エピローグ
聖光神教の襲撃から一週間が経過した。
突如都市内にドラゴンが現れた被害としては軽微な被害だったとはいえ聖光神教のテロ活動や獣王竜による犠牲者がいないわけではない。
しかし彼らの追悼を終えてなお悲しみに暮れている暇はアダマートの住人達にはない。
破壊された家屋等の瓦礫の撤去と再建、住む場所、働く場所を失った者達への支援等、復興の為にすべきことは山ほどあるのだ。
それは冒険者も例外ではない。腕っ節を生かした力仕事に食料となる魔獣の討伐、医薬品の素材の採集等彼らにもすべきことは多かった。
「うぅ……終わらないよぉ……」
テーブルに突っ伏すミアル。彼女の前には薬研や蒸留器、乗せた物を加熱するコンロの様な魔道具が並んでいる。
現在ミアルは傷薬等の医療用薬品の調合をギルドから依頼されている。先の襲撃事件で負傷者も多く、さらに現在も資材集めに駆り出されている冒険者にも傷薬の類の需要がある。その為アダマート中の薬師も働かせられているのだが手が足りず、心得のある冒険者を臨時で薬師としての認定試験(認定試験に合格した者のみ調合した薬品で商売ができる)を強制受験、合格者は調合に参加させ、不合格者も成績によっては手伝いとして働かされている。そして母ルルから薬師としてのイロハを学んでいたミアルもこの度合格。薬品調合デスマーチに加わることとなった。
「あ、ちょうど休憩中ね。はいミアル、追加の薬草。これが発注表ね」
「うわーん!梓美の悪魔ー!」
無慈悲な追加素材と発注。悪魔呼ばわりされた梓美もまた、復興の為にあちこちを駆け回っている。比喩ではなく、本当に駆け回っているのだ。理由は勿論梓美の"奈落"だ。容積さえあれば積み込みの手間が殆ど無しかつほぼ一人分の労力で物資を運搬できる。今も再建用の資材や支援物資を運んでいる途中だ。
「"奈落"の容積増やし直すの大変だったよ本当。魔力回復にいい素材があったとはいえ」
「いくら最高級品って言われても毎食じゃあねえ……そこは梓美に同情するよ」
「暫くハツとレバーは食べたくないな……あと血酒は毎日飲むものではない」
"奈落"の容積を増やすには術者が魔力を注ぎ足す必要がある。そこで目をつけられたのが獣王竜の素材だった。
戦いの後すぐに獣王竜の処理と解体が行われ、毛皮や肉は勿論血から骨、臓器に至るまで回収された。それらの素材は現在地下避難所が氷室と化して厳重な警備の元保管されている。
そして保管、運搬を容易にする"奈落"を使わないわけにはいかず、梓美は三日間は毎食に獣王竜の心臓や肝臓、さらに今も夜は血を酒で割った物をコップ一杯摂取する事になった。竜のこれらの部位が体力や魔力回復の促進に非常に有用だからだ。
当然竜の素材はいずれも最高級品だがそれぞれが大きすぎて生物の素材は保管しきれないこと、早急に梓美の"奈落"の容積を増やせばその問題も解決すること、何より獣王竜討伐の貢献者ということからギルドから各素材が梓美達にも報酬という名目で渡された。
"奈落"の容積回復という要請の為飽きない様に料理方法を変えて獣王竜素材を摂取し魔力を回復しては日に日に容積を増やしているがいくら最高級品と言えども一週間同じ食材では飽きが来てしまう。そして問題はもう一つあった。
「あと副作用が、ね。日に日に生暖かい目で見てくる人が増えてる気がする」
「うう……毎夜応じるボクもボクだけど……」
小さな赤い跡が残る首筋を人差し指でかりかり掻きながら顔を赤くする梓美と同じく赤面して俯くミアル。
竜の血や肝には精力剤としての効能もあった。そんな代物を食べる梓美もその効果を受ける訳で火照り昂る体のせいで眠れないのだ。そのため、睡眠と昂る身体を鎮める一石二鳥かつかなり頭悪い方法が『失神するまで魔力同調込みのスキンシップ』だった。しかも三大欲求の二つの解消以外にも魔力同調でミアルの魔力を梓美に供給することで"奈落"の容積アップに繋がるので合理的なのがタチが悪い。
さらに困ったことにミアルにとって竜の食材を摂取した後の梓美は『いい匂いでおいしそう』とのことでミアルも理性が半分飛んでしまい拒むどころか積極的になってしまった。夜に二人きりだとつよつよなミアルである。二人きりの寝室なので誰も止める者がいない。
「"投影"の影響なのかなぁ……?なんかボク前より積極的な気がする。あそこまでエ……エッチじゃなかったはずだもん。ほら、きっと雷霆を武器にしてる……」
「ゼウスは関係ないんじゃないかな?あくまでサンダーバードの雷をより強くする目的でケラウノスやヴァジュラ、ミョルニルとかをミアルの『武器』として構築した訳だし。むしろ《精霊術》が使えるようになったから欲求が強くなってるのかも。年頃になるとお盛んになるみたいな」
