29話~根掘り葉掘り恋心~
「うう~ん……」
「あ、起きた」
目を覚ました梓美の視界にまず映ったのは半目でこちらの様子を伺ってるミアルの顔だった。既に精霊形態は解除されている。あからさまに不機嫌そうな態度のミアルの姿を見た梓美はぱちぱちと目を瞬かせる。
「あれ?私生きてる?」
「あんな死に方したらいろいろ許せないんだけど?」
「すみませんでした」
即座に体を起こしてからの実にスムーズな土下座に移行する梓美。確かに自分を差し置いて思いを寄せてくる他の人に抱きしめられ、さらに自分にはない豊満な胸に埋もれて窒息死なんてされたらとても許せるものではない。
「まあ何があったかはフィリスを先に起こして聞き出したけど」
「……フィリスは?」
「あっち」
顔を上げた梓美がミアルが指差した先を見ると、そこには少し離れたところでこちらに背を向けてうずくまっているフィリスの姿があった。顔を両手で覆った隙間からは「あああああああ~~~~……」となにやら呻き声が漏れ出している。感情をぶちまけてそのまま相手を窒息させかけてしかもその様子を見られたとあっては羞恥やその他諸々に耐えきれなかったようだ。
「……どうするの梓美?フィリスずっとこんなんだけど?」
「いや、どうするって……ん?」
梓美は何かに気付くと右のこめかみに指を当てて考え込む。ミアルが首を傾げる中しばらくうんうん唸っていると考えが纏まったのか立ち上がる。
「梓美?」
「ミアルはちょっとここで待ってて。ちょっと確認したいことがあるの。もしかしたら止めを刺すことになるかもだけど」
「ちょっと梓美!?」
ミアルが泡を食うのもよそに梓美はまだ呻き声をあげるフィリスの正面に回り込むとしゃがんで目線を合わせる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぅ~~~~~~~」
「フィリス」
「あぅ?……!?」
フィリスは梓美が目の前にいるのに気が付くとぼっ、と顔が赤くなるがすぐにばつが悪そうにさっと目を逸らす。まるで素直になれない女の子がいじけているようで普段の粗野で男勝りなフィリスとは大違いだ。実際今のフィリスは素直になれなかった、というより自分の気持ちに気付いてなかった女の子なのだが。
「ねえフィリス」
「……なんだよ」
責めるでもなく申し訳なさそうにするでもなく自分の名を呼ぶ梓美にフィリスが渋々と返事をする。
「フィリスは私に好きになってほしいの?」
「んなあっ!?」
直球だった。あれだけ想いの丈をぶつけられてなお、確認するように問いかける梓美に顔を赤くしたフィリスは梓美の胸倉を掴んで立ち上がる。その目には羞恥だけじゃなくて怒りも込められていた。
「てめえ!あたしにあれだけ言わせておいてなんでそんなことを聞くんだ!!馬鹿にしてんのか!?」
「ぐっ……馬鹿になんてしてないよ。フィリスが『私にドキドキした』、とか『私から離れられない』、は確かに言ってたよ。でも、『私が好き』、とか『恋しちゃった』とかそういうのは言ってないよね?フィリスが私をどういう相手として見てるとか、どういう関係になりたいかを私勘違いせずにフィリスの口から聞きたいの」
「うぐっ!?」
フィリスとしては梓美に思いの丈を存分にぶつけたようなものだったが、『どういう関係でいたいか』までは確かに口にしていない。せいぜい「逃げないで」くらいなもので、結局想いの種類まではつい数ヶ月前まで恋愛経験が無く、ミアルとの初恋も深みまで急転直下で落ちていった梓美にはわからないのだ。加えて述べるとフィリスとの同調の際に魔力に影響したのは欲求不満な思いが強かったので梓美としても自分がどういう対象で見られているのか自信が持ててないのだが、フィリスの名誉の為にそれは伏せていた。
掴み上げられてなお直球で畳みかけてくる梓美にフィリスの腕の力が弱まり、その手を離すと弱々しくその口が開かれる。
「……それくらい察しろよ」
「察し間違えたくない。フィリスにとっても大事な気持ちなんでしょ?」
「うぅ……」
まっすぐに見据えてくる梓美にフィリスの顔がますます赤みを増す。先程までの憤怒の色は無くなったが、こんなにも自分の気持ちを翻弄してくる梓美に小憎らしさが代わりに混ざる。
「……ほんとあたしに対して間が悪いんだよ」
「そうなの?」
「そうなんだよ!初対面は風呂で人目も憚らず女同士でいちゃついてたり!ちょうどいい相手があたしくらいしかいなくてパーティー組むことになったり!女同士でいちゃつくの知ってるから妙に意識しちまうし!憎い獣王竜相手に死ぬかと思ったら勝利に浸るどころかむしろ困惑するレベルの力持たされるし!なんだ異世界人って!しかもその力が不完全なせいでしょっちゅう同調してもらわなきゃならなくて散々弄ばれるし!気を使ってさっさと終わらせるの逆効果なんだよ!変に焦らすせいで猶更意識するし他にも料理が美味くて他で食う物が物足りなく感じちまうこともあるしとんでもない武器作ることになるしで最近梓美のことばっか考えちまうんだよ!」
