26話〜あと一押し〜
「止血は済みました。私あくまで応急処置止まりで骨折までは治せません」
「いや、それでもありがてえ。向こうでギルマスの声が聞こえた。できれば途中の連中も頼む」
「わかりました。あなたも安静にしてください」
梓美がギルドマスター達のいたであろう場所に辿り着くとそこは凄惨な光景が広がっていた。
重傷を負い満足に動けない冒険者達。彼らがいなければ梓美はここが先程までいた戦場だと気付かなかった程の見渡す限りの破壊の跡と瓦礫の山。
梓美は特に傷が深い者を優先して"治癒の滴"で傷口の浄化と止血で応急処置をしながらギルドマスターを探す。
"降神霊機構"に自前の魔力は勿論予備魔力にもなる"奈落"の余剰スペースすら回してしまったため今の梓美の魔力には余裕がない。自分に"降神霊機構"を使った場合は"夜爪刈り"や"魂刈りの鎌"で獣王竜から魔力を補充するつもりだったのだがミアルに使用した以上そうはいかず、ポーションで回復した分をやりくりするしかなかった。
そのため"治癒の滴"で命に別状がない程度までの回復に留めなければ魔力切れで倒れてしまうだろう。
重傷者の手当てをしていると大柄な男が近づいてくる。
「アズミ、無事だったのか」
「ギルドマスター!」
流石と言うべきかギルドマスターはそれほど傷を負っているようには見えなかった。曰く他の魔法使い職と協力して魔法で防壁を作りブレスを軽減、後は"身体強化"で持ち堪えたものの瓦礫に埋もれ、這い出たらしい。つまりは強化した筋肉が身を守ったとのこと。
「ミアルはどうした?まさかやられたのか!?」
そうギルドマスターが質問した瞬間、ドスゥン!と大きな音と共に何かがギルドマスターの後ろの瓦礫の山に落下し砂埃が舞う。
振り返ったギルドマスターの視線の先には切断された獣王竜の翼が鎮座していた。
ギギギと音がしそうなぎこちなさでギルドマスターが梓美に向き直る。
「まさか、これ、あいつが?」
「はい、切り札のスキルを思いついたらミアルに使わざるを得なくなって、結果この様に」
梓美が指差した方向には上空から雨の様に降り注ぐ雷が。
片手で目元を覆い天を仰ぐギルドマスターだったがすぐに持ち直す。
「……今は何をしたかは聞かないでおく。それよりも急いて手当てしてもらいたい奴がいる。ついてこい」
ギルドマスターに促され向かった先には
「フィリスさん!?」
今にも息絶えそうなフィリスの姿があった。大剣は砕かれ満身創痍に整備を終えたばかりの筈の防具はヒビだらけ、何よりも痛ましかったのが
「右腕が……」
右肩から先が消失していたことだ。現在は何重にも巻かれた布で止血されているが、数滴ずつ垂れ落ちている。
「お前らが吹き飛ばされた後、俺が瓦礫から這い出た時には片腕がなくなっていた。おそらくずっと一人で戦ってたんだ」
他の冒険者達の話によるとどうにかして避けたのかブレスを凌いだフィリスはそのまま獣王竜の猛攻を受けた。応戦したものの本気になった獣王竜にあっという間に追い詰められてしまった。右腕を奪われ、あわやというところで獣王竜は何か察知し離脱したのだそうだ。おそらく梓美が目を覚まし、ミアルと口論になっていた時だろう。
すぐに手当てをするべく駆け寄る梓美にフィリスが口を開く。
「なあ、アレは、お前の力か……?」
虚な視線の先には飛び上がった獣王竜を襲う暴風と雷。ミアルが追撃しているのだろう。
「あたしにも……できるか?」
「……無理です。魔力もフィリスさんを持ち直せるくらいが限界、そもそも普通の魔力の身体に適合する魔法では……え!?」
"降神霊機構"の為の魔力は無く"投影"はある前提の上で効果を発揮できるようになっていた。その前提とは、
