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27話~天星の戦乙女~

 重力操作に加え操作能力が向上した風を用いて滑るように横穴に向かって降下していた梓美


「あ~~~~ず~~~~~みぃ~~~~~~!!」

「あ、ミアるごはぁっ!?」


 そこへ宙を蹴って一直線に突っ込んできたミアルの激突をモロに受けてしまい空中でもみくちゃになる。その間に空中でも身のこなしに一日の長があるミアルは両足で梓美の腰をがっちりホールド、両肩もしっかり掴んで捕獲する。梓美が周囲を無重力状態にして宙に浮いたままなため、こうしてミアルに捕まった姿はまるでトンボに捕まった羽虫の如しだ。なんとか落ちない様にしている梓美を見降ろすミアルは微笑んではいるが目は笑っていない。梓美の口元が引きつる。


「み、ミアル?」

「なんでボクを一人置いて逃げたのかなぁ~?なーんでその姿最初に見せたのがボクじゃなかったのかな~?」

「ちょ、ちょっと待って!今この状況で!?」

「わぁ、髪が魔力体で延びてるんだ。先端近くなると炎みたいな感じ」


 頭頂部から両手で左右の輪郭に沿って銀色にかわった髪を掬う様に撫でおろしていくミアル。背中のあたりでこぼれる様に魔力体の伸びた髪が手からすり抜けていく。ひとしきり髪の感触を楽しんだミアルは梓美の側頭部を添える様に両手で固定して金色の瞳を覗き込む。梓美の眼前に熱を帯びたミアルの瞳が迫る。


「……目も金色。これだけで随分雰囲気変わるね」

「ミアル?ちょっと、ちょっと!?」


 熱を帯びた吐息が梓美の顔にかかり、背筋にゾクゾクと痺れるような感覚が駆け上がる。夜に色々我慢できない時と同じ雰囲気が今のミアルから発せられているのを感じ、先程のあれこれを思い出してか体の疼きが再び熱を持つ。


「最初にフィリスが見た分、他はボクが堪能してもいいよね……?」

「ひぃ!?ミアル、ストップ!ストーーーーップ!!」


 別にミアルにいただかれてしまうこと自体はむしろ望むところではある梓美だが、流石に時と場合はわきまえる。ましてや今はフィリスが戦闘中。岸田達は去ったというが何頭ものドラゴンから襲撃を受けている。何とかミアルとの間に手を滑り込ませ、押しのけようとしたところで梓美は違和感に気付く。


「(あれ?ミアルの魔力が乱れてる?)ミアル!魔力がなんか変!一体どうしたの!?」

「……アズミが悪いんだよ?」


 ぐぐぐ、とミアルが顔の距離を詰めようとしてくる。ミアルは精霊形態にもなっていないにも関わらず互いの吐息がかかる距離まで顔が近づくのは梓美の意志の弱さが原因か。


「フィリスの魔力の影響を受けたまま梓美と同調したせいで酔ったみたいな感じなんだ。ねーさんに説明した時も妙にオープンになっちゃってで困ってるんだよ?」

「そんなイモリの黒焼きじゃあるまいし!?あ、でも、同調時って相手の魔力の精神状態を多少なりとも受けるし、精神干渉系の闇属性使えるフィリスの魔力を取り込んでた場合、私経由で例え本人が意図してなくても同調時のフィリスの精神状態が反映されたとしたら……?って!フィリス何考えてたのーーー!?」

「梓美の同調は気持ちいいんだよ?これまで何度も同調して魔力調整して貰ったフィリスがそんなこと考えてもおかしくないよね?それで恋人にそんな気持ちで同調してたって知ったボクが何にも思うところが無いと思ってるの?」

「まさかミアル、わざとフィリスの影響受けた魔力にあてられたまま……?」


 途中からミアルがヒートアップしたのはこれが原因だった。それが時間の経過とともに悪化した結果、梓美への衝動が抑えきれなくなった。梓美の眼前でミアルの唇が弧を描き、舌なめずりする。そのまま耳元に顔を寄せ、吐息をかける様に囁く。


「ねえ、梓美が悪いんだよ?先にボクじゃなくてフィリスの魔力取り込んで。だからボクこうなってるんだよ?さっきのじゃ全然満足できてない。今こんなことしちゃ駄目なのに、抑えきれないんだ。……ね?一回食べさせて?ボクもう我慢できなひぅっ!?」


 そのまま梓美の耳に舌を伸ばそうとしたミアルの体がビクン!と跳ねる。梓美が触れた箇所から魔力を同調させたのだ。精神を落ち着かせる魔法も併用し、ミアルの魔力の流れはあっという間に元に戻り熱に浮かされた頭も冷えていく。熱が引き正気に戻ったミアルは梓美を捕まえたまま不満そうに唇を尖らせる。


