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21話〜獣王竜を倒すには〜

 ミアル達がミストル亭に向かう途中でオーナーの一家と合流できた。

 アダマートの各所には万が一魔の森から魔獣が雪崩れ込んだ時の為の避難所が地下にあるとのことでこれから避難するところだった。

 看板娘のキーナちゃんは二人の身を案じて一緒に避難したがっていたが、二人はそのまま冒険者ギルドに向かうことにした。

 するべきことがある以上今回ばかりはロッキーの後ろ髪を引く泣き声を聞いている余裕はない。


 二人が到着したばかりの冒険者ギルドはごった返しとなっており、ディーゴをはじめとした職員達が集まった冒険者にCランク以上を対象とした獣王竜及び敵勢力討伐を、Dランク以下を対象とした避難誘導の指示を出していた。

 すぐにカウンターにいたアンジェラの元へ人をかき分けて進む。

 カウンターにはもう一人大柄な男がいた。筋骨隆々だがエルフの耳がある。本来筋力に乏しいエルフの筋肉達磨に二人は首を傾げる。


「ミアルさん、アズミさん。よく来てくれました」

「お、こいつらが例の『暴走娘』か。俺はここのギルドのギルドマスターだ。ああ、疑問はもっともだ。俺はハーフエルフだから人間族並みに筋肉はあるんだよ。それよりも今来たばかりの奴には必ず聞いてるんだが今のところの状況は?」


 初対面のギルドマスターにすら『暴走娘』呼ばわりに不満を覚えつつも梓美が説明する。


「獣王竜と聖光神教のテロリストが突然街に出現、周囲を破壊しています。途中でテロリストのおそらく一部隊を無力化、騎士団が拘束しました。リーダー格が持っていたのがこれです」


 ドン!とガイルの持っていたミスリルの剣を取り出す。集まっていた冒険者達が息を呑む。


「マジモンの純ミスリルの剣じゃねえか。真正面からやり合ったのか?」

「いいえ、騎士団や現場の冒険者との交戦中に不意討ちで閃光と爆音で感覚を麻痺させてる間に仕留めました。冒険者達は連中の持っていたミスリルコーティングの剣を拾って獣王竜を追いかけていきました」

「巻き込んだ騎士団は?」

「聖光神教の部隊を無力化は外傷によるものではないので襲撃に巻き込まれた周囲の民間人ごと私とミアルで治癒しました。精神面は個人の問題ですが私達による身体面での後遺症はないかと」

「アズミさん、治癒魔法も使えたのですね。もしかして広域の?」

「水を媒体にした魔法をミアルが霧状に散らせました。不幸中の幸いにも魔力源はありましたので私の負担にはなってません」

「適性じゃない水魔法でか?……その魔力源とやらは禁術級でか?確か"魔奪"を色んな形で使ってたな?霧状に散らしても効果のある治癒魔法なんざ相当魔力がいるぞ?それに聖光神教で純ミスリルの剣を持たされる程の奴を不意討ちだとしてもお前達レベルの装備じゃ無力化は難しかったはずだ。つまり、襲撃してきた奴らの生命力使ったな?それなら無力化と大規模な魔法両方ができる」


 ギルドマスターの指摘に二人の表情が固まる。部隊長にも生命力を直接奪う魔法は本来法に抵触していると注意されたのだ。そんな二人を見てギルドマスターがフッと笑う。


「そうびびるな。この非常事態にとやかく言うつもりはない。それで助かった命もあるしどうせ騎士団の連中も注意程度だったんだろ?」

「それは、はい」

「なら今回はお咎め無しだ。ただこれで闇属性魔法の悪印象が人間族国家で強まったかもな」


 ギルドマスターの後半の言葉に梓美は首を傾げたが「気にするな」と首を振られ


「襲撃者についてはわかった。獣王竜についてはどうだ?聞けばあちこちを飛んで移動して破壊活動をするせいでロクに戦えないって聞くし、竜の類は鱗や甲殻、獣王竜(あれ)の場合は毛皮に魔力を通わせるって話だから見た目以上に防御力がある。有効打になりそうなものはあったか?」


