2話~指名依頼~
遅くなりました。夕方にも投稿予定ですので何卒ご容赦を……
「君達に依頼したいのはムロアウィールドへの輸送依頼だ。アズミ嬢が大量に保有している獣王竜素材を買い取りたいという者がいてね。しかしムロアウィールドまで鮮度を保って運搬するにはコストがかかる。そこで本人にこのまま依頼という形で持って行って貰いたいんだ。ああ、素材の買い取り金額もは冒険者ギルド鑑定の元君達に支払われるから安心してくれ」
依頼内容を聞いてミアルが目を丸くし梓美も眉をひそめている。
「え……『大量の』って……まさか肉を?」
「普通の人が食べたら少々厄介なことになりますよ、あれ」
事は一月前に遡る。
獣王竜の討伐に参加した冒険者にも報酬が渡されることになり、最も貢献したミアル達三人は取り分け多額の報酬を受け取る事になった。ミアル達の受け取った額は一人金貨20枚。梓美の感覚では200万円相当だ。
加えて素材類も基本的にギルド預かりだがそれらも貢献に応じて分配され、不要な場合はそれに応じた額がさらに支払われる事になった。
しかし、ここで問題が生じた。地下の避難施設を氷室にして保管した食材、特に肉の需要が下がったのだ。
ただでさえ未知の食材である獣王竜の肉は市民には敬遠されがちだった上に食した場合、体内の魔力が乱れることで体調を崩すことがあると判明したのだ。結果食した冒険者数名が一週間程使い物にならなくなる事態が起き、その後保有魔力量が向上する者もいたのだが個人差があり絶対とは言えなかった。
血液はまだ薬品の素材として使い道があったためまだマシなのだが肉は獣王竜の巨体から解体された為にその量は膨大で結果冒険者ギルドは大量の不要在庫を抱え、加えてコスト面から保存できる期間も限られる為いずれ廃棄という非常に勿体ない事態になった。
そこで内部時間を停止させて物品の保管ができる”奈落”が使える梓美に生もの素材を引き取ってもらい、需要あった場合は梓美から買い取るという形になった。
買い取り金額は相場よりも安くなるが代わりに保管中は商業を伴わなず個人で消費する分には自由に扱って良いということで梓美は承諾した。
「それについては先方も承知している。しかし、君は随分と美味しそうな料理を作っていると聞く。それが先方の耳に届いてね、リスクを承知で是非食したいというのだよ」
副作用こそ問題だが獣王竜の肉は美味で翼や胸は鶏や鴨、あばら骨周りは豚、腰は牛といったように部位ごとに異なる種類の獣の肉の味がする。量もあるので梓美は贅沢に地球の料理の再現に熱意を燃やすことになった。
魔力の不調についてはミアルは獣王竜の肉で不調を起こすことがなく、梓美は不調が出てもミアルに治してもらえるので二人にとっては対して問題ではなかった。
ちなみに作ったレシピの中で梓美のお気に入りは獣王竜の血とワインで肉や野菜を煮込んだシチューでミアルのお気に入りはハンバーグである。どうせ調整を受けるからとフィリスも相伴に預かることもあるが彼女はシンプルなステーキが好みだ。
「まあ、リスク承知なら私は何も言うつもりはないけど、二人はどうなの?」
「あたしは別に構わないが。残してても食いきるのに何年かかるかって量だしな」
「ボクも依頼そのものは構わないと思うよ。けど一つ質問が」
「何かね?」
ミアルに視線が集中する。
「ムロアウィールドって聖王国とにらみ合いが続いてる。で、聖王国が異世界人を召喚したってのはボク達は知ってる。依頼は建前でボク達、正確には同じ地球人の梓美を聖王国の召喚者に対する牽制、あるいは戦力として送り込むのが本命だったりしない?」
梓美が異世界人であること、異世界人の召喚が聖王国で行われたことはミアル達やシメレア帝国、ムロアウィールドの上層部では共有されている。召喚者全員が梓美並みの戦力を想定してそれが十人近くもいればどれだけ危険な戦力かは簡単に想像がつき彼らを心胆寒からしめるには十分だった。聖王国の元近衛騎士団長のガイルから引き出した情報によれば魔の森で要塞蜂に襲われ戦力の大半に使い物にならなくなっている為、聖光神教を敵視している国家では解毒剤の原料になりうる素材の流通は厳しく管理されている。それでもいずれ回復される可能性はあるし、無事な戦力だけでも投入される可能性はあるので目には目を、と考えてもおかしくはない。
「冒険者に傭兵業までは求めていない。ただ、厄介な害獣の駆除依頼は向こうで出るかもしれないね」
つまり、向こうで獣王竜を運用した場合はまた討伐して貰う腹積もりではあるらしい。それに、もし同郷の者による虐殺が行われようとするなら梓美は黙ってはいないだろう。
ただでさえ聖光神教を思想からして嫌悪している梓美だ。先日の戦闘での襲撃者への罵倒っぷりも有名である。加えて戦力目的で召喚されたとあって完全に梓美の中では敵認定となっている。ミアルが隣の梓美を見ると、
「やっぱり三首の邪竜をベースにするか、いや、それとも相手は唯一神教だし七首十角の怪物もありかな?とにかく確実に連中にメタを張れる能力は……そういえば獣王竜は向こうの信仰の象徴でもあるんだから逆手にとって……」
