5話〜思いの外新装備がやばいです〜
魔の森。この大陸の中心から広がる大陸の面積の三分の一を占める魔獣の生息圏。中心に向かえば向かうほど強力な魔獣による生態系が構築されており、人の生活圏に隣接する外縁部やそこより踏み込んだ領域である中層までが一般的な冒険者の活動領域である。魔の森の中心近くの領域である深層の魔獣はいずれも強力かつ大型の種類が多く餌の大きさからわざわざ中層に出てくるものは少ないが、何かしらの理由で中層、最悪の場合縁部に進出することもある。
特にその頻度が多いとされるのがワイバーンである。飛竜とも呼ばれる所以である翼に進化した前脚による飛行能力によって行動範囲が広く、種類も大型から群れを作る小型、毒を有する種類や火炎のブレスを吐く種類と多様な為常に万全な対策ができるわけではなく不意な遭遇で危機に陥る冒険者は多い。人の生活圏に飛来して村や牧場を襲撃する危険がある場合はギルドが直接依頼を出すこともある。
そのワイバーンなのだが、
「待って。フィリスならわかるけどボクが近接攻撃で倒せるって待って」
現在三人の前で首の骨を粉砕されて骸となっている。全長10mを超える大型の種で倒したのはミアルだ。それも、精霊形態を使わずにだ。ミアルも状況についていけず困惑している。
Bランク冒険者を含むパーティーは深層の探索も許可されるようになる。そこで依頼ついでに深層を下見しようと歩みを進めたミアル一行だったのだがそこでワイバーンに遭遇。空を飛ぶ為遠距離戦に最も長けたミアルが新武器こと『バザラゲート』の試用も兼ねて挑んだ。
討伐例が多いとはいえ深層の魔獣。まだまだ冒険者歴三ヶ月にも満たず精霊形態ですらないミアルが苦戦するかと思いきや初撃の雷でワイバーンが墜落、落下のダメージと麻痺で動けないところを首に向かって雷を纏わせて振り下ろしたバザラゲートの一撃で首をへし折ってしまった。精霊形態による大出力も竜への特効も無しでこれである。三人とも開いた口が塞がらない。
「ワイバーンってこんなに簡単に斃せる類の魔獣じゃないだろ!?しかもエルフ族の腕力で振り下ろして首折るとかあり得ねえ!どれだ!?どの装備が原因だ!?」
「ええと、魔法そのものも思ったより威力上げられたから武器は勿論だろうけど”身体強化”もいつもより力だせてるなあ、って思ったから多分身に着けた獣王竜の革と毛皮装備全部影響してるんじゃないかな?」
「そっか、胴も手足も魔法効果増幅できる素材だからより高出力で”身体強化”できるのね。で、ミアル専用に調整された合金の武器だからアサメイの比じゃない威力で普段の魔法も放てる結果こうなったと」
理解が追いつかないフィリスにミアルが所感を述べ梓美が結論付ける。通常のミアルでこれなのだから精霊形態になれば一人で獣王竜を討伐するのも難しくないのでは?と考えずにはいられないミアル達。装備を新調してから模擬戦をしていたら冒険者ギルドの建物は消滅していたかもしれない。
「そういえば、先に冒険者活動再開した人の中にも獣王竜の素材の装備身に着けたら魔法より強く発動できた、って人何人かいたけどあれ魔法増幅の媒体になってたんだね」
「まあ、そいつらは参加報酬で貰った連中だから素材量的に身に着けられるのはグローブとかアクセサリーみたいに一部だけだったけどな。……あたしら体のあちこちにそれつけてるな?」
装備の素材として有用な獣王竜の毛皮や角は大半が国による買い取りがされたが、元々の巨体から採れる素材量も多く討伐に大きく貢献した三人にはそれなりの量の素材が報酬で渡されている。シメレア帝国の中でもこの三人ほど獣王竜素材の装備を身に着けているものはそういないだろう。
加えて装備には従来の技術では実現不可能な希少金属の合金も用いられている。皇族やその直属の精鋭でもこれほどの装備を持つ者はいないのでは?改めて考えてみるととんでもない現状に冷や汗を流しているとミアルが異変に気が付く。
「二人とも、もう少し議論したいところだけどなんかでかいのが近づいてくる。二足歩行でメガディノラプターを重くしたような歩き方だよ!」
