19話~梓美の疑似精霊の条件~
「それで、梓美は何を考えてたの?なんか魔力の流れが変で、ボク少し起きちゃったんだよ?」
「うぅ~、至近距離が祟ったかぁ~。ごめん、ミアル」
「気にしないで。それにしても梓美はすぐに感情が魔力の流れに出るよね」
夜の見張りをフィリスたちと交代したミアルと梓美。ミアルが梓美を抱き枕にしていたという中々に恥ずかしい姿を見られた顔の熱が冷めた頃合いでミアルが梓美に話しかける。
梓美が異世界人対策を考えていた時、感情と共に魔力の揺らぎを感じてミアルは少しの間目を覚ましていた。とはいえ半寝半起きにも満たない程度で、特に異常もあるわけでなかったためすぐにまた寝付いたのだが。
「何か怖いことでも想像しちゃったの?ボクに相談できないこと?」
ミアルは梓美が孤独だったり、力不足が引き起こす喪失だったりと、現在起こり得ることよりも『もしも』のことに怯え、余裕を無くす時があるのを知っている。梓美が強くなろうとしたり新しい魔法、戦闘の技術を習得しようとするのはその不安を取り払うためでもある。先程の梓美はその兆候が見られたのだ。
「うん。私の疑似精霊のことを考えてたら私達みたいな異世界人に行きついちゃってね。いずれ敵対しそうだからそれの対策がとれる能力が必要かなって」
「梓美、やっぱり自分にも疑似精霊を付与するの?」
「当然でしょ?ミアルと寿命にかなり差があるのは嫌だし、できるだけ同ペースで年をとっていきたいもん。だったら身体をどうにかしないと。それにミアルやフィリスにはしておいて私は何も変わらない身体とか自分で自分が認められない」
「梓美がボクより早く老いていくことが無くなるのは嬉しいけどね。ちょっと自分の種族止めさせる申し訳無さもあるけどボクが言えたことじゃないよね。で、なんで異世界人対策?」
「私の擬似精霊に必要なのってやっぱりミアルを護れる力かなって。で、本当に苦手、危険な相手にはそもそも関わらなければいいけど、そうもいかずに確実に脅威になり得るのはポテンシャル的に私と同じ異世界人が最有力だと思うのよ」
「そっか。ボク達獣王竜も倒してるし目の敵にされてもおかしくない。同じ異世界人で敵対側の梓美を排除するために襲ってくる可能性もあるか」
他の異世界人達がいずれ敵対、衝突する可能性が高いことはミアルも納得できる。しかし、疑問に思う点があり、ミアルは首を傾げる。
「……でも、そこまで脅威なのかな?ねーさんにまとめて一蹴されたみたいだし」
「数ヶ月前の話でしょ?今どれだけ鍛えられているかは未知数だし、持っているスキルも十全に力を発揮できるなら危険な物がいくつかあるのよ」
梓美は特に『勇者』の持つスキルの危険性を説いた。装備の能力を高めるスキル、それがミアルやフィリスの持つ武器のようなかつてない性能の合金の装備を強化したとしたら、その状態で闇以外全ての属性を使うという勇者が的確に弱点を突いて来たら精霊形態のミアルを負かす可能性もある。
「仮に現在の私の魔力量、魔法操作能力はそのままかつミアルと同等の装備、星山さん……勇者のスキルと魔法適性を私が持っていたとしたらミアルへの勝ち筋、いくつか思いつくよ」
「む。精霊形態でも?じゃあどうやって勝つのさ」
強気な梓美の発言に眉をひそめるミアル。自分を打ち負かせるというのだから面白い話ではないのは当然だ。
「単純に装備の防御力、魔法媒体としての性能はこちらが上になる。それに『霆凰』の特効対象でもないからミアルの出せる威力は義姉様戦の時止まりでしょ?」
竜と巨獣のどちらの特性も無いヴァイラナとの戦いでは、実はミアルの魔法は装備による恩恵が無ければ獣王竜戦程の威力を出せていない。逆に言えば特効の対象ならもっと威力を出せていた。あくまで特効対象こそがミアルが十全に力を振るえる相手なのだ。
「それなら"風壁"の類を光属性と合わせて装備の媒体効果で出力を高めるだけで防げるし、そのまま攻撃の中を突っ切ってごり押しもできると思う。地属性で岩、あるいは鋼の柱とかを出すことも出来そうだし行動範囲を狭めればミアルの機動力も封じれる。攻撃手段も質量系は光、風、水の属性では迎撃はできても防御はしにくいでしょ?それをスキルで強化した装備で威力を上げて攻め込めば……」
