30話~ミアルの提案~
「はあああああああ!?」
「ええええええええ!?」
唐突な爆弾発言にフィリスも梓美も驚愕する。いつも独占欲が強くフィリスが自分の気持ちを自覚する前から牽制していたミアルの口から出たとは思えない言葉だった。
「そりゃボクは梓美を独占したいよ。でもフィリスの気持ちはわかるし、同じ立場だったら耐えられないのも痛いほどわかる。譲りたくないけど。けどフィリスがいなくなったところでボク一人じゃまた同じようなことが起きそうだし、その度に今のフィリスみたいなことになるなら、いっそこれ以上増えない様に二人で捕まえておくのがいいかなって。梓美が『もうこれ以上増えるのは無理!』って危機感持つくらい二人で色々迫るくらいしないとまたやらかすだろうし、そのためにもフィリスに協力してほしい。不本意だけど」
「本音が駄々洩れだぞ」
「だって梓美と二人きりの時間減るの嫌なのは本当だもん。でも梓美はフィリスを放っておけないだろうし、このままフィリスがいなくなったら気にかけちゃうに決まってるもん。梓美への感情はともかくフィリスがいい人なのもわかってるし、だったら一緒にいた方がいいのはボクにもわかるよ」
それでも不満を隠せないミアル。本当は梓美を独占したいのだが、梓美がフィリスを気にかけ続けることと、フィリスが傷心のまま独りになってしまうことの両方と比べればギリギリで自分のワガママの天秤が浮いてしまうのだ。それならいっそ気心の知れたフィリスと常に二人で梓美が他の人にやらかさないよう囲った方が余計なヤキモキをしないで済む。
「……それに最近、自分でも梓美に依存しすぎているのはわかるし、梓美だってそうだよ。これ、あまり良くない状態なのはわかってるし、フィリスが時折間に挟まってくれればいつまでも梓美とボクだけ、ってのからは改善できるかな、って」
現在、ミアルと梓美も互いに依存しすぎている。元々ミアルは村の外を知りたいがために冒険者になったのだが、ここ最近は特に梓美にベッタリで初志を忘れそうになっていた。このままだと二人きりの世界に閉じこもりきりになってしまい、極論周りを一切顧みなくなりそうな懸念は一応あるのだ。
「だからフィリスには一緒にいて欲しいんだ。ボク達が自分達の世界に引きこもらないために、あと、梓美がまた誰かを巻き込んで誑し込んだりしないように」
「……梓美との時間が減るんだぞ?」
「むしろ最近が一緒の時間が長すぎたって考えることにする。フィリスに取られそうなのが嫌だからってのもあったからよりベッタリしたけどフィリスはその気はないんでしょ?」
「そこまで図々しいつもりはないけどな。でもたまには二人きりになりたい」
「……ボクも我慢するよ。お互いに我慢することあるだろうけどいい?」
「……本当に梓美と恋人らしいことしていいのか?」
「フィリスが男だったら絶対に許さなかったよ?今でも複雑な心境だけど。ボクも一緒だったり、ボクだけが、って時もあるよ。細かいことはおいおい決めるとして、とりあえずアダマートに戻って最初の夜は二人きりにさせて」
「……まあ、いいけど、その次はあたしと二人きりにさせろよ」
「じゃあその次は三人でしちゃう?二人分の愛とか想いとか色々どれだけのものか早速梓美にわからせちゃおっか」
「……ちょっと考えさせてくれ」
「いつの間にか私の二股が確定したんだけど!?」
あれよあれよとフィリス受け入れ態勢が進む現状に一人中心人物のはずなのに蚊帳の外な梓美。どうやら肯定にしろ否定にしろ梓美の意志は反映されないらしい。フィリスの気持ちを考えればミアルの提案は悪くはなく、ミアルが許容するのなら否と言うつもりもないのだが、自分を独占したがってたミアルに申し訳なさと、どちらかというと姉貴分として見ていたフィリスと急に恋人関係になる戸惑いでとりあえずの着地点が見つかった安堵も混ざり複雑な心境だ。そんな梓美に立ち上がったミアルが近づき、そのまま背後に回り込むと羽交い絞めにする。いきなり身動きを封じられた梓美はミアルの意図がわからず目を丸くした。
「え?ミアル?」
「そんなわけだからフィリス、梓美にキスしちゃって」
「「!?」」
