23話〜竜のブレス〜
結局日を跨いでしまった……もっと早く書けるようになりたい……
「ガアアァァァァァァァァァァァァッ!!」
獣王竜がミアルに向かって咆哮する。不意打ちで地面に叩き戻されたのがよほど気に食わないのか、あるいは自分を見下ろすその視線が許せないのか。しかし、それは悪手だ。今ここには獣王竜が大口を開ける瞬間を虎視眈々の狙っている者がいるのだから。
「『水』用意!」
どこからか少女の声が響くと同時に獣王竜の口の中の空間に黒い孔が発生し樽が転がり出る。
刹那、
「"水流撃"!!」
ミアルの剣先から展開される魔法陣から放たれる大奔流。
「ゴオォッ!?」
それは狙い違わず獣王竜の口腔内に吸い込まれるように殺到し樽を圧壊させ、内容物ごと喉奥へと流しこむ。
当然声の主は現在"光衣"で姿を隠している梓美で樽の中身は特製の毒だ。
「よし、1個目は腹に入った!攻撃開始ィ!」
「「「「うおおおぉォォォォォォォォォォ!!!」」」
ギルドマスターの号令で冒険者達が雄叫びとともに攻撃を仕掛ける。
地属性魔法による質量攻撃で思うように動けないところを近接職の一撃離脱を主体とした攻撃で攻めたてていく。
度胸のある一人が先程フィリスが与えた左前脚の傷へ一撃を加えるとその痛みに再び獣王竜が口が開かれる。
「『水』用意!」
再び梓美の声と共に口内に毒樽が出現する。
「こっちから狙える角度だ!やるぞ!」
「おう!"水弾"!」
「"水撃"!」
すかさず撃ち込まれる水属性魔法。いつチャンスが来ても良いように水属性が放てる魔法職はバラバラに配置され梓美の掛け声と共に狙える者が魔法を放つのだ。
先程同様に獣王竜は樽を中身ごと飲み込まされた。
「これで樽二つ分だ!」
「おおおぉぉぉぉぉぉっ!」
二つ目の毒樽の投与成功に沸き立つ冒険者達。離脱を図ろうと獣王竜の翼が動くがミアルがさせじと屋根を跳躍する。
「飛ばせないって言ったでしょ!"風撃斬"!」
ミアルの振り下ろした剣の軌跡に沿って発生した巨大な風の刃が獣王竜の背に炸裂する。毛皮に流れる魔力の守りによって外傷こそ僅かなものの、ミスリルの剣を媒体にしたことで増幅された出力からなる風圧に獣王竜が地面に押さえつけられる。
獣王竜に飛ばれて逃げられるわけにはいかないので出し惜しみ無しの一度に放てる最大出力をお見舞いする。その威力は獣王竜の背に嵐が発生したかの如くだ。
「グオオオォォォォォォ……」
思わずとばかり開く口に今度は木箱が放りこまれる。それは閉じた口に潰され中身の液体をぶちまける。それを見届けた梓美が叫ぶ。
「次、『炎』!」
「「「よっしゃああああああ!!」」」
待ってましたと言わんばかりに放たれる火属性魔法。それ自体はダメージ足りえないがその一発が木箱に詰まっていた脂から精製された燃料に着火すると一気に燃え広がり獣王竜の口内が火に包まれる。
「グアァァァァァァァァァァァァッ!?」
獣王竜が再び口腔内を焼かれる苦痛に悲鳴を上げる。
「おらぁっ!あたしを忘れてねぇか!」
その顔側面に魔力ポーションで魔力を回復させたフィリスの"緋刃"が着弾、爆発する。爆炎で吹き飛ばされるその横面には火傷と僅かな切り傷ができている。
「何でミスリル剣を使ってるボクより威力が出てるのかなぁ。ちょっと自信なくすな、っと!」
フィリスの攻撃は《報復》スキルで威力が上がっていることをミアルは知らない。そのため与えているダメージ量で自分の最大出力の魔法をあっさり超えられていることに独りごちるが、持ち味である速度や手数を生かして連続で"風撃斬"を放ち獣王竜をその場に釘付けにする。
「フィリス!お前はトドメの担当だっつったろうが堪え性のねえ!まあいい!このままダメージを与え続けろ!」
ギルドマスターも魔法による攻撃を行いながら指示を飛ばす。しかし指揮をしなければならない立場上仕方ないのだが、