「フィリスさん、まさか妖精族の血を引いてるんですか!?」
『妖精族の魔力の影響を一定以上受けている魔力路を持つ』ことである。
ミアルのように直接血を引いていたり梓美の様にミアルと何度も同調したことで妖精族、さらにはその祖とも言える精霊との親和性が上がっているからこそ擬似とは言え精霊の力を発揮できるようになっているのだ。
フィリスの治療の為に発動した"解析"を通した梓美の目には自分やミアル同様にフィリスもまた妖精族、あるいは精霊の影響を受け、"投影"の効果を受けられらることが示されていた。
「妖精族……?いや、知らねえ。あたしはあいつを倒したい。また、他の奴が持っていく中生き残ったんじゃ今日まで何の為に冒険者やってきたのかわからない。頼む、その適合、ってのができてるならあたしにも」
梓美は"解析"でわかってしまった。見た目よりフィリスのダメージは深く、それこそ"投影"のような規格外の強化でなければ今この場でフィリスの命を繋いだとしても再起は望めないということを。
助けられる見込みができたのに見殺しにできるはずもなく、この際『その後』のことは考えないでおく。そして現状フィリスの力が必要なのだ。
現在も獣王竜は本来竜や巨獣に有利になっているミアルの精霊形態の攻撃を耐え凌いでいる。ミアルを信じてはいるがぶっつけ本番な為精霊形態がいつまで維持できるのかわからない。そのため梓美としてはもうひと押し必要に感じていた。
問題は魔力が絶望的に足りないことだ。何せ数ヶ月間"陽光変換"も使いつつその日の終わりに自己回復できる程度の魔力をつぎ込んだ"奈落"の大部分を使ってようやくミアルの為の擬似精霊を構成する魔法術式群を作り出せたのだから。
しかし、意外にも運は味方してくれるようで、
「貴様かぁ!あの化物を生み出したのは!戦っておられる聖獣様の為、貴様は死ねぇ!」
突然浮浪者の格好をした人間族の男数名が瓦礫の陰から飛び出し梓美に襲いかかった。『聖獣』という言葉から聖光神教の者だというのは明らかだ。
咄嗟にギルドマスターが防ごうとしたが一人がすり抜ける。
だが、梓美は笑みを浮かべ
「あーあ、私も大概だなあ。これじゃ本当に生贄を捧げる邪教徒だよ」
襲撃者を"魂刈りの鎌"で迎撃する。
糸が切れたように倒れ伏す仲間に動揺した隙を突いて残りの連中も"魂刈りの鎌"によってその生命力を刈り取られる。
「アズミ、お前」
「ギルドマスター、フィリスさんの命はこいつらに配慮して諦めなければならない物ですか?」
倫理に反し褒められた物では無いと理解はしている。しかし、今この場でフィリスの命を救い、かつ敵を排除するには必要なのだ。ため息を吐いたギルドマスターはそのまま襲撃者の拘束にかかる。持ち物を確認したところ聖光神教のシンボルが刻まれた何かしらの物品を所持しており、先の襲撃者の別働隊だと判断された。
梓美はさらにそのまま獣王竜の翼に駆け寄りその黒い魔力の刃を突き刺す。
「切り離されて間もないならこれだけでかいし多少はマシになるでしょ!」
そうしてさらに翼に残っていた魔力を得たことで"御供"で得た魔力と合わせて必要最低限の魔力を補充できた梓美。フィリスの元に戻り最後の確認をする。
「フィリスさん。私の今から使用する魔法はあなたをこの世界の理から外れた物にしかねないものです。生き残れたとしても今後人並みの人生を送ることは困難になる。それでも、この術を受けますか?」
梓美の問いにフィリスは瀕死にも関わらず闘志のこもった目で梓美を見つめ返し口角を吊り上げる。
「願ってもない。生きてあのトカゲを倒して、先に進めるなら理なんて踏み越えてやる」
