1話〜異世界人との出会い〜
「嘘でしょ!?」
遥か上空から落下してくる少女。このまま放置すれば地面のシミになるか森の木に串刺しになることは免れない。見過ごす訳にもいかず、再度風の魔法で落下する少女に向かって跳躍する。風の魔法はミアルの最も得意とする魔法であり、勢いが落ちれば再度魔法を発動、空を蹴るように跳躍していく。
「え!?なんか飛んできて、うぎぇ」
ぶつかるようにして横抱きで少女をキャッチ。変な呻き声が聞こえたが気にしている場合ではない。
「口を閉じてて!絶対舌を噛むから!」
落下するミアルは魔法で周囲に殻の様に風の壁を展開、さらに落下軌道上に水の壁を作りだす。
風の殻に覆われたミアル達はそのまま水壁を貫通、落下の勢いが落ち、さらに風の殻がクッションとなったことで無事に着地できた。
無事に着地できたことにほっと一息して抱きかかえた少女を見る。
言われた通り口を固く結び、さらにぎゅうう、と音が聞こえそうなくらいに目も強く閉じていた。
光の反射具合で茶色が浮き上がる黒髪、見慣れない布地の、白に大きな紺の襟のついた変わった服装をした人間族だ。
「もう地面に着いたから大丈夫だよ」
恐る恐る少女の目が開かれ、ミアルと目が合う。
「・・・・・・・・・」
そのままぼーっと見つめられる。口もぽかんと開いている。心ここにあらずといった雰囲気だ。
「えっと、もしもし?」
「はうあ!?ごめんなさい!凄い綺麗な、あとなんか可愛くてつい見惚れてしまいました!」
「えっと・・・うん、それはどうも・・・」
お互いに少し顔が赤くなる。ミアルもエルフの例に漏れず端正な顔立ちをしているのだが、逆に「エルフだから綺麗なのが普通」というのが一般の認識であるのでそれほど容姿を褒められることは多くはない。なのでストレートに褒められると結構弱いのである。
「それで、なんであんな上空から落ちてきたの?」
「あ、うん。私もよくわからなくて、教室で友達と駄弁ってたら急に床が凄い光って、そしたら・・・って、その耳!?」
事情を聴こうとしたら、今度は耳をガン見された。表情は信じられないものを見る目である。
「えっと・・・ボクの耳がどうしたの?」
「その、もしかして、その耳、もしかしてエルフって呼ばれたりする種族ですか?」
エルフを見たことがないのだろうか?この国ではエルフはそう珍しい種族ではないはず。
と、なるとおそらく国外、人間族至上主義の聖光神教の統治圏内の出身か?
「そうだけど、質問。神ってどう思う?」
これはこの国でよく使われる、聖光神教信者であるかどうかの常套手段。聖光神教の信者ならば他種族を忌避、あるいは見下す傾向が強く、また信仰する神を偽ることはない。単一の神を讃えるような返答だった場合、聖光神教の信者、すなわち他国の回し者の可能性が高いのだ。
「神様?えーと、あくまで個人的な考えなんだけど、一つの存在として神様ってのがいたらそれは神に例えられる「何か」にしか過ぎない。信仰されてる象徴そのものに神を見出してるだけってのが私の持論なんだけど・・・」
いきなり信仰の象徴を否定しだした。聖光神教に限らずとも信仰篤い者が聞けば腹を立てそうだ。
「待って、これもしかして神様的存在に今聞かれて呪いとか雷とか落とされるやつじゃないよね!?よくよく考えてみたらなんか異端審問っぽかった!?私いきなりやばいフラグ立てた!?」
実際、聖光神教の信者が聞けば吊るし上げは免れないだろう。雷や呪いが落ちるというのはないだろうが。ともあれ、
「まあ、大丈夫かな」
妙な価値観を持っているようだが聖光神教とは関係なさそうだ。
「エルフに会うのは初めて?ボクはミアル。君の名前は?」
「えっと、私は梓美。エルフに限らず、その、他種族自体が初めてで、もしこれが私の見てる夢とかじゃなかったら」
自分の頬を抓り、その痛みを確認してから、
「私、異星人、あるいは異世界人です。」
◇
「つまり、梓美のいた世界は人型種族が人間族しかいなくて、他種族は架空の存在だったと」
「そうなの。だから村に着いたら怪しい人って思われるかも」
一先ず村に保護、然る後に詳しく事情を聴くことにしたため、採集は中断。森に放置した籠を回収し、村へと戻る。道すがら梓から教えてもらった話では
・梓美は地球と呼ばれる星、あるいは世界のニホンという島国の生まれである。
・15歳だがニホンでは未成年であり教養のため学校に通っていた。現在の服装はその学校で指定されたものでありセーラー服と呼ばれている。靴も屋内用の物であり、森の中を歩くのに苦労している。
・地球での人型種族はこちらの世界での人間族に相当する種族しかおらず同様に人間と呼ばれており猿から永い年月をかけて今の種族に至ったらしい。他の種族は架空のものでしかない。
・魔法が存在しない代わりに科学技術といわれる様々な物理現象や物質の構造、相互作用等の法則を利用した技術が発達している。なお、梓美は科学技術に関して特別明るいわけではないようだ。
ということがわかった。異世界に迷い込む、という状況も物語ではよく目にしたらしく、この世界の魔法に興味深々だったがそれは後に置いておく。
「あ、ちょっと止まって。」
後ろを着いて来ていた梓美に声をかける。右手に魔法陣を展開、掌の大きさ程の風の球体を生成するとそのまま木々の向こうへ手をかざす。それを見た梓美は目を輝かせる。
「おお、これが魔法なんだ。」
「そうだよ。"風弾"」
彼方に風弾が放たれた数秒後、「ギョエッ!?」と鳥の悲鳴のような声が上がる。
「ちょっと待ってて、すぐ戻る。」
「え?今ここで?大丈夫なの!?」
言うが早いか持っていた籠を下ろしてミアルは風弾を放った方向へ走っていってしまう。一人残された梓美は不安を隠せないまま少しでも気持ちを紛らわせようと籠を拾い抱きかかえた。
ーーしばらく後、「今夜はご馳走だ!」と首を落とされたやけに足、特に爪が発達した70センチ程の鳥のようなものを担いで戻ってきたミアルに引きつった表情を隠せない梓美だった。