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27話〜碧雷と蒼炎〜

一部編集しました

 復活したフィリスを睨みつける獣王竜。初めから自身に傷を負わせる程の攻撃をしていた女だったが、現在は風と雷を操る少女(ミアル)に起きた変化と同質な何かを感じていた。

 ミアルとの戦いでは急所への攻撃による即死を避け膨大な魔力量と回復能力で持久戦に徹しつつ、隙を狙っていた。あれほどまでの力を振り回していればいずれ何かしらの限界が訪れると確信していたからだ。事実、角を叩き折った時にアサメイが限界を迎え、ミアルは今までの様には立ち回れなくなった。

 それがフィリスの参戦で再び獣王竜にとって不利な状況になった。先程の火球の一撃は復活前より厄介な物となっており、同時に相手取るのは厳しいだろう。

 それでもミアル程の強化はされていないと踏んだ獣王竜は先にフィリスを片付けようとブレスを放つ。

 しかし眼前に迫るブレスを見てなおフィリスはニヤリと笑う。


「"爆焔放波(エクスブラスト)"」


 フィリスを中心に爆ぜた様に爆炎が放射される。その炎諸共ブレスが呑み込むがその威力は大きく削がれブレスが止んでもフィリスは健在だった。

 無傷とはいかず頭部を庇ったであろう左腕は特に損傷が酷かったが獣王竜は直後にその光景に目を疑った。

 急速にフィリスの傷が回復していったのだ。傷が綺麗さっぱり消え去ったフィリスが片手でミスリル剣を構え突っ込んでいく。迎撃しようと角を前面に向けようとした獣王竜だったが背中側からの幾度と味わった悪寒に飛び退く。

 直後、獣王竜は片翼に雷撃を受けることになった。フィリスに気を取られたところをミアルに狙われたのだ。アサメイを介さずに放った為か魔法の発動から発射までの時間差のおかげで片翼だけで済んだが今度はフィリスへの対応が遅れた。目の前には赤熱した剣を振りかぶり足からの爆炎の反動で跳び上がるフィリス。


「"爆焔(エクスプロード)(ブレイズ)!!」 


 咄嗟に振り下ろされた刃を角で迎撃する。初戦と同様踏ん張りの効かない空中のフィリスは弾き飛ばされるが刃から放たれた爆炎は角に纏わせた魔力を巻き込んで大爆発を起こす。角には大きくヒビが入り、


「"霹轟靂砕(ミョルニル)"!!」


 宙を蹴り纏った風で爆炎を強引に突き抜けたミアルが半回転し()()()()()()で角を粉砕した。"霹轟靂砕"は武器を介さなくても威力は落ちるものの使用できる。少しでも威力を増す為に腕力よりマシな脚力をもって叩き込んだのだ。


「おい!あたしが仕留めるって言っただろうが!"爆焔弾(エクスブレット)"!!」


 吹き飛ばされたダメージをものともせずフィリスが火球を放つ。角を粉砕された悲鳴を上げることも叶わず爆炎に呑み込まれる獣王竜。


「今吹っ飛ばされてたじゃないか!さっきからかなり捨て身に……ってもう回復してる!?」


 近くに着地したミアルがさっきから防御を半ば捨てているフィリスの傷が既に癒えてることに驚く。


「フィリスさん!だから再生って言ったって無から有を作れるわけじゃないんだから補給はしないとって言ったじゃないですか!」


 叫ぶ声に振り向くと梓美がこちらに駆け寄ってくる。状況を確認したいがとりあえず獣王竜は抑える必要がある。


「"雷霆光雨(ケラウノス・レイン)"!」


 雷の雨に打ち据えられて獣王竜はその場に釘付けになる。角も折られている以上その再生と同時に降り注ぐ雷の重圧を振り切ることは困難だろう。


「……さて梓美?どういう経緯か教えてくれるかな?」


 あまりミアルの機嫌はよろしくない。自分への特別だと思っていた"降神霊機構"を他の人にも施したのだからちゃんとした説明を聞きたい。ジト目で梓美を見ており心なしか放電がバチバチ激しくなっている。


「えっと、私が駆けつけた時フィリスさんは瀕死状態だったの。右腕がもげているくらいに。あの場で普通に回復させても一命は取り止めても多分再起不能レベル。それにミアルのその姿がいつまで持つか私にもわからないのに獣王竜に有効打を持てる人をみすみす失うのはどうかと思ったの。それに、フィリスさんはパーティーメンバーでもあるでしょ?」

