表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/85

7話~道中琥珀談義。またの名を第二皇女涙目~

 魔獣研究機関。

 魔の森に接するため常に魔獣の脅威にさらされている辺境にこのような組織ができたのは必然だっただろう。主な活動内容は時に現地で、時に冒険者ギルドを介して聞いた冒険者達の実体験から得た魔獣の生態や特徴といった情報を編纂、記録している。ここで判明した知見は冒険者ギルドへの報告や書物として出版される等様々な形で発信され冒険者に限らず多くの人々の助けとなっている。

 研究機関があるのはサーファというアダマートとは異なる都市だ。ミアル達が新装備で深層の魔獣を狩ってから二日後に二頭分の検体受け入れ準備が完了したとのことでダリウスの用意した馬車で向かった。


「ここが魔獣研究機関のある都市『サーファ』だ。頼むから今回は騒動起こさないでくれよ?」

「何言ってるんですかディーゴさん。私達がそんないつも騒動を起こしているみたいなこと言わないでくださいよ」

「この状況が何が原因で行われているのかを良く振り返ってから言うんだな」

「「こっちに来たワイバーンとディノレックスが悪い」」

「普通は逃げるんだよ!Bランクのベテランならともかく成り立てBとCランクだろうがお前達!しかもあっさり倒すとか!」


 ミアル達の他にも辺境伯ダリウスと彼に同行していたメイド、冒険者ギルドからミアルと梓美の登録試験の時に模擬戦相手をしたディーゴが馬車に乗っている。


「研究機関は私も初めてですが、ここでの研究結果が冒険者をはじめとした人々の生存を支えていると聞きます。お三方はどうなのですか?」

「ターシャさんも初めてなんだ。私は一冊図鑑持ってるよ。ターゲットの下調べもできるし暇な時眺めてるだけでも面白いね。私の故郷にはいなかった生き物ばかりだし」

「うん。梓美みたいに暇つぶしの本に使えるかはともかく知識を持てるってだけでも助けられてる人は多いんじゃないかな?」

「そうですか。従妹が誕生日に貰っていたのを思い出しますね。淑女ばかりのお茶会でここの肉がおいしそう、とかこの魔獣の革で鞄を作ってほしいとか言いだして場が凍っていました」


 お茶会の場にとてとてと両手に図鑑を抱えてやってきてニコニコと天使と見間違えんばかりの笑顔で誕生日プレゼントに貰った魔獣図鑑の自慢と「大きくなった時のプレゼントはこれ(大ナマズ型魔獣)で作ったご馳走とこれ(深層級のワニ魔獣)のかっこいい革の鞄が欲しいのー」発言は魔獣とは縁がほぼない貴族社会のお嬢様方には刺激が強すぎた。泡を吹いてその場で気を失った令嬢もいた程だ。

 数年経った今では自ら材料集めに冒険者活動を始めたらしい。そして先日「ドラゴンの肉!しかも美味しく食べている人がいるのですか!?是非わたくしも食べたい!食べさせたい人もいるの!なので最低でも三人前お願いしますね!」と連絡を寄こしてきた従妹を思い出して遠い目になるメイドことターシャ。そんなターシャの正体は第二皇女リスタシアでその従妹は皇族に嫁いできた母方の親戚でムロアウィールドの結構爵位の高い貴族のお嬢様なのだがこの場でそれらの真実を知るのはダリウスだけだ。従妹濃すぎる。


「うわあ。梓美と似たこと言ってやがるなその従妹。こないだ梓美が話してたのは魔導書に獣王竜の革のブックカバーだっけか?それで魔導書はただの教本だから媒体素材の無駄だってことになったよな」

「獣王竜の革の表紙の本……聖光神教の聖書にありそうですよね。こう、聖骸によって作られし何とかかんとかで」

「いや、逆に冒涜じゃないかな?ボク達が知ってるのは他種族差別の考えだけで自分たちの偶像に対する考え方までは知らないけど」

「まあ宗教なんてトップの解釈次第でどうとでもできるからね。まあ向こうは例え獣王竜の素材を聖骸みたいな扱いにしても戦場で頻繁に損傷する武具にはしないとは思うけど。そうなると日用品に、しかも人間族の私が使うのは良くないのかな?角の破片のアクセサリーとかアリかなって思ってたけど」

「竜の角のアクセサリーですか……?宝石ではなくて?」


 ターシャの認識では女子の好むアクセサリーとは貴金属の細工に宝石をあしらったものという認識だ。それをドラゴンとはいえ魔獣の角を加工した物を身に着けて喜ぶ女子はいるのだろうか?すぐに一人浮かんだがターシャはそれを振り払った。あの従妹は例外だ。