(((ギルマス……地属性魔法しょっぺえ……)))
無いよりはマシレベルのサッカーボール大の岩を飛ばす魔法がべしべしと獣王竜の目元に飛んでいく。
本来"身体強化"と自前の筋肉によるパワーこそが武器としている彼が後方で指揮しながら唯一できる攻撃手段であるが、岩石の槍で地面から攻撃したり、もっと大きい岩をより速く飛ばすような地属性魔法で攻撃している他の魔法職冒険者と比べると見劣りする威力だ。
「くそう、なんでギルドマスターなんて引き受けちまったかな俺!」
「そこはもう諦めてください!絶対に前に出ないでくださいよ!?」
焦ったくなって前に出たがるギルドマスターをかつてのパーティー仲間、サポーターを務めていた秘書が止める。
「随分とシカトしてくれたな。もう逃さねえぜ?」
最初に獣王竜と交戦していた冒険者達も戦線に合流する。ミスリルでコーティングされた剣の攻撃は僅かながらもその毛皮に傷をつけていく。
「ーーーチッ、左脚が動くぞ、距離を取れ!」
ギルドマスターの指示通り群がる冒険者達を振り払おうと獣王竜が左前脚を振り上げる。が、ガクンと右前脚が力を失いバランスを崩す。
「おい、こいつこけたぞ!」
「うげ、傷口が変色してやがる!?何踏んだらこうなったんだ?」
ミアルの初撃で地面に足が着く際にフィリスに迎撃され弾き飛ばされた時の傷が接触するように梓美が毒樽を設置していたのだ。その毒が傷口から回り右前脚の力を奪う。飲み込んだ毒も徐々に獣王竜を蝕んでいき、獣王竜の動き全体が鈍る。
「攻撃を続けろ!毒が効き始めた!『一気に削れ』!」
その号令に畳み掛ける冒険者達。消耗させて毛皮の防御力を維持する魔力を削った後にトドメを刺すのだ。
当初の大規模魔法は消耗させるのにも手が必要なので見送られ、フィリスが合流後の現在はトドメには別の手段が想定されている。
最もダメージを与えられているフィリスが魔法による支援とミスリル剣を使い一撃を与える。地上に押さえ込むミアルの攻撃力が落ちるリスクがあるためギリギリまで消耗させる必要がある。その為には、
「巻き添えに気をつけて下さい!"夜爪刈り"!」
"光衣"に使っていた魔力を攻撃に回し姿を現した梓美がミアルの魔法の風圧に耐えるために踏ん張っている後脚に右側からミスリルコートの剣で斬りかかり獣王竜の魔力を刈り取る。
今まで"光衣"で姿を隠しつつ毒や燃料を投下するタイミングを狙い、『水』か『炎』のどちらで追撃するかの合図を飛ばしていた。
そして今、毒が回り攻撃しやすくなり『一気に削れ』の号令で"夜爪刈り"で獣王竜の魔力を削ぐ為の攻勢に出た。
一撃で刈り取れる魔力量は使用者側の魔力量と相手の魔力量、そして魔力に対する耐性に左右される。ミスリルコートの剣を媒体にしているとはいえ圧倒的な魔力量を誇る獣王竜、さらにその魔力によって防護された毛皮の上からは"夜爪刈り"の通りは悪いが、少しでも魔力を奪えれば即座にそれを"夜爪"に回し威力を増した一撃を与え、より多くの魔力を奪う。その繰り返しによって消耗とさらにトドメの為の支援魔法の魔力確保を狙うのだ。
いきなり魔力が消耗されていることに気付いた獣王竜が振り払おうとするが、毒で体の勝手が効かなくなっていることに加えて、上からは時折ポーションで魔力を回復しながら放たれるミアルの風の魔法による重圧、そしてフィリスのスキルが乗った炎によって満足に反撃ができない。
「いける……このまま奴を倒せるぞ!」
戦線の誰もが勝利を確信した。このまま獣王竜が魔力を失い力尽きれば刈り取られた魔力を用いた支援が乗ったトドメの一撃が入る。
しかし、これで倒れるのであれば『竜』は最強クラスの魔獣とは呼ばれない。先に異変に気づいたのは上から見ていたミアルだった。
「あの光は何!?」
急に獣王竜の角が光を放ち、自身の体を包み込む。その後の変化は戦っていた全員を戦慄させる。