 二人は頷く。


「遠くから視た際に"解析"で獣王竜に有効な毒がこれらの素材で作れることがわかりました。最低でもこの分量の比率で樽2つ分できますか?」

「……ええ、そうですね。確かにワイバーンに使う毒と材料が似ています」

「さっきから魔道具も反応してないし出まかせでは無いな。闇雲にしかけ続けるよりは試す価値がある」


 見れば言動の真偽を判別する魔道具が稼働中だった。偽りの情報で現場が混乱しない為だろう。ギルドマスターがアンジェラに視線を向ける。アンジェラも頷き、


「すぐに素材の在庫を確認します。しかし、その前に投与方法は?」

「投与ですか?」

「どうやって毒を飲ませるかってことだ考えてるんだろ?」

「「あっ」」


 そこまでは考えていなかった。毒を作ってもそれを体内に入れなければ意味がない。ギルドマスターが半目になっている。


「「すみません!」」

「まあそこまで考えてくれれば良かったのは事実だが仕方ない。ただこれで作れる毒は半固形なんだよ。水属性魔法で操作して流しこむのは無理だし餌に偽装も食いそうにねえな」

「じゃあよギルマス、口の中に樽ごと放り込むのは?」

「できるのか?」

「できねぇ……」


 あまり考えずに案を出した冒険者が一蹴された。アンジェラが溜息を吐く。


「獣王竜が口を開けた瞬間に正確に投げ込まなければなりません。そしてそれを獣王竜が飲み込まなければ効果はありませんよ」


 毒を使う場合の前提条件でつまづき、カウンター周りに沈黙が降りる。そんな中、さらに女性冒険者が疑問を口にする。


「そういえば、樽二個分どうやって運ぶの?しかもそれって最低数よね?獣王竜の周りきっと瓦礫だらけでしょ?しかも飛び回るんじゃ運ぶだけでへばっちゃうよ」

「私の収納用の魔法で運べます。それなら……」

「それだ!」


 梓美が疑問に答えようとしてミアルが叫ぶ。周囲の視線がミアルに集中し、「すみません」とミアルの顔がやや赤くなる。


「梓美の"奈落"なら多少離れた場所にも収納物を出せます。できるだけ異空間に隠しておいて口を開けた瞬間に毒樽を喉辺りで出せば」

「でもそれだとえづいて吐き出しちゃうんじゃない?」

「だから水で強引に流しこむ。何人かで水の魔法を樽の詰まった喉に撃ち込めば毒ごと飲まざるを得ないんじゃないかな?」


 喉に固形物を放り込まれさらに大量の水が流し込まれて無理やり飲まされる様子を想像して何人かが嫌そうな顔をする。

 ふむ、とギルドマスターが考え事をする様に顎に右拳を添える。


「だったら油とか燃料詰めた樽も同じようにして口に放り込んで火矢なり魔法なりで着火できねえか?魔法撃ち込むよりも一発火がつけば確実に口の中焼けるぞ?」


「おお!」と冒険者達も賛同する。アンジェラが梓美に質問する。


「アズミさん、一度に出せる樽の数と距離は?」

「一番早く出せる自由落下式でもモノが大きいほど遅くなるから多分2、3個。距離は……10mくらいならできた筈です。あれに近づくのかぁ……」

「普段から魔法使い?支援?職なのに敵の間合いに突っ込む威勢のいいあなたはどうしたんですか。他の注意を引く皆さんの方がずっと危険です」


 あっという間に梓美が重要な役割に抜擢されたがそもそもミアル達が持ってきた毒の話から立てられた作戦であるし、それが唯一できる人材なので了承せざるを得なかった。


「よし、火か水の魔法が使える奴は作戦詰めるからまだ残れ。闇雲に撃たせるより効果的だろう。毒もそうだが特に燃料詰めた樽はできるだけ用意する。魔獣解体した時の脂を加工すればそれなりの量になるだろ。避難誘導予定だった奴で近接職か水や火の使えない魔法職の何人かも報酬は出してやるから残って廃棄場漁って脂集めてもらうぞ」