「墜落したワイバーン目当てか?メガディノラプターより重い……ディノレックスか!?」
「私が視る!……うわあ、本当にティラノみたいな恐竜!本の図で見たディノレックスで間違いないね!」
ディノレックス。深層に生息する大型の魔獣で地球の最大級の大型獣脚類であるギガノトサウルスのような15m近い全長の骨格とティラノサウルスのような頭部と重厚な体格を併せ持つ。若い個体が時折中層に出てくることがあるが幸いにも主に大型の魔獣を餌としているため外縁部まで出ることはほとんどなくワイバーン程脅威の対象にはされていない。しかしその顎の力はシェルヘッドベアを一噛みでその骨格を噛み砕く程強く、ディノレックスが群れでドラゴンを襲い仕留めたという逸話もある程の深層を代表する強力な魔獣である。嗅覚も鋭く冒険者と魔獣の戦いを血の匂いから嗅ぎつければすぐに割り込み獲物を横取りされる被害が多く、冒険者ギルドの悩みの種にもなっている。
現在ミアル達は中層の深層に近い領域であるためディノレックスが嗅ぎつけてきたのだろう。ワイバーンの死骸を梓美が”奈落”に収納するとこの場を離れようとするがフィリスが待ったをかける。
「さっきミアルが一人でワイバーンを仕留めたからあたしも少し試してみたい。いいか?」
「待って、フィリスさんディノレックスは初見ですよね?大丈夫なんですか?」
「いや、若い個体が中層に来た時に相手したことがある。……まあ、こいつその時よりずいぶんでかいけどな……」
すでに木々の間から目視できる位置まで近づいてきている。初めて生で見る大型獣脚類に目を輝かせる梓美だがすぐに意識を切り替える。
「危なくなったら手を出すからね?」
「ああ。ワイバーンもそうだがディノレックスは皮がそれなりに売れる。ちょうど金策考えてたからおあつらえ向きだ」
ディノレックスの皮膚は硬く並の刃物や獣の爪が通ることはなくその討伐難易度を上げる。しかし革鎧として利用できればドラゴンの素材の様な魔法の媒体としての効果はないものの軽さと防御性能を両立できるのでレザー系の素材では上級の代物になる。加えて革製品としてもドラゴンの素材が市場に出回ることはほぼないため市場に出回るという前提ではワイバーンと並んで最高級品に名を連ねる。それを一体丸ごと売ればかなりの稼ぎになることは難くない。
「もうワイバーンは確保できてるから無理はしないでよ?いきなり新装備修理に出すことになったらそれこそ赤字だからね?」
「心配いらねえよ。獣王竜のように回復力に物を言わせるわけでも遠くからブレスを撃つわけでもねえ。普段戦う魔獣がでかくなっただけだ」
負けるとは思っていないがいきなり装備が壊れて赤字になるのではと不安になるミアルの心配を余所にフィリスが緋色の波打った刃の大剣を構える。銘は梓美の出身国の神話に登場する火の神の別名と毒蛇の名から取って『炫蛇』と名付けられた。握られた柄を介して流れる魔力が獣王竜の骨と角から作られた鎬を媒体に出力と操作性を増しヒヒイロカネとオリハルコンの合金からまるで炎そのもので刃を構成しているかの様に放出される。
「ミアルが初戦で大型種のワイバーンを仕留めたんだ。あたしも劣らないくらいの奴狩らなきゃ格好がつかねえな!”緋刃”!!」
ディノレックスに遠距離攻撃の手段は無い。先手を打つべくフィリスが大剣を振るい炎の刃を飛ばし、追撃の為に炎刃の後を追って駆け出した。
◇
「で、ディノレックスも難なく狩れてそのまま持って帰って来たと」
「ああ。まさかあんなにスッパリ首に刃が入るとは思わなかった」
「初撃でかなりのけ反ってたよね。メガディノラプターだったら消し炭になってたんじゃないかな?」
「近づいたフィリスに振った尾が炎で伸びた刃がカウンターで斬り飛ばされた時は私思わず叫んじゃった」
「うん。そのままバランスを崩したディノレックスにトドメの一太刀。すぐに刃が冷えるから切り口焼き潰すことなく切れて血抜きもスムーズにできたよ」
