4話~ブレイクスルーで新装備がオーバースペック~
冒険者ライセンスを更新し終えた三人は依頼の話は一旦置いておいて武具屋に向かった。
獣王竜討伐で手に入った素材や報酬で新調を注文した装備を受け取るためだ。襲撃の被害で工房の再稼働に時間がかかったことと復興で忙しかったため新しい装備が必要な状況ではなかったこと、獣王竜素材の扱いを鍛冶師が会得するまでの期間、その他諸々の事情もあったため完成、受け取りが今日になったのだ。
「こんにちはー。装備受け取りにきましたー」
「出たわね。注文の品はできているよ」
戸を開いた梓美に「うわ出た」と言わんばかりのリアクションをする親方の奥様。ドワーフ族なのもあってかかなり若く、いや割と幼く見える。
「奥さん、なんですかそのリアクションは!?」
「やかましい!旦那が食いつきそうな厄介な注文しやがって!あんた達が最初に来た日から配合とか利用法とかずっと考えては失敗品量産しているのを見るこっちの身にもなりなさいよ!少しでも赤字防ぐために寝る間も惜しんで失敗品を分離し直してるのにあんたが実験の手伝いに来るとまた失敗品の山が積みあがるのよ!希少金属なんだと思ってんだ!」
事の起こりはミアルのアサメイの修理だった。ルルがミアルに自前での魔力操作の訓練の合格祝いにオーダーメイドを贈ったアサメイはミアルにとってとても思い入れの強いものだった。
そこで、アサメイを作ったという職人を探したのだが既に亡くなっていることが判明。しかし彼の弟子が経営している武具屋がアダマートにあるとのことでその扉を叩いたのだ。
修理が完了したアサメイは新品同様なまでに修理されていてミアルは出来栄えに満足だった。そこで、ミアルとフィリスの精霊形態に耐えうる新装備も依頼することに決めた。
しかし、ここで問題が発生した。ミアルのアサメイにはオリハルコンが使われていたのだが媒体としての効果はミスリルに劣り膨大な魔力の過負荷に耐えきれず自壊したと推測された。しかしオリハルコンの強度そのものはミスリルに勝るため、もしアサメイがミスリルを用いていたものだった場合は物理的な強度の問題で運用に耐えきれなかったと親方は結論付けた。その為二人の装備にはミスリル以上の強度とオリハルコン以上の魔力相性の良い金属が必要になった。強度においてミスリルやオリハルコンを凌ぐアダマンタイトも案には出たが魔力との相性面ではその二つに劣る為候補からは外れた。また、金属素材よりは軽く魔力媒体として優秀な獣王竜素材だが、こちらはミアルの精霊形態の『竜や巨獣の天敵』という特性から防具はともかく杖や武器としての相性は悪いと見做された。。
そんな中梓美はミスリルだけでなくアダマンタイトやオリハルコンといった元いた世界では架空の金属の存在を知って気分が高揚してこんなことを口走った。
「ミスリルは銀、オリハルコンは銅に近いっていうけど合金って無いのかな?混ぜたら折半したような金属ができそうな気が?」
そしてそのつぶやきを親方は拾った。拾ってしまった。
「ミスリルとオリハルコンだと熱が足りなくて熔かせないし魔法で合成しようにもオリハルコンの方が下に行っちまって均等に混ざらないんだ。それで分離しなおすのに手間がかかるのは初心者によくあるんだよ。ヒヒイロカネなんかその最たる物だ」
赤い希少金属であるヒヒイロカネは金属の中で最も熱を通しやすく冷めやすい特徴を持ち、硬度もアダマンタイトに匹敵、それでいて軽いのも特徴で武器に使われる。一方魔力との相性は魔力を非常によく通し魔法の発動そのものは妨げないものの増幅や制御等の媒体としての有用性は無く杖には取り付ける刃くらいしか用途はない。理論上は他の金属と混ぜることで元の金属の魔力との相性は残しつつ軽さと硬度を付与できるとされているが軽すぎてどの金属とも均等に混ぜられないのだ。
「比重の違いですか?……あ、だから宇宙合金とか無重力下の合金ってあるんだ!?」
「あん?なんだその宇宙?無重力?ってのは?」
聞きなれない用語に興味を示す親方。梓美はあくまで『物語で読んだ』という前置きで説明をする。
「宇宙、空のずっと上って重力が無いんですよ。だから比重とか気にすることなくより均等に物を混ぜやすいんじゃないかって何か本で読んだことがありまして」
「確かに、話を聞くだけなら不可能じゃなさそうだな。で、その無重力ってのはどうすんだ?」
理屈は納得できるが前提条件として無重力状態が要求される。それがクリアできないなら結局机上の空論にでしかない。しかし、今親方と話しているのは規格外のスキル持ちだった。梓美はあっさりと《舞台装置》で無重力領域を作る魔法を構築してしまった。