「言い方!それに残酷な仮説を提示しないでー!ボク自身はそんなんじゃないもん!!」
雷霆を扱うゼウスが色多い神だというので間接的な影響かと思っていたら自前の可能性が出てきた。ミアルとしては雷霆使いなのだから逆説的に影響されてそういう欲求が強まった説を推したい。あるいは今はデスマーチに疲れた心が癒しを欲して梓美を求めているのかもしれない。自分はエッチじゃない。
「というか梓美だって『副作用で仕方なく』なんて全然思ってないでしょ。夜嬉々としてボクのベッドに潜り込むじゃないか」
「うぐぅ」
図星にぐうの音も出ない梓美。本当に眠りたいだけなら自分に闇属性魔法をかけてしまえばいいのにいそいそと薄着で布団に入ってくるのだからさもありなん。
「それと本当にいいの?帰る方法見つかってもこっちの世界に住み続けるなんて決断しちゃって」
「うん、可能性としては考えてたけど現状喚ぶことはできても還す方法がないんじゃ、ね」
魔法も交えたこの世界ならではの尋問による取り調べの結果襲撃者のトップが聖王国の近衛騎士団元団長であり、異世界から戦力を召喚したことが判明した。
そこで明かされた召喚者の現状、何より召喚陣は深い水中から魚を釣り上げるみたいに引き寄せることはできても元の位置に戻す手段まで用意されてないという事実に梓美はショックを受けた。予想していたことではあったが目に見えて落ち込んだ梓美だったが、その夜一晩中ミアルに甘え倒して気持ちを切り替えた後にこの世界に根を下ろすことに決めた。
決して帰還手段を探すことを諦めたわけではないがその目処が立たない以上はそれに人生を全振りする訳にもいかないと考えたからだ。そしてこの世界で人生を送りながら両親や親しい者への連絡手段の確保と召喚者を囲っている聖王国への切り札として帰還手段を求めることにした。もし見つかった方法が地球への一方通行の場合だとしても帰還希望者に手紙を託せばいいと考えている。
「まあ行き来できるようになったら違うかもだけどね。ミアルを両親に紹介したいし。だからミアル、これからもよろしくね」
そんな梓美の決意表明を受けたこともあり二人の関係は『恋人』にランクアップしていた。周囲からすれば今更である。知る人にはミアルが妖精族の系譜だと明らかにされているので性別は問題視されていない。むしろ生暖かい目で見られることが多くなった。
梓美が何かしらの原因により聖光神教にに召喚されたものの聖王国に召喚されなかった異世界人ということも関係者に明らかになった。
とはいえ聖光神教にとって聖獣である獣王竜討伐の立役者だということ、他種族であるエルフ、しかも妖精族のハーフと親しい仲というタブーを踏みまくっているので冒険者登録時の記録と併せて聖光神教との直接な関係は無いと判断された。
梓美が復興の為に駆け回っているのはそれでも残っている敵国側に召喚されたという悪印象を払拭するため、というのが表向きの理由なのだが、もう一つ、形だけとはいえ罪の精算という理由もあった。
梓美は先の戦いで法で禁止されている生命力を奪い利用する魔法"魂刈りの魂を多用していた。しかし状況を鑑みた情状酌量の末、復興の為の奉仕活動を以って精算することとなった。もっとも"魂刈りの鎌"を罪に問われようと問われなかろうとやるべき事は変わらない為本当に形としてケジメをつけているだけである。
「あの件で梓美『死神』とかとも言われてるよね。キレさせると魂取られるとかなんとか」
「ミアルこそ自分で名乗ったんだっけ?『天鳴の霆凰』って。皆長いから『天鳴』って二つ名だけど」
「うぅー。すこし恥ずかしくなってきた……その場の勢いって怖い……」
「でも実際メインの攻撃手段雷になってるしいずれ似た二つ名はつけられたよ」
勢いで『天鳴の霆凰』宣言したミアルだが戦いの後で色々変化があった。
ギルドでステータスを再確認した際に魔法適性に光属性が追加されていた。その為精霊形態関係なく光と風を合わせた魔法である雷の魔法を普段から操れることが判明し攻撃能力が大きく向上した。そのこともありミアルは略称の『天鳴』の二つ名で呼ばれるようになった。
「適性属性として光も扱えるんだから私の"癒しの滴"より強力な治癒魔法も使えるようになってるはずだから復興が一段落したら色々練習しないとね」
「うぅ、やること多いよぉー」
「やることと言ったら精霊形態の扱いもだね。力に振り回されて気味だったし」
他にも、スキル欄に《霊起纒身・霆凰》というスキルが追加されていた。これは一定条件を満たすことで"投影"によってその身に宿した擬似精霊『霆凰』の能力を解放し精霊形態となるスキルだ。
