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28話~感情爆発~

「これで全部逃げていったかな?」


 最後の一頭が角を斬られたことで諦めて飛び去って行くのを見送ったミアルが降下してくる。

 攻撃を仕掛けてきていた全てのドラゴンがミアルの雷や風、フィリスの蒼炎、梓美の多彩な魔法によって勝ち目が無いと悟り逃げていったのはそれから十分とかからなかった。三人の周囲には切られたり折られたドラゴンの多種多様な角や棘、ヒレ等の部位が散乱している。


「殺さないようにしたから随分と時間かかったよね」

「ここら一帯のドラゴンが集まっていたんだろうから全滅なんてさせたらただでさえ隕石の影響で魔の森が混乱してるのに縄張りとかパワーバランスまで大変なことになるのはわかっちゃうからなあ……」


 仕留める方がずっと楽だったミアルに梓美は無秩序にドラゴンを全滅させた場合の問題点を説く。

 その気になれば特にミアルは竜を仕留めることもできるにも関わらずこうして撃退したに留めたのはこういった理由と、調査依頼に出発する際に『持ち帰れないなら極力竜を殺すな』と言い含められていたこともある。今回は隕石の回収が最優先な為、竜一頭分すら梓美の"奈落"の容量が足りなくなる可能性があり、倒した竜は一部を採取したら大部分がそのまま捨てられることになる。問題はその死骸を他の魔獣の糧となった時だ。獣王竜の肉の例があるように、竜の肉を食すると身体機能や魔力面での向上が見られるのだが同様に竜の死肉を食らった魔獣が強力な個体へと成長する可能性がある。冒険者ギルドで危惧されたのはそこだ。ちなみに誰一人ドラゴンと戦闘になったとしてもミアル達を案じる声は無かったという。

 これが一頭や二頭程度なら自然界でも起こりうることだが、もし今回襲い掛かって来たドラゴンの全てを斃した場合、一度に多くの竜の死体が持ち帰れずこの場に投棄されることになる。そうなると残された竜の肉を摂取する魔獣はかなりの数になり、この周辺に強力な個体が蔓延ることになる。その天敵足り得る竜自体もそもそも狩られてしまっている前提な為、自然の摂理に任せるままに強力な個体の数が減るのを待つことも難しくなる。

 それらが及ぼす影響が今も中層に深層の魔獣が逃げ出しているこの状況にどう悪影響を及ぼすかわかったものではなく、巡り巡って自分達に降りかかる面倒ごとになりかねない為三人は討伐ではなく撃退に専念したのだ。


「普通竜をあえて殺さず撃退なんて考える余裕ない筈のになあ……」

「精霊形態込みだと基準狂っちゃうよね。で、フィリス?それと梓美」


 遠い目をするフィリスに賛同し苦笑いするミアルだが、それはそれとしてとその目がスッと細められる。唐突に嫌な予感を感じフィリスと梓美が後ずさる。


「帰ったら三人でちょっとパーティー会議だからね?道中含め色々梓美の問題点も見つかったことだし、ね?」

「「……はい」」


 笑顔で圧力をかけるミアルに負い目の自覚はある二人は否と言えるはずが無かった。とはいえ今それを議論して帰りの空気を重くするのもはばかれる。ミアルは一息つくと表情をいくらか和らげる。


「まあそれはそれとしてだけど梓美、ここらの竜素材回収できる余裕ある?もう容量限界近いでしょ?」

「それなら大丈夫。さっき"夜爪刈り"で魔力補充して"奈落"の容量に回してるからこの倍は入るよ」

「そういえば魔力があれば容量を増やせるんだったな。だったらそこに転がってる異世界人二人の武器、あれも回収しておくか?」


 ドラゴンは強大な魔力を持ち、戦意を削ぐために使用した"夜爪刈り"で奪った分だけでも"奈落"の容量を増やすだけの魔力を確保することができた。フィリスが指差した先には岸田の『妖精殺し』と須藤の地属性魔法発動に用いていた手甲が戦いの余波で土にまみれ転がっている。梓美は頷くと"奈落"でそれらを回収すると手元に取り出して観察する。