「あ、宝石も使うのはありかも。土台に角を使って、いや、ネックレスにして中心宝石、左右に角の方がいいかな?……石はどうしようか?」

「ボクは琥珀がいいかな?中に甲虫入ってるやつとか格好良さそう!」

「え、虫!?というか琥珀でいいんですか?ダイヤとかルビーとかでなく!?」

「おお、大きい虫入り琥珀とはなかなかに浪漫が。私の知る限りだとちっこい羽虫くらいしか知らないけどこっちだとあるんだ?」

「いや、あたしは聞いたことないな。というか琥珀って樹脂だろ?そこらの良さげな虫、例えばラピスビートルとかを捕まえて樹脂に閉じちまえばいいんじゃねえのか?」

「いやいや、フィリス、そうじゃないのよ。古代の虫が当時のまま封入されてるからこそ浪漫があってね?」

「けど、琥珀の虫って偶然混ざりこんでるから変に翅が開いてたり崩れたりしてるの多いらしいし自前で作った方が多分中の虫もきれいな状態になるぞ?身に着けるなら中身も変なポーズだったり崩れてるようなのよりはしっかりした状態の方が良くねえか?」

「甲虫ならそれほど酷くは崩れないし女の子が身に着けるんだから大きさにも限界はあると思うよ。ラピスビートルなんかブローチにしても大きすぎるよ。紛れ込んだ体でも近くで凝らして見たら変なポーズになってるかもしれないけど普通に眺める分には問題ないんじゃないかな?」

「いや、ブレスレットなら……防具身に着けるのに邪魔だな」

「待ってください、女の子は普通虫入り琥珀を飾りにしませんよ!?」

「え?ボクは琥珀好きだよ?」

「ミアルは武器(バザラゲート)にちなんで瑪瑙(アゲート)もいいかもね。数珠みたいにして間に挟ませる?」

「それなら、まあ……でも真ん中が虫……?」


 正体を隠しているとはいえ皇族として優秀な人物と個人的な繋がりを持っておきたいターシャは一般的な令嬢の基準とは結構外れている三人の会話について行こうと必死だ。ダリウスはもはやツッコミに回っている第二皇女殿下を気の毒な物を見る目で眺めている。普段ツッコミに回っているフィリスもなんか会話に乗っていてソロ時代の彼女を知るディーゴは「いつの間にか染まっちまってるなあ……」と遠い目で四人を見ている。


「ところで、メガネウラ級の虫の琥珀ってあるのかな?60cmくらいのトンボなんだけどね?」

「え?梓美の故郷の生物だよね?魔獣じゃないのにその大きさ!?」

「要塞蜂とかそこらの昆虫型魔獣よりでかいぞ!?同サイズやそれ以上で飛ぶのって深層くらいしかいないんじゃないのか!?あたしが知ってるのは翅のないメガロセンチピードとかクモやサソリくらいだぞ?」

「いや、億年単位での昔の生き物よ。さすがに現存してないよ。あとそういえば図鑑に載ってたねマンイータースパイダーとかギガントスコーピオン」

「カニやエビにもいるらしいよ。あ、琥珀といえば、『アンバーシールド』ってあの工房に置いてあったよ?実際の琥珀じゃなくて樹脂を薬品で硬くしたらしいけど」

「へえ……クモとか以外に深層の大型昆虫魔獣って何がいたっけ?どうせならかっこいいのがいいな」

「作る気ですか!?深層で大きい虫魔獣捕まえる気ですか!?」

「いや待って、ボク達の中で誰が使うの?盾使う人いないよ?」


 そっちじゃない。実用性云々ではなく虫入りにする発想がおかしいことを誰も指摘しない。さっきから話題が虫入り琥珀とか巨大昆虫という女子らしさの欠片も無くなっていることに頭を抱えるターシャ。おかしいのは自分なのかと錯覚しそうになる。


「いや、非常時に使えるかなって。フィリスが言った通り自前で樹脂に閉じれば格好いい状態にできるしインテリアにも使えると思うの」

「発端はあたしか!?いや、アンバーシールド持ち出したミアルじゃないのか!?」

「いや、そもそも梓美がメガネウリャ?の話題出したからじゃないかな?」

「この際クモでもサソリでもいい!あ、でも甲虫系じゃないと乾燥させるとしなびちゃうか。どうしよう?」

「なんか特定の薬品に漬けて水分と置換させる技術なかったっけ?ちょっと工房で小耳に挟んだよ?」

「それだ!」

「なんつー会話してんだあの工房。そもそも何に使う気だったんだその置換?技術は」

「魚や両生類系のはく製作るのに使えないかって話だった気が?」

「これでクモやサソリでも問題なさそうね。大蜘蛛入りアンバーシールドとかインテリアとしても中々じゃないかな?クモってことで戦闘時にも威圧効果抜群でしょきっと」

「どこの貴族の家にも巨大虫入り琥珀の大盾なんて置きませんよ!?ましてやクモやサソリなんて!魔獣同様ドン引いて終わりです!」

「あ、梓美。この大蜘蛛50cmくらいで腹部が獣の頭骨みたいな模様だよ?ビーストスカルタランチュラだって」

「なんで図鑑取り出してるんですか!?クモ見繕ってるんですか!?」

「よし、今度狩りに行こう。えっと必要なのは毒瓶?いや、闇属性魔法でいいか」

「いや待てお前ら」


 唐突にクモ封入大盾という不気味さしかないネタ装備開発に突っ走ろうとするところにフィリスが待ったをかける。やはり頼れるのは年長者だ。


「そうですよフィリスさん!このままでは不気味な代物が……」

「こっちの角鋼殻(ホーンスチルシェル)剣蠍(ソードスコーピオン)を鋏と尾、角、あと脚先がフレームになるように露出させる感じにアンバーシールドにして露出部分を補強と刺突武器用にもなるように希少金属でコーティングすればより実用性も生まれないか?」