それを見た親方はすぐに工房の裏からオリハルコンやミスリル、ヒヒイロカネ他様々な金属を持ち出して来て店内は見習いも交えた実験会場になった。親方の金属を合成する魔法は見事という他なく無重力下で合成されたそれは大半の有用性は別としても完璧な出来栄えだった。今一つ職人達のテンションについていけないミアルとフィリスを他所に合成実験は盛り上がり親方の奥さんの雷が落ちて強制終了した頃には日が暮れていた。
そして日を改めて実験すること数回、ようやくミアル、フィリス両名の精霊形態での運用に耐えうる合金のレシピが完成した。
その裏では失敗品の合金を魔法で時間をかけて再分離する奥様の奮闘もあった。金貨単位で金が動く希少金属を新たな可能性に目を輝かせながらポンポンと失敗作に変えていく工房の職人共に卒倒しそうになりながらもそれぞれ元の単一の金属に分離していた。
そうして幾度と繰り返されるトライ&エラーと奥様の素材のリサイクルの為の奮闘の末二人の新しい武器に最適な合金が完成したのだった。
「あんたがカノジョにアダマンタイト武器試させなきゃもっと早く終わった物を……」
「結果的にはいい物ができそうなのでそこはコメントを控えさせて頂くと言いますか……」
合成実験中暇なミアルが武器の試用場を利用していた時に小休止に立ち寄った梓美の提案でアダマンタイト素材の武器で試したところ纏わせて攻撃に用いた場合は電気を貯めこむのか一番雷の魔法と相性がいいことが判明した。なお、梓美が提案した理由は「アダマンタイトは地球だと金剛石と関連付けられるから金剛杵繋がりにあやかってみよう」と単純なものだったのだが。
そこでミアルの新武器にはアダマンタイトも使うかどうか検討されたのだが本来の用途である『杖』にアダマンタイトは不向きだった。
そこで無重力合金の登場だった。
失敗だった。
「普通に魔力効率落ちて重くなるだけだったよね」
「意地でも実用レベルに持ち込もうとしたけど結局コーティングの類でいいって結論に落ち着くまでどれだけまた失敗品の山が出来上がったと……」
無論、失敗品を金属毎に分離させたのは奥様だった。さすがに梓美も申し訳なくなったので獣王竜の血を用いた魔力回復薬(試供品)を差し入れたところ今度は夜が大変だったと後日親方がゲッソリしていた。
「他にも色々こだわらせられたよねぇ……」
奥様が遠い目をする。獣王竜の角や爪、骨が魔法媒体としてはミスリルには劣るものの有用かつ軽量化にも使えると知ってフィリスの剣に獣王竜の尻尾の骨を推したりと完成度に問題ない限りは梓美の知る伝承にあやかった作りがされた。
「旦那は疲れが一気に出たのかやりきった顔でぶっ倒れてるよ。ほら、これが注文の品だよ」
「わぁ……これ本当にボクのなの?なんか遺跡に祀られてそう……!」
ミアルの武器は柄の上下に複数の刃がついた梓美曰く『金剛杵』と呼べる形状をしていた。全体を構成するオリハルコンを主体にミスリル、そして軽量化と補強の為少量のヒヒイロカネが混合された合金はうっすらと金色を帯びており、上の刃は三つに分かれ外側二つのアダマンタイトの刃は厚く全体的に両刃斧にも三叉槍にも似た形状を、下の刃は中心の細い杭の様な刃が魔力補助の機能を果たす宝珠に刺さりそれを四本のアダマンタイトの太い爪状の刃が囲う形状をしている。デザインは梓美考案で曰く上側は三鈷杵をベースにミョルニル(槌ではなく斧に寄せた)の要素、下側を五鈷杵と杖、宝珠を掴む鳥の爪の要素を合わせている。
ヒヒイロカネが混ざっていることで魔力の通りは良くなり、余剰な雷のエネルギーはアダマンタイトの刃に流れて行くため従来の杖より雷による負担を大幅に軽減することができた。無論、純粋な武器としての運用も可能だ。
「あまりにも豪華仕様でちょっと尻込みするけど梓美がボクの為に色々考えてくれたのは嬉しいな。うん、装備に負けないよう頑張らなくちゃ」
「普通じゃ作れない希少金属合金の武具とかなんか数百年後に伝説の武器扱いされてそうだなあ……」
ミアルは意気込む横でフィリスがため息混じりに呟く。まだ片手剣にも及ばない大きさだから良かったもののこれだけでかなりの値が張る代物である。獣王竜討伐の報酬があるとはいえ梓美達の所持金で何とかなっているのは合金作成の為の無重力空間の展開による協力が大きい。汎用性の高い合金もいくつか完成したためそちらで儲けられる見通しがあるとのことだ。
「それに比べたらこっちはまだわかりやすい。熱と高出力が目的だからねえ」
