22話〜フィリス・リルザ〜
ブックマークありがとうございます。
過去話でスキルに≪≫を、魔法に『』を使っていたのをスキルは《》、魔法を" "に修正しました。
引き続き「妖精の子はデウスエクスマキナと旅をする」をよろしくお願いします。
今話は少し短めですが次の更新は早くしたいと思っています。
10年前。
ムロアウィールドのある村が獣王竜の襲撃に遭った。
その翼による飛行と頑強な四肢による踏破性で防衛拠点を突破しその内側を崩す聖王国からの侵略行為であったことは言うまでもない。聖王国側は人為的なものではなく「神の使いたる聖獣が裁きを下したのだ」としらを切った。
その獣王竜は駆けつけた複数のAランク、Bランク冒険者パーティー、そして近隣で活動していたSランク冒険者の死に物狂いの奮戦によって討伐された。
これをきっかけにムロアウィールドと聖王国間の国境近くには最低一人はSランク冒険者やAランク冒険者パーティーが常駐することになり、生育に時間がかかり、個体数も多くない聖獣が討伐されるリスクから聖王国も獣王竜を単体で他国にけしかけることはなくなった。
フィリスはその村の生き残りだった。
まだ8歳だった彼女が見た巨獣による破壊や時に潰され、時にブレスで吹き飛ばされて村の知人や家族が死んでいく死んでいく光景は今も夢に見る。
その度に思うのだ。自分が強ければ。あの毛だらけトカゲをやっつけられるくらいの力があったら父も、母も、村の友達も、皆死ななくてすんだのだと。
身寄りがなくなり預けられた孤児院の皆は言った。「無理だ、勝てっこない」と。しかし幼いフィリスは見たのだ。冒険者達によって骸と化した獣王竜の姿を。
だから冒険者を志した。強くなってもし「次」があったら自分の手で仕留める為に。
7年間孤児院で勉強したり剣の素振りをして過ごし、成人を迎えた15歳で孤児院を出て冒険者として自立を始めた。
最初は簡単な依頼や護衛をしつつ各地を巡り、隣国のシメレア帝国、その中で魔の森に接する辺境の街アダマートを活動拠点とした。
フィリスの目標は獣王竜、あるいはそれに並ぶ魔獣の討伐ができるくらい強くなることであり、魔の森がすぐ近くで機会を得やすい場所かつ魔獣との戦闘経験を積めるアダマートは都合が良かったのだ。
孤児院にいた頃は魔法の扱いを知らなかった為駆け出しの頃は苦労したが、自分に火の魔法に適性があると判明してからは魔法の扱いの鍛錬に力を入れフィリスは一気に頭角を表した。
現在もランクがCなのはアダマートに来てからこなす依頼が魔獣討伐に偏っており昇格条件を満たしてなかったからである。
そして現在。フィリスは獣王竜の前に立っている。別個体だろうが今の自分に勝てるかどうかは関係ない。
「あの時」のように自分の居場所を同じ魔獣に壊されて戦わなければ10年前と同じだ。何より10年前から燻り続けている胸の裡が燃え上がろうとしている。
整備していた装備を受け取ってすぐだったのは幸いだったが最初に獣王竜が出現した場所とは離れていた上に定期的に移動するため今に至るまで追いかけ続けようやく捕捉できた。
「ようやく獣王竜に刃を届かせられるんだ。尻尾巻いて逃げるなんて情けねえ真似してくれるなよ」
挑発が効いたのかは定かではない。しかし獣王竜は唸り声を上げるとフィリスとの距離を一瞬で詰め、右前脚を振りかぶる。その巨体から繰り出される一撃を受ければあっという間にミンチになるだろう。
だが
「侮ったな!力込めてねぇだろ!"爆炎刃"!」
獣王竜からすれば多少痛かったとはいえ目障りな小虫に変わりは無かった。そんな相手を渾身の力で潰すのは力の無駄だったのだ。しかしその油断の結果がこの一撃。
真っ向から迎え打った"身体強化"とミアル達とメガディノラプターの討伐に赴いた時の数倍の規模で放たれた"爆炎刃"による一撃に獣王竜の爪が弾かれた。
「グアアアァァァァァッ!?」
獣王竜の右前脚の手の平に大きな火傷と切り傷ができる。アダマートに転移してから最も大きい傷だった。
しかし、本来のフィリスの全力でもここまでの威力は出ない。何が原因かといえば
「ようやくあたしのスキルが役に立ったな」
