閑話〜召喚した者達は〜
あの時教室にいた人達がどうなっていたかというと、こうなってました。
ヴィクター聖王国。聖光神教の総本山にして魔の森に対する人間族国家群最大の砦。その王城の会議室では怒号が響いていた。
「どういうことだガイル騎士団長!魔の森での演習から戻って来れば勇者達は大半が使い物にならなくなり一人が汚らわしいゴブリンに連れ去られただと!?なんという体たらく!どう落とし前をつけるというのだ!」
「しかも始末予定のアレは獣どものムロアウィールドに拾われたと!一番の無能とはいえむざむざ敵に戦力を送ったようなものだ」
「そういえばアレは稽古中に暴走して貴殿を重傷にしたとか。無能に負ける者はやはり無能か」
王や貴族、教会の者達から罵倒や嘲りに聖王国近衛騎士団団長であるガイルは歯を食いしばり、拳を握りしめた。
事の起こりは二ヵ月前。聖光神教は魔の森の魔獣、そして人間族にあらざる者とそれと共存を望む異教徒たる『魔人』。それらを一掃し神の教えを守る人間族こそが万物の霊長たらんとすべく大規模魔法『勇者召喚』を執り行った。
別世界から素質のある人物を捕捉、それを中心に多人数をこの地に呼び寄せ、この世界の法則たるスキルの発現と魔力活性、ステータス強化、言語の違いの問題を解決させるスキル《言語理解》の付与、そして聖光神教において神の天啓とされる『ジョブ』の付与を行う魔法だ。
『ジョブ』とは個人の能力や性格面等の資質を基に最適な役職が提示されたステータスの一つだ。
そうして召喚されたのが『勇者』のジョブを得た少女、星山 遥香だった。召喚時点でオールAのステータス、そして闇を除く五属性、つまり英雄の素質たる二極の一つと四元素を併せ持つ魔法適性、さらに持つ武器の能力を向上させる《聖剣化》と防具の能力を向上させる《聖鎧化》のスキルを有する勇者に王家が、そして教会が歓喜に震えた。この圧倒的なまでの素質を持つ勇者を育て、神の威光を妨げる魔人どもを駆逐できると。
そして、召喚された者達に人の生活圏を脅かす魔獣と『悪』たる魔人達の王の打倒を、達成までの好待遇と地球への帰還を条件に約束させた。
『勇者』遥香の他にも優れた素質を持つクラスメイト達が召喚されていた。特に『聖騎士』のジョブを持つ岸田 聖也、『拳豪』のジョブを持つ須藤 憲二、『大魔導士』のジョブを持つ美島 麗華らは『勇者』遥香に次ぐ素質の持ち主であり、彼らを召喚した者たちの期待は高まった。
しかし、召喚された12名の中で『無能』の烙印を押されてしまったのが『狂戦士』のジョブを持って召喚された少年、前國 昭彦だった。
彼のステータスは一般人とそう変わらず、魔法適性は召喚されたクラスメイト中唯一の聖光神教では嫌われる闇属性。スキルはクラスメイト全員に共通の《言語理解》を除いて《理性制御》と理性を失う代わりにステータスを大幅向上させる《狂化》であった。一見《狂化》のデメリットを《理性制御》で打ち消せるため強力に見えるが、それで向上させたステータスでなお『勇者』や『聖騎士』の素のステータスと同等だった。スキルを含めた総合能力では昭彦は最底辺だったのだ。
『勇者』遥香の口添えもあり人並みの待遇はしてもらったが訓練においては他のクラスメイトからイジメの如く悪い扱いを受けていた。昭彦自身オタク気質であり、この手の物語を読んだことがあったため最初から召喚の大義名分や地球への送還を信じておらず、それが聖王国の者達の不興も買っていた。
ガイルによる戦闘技術訓練においても弱いステータス、闇属性しか適性がないこと等を理由に指導にかこつけて罵倒と必要以上の痛めつけが行われた。
事件が起きたのはその時だった。
ブチ切れた昭彦がダメ元で闇属性魔法で《狂化》の効果を増幅したことで更なるステータス強化と周囲への威圧能力を獲得した。威圧によりガイルが怯んだ隙に怒りにまかせて《理性制御》によるストッパー無しで反撃を開始した昭彦はこの世界に治癒の魔法がなければ再起不能になるほどの重傷を騎士団長に負わせた。
この一件である程度の実力を認められた、というより怒らせると危険と判断されたのか昭彦に対するイジメや冷遇は鳴りを潜めた。