唐突な要求に梓美はぎょっとした顔でミアルを振り返り、急にキスを振られたフィリスも開いた口が塞がらない。ミアルはここで完全に梓美の逃げ道を塞ぐ気なのだと二人は悟った。
「フィリスの恋心強引に暴いたんだから梓美も強引だけど受け止めるくらいしないと!あとボクも踏ん切りつかないし、こうなったらヤケクソだよ!」
「いや待って!?まだ私いろいろ状況に思考が追いついてないから!?」
どうやらミアルは梓美にフィリスの恋人にもなる自覚を持たせるだけでなく、自分の独占欲に諦めをつける為に梓美とフィリスのキスをさせるつもりの様だ。妥協案は出したもののやはり気持ち的には割り切れておらずヤケクソ状態であり、梓美もフィリスも困惑するばかりだ。
「大体、そんな強引にしたところでそれ、恋人同士のキスじゃ……」
「大丈夫!フィリスがキスしている間ボクが魔力同調させて受け入れられるようにするから!ボクが同調すると条件反射で梓美は身も心も抵抗弱くなるしその間ならフィリスへの抵抗も無くなると思うよ。後はボクが同調止めてもそのままキス続けちゃえば梓美もすんなりフィリスを受け入れて恋人同士のキスになるんじゃないかな?でもその後ボクともキスして!」
「それってもはや調教だよね!?それくらいだったら私からするから!ミアルの時より酷いよ!?もうちょっとだけ手順踏ませて!」
「あたしだってそんなファーストキスやだよ!もっとこう……雰囲気とか、なあ!?」
「というか今のミアルの案だとキスかなりディープなんだけど!?今ファーストキスって言ったけどフィリスにできるの?」
「でっ、……できるわけねえだろぉーーーーっ!!」
なお、ここは魔の森のクレーターからは少し距離を置いた場所である。こんな情緒もへったくれも無い場所で羽交い絞めにした相手にさらに調教じみたやり口の為のファーストキスなんてフィリスにできるはずが無い。しかも初めてなのにディープと無茶ぶりにも程がある。
こんなファーストキスは捧げたくないフィリスに、さすがに調教で恋人関係までいくのは遠慮したい梓美。そんな二人にいいからキスしろと、くっついちゃえと急かすミアルの肩にポン、と手が置かれる。何事かと振り返ったミアルの眼前には青筋を浮かべとてもいい笑顔を浮かべているヴァイラナの姿が。ただし目は笑っていない。
「病み上がりの姉を働かせて、随分と楽しそうですわね、ミアル」
「ね、ねーさん!?」
「恋人を独占できなくなって割り切れないのでしょうけど、だからって強引に関係を進めさせようとするのは大きなお世話ではありませんこと?」
「義姉様!そういえば見ないと思ったらさっきまで一体どうしたんです?」
「ええ、この場所があの異世界人にも知られた以上、彼らの戦力になり得る物は極力減らした方がいいとミアルが提案したので、クレーターの内壁を破壊して回って精霊の骸を埋めてましたの」
ヴァイラナ曰く精霊の骸には様々な用途があり、クレーター内にあるだけの量の精霊の骸が異世界人、ならびにその背後の聖光神教の手に渡るのは今後危険を呼ぶ可能性があると判断したミアルが破壊能力に優れた紫電を操るヴァイラナにクレーターの内壁を破壊して崩れた土砂で精霊の骸を埋めるよう頼んだのだ。病み上がりとは言え、精霊の骸は底面近くで露出していた為ヴァイラナにそれほど苦労は無かったが戻ってみれば三人で乳繰り合っているようにしか見えずイラっと来たようだ。
「あとはミアルの水魔法も混ぜて土砂を混ぜてより自然な状態にしますわよ?そこらの魔獣に喧嘩を売ってまた精霊形態になってくださいな」
「そんな雑な精霊形態への変身方法ある!?あ、待って、引っ張らないでぇ!」
「ミアルとちゃっちゃと済ませてきますので、その間にお二人で話し合ってくださいな。あら、ちょうどあそこに手ごろなワイバーンが。一応ワイバーンの竜の端くれですわよね?」
「ちょっと待ってねーさん何をうわああああああ!?」
梓美から剥がされて引きずられていくミアル。そのままヴァイラナに投げられ風魔法で遠くのワイバーンに射出させられている。手荒だが竜系の魔獣との戦闘はミアルが精霊形態になる為の《霊起纏身》の発動を最も容易にさせる手段だ。もっともワイバーンにとっては酷いとばっちりなのだが。