「……梓美酷い」

「酷いのはこの状況だからね!?道理でフィリスからの魔力が熱っぽいと思ったらヒィッ!?」

「ふーん。梓美、フィリスの魔力で体火照ってたんだぁ……ボク以外の魔力で」


 フィリスの魔力の話は地雷だった。ミアルの目が再び据わってくる。見降ろされる梓美の背中をゾクゾクとしたものが駆け上がっていくが今はそんな場合ではない。


「待って私耐えてたよね!?同調時点でミアルが気づかないくらいには!?」

「……帰ったら覚悟してよ?二日くらい」

「二日!?」


 力の代償は大きかった。一体帰ったらどんなことをされてしまうのか戦々恐々とする梓美だった。


「……空中に器用に浮かんで一体何をしてますの?」

「義姉様!?」

「ねーさん!?」


 魔力の翅を広げたヴァイラナがこちらまで飛んできて心底呆れた目で二人を見る。空中に浮かんだまま情事に耽ようとしたのだから当然だ。


「え?あ……あ……ボク、こんなところで一体何を!?」


 頭がいくらか冷えて自分が何をしようとしたのかを正しく理解したミアルの顔がぼしゅっと真っ赤に染まる。慌てて梓美から飛びのこうとして逆に梓美に捕まる。


「待って!今私から離れたら落ちるから!」

「梓美、離してぇ!うああああああぁぁぁ……外で空中とか何考えてるんだボクはああああ!?」


 梓美の無重力圏から離れたら間違いなくそのまま身を投げかねないくらいに羞恥に悶えるミアル。そうはさせじと梓美が強く抱きしめれば抱きしめる程その温もり、魔力を感じてしまい、先程の痴態がフラッシュバックしさらにじたばたともがく。


「あの、お二人が仲睦まじいのはいいというかお腹いっぱいなのですが、フィリスさん、今も戦っているのですわよね?」

「そうだった!ミアル、もういっそこのまま行くから!義姉様はまだ本調子じゃないだろうし横穴で休んでて!」

「うえぇ!?待ってボク今のままフィリスに加勢なんてええええぇぇぇぇぇ!?」


 色々と見ていられないヴァイラナが口を挟むと梓美は現状を思い出すとミアルを抱えたままクレーターの外に飛んでいく。今もフィリスが戦っている為ドラゴンへの特効を持つミアルの精神が回復するのを待つわけにもいかず、強硬手段を取られたミアルの悲鳴が木霊した。


「待って梓美無理!今フィリスに会ったらなんて顔をすればいいの!?」

「笑えばいいと思うよ?」

「笑えないよ!トドメ刺してどうするの!?無意識でも魔力が人を熱に浮かせるくらいにため込んでるんだよ!?」

「私だってビックリよ!私イモリの黒焼きなんて『焔鯢竜』に組み込んでないよ!?」

「何の嫌がらせだよ!確かに梓美論だとサラマンダーって焼きサンショウウオだけどさあ!?」


 わーぎゃーと叫ぶミアルと梓美。見送ったもののしっかりと音は拾っているヴァイラナは一人頭を抱えるのだった。


「シャアアアアアアアア!!」


 そんな二人にドラゴンの一頭が飛来する。餌にするには小さいが、さっきから殺気にあてられたり爆炎に晒された苛立ちもあり手ごろな二人に襲い掛かったのだ。しかし、そのドラゴンは致命的なミスを冒した。抱えられている少女は竜にとっては天敵に等しいのだ。


「うるさぁーいっ!!」


 相手が竜だったため即座に精霊形態になったミアルが雷撃を放つ。バザラゲートを介さない雑な雷撃でも『霆凰』の持つ特効効果により竜にとっては今のフィリスの攻撃より痛打たり得る。


「ギャアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!?」


 甲殻の護りを透過して流れ込んだ電撃が竜の体内で暴れ回り、直撃を受けた竜が絶叫を上げる。獣王竜の様に回復能力に優れていなければ特効により強化された痺れの残留によって満足に体を動かすことも適わなくなる。

 竜は身体が痺れながらもなんとか墜落は免れようとするが、尻尾から強く引っ張られ、移動もままならなくなる。何事かと振り返った竜の視界の先には尾の先を両手で掴む梓美の姿があった。


「すあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ガァァァァァァァァァァァァ--------ッ!?」


 竜は梓美を中心に円を描くようにぐるぐると振り回される。梓美が怪力を得たのではなくここ数時間で上達し、精霊形態によって出力の底上げがされた重力操作によるものだがジャイアントスイングされる竜にとっては原理はどうだっていい。尻尾を掴まれて振り回されるなど前代未聞、ただただ恐怖するばかりだ。


「せええぇぇぇぇい!!」

「ギャアアァァァァァァァ--------ッ!」

「ガアッ!?」


 そのまま梓美はフィリスにブレスを放っていた赤いドラゴンへジャイアントスイングしていたドラゴンをぶん投げた。梓美の手元を離れた瞬間に質量を取り戻した竜の巨体はそのまま衝突した赤竜を諸共に吹き飛ばす。


「え?……は?……はああ!?」


 目の前で竜同士が衝突して吹っ飛ばされていった光景を目の当たりにしたフィリスは呆然と竜が飛んでいった方向と梓美を交互に見る。が、すぐに見なかったことにして他の竜の対処に移る。