その条件とは、
・"投影"を行った"降神霊機構"術者が許可した上で必要量の魔力供給
・スキル特効対象である竜と巨獣との戦闘
・精霊形態にならなかった場合の問題解決が極めて困難な状況
のいずれかを満たすことだ。
自由に精霊形態になれる術者、つまり梓美からの魔力供給は一度で"奈落"は含まないが梓美の魔力の大半を使う程で割に合わない。
スキル特効対象との戦闘が比較的発動しやすいが竜にしろ巨獣にしろそれらと戦う状況が既に困難な状況であり必要もなしにおいそれと発動できるスキルではなかった。
その上で必要な局面で万全に扱える準備をしておくのも今後の課題だろう。
そして、《霊起纒身》を獲得したのはミアルだけではない。
「フィリスさんのことも考えないとなぁ。"投影"使った責任もあるし」
「ある意味ボクよりも課題抱えてるからね」
パーティーメンバーの爬虫人族の少女フィリス。
彼女もまた"投影"の影響で《霊起纒身・焔鯢竜》のスキルと魔力適性に闇属性が追加された。獣王竜戦で毛皮を護る魔力ごと爆発させたのは闇属性が混ざり、『直接魔力を燃やす』効果が現れたためだ。
しかし、フィリスには一つ問題があった。
「フィリス、中々魔力の調子戻らないよね」
「うん。少しずつ頻度はマシになってはいるんだけどまだ必要そうかな。手際は良くなってきたと思うんだけど」
「むぅ〜……」
ミアルの《魔力知覚》にも視えているのだがフィリスは『焔鯢竜』と適合しきれておらず魔力の流れが不安定になってしまった。不安定なまま長時間放置すると体調不良だけでなく腕や尾の甲殻の隙間から魔力の炎が漏れ出してちょっとした騒ぎになったこともある。その為フィリスも復興支援は素材採集ではなくできるだけ魔力を使わない物資運搬や警備が殆どだ。
いくつか原因は推し量れるのだが有力なものはそもそも擬似精霊が不完全なこと、フィリスの魔力の妖精族、あるいは精霊の影響は本人の知らない先祖の物でミアルや梓美程強くは無いため擬似精霊が適合していないこと、そして本来梓美が自分用に構築した魔法であり、梓美と魔法同調していて相性の良かったミアルとは異なり魔法同調も何もないフィリスに合わせた魔法ではなかったことが挙げられている。
いずれにせよフィリスの体内魔力を安定させるために術者である梓美が《魔力知覚》が使えるミアル監修の元定期的に魔力を調整する必要があった。
つまり、同調である。
最初は三人とも渋い顔をしたのだがフィリスにとっては死活問題、梓美は不完全な状態で術を施した責任、ミアルは万が一二人に間違いが起きないようにする為の監視ということでそれぞれ自分を納得させた。
「段々フィリス堕ちていってる気がするんだよなあ」
同調の度に不機嫌になるミアルを気にしていて梓美は気づいていないが梓美がフィリスに同調中はとてもいかがわしい雰囲気なのだ。梓美はただ真剣に両手をフィリスの左胸と腹部に当てているだけなのにフィリスは吐息混じりに悩ましげに声を出して悶えている。自分と梓美も母ルルに見られながらこんな感じだったのかと考えると顔が熱くなる。
そしてコツを掴んだ梓美が早く同調を終わらせるようになるとフィリスは名残惜しそうに「あ……」と少し切なそうな顔をする。蕩けた目と合わさって普段の勝気なフィリスとのギャップがすごい。
そんな様子を見なければならないのだから「梓美は自分の恋人だもん!」と主張するように夜の魔力同調やスキンシップが激しくなるのも仕方ない自分はエッチじゃないとミアルは思う。
「はぁ、まだまだ冒険者活動再開は遠いね」
「うん。とにかく、やれること片付けていかないと。ボクは調合再開するよ。梓美も頑張って」
「うん。晩ご飯は獣王竜の肉でハンバーグ作る予定だから楽しみにしててね」
「わあ!地球の料理だね!楽しみ!」
ともあれ問題課題は山のようにあるがこの世界は回り続ける。いずれこの街の傷跡が癒えた時に彼女達はまた冒険を始めるだろう。その為にも二人は今自分達のできることをするべく気合を入れ直すのだった。
第一章はこれで終わりです。初めての小説投稿で拙い部分が山の如しですが、一先ず一区切り。これからもミアルと梓美の物語は続いていきますのでどうかよろしくお願いします。
次章はもっと上手く書けるように精進する所存ですが、更新に数日開けるかもしれません。決してエタらないよう心がけますので気長にお待ちください
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
『フィリスの魔力同調詳しく!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