「それは…そうだけど。アサメイ壊れかけてさっきまでみたいな戦いはし辛くなってきたし。で、フィリスさんは何がモチーフなの?『焔鯢竜(サラマンドレイク)』っていうからには竜系?」


 仕方ない事情もあり梓美の懸念も正解だったためしぶしぶ納得するミアル。興味はフィリスの精霊形態のモチーフに移る。


「大基はサラマンダーっていう炎のトカゲの姿をした精霊。私達の世界では火を司る精霊って信じられてきた存在なんだけど、面白いことに由来があるの」

「由来?」

「普通の動物、両生類の毒を持つ(サンショウウオ)もサラマンダーって呼ばれていて、倒木に潜り込んでいたのが火にくべられて這い出てきたのが火から生まれるって伝承の由来らしいの。で、サンショウウオの類って凄い再生力を持っているの。骨ごと千切れた足が再生するくらい」


 梓美曰く学生用の教本にイモリというサラマンダーの一種の再生能力を確認するため体の一部を切除する実験が載っているらしい。思わず「むごい」と二人は引いた。


「最大の種類は半分に裂いても生きてるだろう、ってくらいの生命力から別名ハンザキって呼ばれてる。ある場所では(はんざき)大明神っていう信仰の対象になってるんだって」


 その説明を聞いてフィリスの頬が引きつる。


「つまり……あれか?火の精霊と言っておきながらその実サンショウウオっていうのがメインだと?」

「爬虫人族かつ火属性適性なので竜の類が相性いいだろうとは思っていたんですが、再生能力に特化していないと結局回復できないのでハンザキを組込みました。魔力もミアルの時程なかったのでもう一つ組み込んだ自然現象、災厄としての炎が竜の形を取ったともされる炎の竜(ファイアドレイク)の面はあまり出せてないです」


 魔力不足により術式が構築しきれておらず再生能力を優先させた結果サンショウウオ、正確にはハンザキが大きく出ていることに肩を落とすフィリス。同時にミアルにはタメ口なのだが自分には敬語なのでややこしく感じる。

 一方で獣王竜にメタを張りつつ『雷』なのでとにかく神話的に強い!ってなっている自分と比べると少し同情するミアルだった。


 余談だが梓美が言わなかったことに本来鯢大明神は祟り神であり、自身を討伐した者や彼の住む村を呪ったため鎮魂の為に祀ったとされている。

 戦火によって故郷を追われ《報復》スキルを持つフィリスとどことなく共通しているのも相性の良さの一因だったかもしれない。

 そして魔力面の強化があまりされていないのは大幅な強化によって持て余し気味のミアルと対象的に制御しやすい利点を生んでいる。劣る火力もこの場においては《報復》によって補われ十分な威力を発揮している。


「ただ再生能力は魔力で体を全部再生するわけでないのでかなり消耗します。なので、はい」


 "奈落"から茹でた肉のような物を取り出す梓美。ミアルが覚えている限りこんな物は"奈落"にしまっていなかった筈だ。


「梓美、これは?」

「さっきミアルが切り落とした獣王竜の翼の肉。時間がないから塩茹でにしてもらった。ミアルも少しなら食べていいよ。で、フィリスさんこれ食べて再生用の肉を少しでも補充してください」


 魔力のみによる完全再生ではないため欠損が多いほど再生時の肉体的消耗が大きくなる。それを抑えるにはあらかじめ必要な"材料"を体内に取り込む、あるいは補充しなければならない。

 そのため梓美は"降神霊機構"の使用中にギルドマスターや他の冒険者達にお願いして肉を切り出してもらい鍋と塩を貸して調理してもらっていた。本当は再生後の消耗、つまり肉を食べて補ってもらう予定だったのがすぐにフィリスは駆け出してしまった。止むを得ず茹で上がった肉を(少し味見して)鍋や調理器具を取り出して空いたスペース分を"奈落"に放り込んで追いかけてきたのだ。

 促され茹で肉を腹に納めていくフィリス。今は動きを封じているが戦闘中の相手の肉を食べるのはどこか複雑な心境だ。


「次に、こちら羊乳です。骨を作るカルシウムもこちらで補充してくださいね。腕を再生した分他が折れやすくなってるかもしれないので。ミアルは体力回復に蜂蜜混ぜたドリンクがいいよね」