次に奥様が取り出したのはフィリスの大剣だった。片刃の刀身は魔力媒体として優秀だった獣王竜の尾の骨や角を中心に用いられ、峰や刃には金属素材を用いている。熱や魔力をよく通すヒヒイロカネをオリハルコンで重さと魔力との相性を増した赤い合金はフィリスの炎の威力と精度を高め、刃はフランベルジュのように波打っており、斬撃による裂傷をを深くする。また、熱伝導率が高いヒヒイロカネの性質か炎を纏わせても火の魔法を解除すればすぐに温度が下がるため取り回しが容易になった。
こちらは工房側のデザインで普段使いもすることから整備しやすさも考慮され、それほど変わった外見ではない。しかし、獣王竜の角の峰とヒヒイロカネ合金の形状も合わさって揺らめく炎の様な刀身は人の目を引き付けることは難くないだろう。
「後は防具だね。魔法職の二人は持ち込みの獣王竜の素材が殆どだから値は基本的に技術費だよ」
ミアルは黒い革の肘、膝当てに腹部を守るコルセットと、白い毛皮を用いたチョッキとアームガード、グリーヴを、梓美は毛皮を用いた外套と黒い革のロングブーツとアームガード、胸当てを制作してもらった。これらは魔力を流すことで高い防護効果を得られる獣王竜の毛皮や革によって身軽さと防御を両立させることに成功している。
そしてフィリスの防具は今まで熱がこもるのを嫌って金属製を避けていたのだが、実験過程でできたオリハルコンをベースにヒヒイロカネとアダマンタイトを混合した強度と排熱性に優れた揺らぐような赤みの混じった黒い合金によっていくらか改善できることがわかった。そのため胸部アーマーにショルダーガードの追加と腰から膝を守る日本の鎧の草摺に似た構造のタセットが新造された。いずれもヒヒイロノカネの縁取りの鮮やかな緋色の金属光沢が重厚な黒に映えている。無論、下地の革素材は獣王竜のものを用いており、魔法媒体として”身体強化”の出力向上に一役買うことだろう。
「まさかあんた達が要塞蜂の蜜蝋を持ってるとは思わなかったよ。あれが無きゃ武器も防具もここまでの代物はできなかったろうね」
オリハルコン合金とアダマンタイト、ヒヒイロカネ合金と獣王竜素材といった異なる素材ををつなぎ合わせたのは梓美が保管していた要塞蜂の蜂蜜酒を収めていた蜜蝋の瓶を原料とした接着剤だった。調合する薬品を変えることで素材同士の『つなぎ』から補強と様々な用途に使え、二人の武器の完成度を上げるのに一役買っている。ミアルの武器の柄も専用に調合された物でコーティングしており非常に良く手に馴染む。
聖王国が解毒薬として求めていることから原料としての流通を避けるためその場で武器用の薬品へと調合することが決められていたものの中途半端に余った分は買い取ってもらい製作費の足しにしてもらった。
「とりあえず丈が合うか確認してみようよ。フィリスとか胸のサイズ合わなかったら一大事だし」
「散々採寸されたからそれはねえよ」
「ボクは気にしなくていいのを喜べばいいのか女として落ち込めばいいのか……」
ミアルのつぶやきはさておいて早速各々試着して着心地を確かめてみるのだが、
「いや、これBランクとCランク冒険者の装備じゃねえだろ!」
「素材が素材だから……希少金属にドラゴン素材って伝説になりそうね」
「これもうどうしようもないぐらい目立つんじゃないかな!?」
希少金属をふんだんに使った二人の新武器に防具は希少金属ではなく毛皮と革が主体な為先の武器ほどの派手さはないもののかなり上質な素材だということは大体の人の目から見ても明らかだろう。それを年若い少女達が身に着けているので背伸び感とか諸々が払拭できない。
「これで『Aランク冒険者パーティーですか?』って聞かれたらすっげえ気まずい……」
「功績そのものはそれなりのことしてるし大丈夫だよ。きっと、うん」
「これで領主のお使い依頼やるの……?」
「そもそもあたしらBランク込みのパーティーだから一応深層での依頼が許可されるレベルなんだよ。これ端から見たら金持ちのボンボンが不釣り合いな装備身につけてるアレに見えないか?」
「「……」」
二人は否定できなかった。現状に対してオーバースペックな装備の完成に出来栄えは喜ばしいがいざ装備すると果たして自分たちが釣り合っているか微妙な気分になってしまう三人。
そして請求額で獣王竜討伐の報酬の殆どが吹き飛んだので金策に依頼を受ける為に冒険者ギルドに戻った三人だが新装備を身に着けたままだった為他の冒険者達にからかわれたのは言うまでもない。
梓美の杖は予算不足かつ急いで更新する必要もなく見送りに。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
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