1話~訓練場の大災害と辺境伯~
シメレア帝国。大陸の中心かつその三分の一近くをを占める文明の進出を拒む魔獣の生息域『魔の森』の東側に位置する多種族共存国家。
その中で魔の森に接する辺境伯領の主要都市アダマートは人族至上主義を掲げる『聖光神教』の襲撃を受けた。未知の魔法である”転移”によって突如都市に現れた兵士と聖光神教において『聖獣』として祀られている獣王竜によるテロ行為に都市は未曾有の危機に陥った。
襲撃者達のリーダーは聖光神教の総本山であるヴィクター聖王国の騎士団の中でもトップの近衛騎士団、その元団長。配下達も信仰のままに死を一切恐れない狂信ぶりにアダマートを守る騎士隊は苦戦させられた。
何より問題だったのが獣王竜の強さであった。巨体による膂力、建物もたやすく吹き飛ばすブレス、膨大な魔力によって堅牢な鎧となる毛皮、何よりも回復魔法により欠損すら修復する再生能力の前に辺境が誇るアダマートの冒険者達は敗北寸前まで追い込まれた。
この絶望的な状況をひっくり返したのは一人の少女だった。不意打ちだったとはいえ聖光神教の兵士達をリーダーを含み無力化し、規格外のスキルによって構築された魔法が彼女の仲間に力を与え、その力を受けた二人によって獣王竜は討たれた。脅威を退けたアダマートは1ヶ月という期間で復興を果たし、完全にとはいかないが活気を取り戻しつつあった。
その立役者達は今、
冒険者ギルドにて三人揃って正座で説教をされていた。
「いいですか?冒険者ギルドの訓練場はあくまで『人の範疇』で使うものです」
「はい」
「それを、精霊形態?獣王竜を圧倒するほどの規模で暴れて施設が持つと思っていると本当に思っていたのですか?」
「返す言葉もありません」
仁王立ちで三人に説教しているのは冒険者ギルド受付嬢のアンジェラ。ミアル達の冒険者登録時からお世話になっている兎の獣人族の女性だが時折さらりと毒を吐いたりいじってくる。面倒見もよく二人が無茶をすると説教に入ることもしばしば。
三人は復興支援で鈍っていた体を研ぎなおそうと冒険者ギルドの訓練所を利用することにした。最初は普通の模擬戦だったのだが、最後にミアルとフィリスが獣王竜を倒した際の『精霊形態』を試すことにした。してしまった。
獣王竜との戦いで梓美が構築した魔法"降神霊機構"。魔法術式群によって再現された疑似的な精霊を対象に宿らせることによってその疑似精霊に準じた規格外な力を発揮できる。疑似精霊のモチーフは梓美の神話や伝承の知識から引用されており、ミアルは神話において上位の神が用いることが多い雷を司り、巨獣を狩り竜を倒した伝承のあるサンダーバードがベースとなった『霆凰』、フィリスは地球で炎の精霊とされるサラマンダーにそれと同一視される竜の姿の炎の化身炎の竜、伝承のモデルとなった実在し強い生命力を持つサラマンダーとして鯢大明神で構成された『焔鯢竜』の力を与えられた。
疑似精霊の力を発揮できる精霊形態には容易に発動できないよう条件が設けられていたのだが、
梓美がフィリスに魔力を供給することでフィリスが条件クリア→『焔鯢竜』は竜、そして『鯢』には鯨を意味する言葉でもあるのでおそらく巨獣も含む特性があり、(模擬)戦闘相手が特効対象であることでミアルが発動条件クリア
と身内内に関してはあまり効果が無かった条件を満たしてしまい精霊形態同士の戦闘が開始。かつて数発で獣王竜の角を粉砕する威力の雷と炎が屋内で飛び交うことになった。
魔法の扱いが得意なミアルでも『霆凰』の能力は持て余し気味であり、杖等による魔力制御の補助なしでその力を扱うための模擬戦だったのだが流れ弾で訓練場に空いた大穴を見たギャラリーの冒険者並びに職員が『あ、これギルド館も崩れる奴だ』と悟り総出で災害のごとき炎と雷の応酬をかいくぐり二人の戦いを止めに入った。審判をしていた梓美を介してだが。
