18話~梓美の自己強化プラン~
一部分加筆修正しました。
「うう……とんだ醜態を晒しましたわ……」
「あたしもだよ。ミアルの奴余計なこと言いやがって……」
夜も更け、今夜はヴァイラナも含めて二人ずつ交代で夜の番をすることが決まった。
そこでミアルが「ボクもあれだけ暴れたんだから精霊形態の反動が無いか見て欲しいなー」と、梓美をテントに引きずり込こもうとした為最初の晩はヴァイラナとフィリスが担当することになった。
ところが梓美が「ミアルの身体を診るならフィリスの方も後で診ておかないと」とフィリスへの反動も気にしたのでミアルの独占欲が加速。存分に自分のことに集中してもらえる様に否応無しに先にフィリスも精霊形態の影響が無いかサクッと魔力同調されるのとになった。結果、フィリスは数十秒程とはいえ悶える姿を晒してしまったのだ。
つまり、この二人は本人にその意図が無いとはいえ梓美被害者の会でもある。
「まあ、特に反動も無かったみたいだから良かったけど、あれ、絶対梓美がヴァイラナに同調したことに焼き餅焼いただけだろ」
どう見てもミアルはヴァイラナがされているところを見て自分もしてほしくなったに違いない。今は『気持ち良すぎる』という別の意味での危険性意外は特に問題無いとのことで心置きなく自分の身体を診てもらっていることだろう。これは医療行為だから仕方ない。
「フィリスさんはよく耐えられましたわね、あれ。わたくしあっという間にあられもない姿を晒してしまって……あれがミアルの相手で無ければ責任取ってもらうところでしたわ」
「あのな。あの程度ならまだマシなんだ。最初の頃なんか最初の魔力を慣らして不調を探してるあのジワジワ感がもっと長かったんだぞ。それで頭がボーッとフワーッて蕩けきったところであの不調を直す時のゾワゾワで熱いアレが丹念に長時間されるんだ。しかも梓美は魔力の調整の方に集中するもんだからこっちがどうなってもお構いなしに続けるんだぞ?」
「あれより慣らしも調整も長く!?そ、それは駄目です!死んでしまいます!いえ、それで死にはしないでしょうけど色々トンでしまいます!」
魔力同調で相手を虜にするのは妖精族の得意分野の筈なのに逆にやり込められてしまったのだが、それは序の口。さらに上があると知り戦慄するヴァイラナ。
「同じことはミアルもできると思うぞ?で、多分互いにする場合はただ不調を治すんじゃなくてあいつが気持ち良く感じる部分を刺激するようなやり方に切り替える。あたしらにする奴の何倍もすごいんじゃねえのか?まあ今回はミアルの不調診て必要なら治す目的だからそこまではしないと思う」
「だとしても、もう互いにノーガードで堕とし合ってるようなものではないですか」
互いに魔力を同調させる行為は妖精族でも互いの愛情を深める行為であり、ミアル達は知らないが実は直接的な行為の代替として行う場合でもあるのだが、完全にあの二人は深みにズブズブにハマってしまっているだろう。
「恐らく、互いに同調し合っている過程でより相手が心地よくなるようどんどん上達したのでしょうね」
「悦ばせるの間違いじゃねえのか。あれでしっかり効果があるのがタチ悪い」
そう、絵面はアレになるのだが効果は的面なのだ。ヴァイラナも同調後は体の調子がすこぶる良く、身体が二割程軽くなった気分だ。
「アズミさんの魔力操作能力の高さ故なのでしょうね。もしかして最初の魔力活性化時にミアルが同調したのもあるのでしょうか?他者の魔力が混ざったことでより自らの魔力を意識することができ、それが魔力操作の会得にプラスになったのかもしれませんわね」
「まあ梓美の魔法の扱いは冒険者になって日が浅いのに熟練顔負けって言われる程なんだが、あいつの一番恐ろしいところは『何をしてくるかわからない』点だな。攻撃能力こそまだ人並みだが『できること』の幅広さに関しちゃあたしが知る中でも随一だ。思い付きだろうと四元素に属性が偏ってなければ実現できちまう」
梓美は魔力量、操作能力こそ優れているが属性の適性上か効力に関しては同じCランク冒険者の魔法職で見ると並み程度、決して高くは無い部類に入る。
