18話〜梓美の近接戦訓練〜
少し短めです
「魔力を奪いました!今なら首を狙えます!」
「でかした!おりゃああああ!!」
梓美の"夜爪刈り"を受けたシェルヘッドベアが急激に力を失う。そこに剣士の男が首に剣を突き立てる。
シェルヘッドベアの首の筋肉は魔力によって異常なほど強化されているため本来は刃を通しにくい。逆に言えば魔力を著しく失っている状態では首の防御力は落ちるので首への攻撃も有効打となり得る。
ゴキン、という音と共に動きを止めたシェルヘッドベアがそのまま斃れる。突き刺さった剣がそのまま首の骨を折ったのだ。
「よし、これで依頼分のシェルヘッドベアは狩り終えたな」
この数日間ミアル達『星の嵐』は他の冒険者パーティーと組んで依頼をこなしている。一緒に組むことになったフィリアが装備の整備の為に冒険者活動を1週間程休むことにしたため、それまでの間他の冒険者パーティーと臨時で依頼の合同受注の誘いが後を絶たなかったのだ。
二人としても様々な先輩冒険者と組むのはいい経験になるので長くても2日で終わる依頼限定で依頼毎に別のパーティーと組んでいる。
今回の依頼は『シェルヘッドベア3頭の狩猟』である。以前『星の嵐』が丸ごと買い取ってもらった素材、その肉がある料理人の琴線に触れたらしく、レシピの研究の為にできるだけ血抜き以外は臓器もできるだけ傷つけず丸ごと狩ってきてほしいというものだった。
受注可能ランクはCランク以上、Dランクはシェルヘッドベア討伐経験ありという条件で同行可。報酬もCランク冒険者向けの依頼にしても高額だった。
しかし、よほどのことがなければ依頼を受ける冒険者はいないだろう。
期限内での納品依頼であるため一度に3頭分持ち帰る必要がないものの、あの巨体を持ち帰るのに収納系の魔法ないし魔道具は必要だし、臓器を傷つけずに倒すには魔力で保護されている首や頭部を狙わなければならない。
この依頼書を見た冒険者達は即座に『星の嵐』の二人にぐりんと振り向いた。
いるではないか。シェルヘッドベアの首を切って仕留めた経験者が。
「是非、このクエストを合同でやりたいんだが、どうだい?」
合同依頼を持ちかけたCランク冒険者によるパーティーの皆様はとてもいい笑顔をしていた。
そんなこんなで現在。
「やっぱり重く鋭い物理攻撃ができる人がいると違うね。ボクは物理はてんで駄目だし梓美は切れ味か重さかのどっちか、しかも近接戦の技量はないから」
「あぁ・・・アズミがシェルヘッドベアの首に杖を斧みたいに叩き込んだ時はビビったぜ」
牽制役だったミアルの言葉に剣士が同意する。
1頭目を狩る際、"夜爪刈り"ではなくメガディノラプターに使用した魔力を削る魔力弾で魔力を奪った後、そのまま梓美が"重硬化"で強化した長杖でそのまま首へ攻撃したのだが一撃で倒しきれなかった。
そのまま剣士が追撃で首を斬りトドメを刺したことでことなきを得たが"夜爪刈り"の方が効果が大きいこと、強化が弱まっていても硬化している首の毛皮の防御は梓美の"重硬化"では十分なダメージを与えられないことがわかった。
そこで狩り方を変えて魔法職が牽制、その隙に梓美が"夜爪刈り"で魔力を奪い、その魔力で剣士の剣を強化して首を狙うことにした。
結果は上々で状態のいいシェルヘッドベアの狩り方がこれで確立された。もっとも魔力を奪える魔法が必要なので他の人が真似できるかは不明だが。
「なんかボク今回役に立ててないなぁ」
「それ、私の前で言えるの?索敵もあなた任せの私の前で?無詠唱での即座の魔法発動ができない私の前で?」
基本的に梓美が主体となる狩りにミアルが役に立ててないとこぼすがCランクの魔法使いの女性に睨まれる。
適性属性の違いがあるとはいえ魔法使いはミアルに敗北感を覚えていた。地属性による質量のある攻撃や地面の振動を感知して周囲を探る魔法は使えるものの攻撃速度や探知範囲はミアルに劣る。
加えて詠唱や術名を唱えることなく発動できる技量に本当に冒険者なりたてなのか疑問に思った程だ。
なお、常に組んでいる間柄ならともかく合同でパーティーを組む際は無詠唱での魔法は急に魔法が発動するため仲間同士での連携がとりづらいとのことで攻撃時には術名を唱えることになったのは余談である。
「そう言うな。お前の地属性魔法の足止めには助けられてるんだ。風や水で敵の足を止めるのは難しいだろ?」
「それはそうだけど・・・」