精霊形態にはなれたものの巻き込んでわざわざ仕留めるのもどうかと思ったのか怒ったワイバーンを牽制しているミアルの姿を遠目に見た後、梓美はフィリスと顔を合わせる。
「えーと……フィリスも私と付き合う、ってことでいいんだよね?実感がわかないや」
「あたしもこんな急に恋人関係になるなんて思わなかったよ」
「なんか皆焦っちゃったよね。私も強引に聞き出しちゃったしミアルも踏ん切りつけようとして暴走しちゃったし。ここでする話じゃなかったよね」
「あたしなんか梓美が結局どうしたいのか聞かずに泣き出してパーティー抜ける気になっちまったしな。……というか、まだ梓美の答えは聞いてないんだが。結局あたしが梓美を好きって知ってどうするつもりだったんだ?」
「うん、フィリスには悪いけどミアルがああしてくれなきゃ恋人関係にはなれなかったかな。少なくとも私一人の判断でOKは出せなかったよ。」
やはりミアルが動かなければフィリスは失恋していた。少しフィリスの胸が痛むがほぼわかりきったことだであり、ミアルが譲歩したことで前提は変わっている。フィリスは深く息を吐くと苦笑いして質問を重ねる。
「……だろうな。今はどう思っている?」
「私もフィリスも過程は違ってもこの世界に『家族』はいないから、なんとなくフィリスのことは放っておけない、独りぼっちにしちゃいけない、とは思ってる。ただ、今まで仲間、とか先輩、あるいは姉貴分って考えてたからちょっと戸惑ってる」
「あたしもまさかミアルが譲歩するとは思わなかった。……あたしみたいな女は嫌か?こんな女っぽくない話し方な雑な女なんて」
「嫌?ここ一番で前に出てくれて心強くてちゃんと一般常識に引き戻してくれる下手な男よりかっこくて頼れるフィリスが?美人でスタイル良くて普段男勝りなのに精神的に切羽詰まっちゃうと女の子なところがでてきちゃう可愛いフィリスが?どこに嫌になる要素あるの?」
「だから!そうやってドストレートに来るのやめろ!あとさらっと辱めるんじゃねえ!」
直球でほめ殺しにかかる梓美にフィリスが一瞬で火を噴きそうな程に赤くなる。前半は照れくさい内容だが後半は主に同調時やさっきの尋問時のことであり、もはや辱めの類だ。
「ああもう!……じゃあ、あたしも恋人にしてくれるのか?」
「既に女同士で付き合ってて二股かけるし、真っ当な恋愛はわからないこんな女でいいなら喜んで受け入れるよ」
「じゃあもっと喜んでよ。両手に花なんだぞ?それにいつかミアルと二人で襲ってやるんだからな?」
「ミアルと一緒に……?……わぁ」
「いや、悦んでんじゃねーよ!?」
二人から襲われると聞いて頬を赤らめ、だらしない顔になった梓美にドン引きしながらも一喝する。一体どんな想像をしているのか推測するのも怖い。
実のところ梓美の割と爛れた方に欲望が向きがちなのを矯正できるかはフィリスにかかっていると言っても過言ではない。こういう場合、ミアルも独占欲を抜きにすれば『どんな梓美の可愛い姿が見られるのか』とちょいSっ気が出て乗り気になるのでむしろ悪化させてしまいかねないのだ。
「ごめん、つい。……でもどうしよ、めっちゃ嬉しくなってきちゃった。美少女二人と付き合えてしかも二人とも《精霊術》あるから女同士でも家庭が築ける見込みありとかえへへへへ」
「お前女で本当良かったな……いや、関係ないな、性別あってないようなもんじゃねえか」
頬に手を当てて口元が緩んでしまう梓美にため息を吐くフィリス。これが男性だったら殴られてもおかしくない二股発言であり、女性が口にしていい言葉でもないだろう。むしろ《精霊術》のおかげであまり性別は関係ないので普通に殴られても文句は言えない。
「そうやって現実的なツッコミ入れてくるフィリス好きだよ」
「……っ、不意打ちはやめろよ……」
「本当だよ。そうやってしっかり現実に向き合わせてくれるから常識の範疇がわかるのは助かってる。ミアルはツッコミは入れるけど相当ヤバいことじゃない限りは一緒にノッてくれるから簡単に常識踏み越えちゃうんだよね」
「まず常識は踏み越えられるものじゃないからな?あとあたしをブレーキかなんかと思ってるんじゃないだろうな?そうしなきゃいけないだけだからな?」