「うわあ……」
完全に据わった目つきでいかにも物騒なことをつぶやいていた。単語の意味はこの世界の住人には理解しかねるがおそらくかなり邪悪な部類の手段を用意する気だろう。
「その辺にしとけ。というか今の考えてる内容おまえ自身に”投影”する算段だったら絶対やめろよ?」
「へぐっ!?」
フィリスのチョップにより強制終了させられる梓美。それを見てダリウスがため息を吐く。
「こんな考えを実行できうる存在と同格と思しき存在が十人近く戦力として向こうにいるんだから我々が不安に思うのも理解してほしい。ましてやアズミ嬢はこれで本来は戦闘向きの能力ではない。戦闘向きの召喚者への懸念は重大なのだよ」
梓美のスキル《舞台装置》は戦闘そのものよりも状況に合わせた魔法の構築と保有による『有利な状況』を作り出すことに長けたスキルというのが多くの者の見解だ。その資質が戦闘に向いているならば常人には不可能な超高出力の魔法や自己強化を可能にするような一騎当千の戦闘能力があってもおかしくない。しかし、そこでギルドマスターが口を開く。
「まあ、そこまでの奴らの大半が要塞蜂で使い物にならなくなるってのはおかしいとは思うがな。あれ、巣を傷つけてもそのまま漁ろうとしなきゃ自分に炎纏うなり仲間が闇属性魔法の”威圧”系使うなりすれば身は守れるぞ?最悪”身体強化”で針通さないくらい筋肉硬くすればいい」
先の二つはともかく30cm程の蜂の針を筋肉でガードができるのはお前だけだ、とギルドマスター以外全員の心が一つになった。
「まあ、連中が仕掛けるとは限らない。とにかくお前らに追加で依頼されるとしたらムロアウィールドでの滞在中に連中が獣王竜けしかけてきた時に冒険者として討伐してもらうくらいだ。戦争に参加しろ、なんてことは言わない」
「それはわかりましたけど獣王竜でまたここを攻めてくるとかはないんですか?”転移”の魔法陣もありますし」
アダマートが甚大な被害を受けたのは都市内部に”転移”の魔法により直接攻め込まれたのが大きい。同様の手口を使われたらアダマートはおろか聖光神教に敵対するどこの地域にも安全な場所は無いだろう。
「そこは問題ない。幸いにも魔法陣が残されたおかげでこちらでも解析、研究ができた。おいそれと使えるものだとわかったし対抗手段も判明した」
曰く、起動には距離に応じた、聖王国からアダマートにかけてなら梓美の”降霊神機構”程ではないが膨大な魔力が必要(聖王国では獣王竜の魔力を用いたと予想)なこと、一定距離内に同じ魔法陣を設置していると転移先がランダムになりその有効距離は十㎞にも及び、範囲内の転移魔法陣数に応じて要求魔力量が増加するというデメリットも判明。加えて転移そのものは相互に可能なため逆に利用されるリスクもあり復興時には多数の魔法使い職の力を借りてゴミ箱代わりに瓦礫を聖王国に転送したとのことだった。極めつけは妨害用の設置型魔道具の開発に成功、一つで都市丸ごと安全圏にできるということだった。
「対抗手段が確立、欠点や逆に利用されるリスクも我々の手に渡ったことだし少なくともこの間の様に都市のド真ん中に敵が攻め込むことは無い。早期解決できたおかげでもあるね」
「たった一月で対抗手段開発したってすごいね……」
「なんでも皇帝が最優先で解析と対抗手段の確立の研究をさせたらしい。それだけ脅威ということだ」
シメレア帝国の同盟国にもこれらの技術は提供されたため懐に攻め込まれる心配はほぼ無くなった。
「不安の種が減ったことでもう一つ。ムロアウィールドには亡命してきた召喚者が一人いる。聖王国に召喚された者では唯一の闇属性魔法適性らしい。ついでに会いに行ってみてはどうかね?」
「あー、アキかー。確かに情報交換はしたいかも」
前國明彦。梓美とは友人関係で召喚直前に会話していた相手だった。話を聞いた時は同郷かつ仲のいい異性ということでミアルの嫉妬ゲージが上昇したが梓美曰く「自分かあいつのどっちかの性別変わればもうちょい気軽な友人関係」らしく互いに異性としての意識はなかったらしい。
「君達が不安視する問題も事実だ。大至急、という依頼ではないから一度持ち帰って相談してくれてもいい。ただし先方に連絡はいれるから断る、ないしいつ出発するか決まったらギルドマスター経由で連絡を入れてくれ。」
そう言うと依頼書を差し出してくる。そこには受け取り先の冒険者ギルド支部や報酬をはじめとした依頼内容について書かれている。買い取りたいのは貴族のお嬢様らしい。そして、冒険者としても活動しているとのことだった。
「今日のところはここまでにしよう。できれば互いに実りある結果を望むよ」
「この後新調した装備を受け取るんだろ?ここを出る前にライセンスは更新しておけよ」
場合によっては長期間アダマートを離れることになる。とりあえず今後の方針を決める前に当初の予定の装備受け取りに向かうことにした三人だった。
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