プロローグ~宿の朝~
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「んぅ……」
カーテンの隙間から漏れる朝の日差しにエルフの少女がゆっくりと碧色の目を開き、ブラウン混じりのブロンドの髪が揺れる。目の前にはまだ寝息を立てている黒髪の人間族の少女。エルフの方が周囲の感覚に敏感だからか朝に目覚めるのはいつも彼女の方が先だ。お互いに身に着けているのは下着のみでエルフの少女はチューブトップブラとショートスパッツ、人間族の少女はキャミソールとショーツだ。ベッドはシングルサイズだが華奢な十五歳程の少女二人で眠る分には問題ない。
エルフの少女の名はミアル・ルート。村の外の世界にあこがれ村から旅出て今は冒険者だ。元冒険者で薬師の母に村にいたころから鍛えられたため、冒険者になって数ヶ月とは思えないほどの薬草知識と狩りの技術、そして類稀なる魔法センスを持つ。
ミアルに向かい合うように眠っているのは東谷 梓美。『地球』という別世界からある日この世界に落ちてきた異世界人で珍しい光と闇の両方の魔法適性を持つ。ミアルの村で学び、鍛え、共に村を旅立ち冒険者となった相棒であり、『恋人』でもある。
スレンダーな体型、一人称が「ボク」とどこか少年のような雰囲気を持つとはいえれっきとした女の子のミアルだがお互いにこの関係を問題には思っていない。
ミアルは妖精族とのハーフであり、妖精族は殆どが女性でありながら同性相手と子を成す手段を有している。それどころか自他問わず性別を変える魔法を使った記録がこの世界にはある。ミアルも同様のことが可能な見込みがあり、将来的にも問題はないというのが二人の持論である。
そして最近、妖精族としての能力《精霊術》を扱えるようになったためかミアルには困った嗜好ができてしまった。
のそり、と上体を起こし梓美に顔を近づけ、すんすんと匂いをかぎ目を細める。
「ん……れぅ……」
そして起こさないよう静かにぺろぺろと撫でるように耳に舌先を這わせる。
朝から一体何をしているかというと自分以外の魔力を五感で認識できるスキル《魔力知覚》によって梓美から漏れ出している魔力を堪能しているのだ。妖精族にとって相性の良い相手の魔力は強く五感に訴えるらしく、ミアルにとっての梓美の魔力はこの上ない芳香であり甘露のように感じる。《精霊術》が使えるようになり妖精族の本能が強くなったと思しきミアルはこうして二人きりの時は梓美との濃密なスキンシップに積極的になった。眠っている最中に刺激が強いことをすると梓美の機嫌が斜めになるので朝は目覚まし代わりに緩やかにしている。こうやっているうちに起こすと普通に起こすより嬉しそうにするので最近では朝の日課になりつつある。
「んっ……」
梓美の眉が動き、少し体を捩らせたと思うとふわりと漏れ出る魔力量が増えるのを感じる。どうやら意識が覚醒してきたらしい。舐める場所を耳から首筋に向かって舌先を這わせながら下にずらしていく。
「ひゃうっ!?きゅっ、ふぁ……」
くすぐったそうな、嬉しそうな声が漏れる。もう目は覚めているのに寝ているふりをしているのは梓美自身もっとスキンシップをしてほしいからで、わざわざ意図的に体から魔力を放出量してミアルを誘っているのがその証拠だ。
覆いかぶさるように体勢を変えながら梓美を仰向けにするミアル。鎖骨のラインに沿って舌をなぞらせていくと聞こえる声が大きくならないように押し殺したものになっていく。
(ふふっ、我慢して寝たふりをする梓美、可愛いなあ)
こころなしか梓美自身の甘い匂いも強くなってきている気がする。もっと梓美の魔力を味わい、気持ちよさに耐える声を聞いていたいがそれで一日が終わりかねないので一区切りつけることにする。
鎖骨のちょうど下あたりに吸い付くミアル。ここなら服で隠れるため跡がついても心配ない。急な強い刺激に梓美が身悶え体を捩らせようとするが二の腕を抑えて逃がさないようにする。そのままゆっくりと魔力を流して同調させていく。
「あっ……やぁぁっ……んぅ……」
段々ビクビクと体を震わせている。声にどこか抗議の色もあるが本当に嫌なら力では人間族の梓美の方がミアルより上なので振りほどけないはずがない。同調によって体内でミアルのものと混ざった魔力と一緒に吸い上げられ、一際強い快感に襲われる梓美。
「んっ……んんんんんーーーーーーーっ!」
一際強く震えた後に脱力する梓美。ややあって上気したような息遣いが空間に残る。ミアルが視線を向けると蕩けた表情で目を開いている梓美。寝たふりは終了したようだ。
「んっ……はぁ……。おはよう、ミアル。美味しかった?」
「えへへ、おはよう、梓美。気持ちよかった?」
お互いのあいさつに微笑むことで答えた後向かい合うように横向きに寝転がり抱きしめ合う二人。軽くなでたり触れ合う程度のスキンシップをして梓美の余韻が冷めるまでの時間を過ごす。
◇
「やっぱりこれ、餌付けだと思うんだよね」
身支度を整えながら梓美が苦笑いする。梓美としても朝からイチャイチャできるのは願ったりかなったりなのだがどうにも魔力という餌で釣っている気がしてならない。
「それをだったらボクはもっと酷いと思うんだけど。魔力同調の気持ちよさで虜にしてるようなものだよ?しかも初日から」
知らない人が聞けば本人の言う通り酷い発言をするミアル。事の始まりは梓美がこの世界に落ちてきた日の夜に遡る。