「お、おう……」

「ありがと。少し喉が乾いてたしありがたいよ」


 カルシウム、というのはよくわからないが腕の再生に回した分骨が脆くなっていてはかなわないので大人しく飲むフィリス。

 ミアルが飲んでいるのはジャムと蜂蜜を混ぜて作り置きしたシロップを水で割った物だ。ミアルはもちろん梓美も自前の魔法で水くらいなら出せるので原液を作っておいた方が嵩張らないのだ。

 ジャムはミアルの好物マルベリーで作ってあるので美味しそうに飲むミアルの羽角がピコピコ動いている。無意識なのだろうが指摘すると動かさなくなりそうなので黙っている梓美だった。

 ここに地球人が他にいたら「マネージャーか!」とツッコミが来そうだなと思いつつ梓美は二人の回復が済んだことを確認する。

 獣王竜も雷に打たれながらも角の再生を終えた。そのうち反撃が来るだろう。


「獣王竜は角を折られるとその回復を優先するみたいです。媒体として優秀ですし二本揃ってないと万全に回復できないんでしょう」

「確かに角を回復した時が一番魔力を消耗しているね。けど両方折るのは難しいよ。初見じゃないと角で受けようとしないし一撃じゃ折れない。追撃も二回も折ったボクは警戒されるだろうね」

「別に角を狙わなくてもいいと思うが。隙を作って急所を狙えれば勝てる」

「ミアル、"金剛撃雷(ヴァジュラ)"はアサメイ無しだとどれくらい弱体化する?」

「貯めが5割増しかな?空中を跳びながらの"金剛撃雷"は狙い定めづらいしちょっと危ないかも」

「跳びながら?ミアル、疑問に思ったんだけど」

「ああ、あたしも妙だと思ってたんだが」


 二人は声を揃える。


「何で()()()()()()()()()()の(んだ)?」

「え!?ボク飛べるの!?」


 沈黙が降りる。どうやら飛べると考えてすらなかったようだ。


「えーと、こうかな?」


 ミアルの魔力翼、上一対が羽ばたく。ふわっ、とミアルの体が浮く。下側の一対の翼がバランスを取るように動く。そのまま空中に留まるミアル。


「……飛べた。結構自由に飛べそうだよこれ」

「……この状態で"金剛撃雷"撃てる?」

「大丈夫そう。もっと早く気づいてればアサメイ壊れることなかく立ち回れたかも」

「お前ら……」


 おまけに宙を跳ねるより楽なようだった。これが急激にパワーアップしてスペック確認する間もないぶっつけ本番の弊害である。飛行能力に関するイメージは流れてなかったようだ。申し訳なさにへにょりと羽角が下がっている。


「……切り替えよう!ボクは飛びながら牽制、フィリスさんが本命を当てて追い込んで状況に応じて決定打を。梓美は基本的に支援。どうだろう?」

「大丈夫。ミアルは高威力の制御がまだ追いついてないから手数で抑えつければフィリスさんが決めてくれる」

「ああ、任せろ。火力が劣るならアズミに補ってもらう。できるな?」

「勿論。それじゃ、1、2、3で攻撃開始でいいですね?」

「うん!」

「おう!」

「では、1、2、の……」


 獣王竜が自身を回復させながら雷の雨を越える。そのまま三人に飛びかかる。


「「「3!!」」」


 暴風が獣王竜を押し返し、追撃の火球が大きくのけぞらせる。

 その隙に真上に飛んだミアルが"風撃"以上の暴風を叩きつける"嵐撃(ストームストライク)"で獣王竜を地に伏せる。


 そこからは一方的な戦いとなった。

 地上で追撃するフィリスをその回復能力に物を言わせて迎え打つ獣王竜だったが上空からのミアルの風と雷による猛攻に晒されて徐々にダメージが蓄積されていく。一方のフィリスは持ち前の再生能力と梓美の回復魔法で僅かな消耗で立て続けに攻め立てる。

 一度フィリスを無視して目障りなミアルを墜とそうと獣王竜が飛ぶが、初飛行なのに高い飛行能力を発揮するミアルに翻弄されている間に地上からフィリスに撃たれる。ブレスをお見舞いしようと地上に向かって口を開くが、その視界に光球が飛んできた。梓美の"閃光球(フラッシュスフィア)"である。

 閃光に眼を焼かれる獣王竜。視界を奪われて中で確かに耳はその音を拾った。


「"霹轟靂砕(ミョルニル)"!!