「両方ともミスリル製っぽいね。ガントレットの方は内部に杖用の宝玉が入ってる?ガントレット型の杖ってところかな?ミスリルの媒体としての性質のおかげでガントレットと杖を両立させてるけど宝玉に関しては私もよくわかんないや」


 杖に用いられる宝玉は魔法の制御、構築の補助に特化した役割を果たしているが、元々魔法制御を自前で行っている梓美はそれほど宝玉については詳しくない。『妖精殺し』含め、ミアル達の装備を作って貰った工房に持ち込んで説明してもらうことで三人の意見は一致した。


「それじゃ、散らばってる竜素材も片っ端から回収してくるね」

「そんな気楽に言う素材じゃないんだけどな」

「総額どれくらいになるんだろうね」


 ここにある素材全てを換金する時にまた冒険者ギルドで騒動が起きることを想像して遠い目になるフィリスと苦笑いするミアル。


「ところで、実際に戦ってみて異世界人は梓美と比べてどうだった?」

「ああ、そうか。ミアルは顔も見てないんだったか」

「梓美とじっくりたっぷり同調する必要があっただけの力はあったのかな?」

「ああ、やっぱり気にするのはそこなのか」


 頬を膨らませるミアルにフィリスは額に手を当ててため息を吐く。


「あとで梓美も交えて話すだろうが正直に言うぞ。梓美はやり過ぎだ。装備の差もあるだろうが、それでも総合的な能力は精々が"降神霊機構"を使わない梓美と同等、あるいはやや上だろうな。梓美の魔法能力を身体能力と近接戦に置き換えた感じだと思っていい。早々に心折っちまったから正確な度合いはわからないが《報復》込みなら今までの『焔鯢竜』でも勝ち目があったくらいだ」

「……そうなんだ」


 岸田の《信仰の守護》込みだとしても不完全だった『焔鯢竜』でも彼らを退けれられたというフィリスの所感を聞いて俯くミアル。どう言葉を続ければいいのか迷うフィリスだったがやがてミアルは大きくため息を吐くとフィリスに向き直る。


「で、今回の『焔鯢竜』本来の力は必要なかった?無くても今と同じ状況になってた?」


 ミアルの問いにフィリスは首を横に振る。


「いや、ここまで消耗も損失も無くこの場を乗り切れたのはこの力があったからだ。あの二人とやり合った後にあの竜の群れ相手じゃ、最悪死んでたかもな」


 不完全な『焔鯢竜』では岸田達を退けられても手傷を追う可能性はあったし、何かしらのトラブルで今回同様何頭ものドラゴンに襲われた場合はかなり不利な状況に陥ってただろう。普通のドラゴンには《報復》が効果を成さない為、聖光神教に属する召喚者相手とは異なり完全に力負けしてしまう。


「……そっか。うん、じゃあ仕方ないか」


「しょうがないかぁ」と言わんばかりの苦笑いのような曖昧な笑みを浮かべ肩を竦めるミアル。この場を乗り切る為には必要な力だったと言われれば納得するしかない。これ以上は三人で話し合って決めることだろう。


「それじゃ、ボクはねーさんを呼んでくるからここはお願い」

「ああ。目的の隕石は回収済みだしそれで撤収だな」


 ミアルがヴァイラナを呼びに行くのと入れ替わりに梓美が竜素材の回収を終えて戻ってくる。結構な量の素材を確保できたのでほくほく顔だ。


「ただいまフィリス。ミアルは?」

「ヴァイラナを呼びに行った。……しっかし、改めて見るとあたしらとも違う姿の変わり方をしてるな、精霊形態(それ)


 先程はあえてよく見なかった梓美の精霊形態を改めて観察する。ミアルやフィリスの精霊形態は翼やヒレ状に放出される魔力炎等、全体のシルエットを変化させていたが梓美の場合は人型のシルエットを保ったままだ。変化しているのは銀色に変わり魔力体で延長された髪と金色の瞳くらいだ。


