20話~深層~
「うわあ、本当に生えてる植物が全然違う!これなんてかなり上質な解毒剤が作れる薬草だよ!」
三日目にして一行はようやく深層に踏み込んだ。生えている植物は中層とは完全な別地域に踏み込んだかのように一変しており、薬学の心得のあるミアルにとっては宝に溢れているようにも見える程に薬草としての価値が高い種類がそこかしこに群生している。なのでミアルは目を輝かせてから生態系に影響がない程度に片っ端から採集しては梓美に収納してもらっている。
また、生息する魔獣は既に中層に現れていたディノレックスやダイアティグリスのような大型の種類がやはり多くなっているものの、それらは戦闘経験もありそれほど真新しくは感じない。もっとも、ディノレックスにしろダイアティグリスにしろ中層で出会っていい類の魔物ではないのだが。梓美達にとって新しく見る魔獣は元々移動する生態のではない種類であり、それらは基本待ち伏せによる狩りを行うものが多い。今も梓美がその魔獣の存在を感知した。
「ってミアル!樹の上、多分大蛇!」
「うわっ、またこの手口!?」
梓美の声にミアルが上を向くと横幅だけで1mはありそうな大蛇が今まさに大樹から首を伸ばそうとしていており、完全に目が合う。
「………………」
「………………」
しばらくのにらみ合いの後、奇襲は無理と悟ったのかするすると頭を引っ込める大蛇。よく見ると樹の上部の蔓に見えている部分は大蛇が体色を変えて巻き付いているものであり、こうして獲物を待ち伏せていたのだろう。
「あの蛇、魔力が視えてるの?」
「多分な。あれが普通の蛇ならそのまま樹から飛び降りてもおかしくないが、気付いた状況でミアルに仕掛ければ先に反撃されるのがわかってるから襲撃を諦めたな」
「さっきからボクの苦手な待ち伏せ型ばかりだよぉ……」
先程からミアルが有用な植物を見つけては近くで待ち伏せしている魔獣に生命反応を闇属性で感知する梓美か今日もついて来たヴァイラナが気づいて迎撃という一連の流れが続いている。ミアルの風による感知は広範囲ではあるが、動きの無い相手を感知することは苦手であり、よほど集中していないと呼吸音を拾うことはできない。特に地中や樹上にいる類は上手く探知の為の風が届かないのでひたすら相性が悪い。
おまけに、偶然か必然かは不明だが有用な植物が生えている場所には大体近くに魔獣が潜んでおり、毎回遭遇している。ミアルも採集の際は自身に魔力の障壁を纏わせて奇襲には備えているものの、攻撃されないに越したことはないのだが、さっきから魔獣に後れをとってばかりだ。
「土の中に潜んでた蜘蛛にカエル、で、今回の蛇。これで待ち伏せ系は五回目ね」
「あのカエルの大口が迫ってきた時は肝が冷えたよ……で、梓美、本当にあのカエル持ち帰るつもり?」
「カエルだけに?」
「違うから!」
地中から奇襲を仕掛けてきた体長3m程の大カエルことアングラトードは咄嗟のミアルの反撃で口から脳内を貫通されてミアルに食らいつく直前で絶命したのだが、梓美が何かに気付いたのかアングラトードの腹を裂き、カエルにしては大きな肝を確認すると丸ごと"奈落"に収納したのだ。
「アンコウっていう魚が地球にいるんだけど妙にこのカエルが似ててね。こいつみたいに待ち伏せで獲物をとる魚で、獲物を消化する胃と栄養を蓄える肝臓が体内の大部分を占めてるの。もしやと思って腹を裂いてみたら大正解って訳。"解析"で食べても大丈夫なのはわかってるから鍋とかスープにしたら多分美味しいよ」
「まじか。あれ食うのかよ」
「ちなみにアンコウは骨と歯以外捨てるところは無くて食べれるっていうけど……どうする?このカエルも丸ごと食べてみる?」
「皮はどうなんだろ?食べれるような柔らかさじゃないと思うよ?かといって防具に使えそうな感じでもないし……」
「いや、こいつじゃないけどカエルの魔獣の革製品なら見たことがあるぞ」
「よし、皮は売ろう。……今のうちに胃の中身出しておいた方がいいかな?」
「うーん……どことなくツッコミどころがあるような気がしますわ……」