しかし昭彦を快く思わない聖王国、大衆の面前で恥をかかされた私怨に燃えるガイル、一度見せた暴走による恐怖でクラスメイトの和を乱すと考えた『聖騎士』聖也らによって昭彦を排除するという計画が立てられていた。
表立って始末すればクラスメイト全員を案じる遥香が反発しかねない。
そこで、魔の森での実践形式の演習内で事故、あるいは実力不足で魔獣に殺されたことにして始末することにした。
召喚から一月後、戦闘技術が身についたことで魔の森での演習中、上手く孤立させた昭彦をガイルと部下が騙し討ちしたが、その同時期に『悪』とされた妖精族に遥香や聖也達勇者一行が遭遇。
聖也が即座に討伐せんと攻撃を仕掛けたがその妖精族の姫ヴァイラナの反撃に巻き込まれる形で何がなんだかわからないながらも昭彦はことなきを得た。
ヴァイラナはそのまま通常の魔法とは一線を画する精霊術で遥香達を圧倒。
不運は続きその余波で要塞蜂の巣が損壊。怒り狂った要塞蜂が勇者一行に襲いかかった。
元々ある目的の為に要塞蜂の巣と蜂蜜を求めて魔の森深層から出てきていたヴァイラナはこれ幸いと自身は身を守りつつ巣を蜂蜜ごと回収し離脱。
昭彦も離れていたにもかかわらず要塞蜂に襲われかけたが闇魔法と《狂化》の合わせ技による威圧で撃退に成功した。
勇者一行で要塞蜂の攻撃から身を守れたのは遥香含む少数であり他のクラスメイト達と護衛の騎士は毒に侵されてしまった。
要塞蜂の毒は強い倦怠感と吐き気を及ぼす。さらに専用の解毒剤で解毒しなければ後遺症として体内の魔力異常が残り続ける。その毒に侵されてしまってはまともに戦うことは不可能だ。
そして魔の森は弱った者に容赦はしない。
要塞蜂から逃れ切ったところをゴブリン達が強襲を仕掛けてきたのだ。全員が万全な状態なら取るに足らない相手だったがヴァイラナ戦での消耗もそのままに満足に動けないクラスメイトや騎士達を庇いながら毒に侵されていないメンバーだけで戦い続けるのには無理があった。
そして隙を突かれて『大魔導士』麗華がゴブリンに連れ去られてしまった。麗華はヴァイラナとの戦いで大きく消耗し、さらに蜂から身を守るのに魔力を使い果たし、まともに戦える状態ではなかった。遥香は親友を取り返そうとしたが残ったゴブリンの決死の足止め、そして他の女子や女性騎士を狙うゴブリンを阻止する為にそれが叶うことはなかった。
ガイル達が合流してゴブリンを退けた時には麗華だけでなく女性騎士一人も行方不明、つまりゴブリンに連れ去られてしまっていた。
ガイルが戻ってきたのは昭彦を仕留めたからではなく、騒ぎを聞きつけた敵対国の一つムロアウィールドの獣人に妨害され、取り逃したからだった。
ムロアウィールドは聖王国と隣接する国でもあり長年睨み合いを続けている。
昭彦はそのままムロアウィールドの庇護下に入った。クラスメイト基準で見れば弱い部類だがそれでもこの世界では強力な力を持った個人であり、ムロアウィールドにとっても聖王国に嫌気がさしていた昭彦にとっても利のある話だった。
敵対する妖精族の姫ヴァイラナに事実上敗北したこと、親友を死よりもおぞましい状況に置き去りにしてしまったこと、そしてクラスメイトの一人が敵対国に寝返るという結果は勇者の心に深い傷を刻んだ。現在では塞ぎ込んでしまい訓練すらもまともにできる状態ではないだろう。
そして昭彦を始末どころかみすみす敵対国に渡してしまった件も含め全ての責任がガイルに集中することになった。
聖王国国王が口を開く。
「要塞蜂の毒は解毒剤にその要塞蜂の蜜蝋と蜂蜜を必要とする。しかし我が国に必要な数はない。同盟国にも声をかけているがいつになるかもわからない。よって貴様にも別の方法で回収しに行ってもらう」
「国王様、別の方法、とは?」
「シメレア帝国。我が国と魔の森を挟む反対側に位置する国。汚れた魔獣を狩り食らうおぞましい連中どもの住処。魔の森に接するアダマートという都市では魔獣の素材の取引が盛んだ」
ガイルが目を見開く。この大陸は北部の直接海に面している部分は除かれるが魔の森を囲うように国家が形成されている。シメレア帝国は魔の森を挟んだ反対側に、そしてムロアウィールドを越えた先に位置する他種族共存国家だ。そして魔獣素材による産業が盛んな国であることでも有名だ。
「まさか、奴らと取引をしろと!?汚らわしい魔人は我らが神敵!そのようなこと・・・!」