梓美は梓美で『魔法とか飛び交うこともあるんだし多少は大丈夫だろう』とこの世界の常識から見ても甘すぎる見通しで考えていたのだが詰め寄るギャラリーの皆様に威圧され二人にストップをかけた。そして騒ぎを聞きつけたアンジェラさんにこうして三人仲良く説教されているのである。なお、訓練場の修繕は土属性使いの魔法職冒険者に臨時の依頼という形で発注し、報酬金は原因の三人持ちということになった。幸いにも獣王竜討伐で蓄えはあるのだがそれだけに説教は終わらない。三人とも足が痺れてきた。誰か救い手はいないのか。
「それと、異世界人のアズミさんはどうも魔法に関しては一般常識が欠けているのですからこちらに対する要求水準は低くしてーーーーー」
「あー、アンジェラよ、その辺にしておいてくれ」
救い手が現れた。見た目筋肉ゴリラのハーフエルフなギルドマスターである。
「色々言いたいのはわかるがそこの三人にお客さんだ。引き取っていいか?」
「ギルドマスター……はぁ、わかりました」
渋々了承するアンジェラ。ミアル達の担当受付嬢になってから胃が痛むことが多くなった彼女。時折ミアルがよく効くお手製胃薬を差し入れてくれるのがありがたいけどイラッとする。
「ギルドマスター、お客さんって?」
「ああ、本来なら一月前に済ませるべきだったんだが復興やら事後処理で忙しかったからな。まあ本人の口から説明させてやれ」
◇
三人が案内されたギルドの応接室には一人の男性がいた。中肉中背、優れた容姿というわけでもないがピシッとした身なりとソファーに彼の後ろに立つ若いメイドからしてそれなりの地位の人物のようだ。ギルドマスターに促されテーブルを挟んだ対面のソファーに座ると男が口を開く。
「はじめまして、になるね。こうやって直に礼を言わせてもらうのが遅くなって済まない。私はダリウス・フォン・ベニーライン。ここアダマート含む辺境伯領の領主だ」
「「「!?」」」
三人が一斉に目を剥いた。いきなりこの一帯のトップが出てきたのだから無理もない。
「ああ、かしこまらなくていい。社交の場ならともかくここにいるのは我々だけだ。目くじらを立てる者はいないよ。今日三人に来てもらったのは他でもない。獣王竜討伐の立役者達にこうして礼を言いたかったんだ。フィリス・リルザ嬢、ミアル・ルート嬢、アズミ・トーヤ嬢。我が領の危機を救っていただき、感謝する」
そう言うと後ろのメイド共々頭を下げる。それを見た三人はさらに困惑する。貴族に頭を下げられた場合どうすればいいのかなんて彼女達は知らない。事実なのだから素直に受け取ればいいのか何かしら謙遜すべきなのか迷っている。見かねたギルドマスターが口を挟む。
「そうやっておろおろするのが一番よくねえな。別に胸張ったっていいんだよ。竜殺しなんて謙遜したらかえって嫌味だっての。ほれ、年長者。代表して何か言葉返してやれ」
「げ!あたしがか!?あー……どうも?」
なんともしまらない返しにこの場の全員が苦笑いする。
「復興の指揮や戦後処理に走り回らされてこうして礼をいうのが一月もかかってしまった。本当は帝都で直々に表彰したかったらしいがある事情で止められてね。君たちも帝都に呼ばれてしがらみに巻き込まれるよりこの形の方がよかっただろう?」
全力でうなずく三人。「露骨すぎだ」とギルドマスターからのツッコミが飛ぶ。苦笑いするダリウスだが表情を真剣なものに変え、三人に問いかける。
「さて、君達の活躍で討伐された獣王竜だが、実際に戦ってみてどうだったか、忌憚なく答えてほしい」
ダリウスの問いに顔を見合わせる三人。梓美から口を開く
「自慢ではないですがもし私のスキルが戦闘に特化した物だったら今私達は生きてなかったと思います。自由度が高く弱点を突くことができたからこそ決定打を見出すことができ、私みたいな規格外のスキルが無いはずの英雄譚に語られる竜殺しがどれだけの偉業かを身をもって知りました」