アダマートの冒険者達の間で得意技扱いにされている"夜爪刈り"や生命力を奪う禁じ手"魂刈りの鎌"も実は自身の魔力操作が万全にできる者ならば初見かつ不意打ちでもない限り魔力による抵抗で十分な効果を発揮できない。支援系も金属の堅牢及び加重強化や治癒、魔力付与による衝撃、切断力の強化等と多様にこなせるが、それぞれは適性が一属性だけでも四元素のいずれかに長けた者の方がより高い効果を発揮できる場合もある。
獣王竜の血肉を得たことで向上した身体能力もそれを生かせるほどの技量は最低限しかなく、並みの魔法職よりは動ける程度、技術は本職には及ばず、魔法による攪乱、牽制があって渡り合える程度だ。
しかし、それらを一通りこなせるという点において梓美もまた常識を逸している。
有り体に言えば単体では特化してはいないものの色々こなせてとてつもなく便利、というのが梓美の冒険者としての評価だ。
「まあ、梓美があそこまでやれるのは、十中八九ミアルの為でもあるだろうな」
「ミアルの?」
聞き返すヴァイラナにフィリスが頷く。思い出すのは自分と二人でシェルヘッドベア討伐に赴いた時の梓美の言葉だ。
「強くなったミアルと一緒に居続けられるだけの能力は欲しい、まだ足りない、って梓美は言ってたよ。冒険者なんて実力主義の世界でその能力を示し続けられなければ見限られるのも珍しくないし、弱ければ喪う、そうでなくとも置いていかれることなんてザラだ。まあ、一日でも梓美が一緒にいないだけで情緒不安定になるミアルがあいつを見限るなんてありえないだろうが。まあ、梓美はあれでわりかし臆病だから自分がミアルについていけなくなったらを恐れているんだろうなあ」
「本来なら十分な程の能力でしょうに。本当に二人して依存し合っていてますのね。そうなるとアズミさんは……」
「ああ、まだ何か力を求めているだろう。隕石を欲しがるのもその一環だろうしな。変な方向に進まないといいんだが……」
梓美のこの世界の者にとっての予測困難さといざ思い切った時の極端さを知るフィリスは遠い目をするのだった。
◇
「むにゅにゅ、梓美ぃ~もっとマルベリー食べさせて~次はボクが食べさせりゅ~」
「ミアルはも~。幸せそうに寝ちゃって」
休息の為のテントの中、魔力に異常も無く、同調で魔力の流れを整えて貰ってご満悦にすよすよと夢見心地なミアル。彼女に向かい合うように寝転がる梓美は食べているのがマルベリーだけに甘酸っぱそう、いや、かなり甘そうな夢を見ているミアルの寝顔を愛し気に眺め、その髪を一撫でした後、自分も目を閉じ、思考の海に落ちていった。
梓美が考えるのは自分へ付与する疑似精霊をどうするか。元々疑似精霊は梓美がミアルと生き続ける為の手段の一つであり、いずれ自分にも付与することは決定事項だ。
そも、エルフと人間族では寿命や年のとり方が異なる。地球へ帰ることを放棄したとしてもいずれ自分はミアルより先に老いて逝ってしまう。ミアルも内心では不安に思っているのか時折『置いていかれる』悪夢を見るらしく、夜中に甘えてくることがある。ミアルが甘えてくるのは歓迎なのだが、自分が原因の悪夢なのはいただけない。見せるなら今みたいな幸せな夢でいて貰いたい。そして梓美としても年をとるにしても愛する人と同ペースで老いていきたいと考えるのは当然の帰結である。
(そういう逸話のある物は何度も口にはしてるけどね。まあ、健康にいいだけってオチかもしれないけど)
梓美も図らずともアンブロジアや竜の血等、不老長寿の効能があるとされている物を摂取してはいるが、実際の効果は証明されておらず、地球でそのように謳われている物が種族の限界を超える程の効果があったためしはない。なのでそれらは当てにせず疑似精霊によって身体をエルフ並みの寿命を持つという妖精族に近づけるというアプローチで寿命の問題を解決しようと考えているのだ。
意図しなかった偶然の産物であるがミアルとフィリスという前例のおかげでそのアプローチは間違っていないことも"解析"によってわかった。元々妖精族との混血であるミアルはそれほど変化は無いのだが、フィリスの身体は例えるなら、爬虫人族にミアルからエルフ要素を取り除いた残りの要素に似たものが混ざった身体へと変化していた。ミアルと普通のエルフ族でも"解析"では差異があり、この違いが妖精族としての魔力の身体を持つ要素なのだと梓美は考えた。
(問題はどの能力にするか、よね)