剣士が魔法使いにフォローを入れる。この魔法使いとて伊達にCランクに上り詰めてはいない。地面を沈めたり岩の槍を地中から突き出す等によって遠距離から敵の動きを止めることは梓美は勿論ミアルにもできない芸当である。
冒険者としてランクを上げるには自分の強みでどのように貢献できるかを理解することが重要だ。
深層、場合よっては中層の魔獣は身体能力において人型種族のそれを上回る。その差を埋めるのは装備と技術だが、個人の力ではどうしても限界がある。そのためランクの高い冒険者向けの依頼は複数人で挑むことが前提としたものとなっている。
単独や少数向けの低ランクの間は単独で色々こなせることが必要とされるがランクが上がるとその上でどのような役割を果たせるかを求められるようになる。例えばフィリスなら火属性魔法による爆発力を持つ大剣使いといったところだろう。
「お前らもCランクに上がる頃には自分のスタイルは確立させておけよ?それに応じて装備も変わってくるし他の同系統の役職を見て参考にするのはいいが劣等感から自分の方針を迷走させるのはよくある失敗談だ」
「「はーい」」
◇
「それで、アズミは杖で暴れ回ってると」
「うん、梓美って、二極属性が使える分やれることも多いからね」
ミアルはギルドの食堂で依頼の下見に来たフィリスと出会い一緒に軽食にフライドポテトをつまんでいる。この世界にもフライドポテトがあったことに梓美は驚いていたが芋を揚げて塩をふる簡単な料理法のため考えてみればレシピ開発はそう難しいものではないなと納得していた。
その梓美だが依頼完了の手続きを終えた後、訓練場で他の冒険者と近接戦の練習をしに行った。
人間族の特徴に訓練次第で適性でない属性の魔法も扱えるというものがある。適性属性以外の魔法は一般的に魔法は得意でない爬虫人族の適性属性魔法にも出力や精度が劣るが梓美はそれを二極属性で補える。
加えて"身体強化"、そして地属性魔法に闇属性を組み合わせた"重硬化"やこれまで出番がないが地属性に光属性の魔力を組み合わせて切れ味を向上させる"鋭鋼化"で近接戦にも対応するだけの魔法技術はある。
しかし、身体技術面では回避の訓練くらいしかしておらず素人同然であった。
自身の強みは『やれることの広さ』と考えた梓美はその近接戦技術と経験の不足を補うことにしたのだ。
「いずれ護衛依頼もするなら対人戦も視野に入れないといけないから模擬戦で経験しておきたいんだろうね」
訓練場の方からはヤジが聞こえてくる。
「見た目に騙されるなよー!意外とパワーがあるし急に一撃が重くなるぞ!」
必要に応じて杖に"重硬化"を付与する梓美は"身体強化"によって向上した機動性と一撃の重さを両立させている。
同ランクの冒険者にとっては対人というより機動性と一撃の重さを両立した魔獣との戦いの練習をしている気分とのことである。
何戦か観戦しているうちに冒険者達があることに気づく。
「・・・なあ、段々戦闘スタイルが荒くなってきてないか?」
「ああ、杖で攻撃を払って懐に潜り込んで片手で投げ飛ばしてるな。で、転がった相手に追撃を、うん、さすがに寸止めしたか」
「あー、光属性魔法で身体能力の強化してるよあれ。一定時間内の強化っぽいけど筋力の上昇幅が上がってる。お、今度はケンカキックだ」
「強化した身体能力で接近戦ごり押しかける魔法使いとは一体」
「あ、勢い乗る前に受けられた。やっぱ相手に技量があるときついか」
何度も模擬戦をする内に打ち込むタイミングや受け流し等の技術も身につけたものの梓美の近接戦スタイルは「魔法で強化して剛よく柔を断つ」と言わんばかりのものになった。
直接技術に関して指導をもらうことは無い為基本勢いと力任せなきらいはあるが、同ランク冒険者ともそれなりに打ち合えるようになってきた。
「よし、このまま色々魔法と組み合わせてみよう!誰か魔法込みで相手してくれる人ー!」
「面白え!おれが相手してやる!かかってこいや」
「行きますよ!("光衣"!)」
「・・・って消えた!?ぐへあ!?」
「うーわー、魔法で姿隠したり幻影出し始めた」
光属性魔法の姿を消したり別の場所に投影する"光衣"で撹乱しながら訓練前とは無駄の減った戦闘スタイルで挑戦者を翻弄していく梓美。
相手側も姿を消す相手と模擬戦する機会は貴重なため挑戦する者が多かった。
「いつまでやってるの梓美!もう日が暮れてるよ!」
結局ミアルが待ちくたびれて回収に来るまで梓美は訓練に明け暮れていた。
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