「何故我らが取引などせねばならん。アダマートを制圧し解毒剤の素材を接収するのだ」
ガイルは国王の言葉の意味が理解できなかった。ただでさえムロアウィールドとの睨み合いが続いているのにそれを越えたシメレア帝国をどうやって攻撃するというのか。
魔の森を越えるにしても自分達より優れた戦闘能力を持つ勇者達ですら魔の森から逃げ帰らざるを得なかった。それを自分達で為すことは不可能だ。
彼の疑問に一際豪華な法衣を着た聖光神教の教皇が言葉を続ける。
「そなたの疑問ももっともだろう。この国からアダマートに直接魔の森を越えて攻め込むことは不可能だ。しかし、我々は何を成し遂げた?そう、勇者召喚だ。その術式を応用して指定した二箇所間での転送を可能とする"転送魔法"を完成させたのだ!」
「然り。貴様と率いる部隊は転送魔法により直接アダマートに攻め入るのだ。そして部隊だけでなく今回は『聖獣』を投入する」
「せ、聖獣を!?」
教皇と国王の言葉にガイルは驚愕する。
聖獣。ヴィクター聖王国の建国時の戦乱の中初代国王と共にあったという神の使いたる獣。
その力は魔の森から雪崩れ込んできた魔獣や他国から攻めてきた魔人達の軍の脅威から幾度もこの国を救ってきた程だ。
王家と共に世代を重ねて現在も教会と王族のみが訪れることを許されている聖域にて大きな戦いに備えているという。
「聖獣の力を借りてアダマートを陥落させ、転送魔法にて接収した素材をこちらに送るのだ。しかしいずれは奪還の為に軍が来よう。その時は聖獣は引き上げさせ魔法陣を痕跡も残さず破壊しろ。そして貴様とその部隊はそのまま残り一人でも多くの魔人どもを道連れにするのだ」
アダマートを落とした後、シメレア帝国はその奪還の為に軍を向けることは間違いない。魔の森を背にした状態で都市を包囲する軍相手では転送魔法による支援があっても数に押し潰される。最悪都市を巻き込んだ大規模な魔法で一掃される場合もある。
転送魔法の魔法陣を残したまま撤退すればその技術が敵にも伝わってしまうだろう。
転送魔法は諸刃の剣だ。相手に技術が渡ればアダマートに行ったものと同様の奇襲を許す。
それを防ぐ為にもアダマートに送られた者達は目的を達成した後は自ら帰還の手段を破壊しなければならない。
また、敵地で孤立状態が続けばたとえ聖獣でも敵対国で冒険者と呼ばれる魔獣狩りを生業とする者達に討伐される恐れがある。
そのためアダマート制圧後は目的を達成するまで聖獣にはシメレア軍の足止めをさせる。
その後聖獣は転送魔法で帰還させるがガイルをはじめとするアダマートを攻める部隊は魔法陣を破壊し死兵となる。それはガイルとて例外ではない。
「シメレアに送り込んでいる密偵には先に術を用意させる。時が来れば聖獣と共に赴くのだ。そして事を成し遂げ、神の威光の元に殉じることでこれまでの失態はそそがれるだろう」
ガイルは震えた。己の死が決まったからではない。
かの聖獣と共に戦えるのだ。そして勇者達を再起させる方法を手にするという挽回のチャンスを与えられ最期は神の名の下に魔人達を一人でも多く道連れにできる。
彼の心はこれ以上ない歓喜に満たされていた。
「ーーーー神の御心のままに」
ーーー聖獣。それは聖光神教と縁のない国々ではこう呼ばれている。
獣王竜と。
魔の森深層クラスでも上位クラスの魔獣でありA級、最低でも対魔獣戦を得意とするB級冒険者パーティー複数でやっと討伐できるかどうかだ。
その力があればアダマートは蹂躙されるだろう。
しかし、彼らは知らない。勇者召喚の時教室にいたのは13名だったことを。
最後の一人はシメレア帝国に召喚され、現在はアダマートにいることを。
そして、召喚の事故によって今は不完全な状態であるスキルがその真価を発揮する時、獣王竜すらも倒しうるということを。
ヴァイラナがこの時回収した蜂の巣がミアルの成人祝いの材料になりました。
『狂戦士』ジョブの昭彦を主人公にした話の構想も実はあったりします。
よくある無能扱いだったけど美少女の亜人に拾われて環境が変わって才能を見出されて成り上がる系ですがもしかしたらいずれ書くかも。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




