23話~真(新)・焔鯢竜~
前話最後部分フィリス視点。
フィリスは梓美が『焔鯢竜』の本来の能力が発揮できるようにし、ヴァイラナの治療をするミアルの手助けにクレーターへ向かった後、強化されてすぐに発動した"威圧"が遠方の異世界人二人に通用したことを確認すると初撃にかつて獣王竜にトドメを刺した"蒼焔斬"を挨拶代わりに放った。攻撃は距離と土壁に隠されたこともあって僅かに逸れたが、土壁、そして魔力による障壁をまるで存在しなかったかのように熔断した。その威力が前回放った時と遜色ないにも関わらず装備に一切の反動無しと確信したフィリスは先程の梓美との会話を思い出していた。
◇
「『焔鯢竜』に追加される能力は出力の向上の他に火炎操作の補助、闇属性系、特に精神作用の強化。出力に関してはあの獣王竜にトドメ刺した時の状態並みだと思って」
「ああ。あの時と同じか」
フィリスは頷く。あの時が本来の『焔鯢竜』の姿、本来の火力ということをフィリスは知っていた。同調中で狙いが荒かったとはいえ攻撃を凌ぎきった異世界人二人に注意を向けながらも梓美と『焔鯢竜』の能力について確認する。
「熱量については魔力の操作で調整できると思う。火属性は自身の炎の熱を上げ下げ調整できるし、定期的に炎を消して素振りすれば炫蛇なら熱をすぐに逃がせるし熔解はないでしょ。火炎操作の向上もそれに一役買ってる。自身から出た炎ならこれまで以上に扱いやすくなってるよ。さすがにミアル程じゃないとは思うけどね。で、本格的な追加能力の闇属性面の強化だけど、これまでが直接魔力への侵食、引火や誘爆を促す程度だったんだけど、さらに対象への破壊効果と簡単な精神面への干渉効果を炎に乗せられるようになってる。闇属性自体もこれまでより扱いやすくなるはずだよ」
「ん、んん!?」
しかし、追加の能力に関しては一瞬耳を疑った。
対象への破壊効果は命中箇所に魔力が浸透、炸裂することでダメージを与える闇属性による効果である。ヴァイラナの紫電も同様の原理であり、梓美はそれを取り入れた。これで爆発によって破壊力を高めていたフィリスの炎が爆炎に頼らずとも対象を焼くどころか直接崩壊させることも可能になる。
精神面への干渉も闇属性の効果で付与した魔法が接触、時にかすめただけで相手の恐怖を煽ったり、周囲に放出して味方の精神を安定させたり鼓舞させるのを時折梓美が使っているのでフィリスも効果の程を知っている。
梓美はフィリスが本来魔法が不得意な種族である爬虫人族であるがゆえに二属性目の闇属性を扱いきれないのを補おうとしたのだ。『焔鯢竜』は祟り神である『鯢大明神』の要素を含んでいるので闇属性とも相性が良く、闇属性魔法を補助する機能を組み込むのは容易だった。
それらが、獣王竜を斃したあの時の状態に上乗せされる?
「破壊も精神干渉も魔力による防御手段で軽減ないし防がれるからその時はこれまで使ってた魔力に直接引火して燃やしたたり爆発させる効果で魔力ごと炎に巻き込んでね。複数の効果を同時に炎に付与できるかはフィリスの実力や鍛錬次第ね」
「いや、それはいいんだが、今の状態でさらにそれが加わって……?聞いたら怖くなってきたんだが」
確かにこれだけの能力ならミアルの『霆凰』に匹敵するのも頷ける。しかし、やはりやりすぎではないかとフィリスの中の常識が訴える。しかし、これから対峙するのは梓美と同じ異世界人であり、油断も妥協も許されないのは目の前の少女の存在が物語っている。
「出し惜しみでフィリスを死なせるつもりはないから。これでもミアルみたいに一気に複数属性を纏め上げて雷にするような元々の属性と別の現象を発生させる芸当は無理。あくまでフィリスのこれまでの戦闘スタイルの延長上にある効果だけよ」
「延長分がかなり枝分かれしてる気がするんだが!?」
「大丈夫よ。扱いきれなさそうなら元々の戦い方でもいい。出力と扱いやすさが上がってるだけでも戦いやすくなってるだろうし無理に全能力を扱おうとしないでいいよ。ただその気になったらそういうこともできるって覚えておいて」
「おう。けど、早めに扱えるようになってやる。あいつらを足止めしつつ練習台と思ってやってやるさ」
「フィリスのそういうところ心強いけど無理も油断もしないでね」
無茶苦茶をしているどの口が言うか、と思ったフィリス。そんな無茶苦茶常習犯の梓美は「ん?」とふと視線が少し下がると、はっと何かに気付いたのか慌てて"奈落"に手を突っ込む。
