26話~梓美の精霊形態~
「だああああ!もう!てめえら邪魔だぁ!!」
異世界人二人との決着を早々に着けるべく、積極的な攻勢に出たフィリス。武器を失い、心も折れた彼らを完全に無力化ないし引導を渡すのは容易いと思われたが。ここで思わぬ事態が発生した。いや、正確に述べるなら梓美の『やり過ぎ』をやらかすことに焦ったフィリスが失念していたが故に引き起こされたのだが。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
「ギシャアアアアアアアアッ!!」
フィリスは複数のドラゴンからの襲撃を受けた。現在天地問わずに次々に放たれる火や風、衝撃波といったブレスが四方八方からフィリスに殺到している。クレーター周辺に集まったドラゴン、その中でも強力な個体から放たれるそれはフィリスの動きを止めるに有り余るほどだった。
何故ドラゴン達がフィリスに襲い掛かったかと言えば、攻勢に出たフィリスに非がないとは言い切れなかった。フィリスは魔獣達が狩りや食事をしている場で唐突に周囲に"威圧"をばらまき、爆発を伴う蒼炎を放って暴れまわったようなものだ。とばっちりを避ける為に多くの魔獣達はその場から離れていったが、まだその段階ではフィリスの行動目的が防衛や時間稼ぎという言い方を変えれば受動的なものだったため、"威圧"を受けながらもドラゴンは警戒、静観するに留まっていた。
しかし、フィリスが能動的に動けば話は別だ。周囲にばらまかれていた"威圧"がその圧力、さらに込められた殺意が増大し、その発生源であるフィリスが強い攻勢に移ろうとしたのを感じ取ったことで一斉にドラゴン達は排除にかかった。ドラゴンにとってフィリスは強烈な殺気と暴威を振るい、この餌場を荒らす無法者にしか見えなかったのだ。フィリスは攻勢に出るにしても周囲の魔獣達を極力刺激しないようにしなければならなかった。
岸田と須藤はこの混乱に乗じて破壊された武器もそのままに離脱。魔獣除けのアーティファクトの効果はドラゴンにも及ぶのか襲われることなく魔の森の向こうへ消えていった。フィリスは追撃しようにもドラゴンの攻撃に対処せざるを得ず足止めをくらい、結果として二人を追うことも梓美を止めに行くこともできず身動きが取れなくなっていた。
「お前らさっさとどきやがれ!早くしないともっと面倒なことになるんだよ!」
飛来するブレスを時に蒼炎で相殺し、時に炫蛇を振るい弾き飛ばすフィリス。聖光神教の象徴である獣王竜ならいざ知らず、他の竜種にはフィリスの《報復》による特効の補正が無い。放つ魔法は岸田らに振るった程の効力は発揮できないため、矢継ぎ早に放たれてくるブレスを相殺するので精一杯だった。さらに都合が悪いのはドラゴン達はフィリスをクレーターから、正確にはクレーターを中心とした『餌場』から遠ざけようとしていることだ。フィリスは梓美を止めるべくクレーターに向かいたいのにドラゴン達は倒せないならばと追い立てようと攻撃をしかけている。徐々にクレーターから引き離されていくフィリスは焦りを募らせていく。このまま自分がやられるという不安は無く、この状況も竜への特効を持つミアルが加われば打破することができるだろう。
しかし、自分以外がこの状況を把握していないのが問題だ。異世界人の二人は梓美が危惧したほどの力は無く、既に彼らは去った以上この場でこれ以上の戦闘の必要は無い。後は全員で合流しこの場を去ればいいのだが、梓美はそれを知らずに最初の想定のまま突っ走ろうとしている。このままでは間違いなく面倒ごとの種が増えるだけの結果に終わることは想像に難くない。さっきまでは時間稼ぎのつもりで戦っていたのに、今ではまるで自分が時間稼ぎされているかのように感じ思わず歯噛みしてしまう。
そして、その時は来てしまった。
「あ……」
クレーターの方に視線を向けたフィリスは目撃した。赤い光がクレーターの底から上まで勢い良く昇ると、こちらへまっすぐ飛んでくるのを。まるで流星が落ちてくるようなそれを目の当たりにしたフィリスは自分が間に合わなかったことを悟り、遠い目をするのだった。
◇