「それは良かったですね。ですが三人とも、ちょっといいですか?その狩ってきたという大型種のワイバーンとディノレックス。ーーーーーどこで解体するんですか?」
アンジェラの額に青筋が走る。受注した依頼の完了報告と同時に大型種のワイバーンと立て続けにディノレックスを仕留めたという話だけでも意識が飛びかけたのに丸ごと持ち帰ってきたとのことでその買い取り金額と丸ごと持ち帰ることはまず無い為10m超えの魔獣など入りきらない解体場に一体どうするんだと叫びたい気持ちを必死に抑える。無論、屋外で解体すれば色々と汚れる為許可できないし訓練場も解体後の清掃ができる造りではない。街中で斃され、その場で解体するしか無かった獣王竜とは事情が違う。そしてワイバーンはともかくディノレックス丸ごとの査定等持ち帰ること自体困難な為前代未聞だ。解体場所の件も含めアンジェラや他の職員の手に余る為至急ギルドマスターが呼ばれた。
「お前ら……一日に何度も頭痛案件持ち出さないでくれ。で、それが新しい装備か。」
せめてもの救いは新装備で模擬戦をしなかったことだろうか。
「というか何でアズミは獣王竜の余った肉に加えてその二頭入るんだよ。よくよく考えたらそっちも大概だよなあ?」
「魔力回復手段には困らなかったので。おかげで回復量も増したから今も少しずつ拡大中です。流石にもう許容量ギリギリですが」
sランク判定になった梓美よ魔力ステータスは伊達ではない。毎日食べて飲んだ獣王竜の食材のおかげで最大魔力量だけでなく回復量も増している。
襲撃事件直前の3倍近くまで"奈落"の容積は増えている。
「解体だけなら切り出す部分だけ"奈落"から出せばいいんですが血の匂いで魔獣呼びそうだったので内臓の処理していないんです。と、なると結局広いスペースが必要ですよね」
「解体する場所もだが素材の保管場所も問題なんだよ。これ領主案件じゃないのか?ディノレックス丸ごととか魔獣の研究機関も欲しがる代物だぞ」
この世界には魔獣に関する研究機関が存在している。特に巨大な魔獣はその自重を支えるのに魔力を用いていることが多く、その類の魔獣の骨格や身体構造が似た種類の魔力を持たない動物とどのような違いがあるか等研究者の疑問は尽きない。ワイバーンは稀に飛来することがあるためサンプル確保の機会はあるがディノレックスの素材は深層近くから持ち帰らなければならない為入手が難しくそれが1頭丸ごととなれば大変貴重なサンプルになるだろう。
ギルドマスターも扱いに困っていると彼が出てきた場所から一人の男が奥から歩いてくる。まだ支部にいた辺境伯ダリウスとメイドだ。
「話は聞かせて貰ったよ。二頭とも解体は研究機関に手配しよう。素材に関しては皮はこちらでも買い取る。先の襲撃事件の出費もあって加工して輸出しないと財政が厳しくなってきた。それ以外は冒険者ギルドと研究機関で折り合いをつけて貰えるかな?そして二頭の研究機関への運搬はアズミ嬢達にお願いしたい。こちらも手伝うんだから先の依頼共々やって貰えるね?」
この忙しい時に仕事増やしたんだからこっちの『お願い』も聞けるよな?と目が笑っていない笑顔を向けてくるダリウス。梓美達は頷くしか無かった。
「それと、君達の装備の新調に使われた新技術。そちらも詳しく話を聞かせて貰おうじゃないか。勿論、携わった工房の者も呼んでね」
個人の元々の力量もあるとはいえ深層の魔獣をあっさり倒せる装備の製造技術が放置される道理はない。再び応接室に座らされ聴取を受けた三人が解放されたのは夜も更けた頃だった。
ミアルの武器バザラゲートの名前の由来はヴァジュラの音写でもあるバサラと爪を語源とするオニキスやサンダーエッグといった種類が存在する宝石にも加工される鉱石アゲート(瑪瑙)から。派手や自由きまま、破天荒を表す婆娑羅という言葉やアゲートに使われた名が鳥や雷とも相性が良いと梓美が命名しミアルが採用しました。
それはそれとして
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




