16話~夕食〜
日をまたぐ魔の森での活動における課題の一つに食事がある。持ち込む荷物量が多ければ多いほど移動速度や機動性が損なわれる為、大量の食糧や調理器具をわざわざ魔の森に持ち込む余裕はほとんどない。食用にできる魔獣を現地調達という手段もあるが、血の匂いで他の魔獣が引き付けられるリスクもあり大概は保存性の問題からも干し肉の様な携帯食料を持ち込んで飢えをしのぐ場合が殆どだ。当然、腹が満たされることはなく翌日以降も活気が長続きし難い。その為、異空間に物品を収納できる類の魔法が扱える者、あるいはその魔法が付与された魔道具は例え少ししか収納できないのだとしてもとても重宝されるが、それでも『食』の質の向上は二の次三の次。少しでも確保できた運搬量は治癒用のポーションや予備の武器に回されることが多い。
「それがこうして魔の森の中だってのにちゃんとした飯が食えるって未だ信じられねえよ」
「ええ……まさか人里に降りずともこのような料理が食べられるなんて……」
ミアルとヴァイラナが戦いさらに広がった更地の中心で石を積んだ簡易的な竈とその上の鍋を囲って四人は夕食を摂っていた。
鍋の中身は『獣王竜の肉団子シチュー風赤ワイン煮込み』。獣王竜の牛と猪に似た味の部位の合い挽きで作ったハンバーグの一口サイズを、炒めた野菜、キノコ、余った端肉を赤ワインや香草で煮たスープでさらに煮込んだ料理である。
ミアルの姉であるヴァイラナに出す料理なので梓美が大張り切りしてしまい獣王竜料理の中でミアルの好物のハンバーグと梓美の好物の赤ワイン煮込みをミックスさせたのだ。フィリスの為に石焼ステーキ作ってあり、煮込みのスープをソース代わりにもできる。加えてソースを無駄なくいただくためにふわふわのパンも用意済みというアダマートの料理店もかくやという献立であり、まず気軽に魔の森深層付近で食べられる食事ではない。
これほど振舞っても"奈落"にはまだまだ獣王竜の肉が蓄えられており、他の食材だけでも一週間は持つだけの量がある。"奈落"内部の物品は時間が停止するからこそ可能な大量貯蓄だ。
「やっぱりねーさん達妖精族達ってあまりこういう手の込んだ料理は食べないの?」
「香草や水はあるので多少は手の込んだものは作れますがやはり材料の問題ですわね。穀類や乳製品、お酒なんかは魔の森では手に入りませんからね。精々蜂蜜や果物の自然発酵でお酒を造る程度ですわ」
「そっか、碌に家畜とか育てられるような環境じゃなさそうだもんね。せいぜい屋内でも飼える虫くらいかな?」
「あー、蚕みたいな?地球だと揚げたりするって聞いたけど、あれ?義姉様妖精族の生活圏に油は?」
「灯火には使いますけど料理に使うことは滅多にありませんから基本茹でて香草をまぶしてますわ」
「茹では食感きつそうだな。というか今その話題はやめないか?」
ヴァイラナ曰く魔の森に住む妖精族は基本的に狩猟や採集で食料を得ているという。そもそも魔力を得られれば食事そのものそれほど摂らなくても良いので普通に過ごす分には週に一度か二度程度で十分、さらに身体を小さくすることでその消費も極限まで抑えるとのことで人にとっての茶のような娯楽や嗜好品としての扱いに近いとのことだ。ヴァイラナは魔の森を飛び回ったりするので食事を摂ることも多く、時折エルフと偽って人の生活圏に降りて美食を楽しむこともあるのだとか。なお、そのお金は魔の森で息絶えた冒険者の荷物から調達したり物品を売ったりして得ているので文明から離れて生活することの多い妖精族にしては珍しく小金持ちである。
「妖精族が食事をしっかり摂るのは思いっきり戦闘をしたり生殖活動に励んで消耗した時くらいぐらいですわね。今日なんかも思いっきり暴れましたからお腹ぺこぺこですの。むぐむぐ……この肉団子も口の中で肉汁があふれてたまりませんわ」
「その肉団子を大きくして平たくしたのを焼いたのがボクの好物なんだ。梓美曰く粗く挽いた肉も混ぜるのと食感が良くなるんだって。あ、乳製品馴染みないってならこのチーズもどう?火で炙って熔かしたのをこの煮込みに混ぜると美味しいよ?」
「どれどれ……まあ、煮込みのコクとチーズの濃厚さが肉のうま味と合わさって……!ああ、なんて贅沢なんでしょう。竜の肉をこんなに美味しくいただけるなんて!」
梓美の獣王竜料理はヴァイラナにも大好評だ。副作用の魔力異常も何度か返り討ちにした竜種を食べたことがあるので問題ないことはわかっているらしい。
「大丈夫ですのミアル?その気になればいつでもどこでもこんなおいしい料理を作って貰えるなんてアズミさん無しで生きていけますの?」
「うぅ……もう無理!梓美いなかったらさみしいし色々切ないし美味しいご飯も無いなんて考えられないよ!」
「知ってたけど身も心も胃袋もつかまれてやがる……」
「私もミアルがいないなんて考えられないよ。……そういえば一日だけミアルと離れて冒険者活動した時は大変だったなあ……」
アダマートの復興作業中に一度だけ外縁部にシェルヘッドベアが出現したことがあった。その時は薬の調合作業から離れられないミアルを置いて梓美とフィリスが狩猟に赴いたのだ。
ミアルがいないためシェルヘッドベア捜索に手こずり丸一日かけて狩猟を終えてミストル亭に戻ってきた梓美は部屋に入った瞬間ミアルに襲われた。宿に戻っても梓美のいない寂しさに耐えられなかったことと、自分ではなくフィリスと丸一日一緒にいたことに対する独占欲だったらしい。
あっという間にベッドに押し倒されマーキングと言わんばかりに密着し体のあちこちに吸い付かれたり甘噛みされまくったりした梓美は翌日は倦怠感に苛まれ、しばらくの間厚着で過ごさざるを得なかった。そしてその日以降梓美とミアルの夜のスキンシップが互いに体に触れあう程度だったのが濃厚さと時折激しさを増したのだった。なお某猫耳少女は鼻血の海に沈み生死の境を彷徨ったという。
(むしろあれでより一層ミアル無しじゃいられない体にされちゃったというべきか……)
無論、その詳細は話すわけにいかないのでミアルがすごい甘えてきた、とかなりオブラートに包んで話す梓美。その時のことを思い出して耳まで真っ赤になった顔を両手で覆い「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」と呻くミアルとよく見ると少し頬を染めてニヤけている梓美の様子から大体察したフィリスはため息を吐く。
「こんな感じでお互いベッタリなんだよ。無理に引き離そうとすれば国くらい滅ぶんじゃないのか?あぁ、肉うめえ」
ステーキを頬張り遠い目をしたフィリスは美味しい物を食べてるからか若干IQが下がっていた。やはり先の戦いの巻き添えで精神が疲弊していたのかもしれない。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリス頑張れツッコミ超頑張れ』
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