フィリスの所有スキル《報復》。スキル所有者が恨みを持つ相手に対しての従来以上の攻撃力を発揮できるスキルである。
フィリスにとってそのスキルが適用されるのは獣王竜、そしてそれをけしかけた聖光神教に所属する者である。それらに対しての攻撃は普段以上の力を発揮し、媒体も無しに大幅に魔法の効果が倍増する、一種の特効能力だ。
怯んだ獣王竜の顔面に追撃の"緋刃"が飛ぶ。炎の刃は魔力によって保護された毛皮を切り裂くことは適わなかったが着弾後の爆発によるダメージは殺しきれない。魔力による保護のない眼球への直撃は避けられたものの獣王竜はフィリスを見失った。
すかさず左前脚に"爆炎刃"と共に大剣が叩き込まれる。
「ギャァァァァァァァッ!?」
激痛に獣王竜の叫びが響く。両前脚がダメージにより力が弱まり獣王竜の上半身が下がる。
それを好機と見てその首に一撃を加えようとフィリスが跳び上がるが、獣王竜はそのままその角で空中のフィリスを薙ぎ払った。
「しまっーーーーーぐあっ!?」
咄嗟に"爆炎刃"を当てることで直撃は避けられたが空中では踏ん張りが利かず弾き飛ばされてしまう。そのまま建物に背中から激突するフィリス。
叩きつけられた衝撃で肺から空気が一気に抜け出て一瞬意識が飛ぶ。
すぐに覚醒するが既に獣王竜は怒りに燃えた目でその顎門をフィリスに向け迫っていた。数秒後には噛み砕かれてしまうだろう。
「ここまでかよ……くそっ、"炎砲!!」
せめてもう一撃、と右手を前に出し1m程の火球を獣王竜の口内に放つが例えこの火球が炸裂しても獣王竜は止まらないだろう。
死を覚悟したフィリスが"炎砲"の火球の行く末を見据えるとその視線の先で、
ーーー獣王竜の口全体を包むほどの大爆発が起こった。
「グギャァァァァァァァッ!?」
口腔内を蹂躙する火炎にフィリスどころではなくなり悲鳴を上げながらのたうつ獣王竜。
フィリスもぽかんと呆けた表情をする。
「一体、何が?」
「フィリスさん!」
駆け寄って来たのは黒髪の人間族。パーティーを組むことになった二人の少女の片割れだった。
「今のは、お前が?」
「いいえ、ただ火球の射線上に燃料放り込んだだけです。それよりも傷を癒します!」
すぐに"治癒の滴"による治癒効果を持ったボール大の水が振りかけられて打ちつけられた背中の痛みが引いていく。
「お前、治癒系も使えたのかよ……」
「使う機会が無いに越したことのない魔法です。それに、治癒術師に比べたら応急処置レベルです。それよりもギルドマスターが作戦を立てたのでできれば合流して合わせてください。そろそろ獣王竜が態勢を立て直します」
視線で遅れて到着したギルドマスター達を示すと梓美の姿が溶け込むように消える。光属性魔法によって姿を隠したのだ。
「あ、おい!あたしだけで仕留めたかったのに!」
口ではそう言うが現実的には厳しかったのは事実だ。
爬虫人族の魔力保有量は決して多くない。この数撃の攻防でフィリスの魔力量は半分を切っていた。ミアルなら同じ魔力消費でも4分の1も減っていないだろうがこれでも爬虫人族全体で見れば多い方なのだ。このまま戦い続けても敗色は濃かった。
舌打ちしてしぶしぶギルドマスター達の方に合流しようとすると大きな羽音が聞こえる。口腔内の火が収まった獣王竜が離脱を図ろうと飛び上がったのだ。
「こいつ、ここで逃げるのか!」
追撃の魔法を放とうとするがフィリスの魔法は距離が離れ過ぎると十分な効果を発揮できない。
このままでは逃しかねないと歯噛みしているとゴウッ!と凄まじい音と共に「何か」が獣王竜の翼に叩きつけられた。
羽を数枚散らして落ちる獣王竜。着地の瞬間、手の平が斬られた右前脚で「グチャ」と何かを踏み潰して嫌悪感に小さく唸る。
上空を見上げると宙を蹴ってすぐ近くの屋根に着地する人影。
それはすぐに獣王竜に向き直り、
「悪いけど、空には飛ばせない!」
ミスリル剣の切っ先を向けたミアルが啖呵を切った。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
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