「詳しい話はミアルも交えるよ。やっぱり先にフィリスに見せたことでミアル拗ねちゃったし、説明もミアルがいる時にね。……それで、フィリス」

「……なんだよ?」

「……ごめんね?」


 申し訳なさげに謝る梓美に目を丸くするフィリスだったがすぐに呆れた視線になり肩を竦める。


「まあ結果的には助かったが、このあと間違いなくミアルに怒られるだろうからな。梓美の案に乗ったあたしもあたしだし別に構わなねえよ」

「あ、うん。そっちも巻き込んで申し訳ないんだけど、私が謝りたいのはそっちじゃなくてね?……フィリス、結構ムッツリさんなんだね?」

「……は?」


 梓美の言葉の意味が理解できずフィリスが硬直する。急に人をムッツリ呼ばわりとは何事かと訝しげに梓美を見ると視線を彷徨わせながら梓美が説明を続ける。


「同調して取り込む魔力ってその魔力の持ち主の精神状態に影響されることがあるんだけど、フィリスの魔力を抱えたままミアルからも魔力を分けてもらうために同調したらフィリスの魔力にあてられちゃったらしくて、同調中にエスカレートしたり、さっきミアルを呼びに行った時に襲われそうになったの。……フィリスってミアルがそんなになっちゃうくらいの感情貯めこんでたの?」

「ごはっ!?」


 まるでボディブローを食らったかのようにフィリスが呻く。心当たりがあり過ぎるのだ。幾度となく味わった同調された時の感覚、最初の時のような限界寸前で終わってしまう寸止めによる潜在的な欲求不満。普段はそれらを意識しないで済むが、梓美の同調を受けると燻ぶっている疼きが寸止めされた分だけまとめてよみがえってくるのだ。今回の同調は本来ならその限界を迎えてもおかしくなかったものだったが状況が状況だけにフィリスは必死に堪えた。それでも最後の方は我慢しきれずいよいよ限界を超えそうになったところでのまた寸止めだったのだが、その時の魔力同調の感覚に耽りたいという欲求がこれまでの分も纏めて魔力に反映されてしまってもおかしくない。しかし、ここでフィリスは一つ疑問を抱く。それならばなぜ梓美は殆ど影響を受けていないのか。


「……いや待て、それじゃあなんで梓美は問題ないんだ?少なくともあたしとの同調が終わった時点でそれ程影響があったようには見えなかったぞ?」

「あー……ほら、私ってほぼ日常的にミアルから同調してもらってるから慣れてるというか……頑張れば私は抑え込めるしそのあとミアルに押し倒されて発散してもらえたというか……」


 ミアルとの同調時に効率がいいとはいえ緊急時にも関わらず梓美がキスを許したのはフィリスの魔力にあてられていたことも原因である可能性は高い。しかしミアルは基本的に容赦なく梓美を責め立てるので多少燻りがあろうともあっという間に発散させてしまうのでミアルから十分な魔力を貰った時にはフィリスとの同調の影響は殆ど消えていた。


「あれであっさりフィリスの魔力の熱は収まったからフィリスが魔力に与えていた影響って欲求不ま……」

「それ以上言うなあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 梓美の考察をフィリスの大絶叫がかき消す。顔を真っ赤にしたフィリスが梓美の頭を鷲掴みにし、ギリギリと力が籠る。いわゆるアイアンクローである。


「いだだだだだだだだだだ!?」

「誰のせいでこうなってると思ってるんだ!毎回毎回生殺しで終わらせやがって!何度いっそ一思いにやってくれって思ったことか!あれ身体触っても効果ないんだぞ!?」

「えっ!?そうなの!?」

「何で知らねえんだって……そうだよなお前はいつもミアルにしてもらってるもんな!お預け食らったことないんだろそうなんだろ!?」

「待ってフィリスなんかおかしい!?今自分がすごいこと口走ってるの気付いて!」

「少しでも発散させようとして同調の時のことを思い出しながら鎮めようとしてるのに全然疼きは消えないし!気づいたらお前のことばかり頭に浮かぶし!どうしてくれるんだよ!」