ミアルがヴァイラナに事の経緯や諸々を問い詰められていた隙に梓美は書置きを残すと自らの気配を隠しつつ上手く力が入らない体を"身体強化"で強引に動かして横穴から抜け出した。目的は精霊の骸。"降神霊機構"によって疑似精霊を構築する為に単純に足りない魔力量を精霊の骸の内部の魔力と"陽光変換"で補うつもりだ。"遠望"によってフィリスが滑り落ちた痕跡、そしてその先の砕かれた精霊の骸を見つけると自ら"奈落"の中に潜り込み、目標地点に向かって有効範囲ギリギリで離れた座標で自分を"奈落"から排出する。それをまた"奈落"に入っては出てを繰り返すことであっという間にフィリスの砕いた精霊の骸の傍らにたどり着くことができた梓美。まだ体に上手く力が入らないので『べしゃっ』と音が立ちそうな感じで"奈落"から転がり出る梓美。そのまま頭部が砕かれた精霊の骸の首部分の断面に寝そべると"陽光変換"と"夜爪刈"と似た魔力吸収の魔法で日光と精霊の骸から魔力を補充していく。
梓美にとって太古の精霊が化石化したといってもいい精霊の骸は、疑似とはいえ精霊を模した力を使う身としては畏敬すべき存在だと感じているが、事故とは言え破壊してしまった以上『壊した理由』が無ければ壊され損、必要もなく徒に獣を仕留め捨て置く様な行為にも思えた。何より梓美は皆が生き残る為の手段を出し惜しみするわけにいかなかった。
「じゃあね、人間の私。……なんて」
これから始めるのは真っ当な人間をやめる行為。自身に疑似精霊を宿らせるともすれば邪法とも呼べる手段。それでもミアル達と同じ時間を生きていくためには、それを妨げる物をはねのける力を得る為にもこれは必要なことだ。人間の自分の身体との別れは軽いものだった。別に少し身体が変わるだけで梓美自身のパーソナリティが大きく変化するわけでもない。それはミアルやフィリスが証明している。だからこそ少し寂しさのような物は感じても恐怖は無い。一度深呼吸。そして、梓美の周囲にいくつもの魔法陣が出現する。
「---"降神霊機構・投影"」
梓美のイメージを基に自前の魔力、陽光から変換した魔力、精霊の骸から取り込んだ魔力、そしてミアルとフィリスから分けて貰った魔力が擬似精霊を構成する魔法術式群の構築につぎ込まれていく。イメージを補佐するのは実在、非実在を問わずの梓美の知識の中の伝承の存在。その能力、性質を再現することで梓美の求める力を持つ擬似精霊が構築されていく。
「『火』で構築する分は完了、でもミアルの魔力で作る『風』か『水』を必要とするモチーフは……」
フィリスの魔力が必要だった構成要素は出来上がった。しかし、ミアルとの約束である『風』か『水』の魔力を必要とするモチーフの構想が定まらない。どうしても異世界人を相手取るのに必要な一つ目のモチーフと梓美のフィーリング的にかみ合うものが浮かばないのだ。
「ノーデンス、ハスター……ああ、もう!個体としての神性はモデルに縛られやすくなる!せめてバイアクヘー……いやいやミアルの魔力をそんなのに使うとか何考えてるの私!?」
ここに地球出身のある特定方向のオタク知識を持つ者がいたら聞き捨てならない単語が梓美の口から溢れていくが片端から没にされていく。ミアルの『霆凰』のように雷神にあやかって雷そのものを強化するのとは違い一個体としての神性をモチーフにするのは梓美の気の進むところではなく、フィリスの『焔鯢竜』に使われた鯢大明神も『サラマンダーはこういう信仰もされる』というこじつけに近い。余程似通ったモチーフでしっくり来ない限りは取り入れるつもりはない。
「そもそもジャンル被りもイメージできる能力が偏りがちになりそうだし……外宇宙……」
一つ目のモチーフはとある『外宇宙から飛来した存在』であり、異世界人の自分との相性は良く感じた。それに特定個体を差す存在ではないのも気に入った点だ。それゆえルーツが異なり、似た伝承の風や水に関連する、それも複数いる存在が梓美の疑似精霊のもう一つのモチーフに望ましい。梓美はとにかく関連しそうなワードを呟いていく。
「星……恒星……超新星……駄目だ、ズレてきてる。……ん?……流星……凶星…………これだ!!」
梓美には一つ該当する物が浮かび上がった。いや、正確には思い出せた。これこそが梓美が昨晩眠りに落ちる寸前に思いついた存在だったのだ。