フィリスも梓美達と関わって以来、時折常識を踏み越えているのだがあえて目を逸らす。そんなフィリスに梓美は愛おし気に微笑む。
「私ね、ミアルとは真っ当な恋愛ができないままあっという間に互いに深みに嵌っちゃったのがちょっとだけ残念に思ってたの。でも、フィリスとはゆっくり距離を詰めて、こう、愛とかそういうのを深めるような恋愛ができたらなって思うよ。……まあ、感覚掴めたらミアルとも程よい距離間の恋愛を改めてしたいけど」
「お前なあ!最後のが無ければいい台詞だったのに台無しだよ!あたしも素直に喜ばせろよ!……こういう時一回はっ倒すもんだっけか?いっそミアルにも引っ叩かれろ」
「だってどっちも大事な恋人なんだもん……どうせなら押し倒されたいな。ミアルも言ってたよね、二人で私の許容量いっぱいにするくらい色々するんでしょ?……私どうされちゃうのかな?」
「そんなんでよく真っ当な恋愛したいってほざけるよな!?素直にしたってオープンなのも大概にしろよ。周りに聞かれて気まずくなるのはこっちなんだぞ?」
「今は二人っきりだよ?」
「そうじゃなくて!ああもう好き放題言いやがって!じゃああたしも好きにするからな!」
「へっ?フィリスっ!?んんっ!?」
突然両頬を抑えられると、ぎゅっ、と目をつぶったフィリスの顔が一気に距離を詰めてくる。突然のことで反応できず、触れ合う唇の感触に梓美が目を見開いた次の瞬間、
――――――――――ガチンッ!
「「痛ぁっ!?」」
互いの歯がぶつかった。勢いよく口づけをしようとしたためにそれなりに痛く、痛さよりも気まずさと羞恥で顔を離し口元を抑えて蹲るフィリス。梓美も涙目で"治癒の滴"で痛みを消しつつも、生暖かい目でフィリスを眺める。
「うん、初めてだもんね?……フィリスも治す?なんだかんだでフィリスもやっぱりキスしたかったんだ?」
「頼むから放っておいてええええええええ!!」
目に物見せようと強引に唇を奪おうとした結果、ファーストキスなのに盛大な自爆をかました挙句気を使われ、フィリスのプライドはもうズタボロだ。羞恥に耐えきれず涙目になって蹲っていじけるフィリスの前に梓美がしゃがみ込む。
「ねえフィリス、こっち向いて」
「なんだよ……むぐっ!?」
フィリスが不貞腐れながらも顔を上げた瞬間、今度は逆に唇を奪われる。梓美は啄むようなキスを何度も繰り返すと、フィリスの上下の唇をそれぞれ自分の唇だけで食むように味わい、最後に一舐めして唇を離す。
突然逆に唇を奪われ弄ばれたフィリスは呆然とするが、我に返ると自分が何をされたか理解し口をきゅっ、と結んでぷるぷると震えだす。目にはさらに涙がにじみ、顔も耳まで火を噴きそうなほど赤くなってくる。そんなフィリスに梓美は頬を赤くしてはにかむ。
「口直し。どうだった?もっとすごいのもしてあげちゃうよ?……これからは恋人としてよろしくね、フィリス。あと今の顔すっごく可愛い」
改めて恋人として告げる梓美にフィリスは梓美と恋人になれた喜びと幸福感と、同時に手玉に取られたような羞恥とか悔しさとか、なんでこういう愛情表現は上手なのかというちょっとの怒りとかあと一言余計だとかその他諸々の感情が混ざって、というか喜びとかを上回ってしまい、勢いよく梓美に抱き着き、
「うるさい馬鹿ぁっ!素直に好きって言わせてよぉ!!」
さらにいじけた。フィリスは梓美をまるで大きいぬいぐるみのように抱きかかえて離さず、結局ミアルが雷雲を呼び出してクレーター内に土砂降り、さらに外縁部に土砂崩れまで起こして完全に精霊の骸を埋没させて戻ってくるまでその機嫌が直ることは無かった。
――――――――フィリスの初めてのキスは情緒もへったくれも無い場所なのに、勢い余った失敗の苦みと酸っぱさと口直しのとびきりの甘さで、頭がおかしくなりそうだった。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『もっとイチャイチャを!』
『というかとっとと三人でイチャイチャさせるんだよ!』
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