「確かにボクには厳しいとは思うけど……でもそれ、梓美の魔法センス前提でしょ?《舞台装置》もないのにそこまでの魔法運用ができるかな?」
「そんなの、構築能力ならともかくただ魔法を扱うだけなら努力でどうにかなる範囲よ。しかも、場合によっては同時に他の召喚者も相手にするのよ?本当に絶対負けないと思う?」
「それは……」
勝てる、とミアルは言いたい。けれど、精霊形態の力は梓美がくれた物だ。その梓美が負けるかもしれない、と危惧している以上否定しきれない。実際、本当に基礎能力、装備が自分達と同等、しかも人数で上回るとしたら勝算は低いかもしれない。ヴァイラナが撃退できたのはまだ未熟で、装備も整っていないからだと考えても頷けてしまう。たとえそれが要求水準がとてつもなく高いとしてもだ。
「だから私も戦える力が欲しい。間違いなく勇者連中との戦いになったら戦闘向きのスキルを持っていない私はきっとついていけない。そうでなくとも聖光神教がまた異世界人を召喚して私達には未知の戦力を用意するかもしれない。それに対抗するためにも、戦力差を埋めて、かつ有利に戦える力が私にとって一番疑似精霊の能力として必要だと思うの。同じ異世界人としても」
もし戦うことになれば同郷者のことをこの世界の者達に任せきりにするつもりはない。また、聖光神教の勇者連中が戦争で虐殺、あるいはテロ行為等をすれば聖光神教は『神の意志』だとかなんとか誇張して広げるに違いない。そうなればもし自分みたいに聖光神教とは無関係で平和に暮らす異世界人がいたとしたら自分含め多種族国家での風当たりが悪くなるかもしれない。それが同じ異世界人が表立って対立、打ち破れば完全に異世界人への悪感情が、無くなりはしないまでも多少はましになるだろうという考えも梓美にはあった。
その考えも恋人には当然お見通しで思わずミアルの口からため息がこぼれる。
「確かに聖光神教が異世界の勇者を喧伝したとしても、同じ異世界人の梓美がなんとかできれば異世界人そのものへの風当たりはかなりましになるとは思うけど……戦争での殺し合いに参加は止めてよ?ボク達は傭兵じゃなくて冒険者なんだから」
「わかってる。私だって殺し合いなんてごめんだもの。"魂刈"で殺しはしなくとも瀕死に追い込んだだけで結構きつかったしそういうのとは無縁でいたい。むしろミアルとずっと気軽な旅をしながらイチャイチャしてたい」
「もう、梓美は。ボクもそうだけどさ。けど、色々そうはいかないのがね」
梓美としても疑似精霊の能力は保険で、本命はミアルと同等の成長速度と寿命の獲得である。しかし、どうしても聖光神教との衝突は避けて通れそうになく、そうなるとクラスメイトと戦うことになるだろう。その為には対抗手段はどうしても必要になる。
「それで?梓美はどんな疑似精霊にするつもり?イメージ元は決まってるの?」
「一つはね。どういうものかって言うと……」
梓美は現在最有力候補の疑似精霊のモチーフ候補の説明をする。しかし、それを聞いたミアルは不満そうな顔をする。
「えぇ~……?確かにボクの特効にもかからないし、邪龍みたいな物騒な物でもないけど、それって、梓美との適性はどうなの?」
「光、闇両方とは悪くないと思うけど、もしかしたらフィリスの魔力も構築に使わせてもらうかもしれない。私と同調したから相性は悪くないとは思うけど」
梓美の挙げた候補は『火』の性質が強い。その為、梓美の魔力だけではその能力を十分に発揮できない可能性があり、火の魔力適性のあるフィリスと同調しその魔力を取り込んで疑似精霊を構築することも考えていた。ミアルが不満に思うのも無理はない。
「梓美の中にボク以外の人の魔力で作った疑似精霊……?なんかヤダなあ……」
「うん……そう言うとは思った。私との適性も異世界人含む『この世界のものじゃない存在』と戦う上で相性も間違いなくいいんだけど……でも、ミアルは嫌がってるし考え直すよ。恋人差し置いて他の人の魔力を疑似精霊に使うとか結構な裏切りな感じするし。それに他に合わせるモチーフが中々浮かばない……あれ?寝る前に閃いたような?」