「どうしろと!?っていうかフィリスまさか戦闘前に自分に感情抑制系使ったの!?」

「こんな身体になった以上お前から離れるの怖いんだぞ!?しかも飯は美味いし色々快適だしなんだかんだ楽しいし見てて飽きないし!気がついたら梓美無しとか考えられなくなってるんだよぉ!梓美が悪いんだぞ責任とってよぉ!!」

「爆発してる!?どれだけ抱え込んでたのフィリス!?」


 感情を抑制する類の魔法は解除された時に反動で一気にその感情が爆発してしまうことがある。それが普段から抑えていたものであればあるほどその感情の発露は大きくなる。そのことを知識としては知っていても実体験の無いフィリスは梓美に欲求不満を知られた時の羞恥が原因で抑制が解けてしまい、一足飛びで強大な力を得てしまった不安や自覚が無いままに募らせていた梓美への想いといった感情まで爆発させてしまった。そういった感情抑制の反動に関して実体験のある梓美はそれを察しなんとかフィリスの手を頭から外しながら宥めようとする。


「フィリス、落ち着いて、ね?」

「落ち着ける訳ないだろぉ!?しかもあたし胸までぎゅうぎゅう押し付けちゃったんだぞ!?もう心臓もバクバクいっておかしくなりそうなんだよぉ!」


 解放された感情の奔流にパニックを起こしかけているフィリスは目からぽろぽろと涙をこぼす。その姿は年相応の少女だが未だ精霊形態でその力は強大。梓美に詰め寄ると胸の防具を外して梓美の顔をその胸に沈みこませる。インナー越しでも伝わる柔らかい感触とほのかな汗の匂いが梓美の顔を覆い、一瞬梓美は何が起きたかを理解できなかった。


「ほら、こんなにバクバクいってるのわかるだろ!?全部お前のせいなんだぞ!どうしたら鎮まるんだよこれ!」

「むぐ、むぐがぁ~~~~~~!?」


 胸に顔が埋まってる為呼吸がままならず、鼓動を聞く余裕など無くじたばたともがく梓美だがフィリスは離そうとしない。梓美の精霊形態は自身の魔法属性の強化が四属性に対応させた分、身体面、特にパワーにおけるスペックは素のステータスもありフィリスの方が勝っている。


「なんで逃げようとするんだ!そんなにあたしが嫌なのか!?逃げないでよぉ!」

「むが、むぐが、むぐがーーーーっ!?(違う!息が、息がーーーーっ!?)」


 なんとか呼吸をしようと離れようとする梓美だが、逃がしたくないとばかりにフィリスが腕に力を籠める。振りほどくのに魔法を使うわけにもいかずビシビシと必死にフィリスの腕を叩くが全然気づいてくれる気配も無く、段々と梓美の意識は遠のいていき、抵抗が弱まる。これを梓美が抵抗をやめたのだと勘違いしたフィリスは嬉しそうに、慈しむように口角を上げると変わらず力は強いものの自分の胸に押さえつけるという抱きしめ方から心なしか優しくそのまま動かさないような抱きしめ方に変える。とはいえ、梓美にそんな違いを感じる余裕はない。何故なら窒息寸前だから。当然、フィリスは梓美が呼吸困難に陥っていることに気が付いていない。


「……えへへ。ようやく大人しくなったなこいつ」

(あ……やばい、意識が……痴情の縺れ?でおっぱいに殺されるとかなんてアホな最期だよ私……)

「梓美、戻ったよー……ってぇ!?一体何してるのフィリスーーーーーーーっ!?」


 精霊形態が解除された梓美がいよいよ意識を手放す寸前に聞こえたのは恋人の驚愕する声だった。梓美がフィリスの豊満な胸に顔を埋めているというあまりの光景にミアルもパニック状態になりフィリスに雷撃をかまし一撃KO。ヴァイラナは回復早々ミアルを宥めながらも気絶した二人の介抱に苦労することになった。


『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』

『フィリス頑張れ超頑張れ』


他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を是非宜しくお願いします。感想貰えたりブクマが増えていると大変励みになります!


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― 新着の感想 ―
[一言] これ起きたら恥死ですね、合掌…。 普段粗野な話し方の子がテンパると女の子言葉になるのは良いものです。  梓美は気遣いできる子なのに、言い方ぁー!
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