 それを聞いた該当者は顔をしかめ、ミアルをはじめとする水や火が使える魔法職は自分の魔法適性に感謝したのは言うまでもない。


 ギルドマスターの立てた作戦はこうだった。

 地上の地属性魔法使いが足止めしつつ他の冒険者が挑発。

 攻撃の為に口を開けたところをまずは毒樽を投与する。可能なら直後に水の魔法を口内に流しこむ。

 必要数以上投与できたら毒が回るまで魔獣の脂から精製した燃料の樽以上の大きさの特大木箱の投与に切り替え、火属性魔法を口内に放つ。

 これは魔力による保護の及ばない口腔内への攻撃とともにドラゴン共通の攻撃手段であるブレス封じでもある。

 そして毒により動きが鈍った後に大規模魔法や攻撃スキルでトドメを刺す。梓美が何本かミスリルコーティングの剣を拝借していたので杖の性能に不安が残る者はそれを使うこととなった。

 問題となっている獣王竜の飛翔だがこれを封じるのにミアルが抜擢された。Dランクであるミアルが選ばれた理由は現在ギルドに残っている冒険者では唯一の魔力ステータスAかつ風属性適性を持ち、さらに魔法に長けた種族のエルフであり、短時間とはいえ空中を跳躍して追撃ができるのがミアルだけだったのだ。

 破壊力のある魔法はミアルの適性では不向きだったが純ミスリルの剣を媒体にすることで魔法威力の大幅な底上げができるのでその欠点も解消された。

 二人揃って大事な役回りになったミアルと梓美が頬を引きつらせたのは言うまでもない。

 その様子を見ていたギルドマスターはニヤリと笑いながら、


「ディーゴから報告を聞いて俺も気になっていたんだが一度本気(マジ)の全力見せてみろ。そんで竜討伐の立役者になってみせな」



 ◇



 燃料と毒を用意する間、訓練場でミアルはミスリル剣の取り回しの練習、梓美は"奈落"による樽や木箱の投与が上手くいくように普段することのなかった高所からの投下の練習をすることになった。

 作戦時に支障が無いように魔力の回復用ポーションは支給された。

 現在、訓練場は二人だけである。


「梓美、もう大丈夫だと思う。一回解除した方がいいよ」

「ありがと。もしパニック起こしたらフォローお願いね」


 そう言って梓美は()()()()()()()()()()()()()()()()()闇属性魔法を解除した。


「ーーーーーーーーーっ!」


 途端に襲いくる恐怖心、人の死や痛ましい姿を目の当たりにした過度のストレス、聖光神教への怒り、そしていくら許せない相手だったとしてもいずれ死に至らしめる程の魔法を行使した自分。

 無理矢理魔法で抑え込んでいた感情の反動が一気に梓美の中を駆け巡る。

 梓美は顔を青ざめさせ、全身から汗を流しながらその場にへたり込んでしまう。


「はっ、はっ、はっーーーーーーー」


 浅くなった呼吸を何とか落ち着かせようとする。胃の中が逆流しそうな感覚をねじ伏せ、体の震えを抑えようとする。


「最近、は、あまりしないで済んでたけど、今日のは、きつっ、いね……シェル、ヘッドベア3、体、討伐の、時は使わ、なくても、何とかなっ、たんだよ?ごめ、すぐ、に、持ち直、すから、ね」


 恐怖に呑まれそうになった時に自身に使う精神操作系の魔法はあくまで効果中に平静を保てるよう抑えるだけであり解除した時にその反動が来る。

 既にその恐怖やストレスの原因が無くなっていれば反動もそれほど大きくはないのだが今回は話が違った。

 この世界で生まれ幼少期からルルの話を聞いたり森での採集で時に野生の獣との死線をくぐって来たこともあるミアルと違い、この世界に来て僅か数ヶ月の梓美が魔獣にも怯まず肝の座った冒険者活動ができていたのはこの魔法のおかげだった。