やはりミアルに悪いので候補を考え直そうとした梓美だったがミアルは首を振る。
「変えなくていい。たしかにそれならこの世界の者じゃない梓美との相性もいいし、同じような存在に対して有利になれると思う。ボクのわがままでそれを無しにするのもどうかと思うよ」
「ミアル……でも」
「その代わり条件!」
ビシッ!とミアルが人差し指の腹側を梓美に向けて立てる。
「絶対にボクの魔力が必要な『風』か『水』の魔力が必要な同等のモチーフに組み込むこと!疑似精霊の構築にはボクの魔力も使って貰うからね!」
要は自分を差し置かなければ我慢できる範囲なのだ。それにミアル達の疑似精霊にも梓美の魔法属性である光、あるいは闇が追加されているのだから梓美の疑似精霊も自分達の魔法属性が加わる、というのはミアルにとってもどこか悪いことではなく感じるのは確かだ。
梓美は一瞬目を丸くするが、すぐにミアルのリクエストに沿った存在がいないか考える。
「あれは水の性質だろうけど……姿がアレだし駄目。というか同じルーツ同士で混ぜたくないし、だとすると……何がいた?」
うんうんと唸る梓美を横目にミアルは難しい注文にもかかわらず自分の要望に応えようとしてくれるのを嬉しく思いつつもふと、あることに思い至る。
「あれ?フィリスもボクと同じようにして力を貰って、今度は力を貸すことになる。しかも今度は梓美はフィリスの魔力を取り込むんだよね……もうフィリスには梓美の魔力浸透しちゃってるし妖精族的には互いに魔力取り込むって結構重要なことらしいし……」
ミアルはフィリスが最近、巷でどのように揶揄されているのかを思い出す。あくまで揶揄の範疇だったのだがどうやらそれが現実味を帯びてきそうで少し気が重くなる。
「これもうフィリス、対外的に本当に梓美の愛人だよぅ……まあ、フィリスはいい人だし女だからまだボクが梓美を独占する余地はあるけども……」
そんなミアルのつぶやきは残念ながら思考にふけっている梓美の耳には届かない。
ちなみに実は梓美が寝付く前に一瞬閃いた物こそ、ミアルの示した条件、そして梓美にとっても理想的な存在だったのだが、結局、魔獣を追い払いつつ夜が明けるまで考えても梓美はそれを思い出すことはできなかった。
そして翌朝、妙に睨むような眼差しでこちらを見るミアルにフィリスは首をかしげるのだった。
梓美の提示したミアルを倒し得る勇者と同等のスキル持ちの前提条件
・魔法操作を熟練。なお、他のクラスメイトは召喚時点で魔力が活性化しており他者に魔力を活性化してもらっているわけではないので梓美ほど自分の魔力を感じにくく、魔力操作のセンスを磨きにくい。さらに発動時の魔力の流れの手本として使える《舞台装置》無し。
・ステータスA以上の魔力ステータスからさらに魔力量の向上に努めている。魔獣の心臓や肝臓といった魔力向上には良いが人間族国家間ではゲテモノ扱いの食材を梓美がルート家でククラプター料理をご馳走になるみたいに定期的に摂取することは困難な環境下。
・ミアルやフィリスと同等の装備。これは閃き次第でまだ実現可能だが無重力下合金というロマンを思いつける異世界人は聖王国にはいない。アーティファクトも基本的に付与されたスキルはともかく武器としての性能はフィリスの炫蛇どころかバザラゲートにも劣る。そして聖獣である獣王竜を素材にした装備の類など論外。許されるのは抜け落ちた羽を装飾にする程度。
※梓美は聖王国側の環境、条件は殆ど知らない。
結論
梓美「どうしよう、頑張ればミアルだって危ないかもしれない。いずれ狙われる可能性が高いし私が対抗できるようにしないと!」
聖光神教「ハードル高すぎぃ!」
それはそれとして
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリス頑張れツッコミ超頑張れ』
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