仕留めた魔獣は基本持ち帰るようにしているミアル達。丸ごと持ち帰れるものの、今回の本命の隕石の大きさも不明な為、できるだけ"奈落"の容量は残しておきたい。胃の内容物を出しておくだけでも体積を節約できるしギルドの解体場で処分する手間も省ける。
とはいえ、カエルを食べる、といのはこの世界ではあまり一般的ではなく(日本でも一般的ではないが)、普段ツッコミに回るフィリスも魔獣素材の算用についてはむしろ乗り気であり、梓美の深層のカエル魔獣を食べる方針に異を示さないあたりなんだかんだで梓美に毒されているのでは?と感じずにはいられないヴァイラナであった。
「あまり採集に気を取られるとまた日が暮れるぞ。今日中に隕石回収して昨日の更地に戻る。とりあえず急ぐぞ」
「「はーい」」
さすがに深層で夜を明かすのはリスクが高いので文字通り道草を食う、というより採集し続けているわけにもいかないので、一行は隕石の落下地点へ歩みを急ぐことになった。
◇
「うっわあ……」
「思ったより酷い有様だね……」
それからしばらくして、落下地点が見えてきた一行は言葉を失ってしまう。
ミアルとヴァイラナの戦闘でできた更地の何倍もの広さのえぐれた地面におびただしい量の魔獣の亡骸。そして死肉を貪る魔獣とさらにその魔獣に襲い掛かるより上位の肉食魔獣。ミアルが中層から見た時よりも争う魔獣の数は増え、完全な魔獣無法地帯と化していた。さらに状況を悪くしている物が一つ。
「なあ梓美、ミアル。お前ら遠く見れるだろ?あそこにいるのって……」
冷や汗をかくフィリスが指さした先。ミアル達が"遠望"を使いつつ目を凝らすとそこには斃されたばかりだがどこか焼かれたようなディノレックスの死体。そしてその肉を貪るのは赤い鱗にやや長い首、頭部には後方に伸びた角があり、背には大きな蝙蝠や翼竜のそれに似た翼膜の翼。そしてそれらを支える四肢。
ーーーーー竜が、そこにいた。
「ディノレックスの死体が焼かれている、ってことは火竜?よく物語に出てくるやつ」
「赤い鱗だしそうかも。-----待って梓美。よく見たらあちこちに竜がいる!」
竜は一頭だけではなかった。ミアルが見渡した限りでは十頭近くの竜があちこちで死肉目的の魔獣相手に狩りをしている。
「ここまで竜が集まるなんて珍しいですわね……」
「大災害の傷跡も被害を免れた連中にとっては狩り放題食べ放題の食堂になっちゃうんだね。自然界ってやっぱりたくましいね」
「まあ、ボク達もここに隕石目当てで来てるから火事場泥棒みたいなものなんだけどね」
「う、あまり否定できない……あまりここで大騒ぎするのはよくないよね。ミアルなら倒せるだろうけどドラゴンの巨体持ち帰る余裕はないし」
「……普通竜とか見たら逃げるレベルなんだけどな。なんかあたしも常識のラインがおかしくなってる気がするぞ」
「というより、竜相手に普通に大丈夫なのはミアルだけですわ。もし複数体に襲われればわたくし達、特にアズミさんが危険ですわよ?」
ヴァイラナの言う通り、ここで無用な戦闘をするメリットはない。巨体を持つ竜が体の大きい他の魔獣を差し置いてわざわざ人間サイズの相手を襲うとは考えにくいが、襲われた際のどさくさに紛れて他の魔獣が襲ってくるとも限らない。一行はヴァイラナの身を隠す魔法をミアルと梓美が支援してできるだけ気付かれないようにクレーターの場所へ向かった。
魔獣達の目をかいくぐり、肉を食いつくされて散らばる骨を踏み越えながらクレーターの淵にたどり着き下を覗き込んだ一行が目にしたのは、数十メートルもの深さのクレーターの中心に鎮座する巨石、そして、
「何あれ……?」
クレーターができたことで露出した地面から覗く、手、足、頭部のような、何かしらの生物のパーツの様な鉱石達だった。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリス頑張れツッコミ超頑張れ』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を是非宜しくお願いします。感想貰えたりブクマが増えていると大変励みになります!