それは流星が起源とされるもので、日本でもなじみが深く各地で信仰が存在しているので梓美自身との相性はいい筈だ。何より、『風』ととても縁のある存在で、ミアルの『霆凰』のモチーフのサンダーバード同様、その姿に鳥がモデルとなっているのが気に入った。梓美の脳内に浮かび上がる二つのモチーフには『火球(流星)』という共通点が存在し、ルーツの異なるそれらを梓美は一つの共通点で結び付け、構築していく。
「出来てきた出来てきた出来てきた……!」
二つのモチーフが梓美の中で組み合わさっていく。そしてもう一つ、梓美に嬉しい誤算があった。
「精霊の骸、地属性だ……」
図らずも精霊の骸が有していた地属性の魔力も取り入れることができた。ミアルの風と水、フィリスの火の性質を持つ魔力を組み込み、二人には及ばないものの扱えるようにした今、どうせなら最後の一つも使えるようにしたいというのが人の心。梓美はさらに完成しつつある疑似精霊を補強するかの様ににこの世界で信仰が残る『精霊』そのものの要素を精霊の骸の魔力を用いて構築していく。それは本来の想定よりも四元素の魔力を組み込んだことで汎用性、そして可能性を獲得していた。
完全に梓美のイメージが魔法術式群、擬似精霊として梓美の中に刻み込まれると周囲の魔法陣は消えていく。
これで梓美は人間の枠を飛び越えたことになるだろう。そんな感慨に浸る暇も無しに疑似精霊を構築している間に体の気怠さが抜けてきた梓美は立ち上がり、フィリスがまだ戦っているであろうクレーターの外を見上げる。
「準備完了。……よし、フィリス、今行くから」
意を決し梓美が足場にしていた精霊の骸を蹴るように跳び上がる。重力操作で上昇を続ける梓美の体が赤い炎を伴う旋風に包まれていく。そのまま殻の様に炎風に身を包んだ梓美はクレーターの外縁部、その上まで上昇するとフィリスの気配のする場所へ急降下し、あたかも流星の様にドラゴン達とフィリスの間に飛び込んだ。
ドラゴン達が戸惑い攻撃の手が止まる中、内側から掻き消えるように吹き飛んだ炎風の中から梓美が姿を現す。
その姿はミアルやフィリスの様に魔力体によるシルエットの変化はほぼ無いものの、開かれた瞳は茶から金色に変わり、光の照り具合で茶が映える黒髪は銀色に、そしてその髪こそが魔力体によって腰まで届く長髪となっていた。これこそが梓美の精霊形態、その姿である。
「お待たせ、フィリス!……これが私の精霊形態『天星の戦乙女』……って何その顔!?」
すぐさまフィリスに向き直った梓美だったが、期待していたでもなく驚くでもなく、ただただ諦観にも似たフィリスの遠い目に納得いかないとばかりに声を上げるのだった。
この時フィリスはこう思った。
(----ああ、間に合わなかったぁ……しかもばっちり髪とか目とか色々変わってるし。というかミアルには見せたんだよな?いや見せてない!こいつの事だから大急ぎでこっちに来たに違いねえ!早く見せておかないともっとミアル拗ねるぞ!?)
故に、つい目を逸らし叫んでしまった。
「いいから早くミアルに見せてこい!!今あたしは何も見ていない!というかミアル呼んで来い!!」
「ええええええええええええええ!?」
梓美の精霊形態、その最初の役割はミアルをお披露目を兼ねて呼んでくることだった。納得いかないながらももう異世界人は逃げたと告げるフィリスの圧はとても強く、渋々梓美はクレーターに戻るのだった。
間が悪くなんとも微妙な初登場を飾った梓美の『天星の戦乙女』ですが、構成要素にヴァルキュリアそのものは使われていません。描写の通り大きく分けて二つが主な構成要素で、実は梓美が結びつけた『流星』ともう一つ共通点があります。
そしてミアル、フィリス、梓美三人の擬似精霊もある共通したコンセプトがあります。
ヒントは梓美が没にしたアジ・ダ・ハーカもそのコンセプトに該当しうる存在であること。
『もしやこれがモデル!?』
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリス頑張れ超頑張れ』
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