だったのが『ワタ』の存在だった。要塞蜂は地球のスズメバチに似た姿をしているのだが、スズメバチの幼虫は幼虫期間に一度しか排泄をせず、蛹になる直前がその時である。要塞蜂も同様で、幼虫はそのまま調理すると生まれてからずっと溜まっている排泄物が詰まった『ワタ』が食感の邪魔をするため避ける必要があり食べにくかったのだ。最終的には二人ともナイフで切れ目を入れてワタを丸ごと取り除いていたのだが、思いのほかワタが大きく、可食部がかなり減っていた。幼虫に比べて蛹の方が体積が少なく見える理由はこのワタの体積分なのだろう。
ともあれ、夕食を終えた後、最初に梓美とヴァイラナが夜の番をしつつ、以前ヴァイラナが贈った蜂蜜酒のレシピや精霊の骸の利用法等、魔の森の希少素材を使った物作りトークにミアルがヴァイラナと交代するまで華を咲かせていた。
「義姉様が色んな知識持ってて助かったよ。要塞蜂の蜂蜜で蜂蜜酒も作ってみたいし、精霊の骸も色々使い道聞いたから試してみたいな。もちろん隕石も使いたいし」
「やっぱり梓美の装備の新調は隕石使うの?」
「うん、その予定。『天星の戦乙女』は流星に関り深いから装備も隕石内の鉱物使うのが相性良さそうだしね」
「そっか、梓美の疑似精霊……」
梓美の精霊形態の話になり、ミアルは表情を曇らせる。
「梓美、気絶している間に診たんだけど、梓美の魔力路にいくらかダメージが入ってた。多分精霊形態の反動だと思う。治せるレベルだったけど、より特効が入る相手だったらもっと力を出せていただろうから、この程度じゃ済まなかったと思う」
ミアルの言葉に目を見開く梓美。ミアルやヴァイラナの見解では同調によって妖精族の魔力の影響は受けている為、疑似精霊の付与そのものは問題無いものの、妖精族の血を引いてるわけではないので、精霊形態の能力行使の出力に体が耐えられなかったのではないかとのこと。ほぼ慣らし運転に近い力の振るい方だったからこそ簡単に治せる程度のダメージだったが、本領を発揮する場であるクラスメイト等の異世界人相手の戦闘となっていれば反動は深刻な物になっていただろう。
「つまり、何らかの対策を取らないとこの先精霊形態になるのは危険、と」
「うん。魔力路へのダメージが深すぎると魔力運用への支障が一生治らない場合もあるんだから絶対だよ?」
「はぁーい。魔法が使えなくなるのは嫌だし、色々方法は考えるよ」
梓美の当面の課題は精霊形態時の反動軽減方法となった。折角の対異世界人用の能力にも関わらず、うかつに使うと魔力路にダメージが入り、魔法運用に支障をきたす程の後遺症リスクを負うのでは話にならない。
「それにしても梓美にもついに疑似精霊かぁ。……本当に人辞めちゃってよかったの?」
「人を辞めでもしないとミアルと同じ時間を生きられないでしょ?私だけミアルや子供置いてさっさと老いて死ぬなんてやだもん」
梓美は人の枠を超えることになろうとも自身への疑似精霊を構成する魔法術式群を付与することに一切の迷いは無かった。これが物語なら何かしら葛藤のようなものがあるのだろうなと梓美は自嘲するが、元々の目的がミアルとの寿命の違いの克服だったこと、何より先にミアル達に魔法術式群を施した以上、自分がしないつもりは無かったのだ。