「傷が癒えてやがる……」
焼かれたもの、斬られもの、それらを問わずこれまで与えた外傷、その全てが治癒されていた。獣王竜は自身に回復魔法を使ったのだ。
焼けただれた口内や毛皮が元に戻った獣王竜がこちらを睨みつけ、冒険者達が後退る。
士気を取り戻すべくギルドマスターが叫ぶ。
「見せかけだ!傷が癒えても毒は残ってる!魔力は消耗している!ここで怯むな!」
回復した獣王竜に気圧されていた冒険者達がギルドマスターの言葉に持ち直す。だが、
「違う……」
梓美は視てしまった。確かに魔力の消耗は回復していないだろう。だが、
「毒が消されている!」
"解析"で視た獣王竜の身体からは毒が消えていた。そして毒樽は残り一つ。効果をもたらすには量が足りず効いたとしてもまた回復されるだろう。
この絶望的な事実を皆に伝えるのが正解なのか迷っていると殺気を感じた。反射的にそちらを向いた。向いてしまった。
その視線の先で、獣王竜がこちらを睨んでいた。
今までの目障りな小虫に向けるものではない。こちらを害する者に対する遥か上位の存在からの殺意を向けられたのだ。
「あ……」
闇属性による自身への感情の抑制はかけてある。それでも足がすくんで動けない。
(まずいまずいマズイマズイマズイ動け動け動け……!)
脳は警鐘を鳴らしているのに体は動かない。魔力の流れに異常もなく、何かしらの特別な干渉を受けているわけでもない。純粋な恐怖で体が動かせないのだ。
獣王竜の尾が揺れる。叩き潰す気なのか。
「マズイ!逃げろアズミ!」
フィリスが叫ぶ。けれど動けるのならもう動いている。足に魔力を流しても動く気配がないのだ。
梓美の視界には上から迫りくる尻尾がスローモーションのようにゆっくり見え、衝撃と共に、
そのまま横に視界がブレていった。
「ま、間に合ったっ!」
「ミアル……?」
梓美を抱えたミアルと共に地面に滑り込む。獣王竜が梓美を睨み、尾を動かした瞬間に急いで宙を蹴り梓美の元へ駆けたのだ。衝撃は勢いのままにミアルがぶつかった物だった。
「ごめん、ミアル、」
「舌を噛むから口を閉じて!」
謝ろうとした梓美を制止して抱き抱えて跳ぶ。獣王竜の追撃を察知したのだ。そのまま無事な建物の上に着地し、梓美を下ろす。
「梓美、立てる?」
「っと……大丈夫、もう動く。ありがとう、助かった」
「まずいね。完全に梓美に殺意を向けている」
「魔力を結構持っていったから、かな?それとも毒やら燃料やら出していたのバレた?」
梓美は手元のミスリルコートの剣を見る。刀身にはまだ"夜爪刈り"によって奪ったかなりの量の魔力が帯びている。
獣王竜は建物の上に逃がれた二人を一瞥するとフィリスの方にも視線を向ける。
「多分梓美とボク、フィリスさんは目をつけられてるだろうね。特にダメージを与えた人だから……っ!?」
ただならぬ気配を感じたミアルが目を見開き地上の獣王竜を見る。獣王竜は一見薄く口を開いているように見えるが《魔力知覚》にははっきりと魔力が収束しているのが見える。それも先程の回復魔法の比ではないほどに。
総毛が逆立つ。あれこそが竜の象徴たる武器、その前兆だ。
「逃げて!ブレスが来る!」
ミアルの叫びにかろうじて持ち堪えていた戦線が崩れ、射線から離れようと離脱を試みる者が出始めた。フィリスをはじめとして何とか阻止しようと攻撃を試みる者もいるが効果が薄い。
この距離では梓美の"奈落"は届かないしそれを警戒してギリギリまで口を開かないつもりだろう。
そして獣王竜の目がこちらを見据え、
ーーーーーゴアアアアアアアアアアァァァァァーーーーー!!
その口から放たれた魔力の奔流が二人を建物ごと呑み込み、更に周囲を薙ぎ払った。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