フィリスの言葉に合わせて、巨木が折れたような音と共に二人の近くに何かが飛来する。それは半ばで折られた獣王竜の角だった。
「角へし折るってミアルも無茶苦茶するね。でも、いいプレゼントだよ」
梓美は笑って地面に突き立った角に触れる。竜の角は媒体として最高級の杖の素材となることを知っていたからだ。おまけにまだ纏っていた魔力が残っている。使わない道理はなかった。
「ーーー"降神霊機構"・"投影"!」
◇
少し時間を遡り、
首を狙ったミアルの"旋斬光輪"が角で受け止められる。光輪は半ばまで切れ込みを入れたもののそこで効力を失い消滅してしまう。すぐにその角も回復してしまうだろう。
「回復なんてさせないよ!"霹轟靂砕!!」
獣王竜が"旋斬光輪"に気を取られた隙に宙を蹴って接近、至近距離から逆手に持ったアサメイごと収束させた雷撃を叩きつける。
魔力で強化されているとはいえ元々半分まで切られていた左角が竜や巨獣の天敵としての性質を持った雷に耐えられるはずが無くバキィ!と音を立てて折られる。それは何処かへそのまま飛んでいくがミアルに気にしている暇はない。
回復魔法の度に魔力を纏っていたからもしかしたら折ればそれを封じられると思っていたが残った部分と反対側の角が発光すると折られた断面が鹿の袋角のように盛り上がり、それを突き破って角が再生する。
「あー、もう!急所を徹底的に避けてくるし外せばどこだろうと再生するって本当に討伐記録があるのこいつ!?」
さらに問題が発生する。右手に持ち続け魔法の発動媒体にしていたアサメイにヒビが入り始めた。精霊形態のミアルの出力と"霹轟靂砕"の負荷に耐え切れなかったのだ。
「嘘でしょ!?」
アサメイが壊れてしまえば初戦で出力、精度共に持て余し気味の精霊形態での魔法運用にどのような悪影響が出るかわからない。持ってあと一、二発が限界だろう。あらかじめ力の扱いを把握していればもっとうまく立ち回れただろうに歯痒い。
「あと一押しが欲しい……!」
そう呟いた直後、ミアルは急に膨大な魔力を感じた。その方角は梓美が向かった場所だ。この感じには覚えがある。
「"降神霊機構"!?どこにそんな魔力、あ、ボクが切り飛ばしたやつか!?」
早速梓美は戦果を有効活用しているようだ。しかし、他者に使うことを渋っていた梓美が一体何故?
「そもそも一体誰に……?」
ミアルの疑問に答えるかのように梓美の"閃火弾"に匹敵する弾速の火球が獣王竜に放たれる。流星のように尾を引いて飛来した火球は着弾と同時に着弾箇所周辺を巻き込んで大爆発を起こす。堪らず悲鳴を上げる獣王竜。
「魔力を直接燃やした……!?」
ミアルの《魔力知覚》には毛皮を覆う魔力そのものに引火、爆発規模を増大させる様が見てとれた。
追撃の炎の刃がさらに獣王竜を攻め立てる。その攻撃でミアルは攻撃が誰の者かを理解した。
「フィリスさん!」
「相方に命救ってもらって悪いが、こいつを仕留めるのは譲らねえ。けど、あと一押し必要だったんだろ?」
ミアルほどの髪や全体のシルエットの変化は無い。精々目を引くのは背中から尾の先端にかけて背鰭のように燃える炎、そして腕や尾の甲殻の隙間から漏れる赤い光だ。
右腕も再生し完全復活、いやそれ以上のコンディションのフィリスが赤熱したミスリル剣の切っ先を獣王竜に向ける。
「あいつ曰く『焔鯢竜』。目には目を、竜には竜。はっ、上等だ!決着をつけるぞ!」
フィリスは何がモチーフかは一つは分かりやすいと思います。生命力が名前の由来とされているアレも混ざっています。
『さてはこれがモチーフだな!?』
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