「「おお!その手があった!」」

「貴女も結局作る気なんですか!?もう止めにしましょうよ琥珀のお話ーーーーーー!!」


 年長者も駄目だった。ちなみに角鋼殻(ホーンスチルシェル)剣蠍(ソードスコーピオン)とは尾を除いても50cmはある甲虫のようなメタリックな甲殻に覆われているサソリの魔獣である。頭部に長い角、剣の様な大きく長い鋏も特徴的で同サイズの相手は角と鋏で攻撃し、大きな相手は尾の毒で弱らせて鋏でズタズタにして仕留める狩りをする。決して女の子が和気藹々と狩りに行こう等と話題にする類のモノではない。一連の話を聞いているダリウスやディーゴも顔が引きつっている。

 なんとかそれより前の話題のアクセサリー、それも女の子らしい物に軌道修正しようと奮闘するターシャだった。


 そんな女子四人の会話が弾んだ中、ようやく一行を乗せた馬車が一際大きい施設にたどり着くころにはターシャは真っ白に燃え尽きていた。どうしても魔獣素材に会話が流れていってしまい、そこから宝石のような綺麗さの素材を求めると甲虫をはじめとした節足動物にたどり着き、さらにそこから別方向に脱線しまうのだ。


「ぴかぴかコガネムシ……嗚呼、なぜ虫は宝石のように輝いてしまうのでしょうか……冒険者には宝石よりも虫の殻の方が価値があるのでしょうか……?」

「ターシャ、そんなことはないから正気に戻ってください。到着しましたよ。ああ、皆さんは先に降りてくれ。彼女を正気に戻すのに骨が折れそうだ」

「えっと……すみません」

「はは、この子には荷が重すぎたようだ。帰りはもう少し容赦してやってくれよ」


 お言葉に甘えてぶつぶつとうわ言が漏れているターシャと彼女の肩を軽く叩いて起こそうとする辺境伯を置いて気まずそうに一行が馬車を降りると一人の人物が入り口から駆け出して来て一行を出迎える。


「ようこそ、ベニーライン辺境伯領の誇る魔獣研究機関へ。ワタクシここの所長を務めておりますチャーリーと申します。この度は貴重な大型種ワイバーン、そしてディノレックスのサンプル提供ということで我等一同まだかまだかと心待ちにしておりました」


 一行を出迎えたのは丸眼鏡のエルフだった。眼鏡の下はお預けをされている犬か何かのように目が爛々と輝いており、言外に「サンプルはよ!」と物語っている。着ている白衣の様な薄いコートに血が染みた跡が残っているのがちょっと怖い。そんな感想を一同が抱いていると復活したターシャと共に辺境伯も馬車から降りてくる。


「出迎えご苦労、所長。君も待ちきれないようだし解体のための場所に案内願えるかな?」

「これは辺境伯様。失礼いたしました。ええ、ええ。早速ご案内いたしましょう!既に部屋は冷やしております。例えディノレックスと言えども内蔵の一片たりとも痛ませませんとも。よければ見学していかれます?大型魔獣の解体は見れる機会はそうありませんよ?」


 ターシャの顔が引きつる。大型魔獣も畜獣の解体も目にしたことが無いのにダブルで初体験はハードすぎる。遠慮したいところだがこの場にいるのは殆どが魔の森のすぐ隣の辺境の者達だ。


「へえ、せっかくだから見に行くか」

「ボクも今後の参考に……なるといいな。見よう見まねでできることじゃないかもだけど」

「私も見学させてもらおっと。”奈落”使えないときには必要分を切り出さないといけないしコツは知っておかないと」

「当然、ギルド職員として見ない訳にはいかねえな」

「皆さん見る気満々ですね。もちろん私も見学させてもらうよ。さて、どうしますか、ターシャ?きついようでしたら別室で……」


 内情を知るダリウスはターシャにやんわりと辞退を勧めるが、


「いえ、私も見学させていただきます」


 皇女とはいえ今は仮にも『辺境伯のメイド』に扮した自分だけが建前とはいえ主や同年代の少女達が見学する中辞退するわけにもいかない。きっぱりと言い切った皇女(ターシャ)の表情はまるでここが死地だと見定めたかのように覚悟が決まっていた。

 本来なら獣王竜討伐の立役者と顔見知り程度で終わるはずがその日のうちに三人が大型魔獣を二頭仕留めたばかりにそのまま研究機関に同行することになった皇女。誰が悪いというわけではないが巡り合わせの悪さに同情を禁じ得ないダリウスだった。


「それでは一行、ご案内です。ささ、こちらへ」


 そんな辺境伯の内情はつゆ知らずご機嫌なチャーリー所長に案内されて施設に足を踏み入れる一行だった。


『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』

他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