 そんなフィリスの心境を余所に、勢いよく地面に降り立った梓美は着地と同時に足を通じて周囲に魔力を流し、無重力状態が発生する。幾つもの岩や礫が着地時の衝撃で巻き上げられたかのように梓美の周囲に浮かぶ。それらは火の魔法も加わり灼熱しながら凝固していくと赤熱した巨岩へと変わっていく。


「"灼岩礫(しゃくがんつぶて)"!!」


 梓美の腕の動きに合わせ巨岩が緑色の竜へと飛んでいく。それなりの質量、それが赤熱しているのだから当たればただではすまないが、所詮は一直線に遠くから飛来する岩、竜は難なく躱す。しかし次の瞬間、巨岩が炸裂、高熱を伴う礫が散弾となって竜を襲い、苦悶の声が上がる。


「まずまずといった感じかな。ミアル程強力な特効じゃないけどドラゴンともそれなりに戦える。やっぱり四元素全部の扱いが向上したのは大きいな」


 構成要素や必要分の補充の為にミアルやフィリス、精霊の骸から魔力を取り込んだことによる副産物だったが精霊形態の梓美は適性の無かった四元素全てを人間族の適性持ち並みに扱えるようになっていた。梓美自身の魔法センスと合わせてドラゴンの鼻へ高圧水流、ブレスを放とうとした下顎へ石柱のアッパーカットと次々と変幻自在に魔法を放つ。一発一発はドラゴンを倒すには至らないものの、嫌なタイミングで放たれ、ミアル程ではないものの竜への特効が乗った魔法の数々はドラゴンの戦意を徐々にそぎ落としていく。


「できれば本命の特効が効く異世界人相手に試したかったけど……」


 梓美の疑似精霊『天星の戦乙女』の特効となる対象は『異星・異界存在』。これは現在いる星の外の存在及びその影響を強く受けているものを指し、惑星外からの存在が降って来ない限りは基本的に異世界人への特効となるだろう。

 それを可能にしたモチーフは『星の戦士』。コズミックホラーに登場するオリオン座の方角から赤い火球となって飛来し、旧支配者すら封印、時に倒してみせた『旧神』にカテゴライズされる神性だ。異世界から降りてきた者が同じ異世界の存在を相手取るには適した存在である。炎を放って攻撃するとされる星の戦士を再現するために梓美はフィリスの火属性の魔力を必要とした。


「けど、竜への特効は持っておいて正解だったね。獣王竜への対策にもなるだろうし」


 ミアルの希望に沿って取り入れたもう一つのモチーフは『烏天狗』。剣術や神通力に長けるとされ。風に関りが深く、妖怪、時には山神としても扱われる日本にもなじみ深い存在だ。これが星の戦士とどこが共通するかと言えば、実は天狗は流星やそれが大気摩擦で燃える火球が由来とされている。

 梓美はどちらも宇宙から火に包まれて降りてくる、という繋がりで一見大きく異なる二つのモチーフをつなぎ合わせた。天狗にも複数種類いる中で烏天狗をチョイスしたのは一般的にイメージされる天狗では鼻が高くなりそうで嫌、というのと烏天狗の起源とされる『迦楼羅天』、またの名を『ガルーダ』の毒蛇や竜を食するという要素を竜への特効効果として組み込むためだ。

 さらに精霊の骸から得た魔力を基にこの世界の精霊そのものも構成要素に取り込んだことで、『星の戦士、烏天狗の二つで構築された疑似精霊』ではなく、『星の戦士、烏天狗の両方の性質を持つ精霊』として疑似精霊を再定義、より構築に自由度を持たせることができた。梓美の四元素の魔法運用能力が向上したのはこれによるところが大きく、応用すれば二人の疑似精霊の構成もより最適な物に構築し直せるだろう。


「とりあえずはここで使い心地を試さないと。本来の想定とは違ったけど初運用がドラゴンの群れってのも贅沢な話だよね」


 まだまだ敵意を持つ竜はわんさかいる。一般的な冒険者には絶望的な光景だが、規格外の能力である精霊形態の性能を確かめるにはもってこいの状況とも言える。魔の森の頂点ともいわれるドラゴン達は今や梓美の目にはサンドバッグに映ってしまうのも無理からぬ話だった。


そんなわけで『天星の戦乙女』のモチーフは『星の戦士』と『烏天狗』です。何故この二つの組み合わせなのかというと、作中で語った理由の他にももう一つ、あるイメージ元があるからです。

とはいえ烏天狗が持つという神通力は今後の展開に使えそうですね。


『ヒントが欲しい!』

『まさかこれが理由!?』

『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』

『フィリス頑張れ超頑張れ』


他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を是非宜しくお願いします。感想貰えたりブクマが増えていると大変励みになります!


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― 新着の感想 ―
[一言] 『星の戦士』 あのウルトラなヒーローとの奇妙な偶然の一致で知られる、アレですか~。 なんかもうそれだけで、めちゃくちゃ強そうな気がしてきました。(笑)
[気になる点] ゴブリンにさらわれた同級生のその後が気になっていたり… やっぱりノクタ路線でしょうか [一言] 楽しく読ませて頂いてます。 この先の三人の関係がどうなっていくのか楽しみです。 個人的に…
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