"降神霊機構・投影"による疑似精霊の付与は身体の一定の割合を精霊や妖精族に見られる魔力体への変化を可能にする。これを利用して身体を魔力に変換、再構築させて身体を若い状態に保てるのだ。これは既に生理現象の一つに組み込まれており、日常的に魔力を消費するが、睡眠時等の身体を休めている時に一度に魔力体にできる割合に応じたペースで身体の再構築を行うようになっている。フィリスの『焔鯢竜』の再生能力はこの機能を基にしたものだが、元々はニオクス村にいた頃に夜中に寝ているミアルを試しに"解析"で視続けていたら判明した現象で、エルフの不老長寿の秘密もそこにあるのではないかと梓美は考えた。エルフ族、それも妖精族のとの混血であるミアルには元々備わっている身体機能な為変化は無いが、梓美とフィリスには効果大で、ミアルと同じ時間を生きることも可能になった。もっともまだ数年は身体の成長が優先され、目に見えた効果が出るのはさらにずっと後になる。
「でもさ、正直どれが効果発揮してるのかわかんないよね?アムブロシアに獣王竜の血肉も食べたり飲んだりしてるんだよ梓美。アムブロシアはもちろん竜の血肉も不老長寿の効能があるって言われてるし」
「言われてみればそうだったね。まあ種族内の範疇は超えないと思うし後年の誤魔化しの種に使えると思えばいいや」
「普通に考えてとんでもない贅沢してるよねボク達。不老以前に別の方面でトラブル呼びそうだよ」
ククラプターにはじまり要塞蜂の蜂蜜酒にアムブロシア、獣王竜の肉を使った料理と文面だけで見れば貴族の晩餐会にも滅多に出そうにない品々ばかりだ。獣王竜の肉は副作用の危険と聖光神教で崇められている存在であることから食べたいと言う者は限られるだろうが、こちらもトラブルの種には違いない。そして先程も深層でのみ採集できる希少な果実やキノコ等の食材をいくつか採集しており、有毒性等は"解析"で確認済みなのでキノコも安心して採集できる。梓美は食材系の素材で珍しい物、美味な物は自分で調理したがるのでいつか食卓に並ぶことだろう。
「まったく、どこのお貴族様なのかな?相当お金積まないと買えそうにない食材の料理食べて、ちょっとしたお宝になりそうな武器や装備もあって、さらには可愛い女の子二人も侍らせるなんて。梓美本当に女の子?」
「女の子だよ!?夜に何度も何度も見たり触ったりしてるくせに!」
「でも今の、字面だけならどこかの坊ちゃんみたいな感じだよ?特に女の子二人侍らせてるとか、普通の女の子の所業じゃないよ?」
「異世界人でしかも疑似的とはいえ精霊を再現した魔法術式群仕込んだ時点で普通じゃないけどね。あと、やっぱりフィリスのこと根に持ってるよね?」
『女の子二人侍らせてる』の部分をやけに強調していたミアルは半目で唇を尖らせている。なんとなくミアルの要求を察し、梓美は苦笑いして軽く唇同士を触れ合わせる。が、即座にミアルに両手で梓美の頭を押さえられ固定され、口内に舌を差し込まれる。
「むぐっ!?」
「んっ、あむっ、ちゅ……」
ミアルが梓美の口内をひとしきり堪能すると互いの舌の間に糸を引かせながら唇を離すと、梓美はとろんとした目で少し脱力してしまう。
「根に持つに決まってるよ。好きな人が他の人とも恋人同士になるんだもん。梓美がフィリスとイチャイチャする度にボク『いいなーいいなー』って思い続けるんだよ?」
「……ごめん」
弁明のしようもない梓美にはただミアルの気持ちを受け止め、謝ることしかできない。そんな梓美にミアルは肩を寄せる。
「でも、フィリスもきっとボク達が仲良くしてた時に内心同じように思ってたんだよね。そう考えたらフィリスも結構きつかったんだなあって思っちゃって。ずっとあんなのを抱えてたとは思わなかったよ」
「あんな?……あ、フィリスの魔力?」
「あれが男の人だったらぶっ飛ばしてたよ?まあ、フィリスはどっちかって言うと被害者みたいな感じだけどさ。女の子同士だったらまだ許容はできるよ」
フィリスと同調した際に取り込んだ魔力にあてられてミアルは梓美への情欲を暴走させてしまった。直接本人からあてられたわけではないのにあの有様だ。そこまで魔力に影響を及ぼす程の感情を持っているのが男性だったら例え梓美が原因だとしてもミアルはさらに増して穏やかではいられなかっただろう。そこで、梓美の脳内に疑問が浮かぶ。
