24話〜ご都合主義の為の舞台装置《デウスエクスマキナ》〜
タイトルのもう片方ようやく回収。ここまで来るのに長かった
「ーーーそもそも『舞台装置』って何だろう?舞台ってお芝居とかをするところだよね?そこの装置?」
ニオクス村にいた頃のある夜の話題だ。ミアルは演劇を観たことはないし、それほど興味もなかった。とはいえ、梓美のスキル名が《舞台装置》である以上、その由来に疑問を持つのは必然だろう。
「んーと、私もそんなに詳しくないけど、舞台ってただ演じるだけじゃなくて演出の為に色々な物が必要だったりあちこちに仕掛けがあるの。音を出したり全体が暗い中で一点に照明を集中させてその存在を際立たせたり、背景のハリボテを移動させて場面の転換をスムーズにしたりね。あれ?そのハリボテその物の事も指すんだっけ?そもそも仕掛けだと『装置』どころじゃなくて『機構』?」
梓美の知識も多少聞きかじった程度であり詳しいこと、正確なことまではわかっていないようだ。
「梓美もそれほど詳しくは無いんだ?"奈落"もその舞台由来で名付けたんだっけ?」
「うん、舞台の下の空間。物をしまっておいたり通路になっていたり仕掛けがあったりね」
「仕掛け?」
「うん、舞台の下に設置された昇降機で人が登場したり退場したり」
「地下から人!?それどういう状況なの!?」
「人に限らないよ。例えば泉の精霊とか」
「泉の精霊?」
「まあ、不思議なことが起こった的な何かというか突拍子のない介入というか、ね。そういうのをこう言うんだーーー」
◇
「梓美!梓美!しっかりして!」
「う……ぐ、ミアル?」
ミアルの声と揺さぶられて梓美が目を覚ます。今一つ焦点が定まっていないようだったがぱちぱちと瞬きをするとそれも元に戻る。
「……あれ、ベッドで一緒に寝てたような?なんで荒地?」
「うん、人がすっごく心配してたのに何一人で幸せな夢を見ていたのかな?」
まだ少し寝ぼけていた梓美に青筋が浮かび上がるミアル。よく見ると三つ編みに留めていた髪が解けてしまっている。
結論から言えば二人は生きていた。獣王竜がブレスを放つ寸前、梓美はミアルに支援魔法を使い、その恩恵を受けたミアルが高密度の風の防壁を張る"嵐壁"を展開した。先の"夜爪刈り"で奪った魔力を全て回した支援を受けた"嵐壁"によってなんとか直撃を免れたのだ。
しかし、その勢いを殺しきることはできず、さらに余波で足場の建物が崩壊してしまい二人は吹き飛ばされた。咄嗟に自身に魔力障壁を纏わせた梓美が庇ってくれたためミアルは地面に直接打ちつけられることはなかったが、その衝撃で梓美は気絶してしまっていた。
「ごめん……痛っ!?」
「あまり触らないで、ボクも治癒はしたけど梓美ほど上手じゃないから。水魔法だから傷の洗浄も一緒にできたけどまた開くかもしれない」
先にミアルが意識を取り戻した時、打ち付けられた時に引っ掛けたのか梓美の右側頭部から血が流れていた。幸い深い傷ではなく、ミアルの水属性の治癒魔法での洗浄と治癒でどうにかなったがまだ痛みが残っていたようだ。
「色々ありがと。それより、今の状況は?」
「わからないけど結構な距離を飛ばされたみたいだよ。けど向こうで破壊音が聞こえるってことはまだ戦いが続いてる」
「そっか、まだ生きてる人達がいるんだ。なら……急がない、と」
まだダメージが抜けきっていないにもかかわらず立ち上がろうとする梓美をミアルが慌てて止める。
「駄目だよ梓美!そんなに体じゃ満足に戦えないし、他に打つ手がもう……」
「体は治せばいい。それに、戦える人がいなくなったらそれこそ打つ手なし、詰んじゃう」
「だからって、戦ったら今度こそ」
ーーー死んでしまう。そう言いかけたミアルだったが
「逃げて、生き残れる?」
梓美の言葉で止まってしまう。
「それ、は」
「今は戦闘中で余裕はないかもしれないけど私達、あれだけ恨みを買ったんだよ。"解析"で視たところ鼻も耳も良いみたいだから私達の生存はきっとバレてるし、いずれトドメを刺しにくるんじゃないかな。あの巨体と飛行能力じゃ例えアダマートから逃げても追ってくる。地下の避難所に逃げたとしてもあのパワーじゃその気になられたら袋の鼠だよ」
倒さないかぎり生存は絶望的。だから戦力が残っているうちになんとかしなければならない。梓美は近くに転がされていたミスリル剣を"奈落"で回収、手元に取り出してその柄を掴む。