 フィリスの攻撃と梓美の閃光に気を取られた間に首と後頭部の間の(たてがみ)に張り付いたミアルが最大の近接用攻撃をアサメイごと叩きつける。限界を迎えたアサメイを代償に凄まじい衝撃と電撃が延髄にまで到達し獣王竜の意識を奪う。


「墜ちるよ!トドメは任せた!」


 折れたアサメイを回収してぐらりと傾く獣王竜から離脱するミアル。その下でミスリル剣を下段に構えるフィリス。そしてその後ろで長杖を構える梓美。


「残りの魔力を回します!絶対決めてくださいよ!!」


 梓美渾身の支援魔法を受けてフィリスの体に変化が起きる。

 甲殻の隙間から漏れる光と背の炎が白熱、さらに蒼炎と変わる。そして背の炎は左右に一列ずつ追加され飛膜を思わせ尾は蒼炎によって倍以上に延長される。

 これが本来梓美の想定した"焔鯢竜"の精霊形態。梓美が使用したのは魔力不足で"投影"しきれなかった能力を一時的に付与する物だ。

 蒼炎を吹き出し延長されるミスリル剣。炎の下ではその熱に耐えきれず融解が始まっているが、フィリスはこの一撃で決めるつもりでいたため関係ない。むしろミアルのアサメイが壊れ、梓美も残りの魔力を使った以上これで決められなければどうなるかわからない。

 落下する獣王竜が間合いに入る。


「"蒼焔斬(セイリオス・ブレイズ)"!!」


 下段から振り上げられた蒼炎の刃が獣王竜の首を断つ。そのまま地に墜ちる分かたれた頭部と胴。

 その光景を目撃した離れていた場所から状況を見守っていたギルドマスターをはじめとする冒険者達が歓声をあげる。


「「「うおおおおおおおおお!やりやがったぁ!」」」


 

 碧雷の一撃と蒼炎の一閃によって獣王竜の討伐はここに成った。



 ◇




 遠くから聞こえる冒険者達の歓喜の声の中、強化の時間切れと共に精霊形態が解除されるフィリス。無理矢理備えきれなかった能力を発動させたため精霊形態が維持できなくなったのだ。


「ーーー勝った」


 首から上を失った獣王竜を見て呟く。段々と冷めていく戦いの熱。それと共に湧き上がってきたのは怨敵に打ち勝った喜びよりも、ーーー戦慄。


「おい、一体何だ、何なんだ」


 アダマートの冒険者達が束になっても叶わなかった存在が一人の力を受けた二人に圧倒された。力を与えたのは尋常ではないスキル保持者。しかも数日前に冒険者になったばかりだという。

 この力をもらう時に普通ではなくなるとは覚悟していた。しかし、その覚悟以上にとんでもないことに巻き込まれる予感が漠然とする。

 それに気になることを言っていた。

「私達の世界」と。

 自分から頼んだとはいえ巻き込まれた、それ以前にパーティーメンバーなのだから知る権利があってもいいだろう。

 すぐにでも問い詰めたいが後ろの本人は今にも倒れそうなので、とりあえずフィリスは空から降りてくるもう一人のエルフの少女にここに至るまでの経緯を聞くことにした。


 明かされる衝撃の事実の連続に頭を抱えることになるまであと数分。



次回一章エピローグです。


そんなわけでフィリス精霊形態のモチーフはサラマンダーとハンザキこと鯢大明神、炎の竜です。地球での現実と伝承それぞれのサラマンダーに近しい物で構成されています。

サラマンダーは主に陸生ですが日本で有名なアカハライモリの様な水生の種類は英語ではニュートと呼ばれています。でもハンザキことオオサンショウウオはジャイアントサラマンダーらしいですね。

ちなみに『鯢』はサンショウウオの他に雌鯨も意味するのでフィリスにもミアルの巨獣、竜特攻が刺さりそうですね。


さて、


『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』

他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[一言] ほわー、サンショウウオってサラマンダーとそんな繋がりがあったんですね。本気で驚きました。全く知らなかったです。
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