「そういえばさっきも『フィリスが女だからまだ許せるけど』みたいなこと言ってたけど女だったら問題なかったの?どっちにしろそういう欲求を持ってることには変わりないし、《精霊術》で性別はあまり関係しなくなってる気がするけど?」
「だって、男だったらどっちかが譲らなきゃいけないわけじゃん」
「譲る?何を?」
「……梓美が誰の赤ちゃん産むか。子供作るにしたって女だったら梓美が身籠る必要性はないでしょ?」
梓美がミアルの言葉の意味を理解するのに数秒。そしてぼっ!と梓美の顔が赤くなる。普段はこの手の話は梓美から降ることが多いので不意打ちだった。ミアルも際どい内容を自分から口にしたので頬に朱が差している。
「な、なっ!?ななななななななな………!?」
「《精霊術》のおかげで性別の問題は気にしなくていいけど、そこは譲る気ないから。さっきフィリスとも話し合ったよ」
「また私を差し置いて話が進んでる!?」
《精霊術》によって一部の身体構造を一時的にいじれば同性間で子を設けることは可能だが、どっちが身籠るか、また梓美の場合どっちの子を身籠るかはいずれ浮上する問題なのかは確かだ。そこでミアルは早速テントでの休息中に将来の家族計画についてフィリスと話し合いをした。ミアルは恥も厭わず自分の子を梓美が身籠ることだけは譲れないと主張したが話がぶっ飛びすぎていたので恋人一日目のフィリスは顔を赤くし「勝手にしろぉー!」と終始涙目だった。
「相手が男だったら相手は女なのに自分が女の体で身籠り続けるなんて普通はしないよ?そうなったらボクが梓美で独占できるところある?」
「えっと……私の子を妊娠する、とか?」
「他に女の子が増えた場合は?きっとフィリスも梓美との赤ちゃん欲しがるよ?」
「……ごめん、私も思い浮かばない」
フィリスとの仲を許したとはいえ、元々独占欲が強いミアルは最初に恋人関係だった身であることから何か一つでも梓美個人について独占できるものが欲しかった。心、つまりミアルが本命、というのはフィリスに対して不誠実でミアルも「恋人にするならどっちも大事にしろ」と咎める。既にフィリスとも互いに魔力同調をしている以上、ミアルが完全に独占できることは限られている。万一に今後も梓美を慕う者が増えたとしてその中でミアルが思いつけたのが『自分の子を産んでもらう』ことだったのだ。
「ところでなんか私が共有されてるみたいな感じなんだけど」
「だってボクは梓美のモノで、梓美もボクのモノでしょ?あまり人をモノ扱いする言い方は好きじゃないけど、そういう感じだよね?」
「うん、恋人同士だし、将来このままその先に進むよね」
「で、フィリスも梓美のモノになっちゃったでしょ?つまり?」
「私はフィリスのモノでもあると。本当だ、共有物になっちゃった」
気が付けば梓美はミアルとフィリスの共有物だった。気分は女の子二人に両腕を掴まれているぬいぐるみ。二人が仲良く共有できなければ引っ張り合いで腕はもげてしまうだろう。幼女姿のミアルとフィリスの想像図が脳裏に浮かび、その可愛さに悶えそうになるがそれはそれ、余程問題が無い限りは二人の決定に口は挟めないと梓美は悟り遠い目になる。
「ハーレムの中心って大変なんだね」
「他人事だと思って。でも普段の冒険者活動は今まで通りだよ。基本年長で経験のあるフィリスがリーダーで、パーティーとしてどうするかを優先して互いに意見し合える間柄。そこは梓美も対等、"奈落"での運搬もあるからボクより優先されることもあるかも。まあ間違いなく料理とか物作ったりとかは知識や発想のある梓美の意見が優先されるよ」