一気にまくし立てるフィリスだが、また肝心な部分が隠れたままだ。そこを容赦なく梓美は追究してくる。
「うん。でも、私はその先を教えて貰ってないの。私のことを考えちゃうのは同調が最近すぐ終わっちゃうから?もっとしてほしかったから?」
「違う!」
あえて間違っているであろう推測を立てる梓美にフィリスは力強く断言する。心の内を容赦なく暴いてくる羞恥に耐えきれずにいよいよ涙目だ。
「好きになっちまったんだよ!あたしの願いを叶えてくれて!なんだかんだ気にかけてくれて!そのくせ変なところで焦らしてもやもやさせて!でも一緒にいると楽しくて!あとミアルとのイチャついた跡くらい隠せ!もしミアルじゃなくて自分だったら、というかそれくらい跡が付くくらいのことをされたらどうなっちゃうのかつい考えちゃうんだよ!その後同調される度にそれくらいして欲しいとか思うこっちの身になれ!好きでもない奴でそんなの考えるか!?それくらいお前が好きになっちゃったんだよ!察してよ馬鹿ぁ!!」
もはやヤケクソで洗いざらい吐き出したフィリスは遂に両手で顔を覆いしゃがみ込んでしまう。フィリスの気持ちを改めて知った梓美もまさかミアルに散々やられた跡を見られた上に想像のネタにされ、さらにそれを求められていたとは思わず赤面する。耳が良いので聞き耳を立てていたミアルも耳まで赤くなった顔を覆っている。
「うぅ、ぐすっ……これで満足か!?ミアルがいるのにこんなの言える訳ないだろ!わかってるよこの後振られるって!梓美取られるのミアルは嫌がるし梓美もミアルと離れたくないんだろ!?なのに根掘り葉掘り聞いて!どうすんだよあたしら!このままパーティー続けるの無理じゃんかぁ!!」
ついには泣き出してしまったフィリス。失恋間違い無しの想いに気付かないまま、あるいは隠したままならまだ仲間としてやっていけていた。しかし、その想いを自覚した上に洗いざらい白状させられ、傷心を抱えたまま梓美達と一緒のパーティーとしてやっていける程フィリスの精神は強くは無かった。そして、二人と離れることになるのにもフィリスは耐えられなかったのだ。
そんなフィリスにどう声をかけるべきか困枠する梓美。ミアルがいる以上恋人関係にはなれないが、このままフィリスを独りにさせるつもりはないと伝えたかったのだが、失恋のままパーティーにいられない程に傷心するとは思っておらず、恋愛経験の無さや日本にいた頃からのマイペースさが仇となった。現状でフィリスを受け入れるということはフィリスとも恋人関係になってしまうことと等しく、ミアルに対して不誠実ではいたくないという気持ちもある梓美はどうしても二の足を踏んでしまう。
「ああもう、梓美はやりすぎ」
そんな状況にため息を吐いたミアルはフィリスの傍によると不満そうながらもフィリスに問いかける。
「……フィリス。もしフィリスがパーティー抜けたとして、フィリスみたいに梓美に依存レベルで好きになっちゃうような子がまたでると思う?」
「依存って言うな。ぐすっ……出るに決まってんだろ?こいつ一度身内になったら容赦無しに色々持たせて来るんだぞ?おまけに魔力同調は魅了一歩手前レベルなんだろ?すぐまた依存させて誑し込むぞ。お前の気苦労は絶対無くならないんだからな」
「私そんな節操無しに思われてるの?」
「ここ一番でヘタレた梓美は少し黙ってて」
目元を腫らしながらつい憎まれ口が出てしまうフィリスに梓美がツッコむがミアルにぐうの音も出ないくらいに一刀両断され沈黙する。
「……フィリスは変わらずボクと梓美がイチャイチャしてても気にしない?」
「……なんだよ。今度はミアルがあたしを苛めるのかよ」
「誰も苛めてないから。どうなの?梓美を独占したいって気持ちはあるの?」
「……そこまで思ってねえよ。あたしも梓美にそうしたい、されたいってだけだ。お前らすぐイチャつきだすし結構寂しいんだぞ」
「―――そうなんだ」
フィリスの答えを聞いたミアルは口を開こうとして逡巡するも、深呼吸すると意を決した顔でフィリスに問う。
「……ねえ、ボクと一緒に梓美とイチャイチャするのは抵抗ない?」
皆が戦っている間もずっとお肉食べていたドラゴン「一体何を見せられているんだ……」
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『もっとイチャイチャを!』
『というかとっとと三人でイチャイチャさせるんだよ!』
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