「フィリス!これ!」
「ん?」
梓美が"奈落"から取り出したのはフィリスの胸部用防具。クレーターから出る時フィリスが外した為梓美が預かっていたのである。アーマーを差し出す梓美は頬は赤くなっている。
「防御云々以前に今のフィリスの胸はヤバい!あいつらに見られる前に早く隠して!」
「は……?え?……--------ッ!?」
フィリスは自分の視線を下げると汗ばんでしっとりとした黒インナーが胸に密着しており、豊満なバストどころか先の同調の時からツンと硬さを持ったままの二つの頂点の輪郭まではっきりと浮き出ている。ともすれば何も身に着けてないより淫靡に見えるかもしれない絵面だ。こんな状態で先程まで梓美に胸を押し付けていて、今もこの有様を見られていることを理解したフィリスも顔が赤くなる。風呂場で互いに裸を晒しているのとはわけが違い、至近距離でまじまじと恥ずかしい状態を見られているのだから無理もない。梓美がすぐ正面にいるので他からは見られていないのが不幸中の幸いか。
「み、見るなぁーーーーーーーーーーーっ!?」
咄嗟に胸を両腕で隠すフィリス。しかし、押さえつけられた豊かな胸が腕からはみ出ており、普段のフィリスが見せることのない同調後の気まずさ混じりのそれとも違う純粋な年頃の少女らしい恥じらいの様子と合わさり破壊力抜群であることを当の本人は気付いていない。
「フィリス……なんか可愛い……」
「なにボーーーーッとしてんだ!早く防具渡せ!そんでさっさと『焔鯢竜』強化しろぉーーーーーっ!」
涙目で叫ぶフィリス。遠目には仲間割れに見えた言い合いの実態がこれである。別の意味で見るに堪えない光景だったかは人それぞれだろう。
◇
「まずい、思い出したら顔が熱くなってきた」
能力の説明より鮮烈に頭に残ってしまった胸の一連の話を思い出してまた顔が赤みを帯びる。そして同調の疼きが残ったままインナーが張り付いた胸を見られた際のやり取りよりもその後に言われたことがフィリスにとって強烈だった。
(何が『胸のこと、あいつらにフィリスのことをやらしい目で見られる前に気付けて良かった。すぐに色々済ませて戻ってくるけど、もし口説かれたら教えて。私があいつらにトドメを刺す』だ)
梓美はクレーターに降りる前、フィリスにそう告げた。梓美は仲間がそういう目で見られ同郷の恥がさらされるのを純粋に嫌と思っただけなのかもしれない。というか恥ならすでに梓美が初対面の風呂場で晒しまくりな気がする。
けれどクレーターから昇る時に上半身インナー姿で密着したりミアルの嫉妬で落ちそうになって騒ぎ、必要なことだったとはいえ魔力同調で限界ギリギリにされてその結果疼いた証拠を近くで見られるという色々恥ずかしい思いをした後に、まるで独占するかのような言葉を投げかけられた。今の動機はリフレインした諸々の恥ずかしさから来るのか梓美の言葉なのかが自分でもわからない。
「……あいつはいつもいつもあたしの調子を滅茶苦茶にするんだよなあ」
思えば梓美とは初対面からして変な出会いだった。梓美はミアルと仲睦まじく風呂に入ってきて人目があることに気づかずミアルに迫り出した。自分がそれを止め、のぼせたミアルを梓美が引き揚げて撤収した後、鼻血を出して沈んだ他の客を救出した際、実はフィリスはもし止めなかったらどんなことが繰り広げられていたのかを考えてしまい悶々としていた。
彼女達が冒険者デビュー早々にシェルヘッドベアを討伐してギルドに目を付けられた時も、年が近いソロ冒険者だからと自分がお試しパーティーメンバーに斡旋され、冒険者活動を共にすることになった。そこでも梓美とミアルがオフの時に仲睦まじく、時々二人の朝の様子が変なのを見て妙な気持ちになったりもした。
そして聖光神教の襲撃に遭い、二人が獣王竜のブレスに吹き飛ばされた時は心臓が凍りそうになった。動けるのが自分独りになろうとも戦い死に掛けたところを生きていた梓美に規格外な魔法で命を救われるとともに強大な力を自分にもたらしてくれた。決着が着いた時かつて幼い頃に獣王竜に家族や故郷を奪われた過去を乗り越えられた気がして感謝していたのだがそれと同等に梓美の力に戸惑いを隠せなかった。案の定梓美は異世界人というただならぬ事情の持ち主でその力の恩恵を受けた自分は彼女らの内情に巻き込まれたと言っても過言ではない。梓美のスキルになぞらえて言うならうっかり目に留まったばかりに舞台に立たされたような気分だ。国家規模になるレベルでスケールの大きくなった話に気が遠くなったのを覚えている。