「……ということは夜関係はミアルがヒエラルキートップかな?……やっぱりミアルのえっち」
「やめて!?えっちじゃないから!」
夜のトップとか誤解を招きかねない。梓美が色々挑発するのが悪いからで決して自分はえっちじゃないと信じているミアルとしては承服しかねるところだ。
「……まあボクが色々取り決める形にはなっちゃったけどさ、そこは第一恋人の特権だよ……だから帰って最初の夜はボクに頂戴ね?」
急に熱が籠ったミアルの声に梓美が目を見開いて振り向くと、瞳に妖艶さを浮かべたミアルが微笑んでおり、梓美の背筋をゾクゾクとした感覚がこみ上げる。この時のミアルは捕食者なのだ。そのままミアルは蛇に睨まれた蛙のように動けない梓美の耳元に口を寄せる。吐息が耳にかかって梓美の体がビクッ、と震える。
「今はしないけど、楽しみにしててね?寝かせるつもりなんて、ないから」
「え?あ……うん……」
このままいただかれてしまうのかと思ったがまさかのお預けで、梓美の口から少し切なげな声が漏れる。今は夜の番なので当然と言えば当然なのだが、雰囲気もあり身体が条件反射で期待してしまっただけに少し疼いてしまい、少しフィリスの気持ちがわかってしまう。同時に、共有物だとか、そういう話を抜きにしてもミアルにはこういうところでは逆らえない、もう屈服しちゃってると梓美は理解してしまった。
が、正気に戻った梓美がミアルへ物申す為に振り向くと目の前の光景に目を瞬かせる。なぜならばミアルはその場でしゃがみ込んで頭を抱えていたからだ。
「ってちがーう!!もっと、こう、普通の恋人らしくしようとしたのに!なんでドロドロな感じになっちゃうのかな!?」
ミアルとしてはもう少しプラトニックな雰囲気な会話がしたかったらしいのだが独占欲が暴走、かなり際どい感じの会話になってしまい激しく落ち込んでいる。目指すところはほんのり甘めな感じだったのに凝縮し過ぎて甘さどころか別の領域に届きそうな感じである。
実はミアルは先程いじけてたフィリスの様子を見て何か梓美との間に甘酸っぱい展開があったと察し対抗意識が芽生えていたのだが、いつもがいつもなだけに上手くいかず、このようになってしまったのだ。
そんなミアルに梓美は苦笑いしながら、同時にとても愛おし気にぽん、とミアルの頭に手を置いてその頭を優しく撫でると、若干涙目で梓美をミアルが見上げる。
「大丈夫。ミアルがそうやって私を欲しがってくれるのいつもすごい嬉しいし、私の気持ちもフィリスのことも汲んでくれたミアルのやさしいところが私は大好き。これからミアルと永くいられるだろうし、ゆっくり普通の恋人らしいイチャイチャもしようね。差し当たっては帰ったらデートかな?」
「うぅ~……そういうのは今はやめてぇ~……帰ったらって言ったばかりなのに我慢できなくなっちゃうよ~あとフィリスが置いてけぼりになってるよ~」
両手で顔を覆ってぶんぶん顔を横に振るミアル。それでも手の隙間から覗く口元はとても幸せそうに緩んでいた。きっと精霊形態だったらこみ上げる感情にぴこぴこと羽角が動いていたことは間違いない。その後、フィリスが交代の為にテントから出てくるまで二人は肩を寄せ合いながら他愛も無い話題も交えつつ語り合い、肝心の夜の番を忘れてないかとフィリスに疑われたのだった。
蜂の子のワタですが、エビの背ワタのような物が詰まっていると思っていただければわかりやすいかと思います。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『もっとイチャイチャを!』
『というかとっとと三人でイチャイチャさせるんだよ!』
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