自分の見解を述べた梓美にフィリスとミアルが続く。
「ただでかくて時折飛ぶだけだったらこの街の冒険者でもどうにかなったとは思う。実際毒や爆薬でかなり追い詰めることができたと思ってた。だがあの自己回復の魔法をあの魔力量で連発するせいで普通だったら手の打ちようがない。あとブレスが衝撃波じゃなくて炎とかの属性を伴うやつだったら犠牲者はもっと出ていた。いや、あの回復力だったからこそブレスはまだましな類だったか?」
「正直、ボクには十年前に討伐例があったというのが疑わしく感じた。あれを倒すには全身を覆う毛皮に流れる魔力の守りを抜いた上で即死させないといけない。普通のダメージは無尽蔵かってくらいの魔力量にもの言わせてすぐに回復される。翼や角を欠損させても再生するほどなのに人の範疇でどうやって倒されたのか気になるよ」
力を扱いきれなかったとはいえ弱点を突いている筈の精霊形態のミアルですら一人では倒しきれなかったほどの生命力を獣王竜は有していた。実際に戦った身としては過去に討伐されたという話は信じられるものではなかった。ダリウスが頷く。
「君達の感想はごもっともだ。ムロアウィールドでの記録を見た限りでは十年前の個体は一回り程小さかったことがわかった。おそらくは若い個体だったのだろう。そして、君達が倒した個体こそ、獣王竜の成体だったのではないかというのが我々の見解だ。よって……」
「あ、あの……」
おずおずと梓美が手を上げる。
「聖光神教って獣王竜を戦力にしているんですよね?戦力として使えばムロアウィールドもこの国も攻め滅ぼせたんじゃないかと思うんですが……」
「まあそう考えるだろうね。だが聖王国の獣王竜を保護している地域とムロアウィールドとの国境はかなり離れているから戦争に使おうとすると恐ろしく手間がかかるらしい。過去には複数体運用しようとして移動中に竜の食糧が尽きかけて暴れたとか野生の竜種が襲撃して狩られてしまったとかついでにその竜が他にも甚大な被害をもたらしたって話もあるくらいだ。ただでさえ巨大な獣王竜を長距離移動させるにはそれだけで莫大な時間とコストがかかる。そこはわかるかい?」
梓美が頷く。「よろしい」とダリウスが続ける。
「おまけにその間に野生の竜種が襲撃してくれば獣王竜と言えども危機にさらされて無事な状態で国境にたどり着くことすら難しい。どうやら聖王国の行軍ルート上に竜種の縄張りがあるらしく大型の生物なら獣王竜すら攻撃対象にされるらしいんだ。間諜からの情報によると基本的に竜種は成長に数十年かかるため育った獣王竜一体喪うだけで重大な損失となるという懸念と教会内で過去の失敗例から信仰の象徴ならびにあくまで防衛用戦力に留めるべきという意見が有力であるからおいそれと戦争に使えない。そういう面では野生の竜種に助けられていると言える」
ちなみにその獣王竜すら襲うという竜種は聖王国では悪の手先のように扱われているがムロアウィールドでは人程度なら餌としては小さいため襲うことは滅多に無く縁起が良い扱いされている。当然縁起が良い扱いがされているのは獣王竜による侵攻を結果として食い止めた歴史のおかげだろう。
「話を戻すぞ。お前達は十年前の個体より強力な獣王竜を仕留めた。そこで十年前を基準にしていた報酬が見直されることになった。さらに、三人の冒険者ランクを一つずつ上げる」
「そして、ベニーライン辺境伯としての私からの指名依頼を是非受けてもらいたいんだ」
指名依頼、という単語になにやら面倒ごとの予感が、三人が考えたのは言うまでもない。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
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