「それに、打つ手が無いって言ってたけど、本当にそうかな?まだ、やれることはあると思うんだよね」
「何を言って、違う!何をするつもりなの梓美!?」
「さっき見てた夢で思いついたの。こんな絶望的な展開をひっくり返す、お誂え向きの《舞台装置》が!」
力強く言い切った梓美を中心に魔法陣が展開される。一つの大きなものを中心に大小の複数の異なる図形を描く魔法陣が隣接し歯車の様に回転するかつて無いほどの複雑な代物だ。
「さっき図書館でも考えてたんだけどね、私達の国の宗教で『神降ろし』ってあるんだ。巫女、シャーマンって言った方がいいかな?信仰対象の『神様』を自分に乗り移らせてその言葉を届ける儀式。でも神様って私には森羅万象の何かに『形』を与えた想像上のものでしかない、ってしか思えないから『神降ろし』ってそう演じてるのかなって時々考えちゃうの」
「何の話をしているんだよ!?それがこの状況をひっくり返すのと何の関係があるの?」
困惑するミアルを余所に梓美は続ける。
「でね、精霊って魔力から生まれてその属性を司るって言われている。それこそ私達の国の一宗教みたいに自然現象や災害の象徴みたいに。で、本題。神様は森羅万象からある意味信仰で作られたモノ。精霊は魔力から生まれたとされるモノ。だったら、魔力で精霊擬き作って神様でっち上げられないかな?」
そのあまりにも荒唐無稽な理屈にミアルは絶句する。
「そんなことどうやって……」
「必要な術式はスキルが構築してくれる。それに前に話したよね?神様や規格外の存在、出来事を物語や劇に登場させて強引に解決させるやり口とか舞台仕掛けをね、こう言うって」
ーーー機械仕掛けの神と。
「デウスエクスマキナ……?」
「今構築している魔法はその『機械仕掛けの神』を実現する魔法。『神降ろし』みたいに想造して作り上げた擬似精霊をその身に宿らせてその力を再現させる。で、劇みたいにその『規格外存在』を演じる人がどうしようもない状況に終止符を打つ。《舞台装置》の切り札にはピッタリでしょ?」
そんなの無理だ、と否定しようとするミアルを目の前の現実が否定する。かつて地球へ帰る為の魔法を構築しようとして失敗した時と異なり着実に魔法陣は完成しつつある。
しかしそこで、ミアルはある事に気がつく。
「待って、その『規格外存在』って、誰が演じるの?ただの強化系の魔法じゃなくてその擬似精霊と融合させる魔法なんでしょ?図書館で梓美言ってたよね、精霊に自分の身体を近づけてる魔法を考えてるって!術を受けた人はどうなるの?」
その問いに梓美は苦笑いして
「よく覚えてたね。だけど私が他の人にそんな規格外の役回りさせると思う?自分に使うわよ。言ったじゃん、ぶっちゃけ人間やめるって。これなら寿命も何とかなりそうだし」
「駄目だよ!」
ミアルが叫ぶ。
「そんなことをしたら梓美はニホンにいられなくなっちゃうんじゃないの!?まだ帰れる方法があるのにそんな後戻りできないことを選ぶなんて!」
「ここで死んだら日本に帰るも何も無くなるのよ。覚悟決めないと」
「だからってそんなボロボロの状態でそんな魔法を自分に使ってさらに戦うんなんて!」
「さっきからミアルは否定ばかりじゃん!じゃあどうするの!?このまま皆も私達も死ぬのを受け入れるって言うの!?」
声を荒げる梓美にミアルは首を振る。
「ボクに使って。強化系の魔法は自分に使うより他者に使う方が効果が高いって梓美も知ってるよね。梓美が自分に使うよりボクの方が強くなれる。勝率は上げるに越したことはないよね?」
息を呑みぎょっとした目でミアルを見つめる梓美。
「待って、なんでミアルが、」
「それに梓美、自分に使う場合、どんな存在をイメージするつもりだったの?」
ミアルの指摘に梓美が口をつぐむ。痛いところを突かれたようだ。
「やっぱり、敵を滅ぼすような、結果的に神とかそういうのに例えられそうな魔王みたいな存在を考えてたんだね。自分でバケモノって言ってたしなんとなく梓美の考えてることわかるよ?」
梓美のことだ。例えそれが悪と例えられるような物でも倫理に反する"魂刈りの鎌"の様に必要なら使うだろう。けれどそんな存在に梓美がなって欲しくはない。
何より、あまり言い争いをしている時間はなかなってしまった。
「ねえ梓美、竜や巨大な獣に勝てそうな存在って梓美の世界の物語にある?」
「ミアル……何を言い出すの?」