疑似精霊はモチーフによって得られる能力が変わる。ミアルの『霆凰』は主にサンダーバードに由来する雷を扱う魔法や嵐に関連する風や水の魔法の強化に、サンダーバードが獲物とした巨獣、竜への優位性、雷が多数の神話において上位の神の象徴であることからの戦闘能力の向上が得られ、完全に効果を発現していないもののフィリスの『焔鯢竜』は鯢に由来する生命力に炎の竜の炎の能力、そして祟り神の鯢大明神や『火によって住処を追い出された』ことが火の化身としての伝承の由来になったサラマンダーにちなんだ《報復》スキルへの補正が能力として挙げられる。
獣王竜戦時の梓美は三つ首の邪龍をベースにして魔法能力を中心とした能力の向上を考えていたのだが後にそのことを知ったミアルが猛反対。さらにドラゴンの類であり、厄災の象徴でもあるのでモチーフに魔除けの要素も多い『霆凰』との相性の悪さからミアルとの間に悪影響が出る可能性があるので没となった。もし邪龍と霆凰の相性の悪さが原因で魔力同調でダメージを受ける事態になったりしたら最悪だ。
その為基本方針は竜や巨獣の類では無く、かつミアルが不利になるであろう相手に優位に立てるような能力が望ましい。いざという時ミアルや大事なものを護る力でもあるのだから戦闘能力を向上できるとなお良い。
(あ、これミアルの特効対象外から仮想敵と候補両方考えられるね)
『霆凰』が司る能力が天敵になりえない存在がミアルからの悪影響を受けず、かつ脅威たり得る。もっとも竜すら退けると豪語するヴァイラナと特効が無くとも渡り合えるミアルの精霊形態に対して、脅威となり得る存在を探す方が難しいのだが梓美は考えつくミアルと相性の悪そうなものを脳内に列挙していく。
(ミョルニルを持つトールの命を奪ったのはヨルムンガンド……サンダーバードが優位に立てる大蛇や竜の類だし神話でも相打ちだから大丈夫。亡霊とか?特効対象外だけど光属性魔法をベースに弱点を突くことはできるだろうし弱点じゃない。悪魔や魔性の類はこの世界には無し、精々聖光神教のでっち上げね。……単純に能力で上回る可能性のある存在……あ)
一つ、精霊形態のミアルだろうと上回り得る存在に心当たりがあった。そして、それは敵に回る可能性が高い。
(異世界人だ)
ミアルの精霊形態も異世界人である梓美の魔法、さらにいえばそれを構築したスキルによるものだ。クラスメイトに梓美と同様の能力の持ち主はいないという報告はあったにせよ同じ出身。総合的なポテンシャルは同等として、梓美の魔法の汎用性が戦闘能力に置き換わり、磨き上げられると仮定すれば精霊形態のミアルやフィリスを凌駕する可能性は捨てきれない。
何より、襲撃者から得られた情報にあった『勇者』、星山遥香の持つ能力を梓美は危険視していた。四元素全てと光属性への適性、さらに武器、防具の効果を高める《聖剣化》、《聖鎧化》スキルは相手にとって相性の悪い魔法の発動を可能とし、質の高い、さらにスキルで強化された装備を媒体とすれば確実に敵の弱点を突けるだろう。そして、もし装備そのものが話に聞くアーティファクトと呼ばれるスキルが付与されている装備類、それも特効系スキルならば脅威は格段に増す。
他の召喚者の中にも条件を満たせばミアルやフィリスを脅かしうるだけのポテンシャルがある者はいるし、少なくとも梓美は概要を説明されただけだが自分達への対抗手段を思いつくことができてしまう。
クラスメイト以外にも異世界人が召喚されている可能性もあり、それらの悉くが聖光神教によるものならば規格外の能力を持つであろう彼らへの対策は必要になる。
(確実に星山さん達は敵になる。私達は聖光神教とは対立する立場なんだから)
召喚されたクラスメイトの殆どが聖光神教という目下の敵対勢力に所属、さらに『地球への帰還』という餌がある以上責任感の強いクラス委員長は聖光神教の勇者として、獣王竜を討伐し聖光神教の目論見を打ち砕いた敵同然の梓美達と対立することになる可能性は極めて高い。
(説得、交渉は無理そうだなー……)