以後なんだかんだで普段も梓美達と一緒にいることが多くなった。梓美の作る料理の美味しさに驚き、梓美の正式に恋人なったと今更なミアルに牽制されたり、そんな様子を見られて周囲に密かに愛人呼ばわりされ、梓美に不自然な跡を見つけて内心動転したり、変な発想に頭を痛め、トンデモ技術による装備を開発してもらったりとどうも梓美関係で落ち着かないことばかりだ。ミアルが警戒するのも無理はない気がする。
今回の隕石調査も梓美がホブゴブリン達と会話しだしたりミアルとヴァイラナの妖精族姉妹のじゃれ合いに巻き込まれたりと普通に冒険者業を続けていたとしたら考えられない事態がぽんぽん起きる。楽しく思える時もあるあたり毒されているのかもしれない。
行動を共にするようになったのは与えられた力である疑似精霊『焔鯢竜』が適合しきれていない不調を治すためでもあるのだがそれが特に色々と厄介だった。魔力同調によって最初は延々と弄られ愛撫されているような感覚に浸され、一度その感覚の許容量を超えても変わらずむしろ漬け込まれ溺れさせられたかのような体験が鮮烈に記憶に残っている。その後、回数を重ねるたびに魔力同調の感覚に浸される時間は短くなり、そのくせ魔力をいじられる感覚は段々強くなるのだから最初の数回以降は許容量限界まで押し上げられたところでピタリと終わることが殆どだった。梓美なりに気を使って早く終わらせようとしているのと技術が向上しているからこそ早く終わっているのだろうが物足りなく感じてしまっている自分がいる。
----そして今回もそうだ。梓美と同じ異世界人、それも聖光神教に所属する二人からの奇襲を受け、最悪の場合を考え『焔鯢竜』の本来の能力が発揮できるようにする必要があった。よりにもよって上半身肌着一枚の状態で密着して、だ。普段とは違う魔力を身体から吸い出されながらの同調をされながら敵への牽制をしなければならず、フィリスは必死に耐えた。ところが梓美まで取り込んだ魔力に悶え始めてしまい、そんな姿に時折梓美の首や足に赤い跡ができていたことが脳裏に浮かんだ。その跡が作られている時の梓美の姿を想像してしまい、その想像にあてられたばかりに久々の限界が来てしまった。フィリスは緊迫した状況なのにこんな醜態を晒す自分を不甲斐なく思い、----そしてまた寸止めを食らってしまった。結果的には良かったに違いないが身体が疼いてしまっている。そして胸部の防具を外していたためにその証を見られてしまい、最後にあの言葉だ。あと可愛いって言われた気もする。
「ああもう、今はナシだ!」
フィリスは梓美が時折しているように自身に闇属性の感情制御をかける。今は梓美へのドキドキモヤモヤは封印だ。梓美の施してくれた疑似精霊の強化でこれくらいは容易くなったのはありがたい。
落ち着いた頭で遠方の敵を見据える。この距離では攻撃の態勢に入ったところで敵の防御が余裕で間に合ってしまう。二人に向ける"威圧"を強め、歩みを進める。フィリスにとって無意識なのだが、発動時から"威圧"には火属性が混じっており、二人はまるで炎にあてられているような錯覚に陥っており、与える恐怖を増長させていた。
それが大して効いているとは思っていないフィリスの目には微塵も油断は無い。それでも胸の内から湧き上がる闘争心は抑えきれない。そしてそれなりの距離まで歩み寄ったところで炫蛇を振りかぶり、宣戦布告する。
「初めましてだな異世界人。ここから先を通すつもりはねえ。通りたきゃ、命を覚悟しろ。--------あたしはしぶといぞ?」
無論、ここで終わるつもりなど一切無い。梓美の《舞台装置》に乗せられて、大一番を任されてしまった者として無様を晒すわけにはいかず、何よりさっさと依頼を終わらせてまた休まることのない、それでも気の置けない日々に戻る為に。
なお、この戦いに勝っても今の鉄火場より酷い修羅場が待っている可能性大。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリス頑張れツッコミ超頑張れ』
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