この世界に召喚された時点では梓美は魔力が使える状態ではなかった。そのため魔力を扱えるようにする『活性化』させるための処置として魔獣の食材を摂取したのだが、不十分な活性化と高い魔力資質故に重くなった不調に梓美は苦しんだ。それを解決するための方法としてミアルがとった手段が魔力を流し込み同調させ不調の原因である未活性部分をミアルの側からの魔力操作で取り除いていくものであった。
それ自体は成功したのだが、魔力同調は同調され魔力を操作される側には快感が伴うことをミアルは知らず、ひたすらに梓美の魔力の流れの改善に努めていたため施術中の時点で真剣なミアルと対照的に激しく身悶える梓美といういかがわしい雰囲気満載だった。
そして梓美は回復したものの魔力同調に伴う快感に味を占めてしまいミアルも梓美の魔力に強く惹かれることから梓美は魔力同調込みのスキンシップでミアルに甘えるようになった。現在ではミアルの方が求める傾向にあるが本人は否定している。
とはいえ二人は決してそれだけによる関係ではない。一緒に生活し訓練したり学び、さらに冒険者として共に活動する中で精神的にも惹かれ合って二人は今の恋人関係になっている。しかしきっかけがきっかけだけに互いに少し負い目があるのは否めないのだ。そのため落ち着いた後にちょっぴりの自己嫌悪を愚痴り合うとこまでが一連の流れになっている。これで鍛錬や戦闘の時は二人ともストイックな気質のため普段の睦まじい様子とのギャップに唖然とする人は多い。
◇
二人が部屋を借りている『ミストル亭』は食堂も備えており別料金で朝食が出る。食堂に向かった二人に声をかけた者がいた。
「よう、お前たちも今起きたところか?」
声をかけたのは獣のそれに似た小さい耳とワニのような手の甲から肘までを覆う甲殻と尾が特徴的な爬虫人族の少女フィリス・リルザ。ダークグリーンの髪を後ろで結び、上半身を黒インナーとビキニアーマー、下半身を袴に似たガウチョを身に着けている。彼女は8歳の時に獣王竜の襲撃によって故郷を滅ぼされた過去を持ち、長いことソロで冒険者活動をしていたが単独故の依頼達成能力の限界からギルドの推薦もありミアル達二人とパーティーを組むことになった。荒っぽい男勝りな言動に違わず大剣と炎による豪快な戦闘スタイルを得意とし、パーティーでは主に前衛を務めている。
「あ、おはよう、フィリスさん」
「今日から本格的に冒険者活動再開だからね。新装備も受け取りにいかないと」
フィリスは二人より年上の18歳なのだがあまり気にしない性質と梓美がミアルにはタメ口なので二人同時に相手をしているとややこしくなるので梓美は『さん』付けは残っているものの敬語なしで会話している。
「その前に軽く体を動かしてえ。さすがに一月近く戦いから離れてたから体もなまってるだろうしな」
「魔力の不調もだいぶ落ち着いてきたよね。もう梓美に同調してもらわなくても大丈夫かな?」
「その話は勘弁してくれ……」
フィリスはこの一月魔力の流れに不調が出やすくなったため討伐系の依頼を受けることはなく、梓美の魔力同調によってその都度不調を治していた。梓美が担当したのは不調の原因が梓美の施した強化魔法の影響によるものでその調整の為でもあった。魔力同調の主導権には梓美にあるのでその間のフィリスはお察しである。
「あたしとしてはいつか堕とされるんじゃないかと戦々恐々だったんだぞあれ」
「よく言うよ。見てたんだからね?調整終わって女の子の顔して惚けてたり段々梓美の手際が良くなって早く終わると切なそうにしてたの」
「やめろぉ!?お前は牽制したいのか貶めたいのかどっちなんだよ!」
ミアル監視の元フィリスの魔力調整が行われたのだが最初の頃は梓美が慣れておらず長時間同調時の感覚に悶えることになったフィリスは終わったころには蕩けた表情をしていた。そしてコツを掴んだ梓美が早く調整を終わらせると物足りなそうな顔をし、最終的には口では嫌がっていながらもどこか同調による調整を楽しみにしている節があった。そこでフィリスが梓美の虜になって略奪愛に目覚めてしまうのではないかとミアルは危惧した。
フィリスが普通の女性ならその考えは一笑に付すところだが彼女の血筋には妖精族と関りがあるらしい。そうなると同性と結ばれても問題ない可能性がある。なのでフィリスがその気は無いと否定していても梓美と仲良くしているとどうしても気になってしまうのだ。ミアルは梓美を抱きしめる。
「梓美はボクの恋人なんだからね!必要もないのにボク以外に同調なんてさせないから!」
「「必要だったらいいの(かよ)!?)」」
ミストル亭の通路に二人のツッコミが響く。心外だった。
「さすがに必要なことをさせないほど狭量じゃないからね!?」
「あたしだってされないに越したことないんだからな!?」
「まあ私も(”投影”を)やってしまった手前責任取らなきゃだしねえ」
「「言い方!!」」
わいわいぎゃーぎゃーと言い合いながら通路を進む三人。
彼女達は知らない。今も後ろの曲がり角の影でファーストコンタクト時に浴場に居合わせた猫獣人の少女がフィリスに魔力調整を施す梓美、張り合おうとするミアルのどっちかを問わず『愛人』として加わった妄想を今も繰り広げて鼻血を垂れ流していたことを。
「えへへ……最高です。最高ですよ。咲き乱れてますよぉ~」
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
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