聖光神教の教義は人間族至上、他種族排他。他種族の国家を滅ぼすことが召喚目的ならばいずれ戦争が起き、クラスメイト達は戦場に駆り出されることだろう。そして敵対側の異世界人である自分、そして仲間かつ他種族、そして獣王竜討伐の立役者であるミアルやフィリスの討伐も言い渡されることは容易に想像できる。敵対者としてどんな悪意ある尾ひれがついた話をされるかはわからないが、少なくとも(本当は存在しないが)地球への帰還手段を握られ、クラスメイト達のこともかかっているならば彼女の性格上大して親しくない自分は同郷だろうとクラスメイト多数の為に切り捨てる道を選ぶだろう。
梓美もミアルと共に生きるという聖光神教とは対立する道を選んだ以上、そこを恨むつもりは無いが殺されることも大事な人を喪うことも許す道理はない。自分達を脅かすなら容赦なく叩き潰すつもりだ。
(やっぱり、そこをミアルに任せるわけにはいかないや。星山さん達と戦うことになったら私が倒す)
クラスメイト達を打ち倒すということは彼らの地球への帰還への希望を奪うことに等しい。もし対立した場合、その恨みを買う役割は同じ異世界人の自分が背負うべきだし傍にいるであろうミアルに任せるつもりは毛頭ない。
(現状の最優先コンセプトは異世界人対策で決定ね。目には目を、なんて程度の理屈じゃない。しっかり優位に立てるようにしないと)
疑似精霊の能力が決まれば次はそれを体現しうるモチーフだ。漫画やゲームをきっかけに得た地球の神話や伝承の知識を引っ張り出し始める。
(異世界の存在に有利をとれる能力……?それと戦闘能力の向上もできるようなやつ、何がいたかな?いくら優位に立てる能力があっても基本戦闘能力が大きく劣ってたら話にならない)
あれやこれやと候補が浮かんでは消える。神話や伝承において強力な力を持つのは竜や強大な獣であることが多く、ミアルとの相性が良くない。そして、特に信仰しているわけでもないのに特定の神、特に人間型をモデルにするのは梓美の主義に反する。『神』は人知の届かない森羅万象の一部を象徴として切り出して形を持ったもの、というのが梓美の考えであり、特定の神の名を出すのはインドラ、トール、ゼウス等に対する雷のようにそれにちなんだ前提あってこそだ。ベースに理想的なのは個体を特定の名がなく、『種類』として捉えられる精霊の類だが中々梓美の理想にする能力の持ち主が浮かばない。
(多少のこじつけでもいいのに……あ、これだ。これいいかも。でも、他と結び付けられるようなのあったかなあ……)
一つ、候補としての最適な案が浮かんだのだが、単一の原型では疑似精霊の能力もかなり限定される為、能力に幅を持たせる為にそのベースと何かしらの関連性がある他の神話や伝承の存在を組み合わせたいのだが、今一つしっくり来るものが浮かばない。
疑似精霊は梓美のイメージに依存するため、どういう形であれ、合一してもしっくりくる物でなければ梓美の頭の中で形にすらならないのだ。何より、その疑似精霊と梓美個人との相性もある。梓美の適性属性の光と闇にも繋がりのある存在が望ましく、異なる属性が主体では梓美にその能力が引き出せない場合も考えられる。
なんとか候補は無いか考えを巡らすが、今の梓美は目を閉じ、横になっている。その状況下での思考など、羊の数を数えるのとほぼ同じことであり、梓美の意識は重くなっていく。
(駄目だ……もう……これ、寝ちゃう。第一候補は決まったし明日余裕があったらまた考えよう。ミアルを助けられるような……ミアルと一緒にいても似合う物を考えないと……ん?なんか、今、閃きが……)
「からすぅ~……むにゃ」
意識が完全に落ちる寸前で閃きかけた梓美。それを思い出し、決断をするのはそう遠い話ではないことを今の梓美は知らず、ただ夢の中へ落ちていくのみだ。
「むにゅにゅ……あじゅみ~……むぎゅ~」
「ん……ミアル……すき……」
寝言でもイチャつく二人。余談だが、交代の頃合いになってフィリスに起こされた時、梓美はミアルに抱き枕にされ、ミアル共々幸せそうな寝顔を晒していた。フィリスには呆れられ、ヴァイラナには生暖かい目で見られながら起こされ、ミアルと二人揃って赤面しながら見張りの番についたのだった。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリス頑張れツッコミ超頑張れ』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を是非宜しくお願いします。感想貰えたりブクマが増えていると大変励みになります!