 梓美も頼りきりにすればどこかで破綻しかねないためできるだけ使用せずに自分の精神力を鍛えてはいたが、今回激情を抑える為にやむなく使用、今に至るまで持続していたのだ。

 今解除したのはこの後の戦闘中に何かしらのアクシデントでこの魔法が途切れてしまえば蓄積されたストレスと直面した状況にパニックを起こし動けなくなりかねないため、ここで今までの分を精算することにしたからだ。

 ミアルは息も絶え絶えになりながらもなお強がる梓美を案じて寄り添う。


「梓美、大丈夫?あまり無理したら、」


 無理をしたら駄目。そう言おうとしたミアルに梓美は首を振る。


「無理でもなんでも、やれることだったら、やってやるわよ。今だって皆、命掛けで戦ってるし、準備してる。そりゃあ、ね、いきなりのドラゴンなんて逃げたくもなるけど、この街の犠牲者が増えていくのはもっと嫌。だから絶対生き残って獣王竜仕留めてやる」


 まだ体の震えは止まっていないが少しずつ呼吸が整い始め、眼差しは力を取り戻していく。

 そんな梓美をミアルは抱きしめる。


「大丈夫。ボク達は負けない。ボクが空からキツイのお見舞いさせて梓美を狙わせない。梓美も奴に色々食らわせてボクへの攻撃どころじゃなくさせる。ボクと梓美だけじゃない、皆も一緒に戦ってくれる。ーーーだから大丈夫」


 優しく語りかけながら体をより密着させるように抱き寄せゆっくりと梓美に魔力を流し込んで同調させる。梓美の感情に合わせて体内で荒れ狂っていた魔力の流れも落ち着きを取り戻していく。ミアルにはずっと梓美の体内の魔力が荒れていたのが視えていたのだ。


「んっ、ミアル、これ……っ」

「すごい魔力が荒れてたよ。それにこのまま抱き合ってた方が気持ちも魔力も落ち着くでしょ?しばらくこのまま」

「んっ……ふぁ、……はっ……」


 梓美から悩ましげな吐息混じりの声が漏れるが本当に軽く同調して落ち着かせてるだけである。今梓美の魔力は荒れているのできっと体の凝りが酷いほどマッサージの時にキくのと同じなだけの筈だ。


「……梓美がやせ我慢してるから抑えてたけどボクだって色々精神的にキツかったんだよ?だからもう少しくっつかせて。梓美の存在を感じさせて。これからもっと大変なんだからそれくらいはいいはずだもん」


 梓美は「んっ、」と、あまり声になっていない返事をする。

 完全に梓美の調子が戻るまで二人はしばらくの間お互いを抱き締め合っていた。




 ◇




 性懲りもなく挑んできた冒険者達をあしらい別の区画へ飛んだ獣王竜。与えられた指示は建造物の破壊であり自身にロクに傷を負わせることもできない連中に構っている暇はない。

 まだ破壊が及んでない場所に降り立つ瞬間、獣王竜の視界の隅から赤い何かが飛んできた。

 それは獣王竜の顔の右側に当たると爆発を起こした。

 熱と共に僅かに感じた痛み。獣王竜がその出元へ視線を移すと一人の爬虫人族の少女。ポニーテールに纏めたダークグリーンの髪をたなびかせ大剣を担ぐ彼女は、


「ーーーよう、やっと追いついたぞ獣王竜(毛だらけトカゲ)。10年前の恨み、晴らさせてもらおうか」


 現状はCランク冒険者、しかし魔獣の討伐においてはBランクに並ぶ実力者。

 フィリス・リルザが獰猛な笑みを浮かべていた。

 ギルドマスターのようなエルフと人間族の間に生まれたハーフエルフは身体特性に個人差があり、彼の場合人間族並みの筋力(めっちゃ鍛えた)、エルフ族並みの"身体強化"の魔法操作センス(ただし"身体強化"が筋力寄りな上に属性魔法運用はヘタクソ)な脳筋仕様。

 元A級冒険者だったが色々あってギルマスに。


それはそれとして


『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』

他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。

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