状況にそぐわない笑みを浮かべて立ち上がるミアルに今度は梓美が困惑する。既に術式は完成し発動を待つばかりだ。
「できればボクに似合いそうなのにして欲しいな。それで、さっきまでのボクの気持ちわかってほしいな。大事な人が勝手に突っ走っちゃうのって、辛いんだよ?」
背後を振り返り見上げたミアルの視線の先の彼方に降り立つ獣王竜。戦闘を終えたのか声を聞きつけたのか不明だが存在を知られてしまった。
今発動待ちの複雑な術式と同時に他の魔法を扱うのは梓美には不可能だ。発動しなければ自分を回復させることも身を隠すことできない。ましてやこれだけの距離があればこちらの攻撃は届かない。
そして、梓美が己にその魔法を使うことを阻止しなくてはならない。こちらの世界のことで梓美が大変な立場になる必要なんてない。元々エルフと妖精族のハーフという変わった存在なのだから自分が請け負った方がいいだろう。
「それじゃ、梓美、お願いだよ?あいつに勝てる力を。二人で生き残れるように」
「ミアル!?」
叫ぶ梓美を背にアサメイを握り、獣王竜へ駆け出す。
これでいい。梓美は自分に対しては効果を優先するけど他者に、親しい相手に何かをする時は結構気を使う。酷い結果にはならない確信がミアルにはあった。
眼前の獣王竜がブレスを放つ態勢に入っているが恐れはない。後ろの梓美の心境は知らないがいつもここぞという時に"夜爪刈り"を食らわせる為に軽装で突っ込むのを見る自分の気持ちを少しはわかってくれるだろう。
それでも後ろの大好きな人はなんとかしてくれる。今も、"奈落"を構成していた魔力すら注ぎ込んで今完成したばかりの"切り札"の発動態勢に入っている。もし失敗してそのままブレスに消し飛んだとしても開き直ってあの世で一緒だ。
そして獣王竜の口が開くのと同時に梓美の叫びが響く。
「ミアルの大馬鹿!"降神霊機構"・"投影"!」
瞬間、暴風がミアルを包み込む。その暴風は遅れて放たれたブレスを分断し二人にその暴威を決して届かせない。
暴風の中、自分が変わっていく感覚を感じながらもミアルは穏やかな心持ちだった。梓美が自分の為に作ってくれた力が流れ込んでくる。そして、そのイメージも。
同時に、何かの枷が外れるのを感じ理解した。今まで使えなかった《精霊術》をどうすれば扱えるのかを。
ゆっくりと閉じていた目を開く。頭と背中から何かが伸びている感覚がする。息を吸い込むように頭から伸びた何かに周囲の魔力に似た『何か』を取り込む。それは背中を通り背から伸びた部分で増幅され自らの魔力へと変わる。
右手に持ったアサメイを前方に構える。今までの比ではない風属性の魔力がアサメイに集う。そして、梓美から流れ込んだ力、『光』の魔力を乗せる。風はそのまま『雷』となって自らを包む暴風の外からでも見えるほどの輝きを放つ。
さあ、この一撃は産声だ。大事な友が自分の為に考えてくれた『信仰』が聖光神教の聖獣に目に物を見せるのだから。
深く息を吸い高らかに叫ぶ。
「ーーー"金剛撃雷"!!」
自分を包んでいた暴風を吹き飛ばし獣王竜のブレスを轟音と共に打ち破る雷の光束。かろうじてブレスを中断し躱した獣王竜の目が驚愕に染まる。
顕になったその姿は、雷光のように青白く光を放つ髪、背には二対の髪色と同じ色の魔力で構成された翼、頭部にも一対、雷の猛禽とも、あるいはボリュームのある触角に見える羽角が構成されており全身のシルエットは巨蛾の妖精をも思わせる。
「ふふ、すっごい力。梓美、どう?今のボク?」
華が咲くような笑顔で振り向いたミアルはどこか神々さと年頃の少女らしさを両立させており、
「どうしよう。やり過ぎた」
思った以上の結果に梓美は頬が引きつってしまった。
舞台演劇に詳しい方には特に"奈落"は舞台『装置』ではなく舞台『機構』では?と疑問に思われる方もいらっしゃったかもしれません。舞台に詳しいニキネキが読んでいるかはわかりませんが。
梓美にとってはメカニズム(機構)というよりはデバイス(装置)感覚でスキル及びそれに登録した魔法を使っています。それらの装置を扱うスキル、として《舞台装置》となっています。ガバガバ定義ですが寛大な心でお楽しみください。
私ももっと色んな方が興味を持ってくれる作品になるよう精進していきます。
それはそれとして
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




