17話〜依頼完了後の色々〜
メガディノラプターを仕留めたミアル達は配下のディノラプターも含めて血抜きを済ませて一箇所に纏めていた。
メガディノラプターはほぼ完全な状態での納品を指定されており解体する必要はないが、"奈落"が収納した物の時間経過を停止させることは伏せておくことにしているので血抜きをして素材の劣化を防ぐカモフラージュは必要だ。
ディノラプターの死体はフィリスに焼き切られたものを除いて20匹以上ありこれら全てを解体するのも恐ろしく手間な為、ギルドで解体の手数料分を差し引かれることを承知でこちらも血抜きだけして持ち帰ることにした。ちなみにディノラプター達の餌食となったホブゴブリンだが、こちらは有用な素材がないため放置された。
しかし、血抜きをする以上周辺には血の匂いが蔓延する。今も早速嗅ぎつけた長さ3メートル程のムカデのメガロセンチピードをフィリスが吹き飛ばしていた。切っているのではなく、叩き込んだ刀身に纏わせた炎を爆発させて吹き飛ばしているのだ。その衝撃に耐えられず動かなくなったところを頭部を切り落とされる。
「こいつは確か頭部内の毒腺が買取対象だったな。頭だけ持ち帰るぞ」
「これ、収納系魔法が無かったらまともに素材を持ち帰れないんじゃないの?」
「森の中に荷車引いてくるわけにも行きませんもんね」
「そういえば一人荷物持ちを担当させるパーティーが多いって話かーさんがしてたよ。場合によっては収納の魔道具いくつも持たせたりとか」
「フィリスさんって普段素材とかってどうしてるんですか?」
「あたしは依頼の内容になければよほど売れる部位でもなければ討伐証明用以外は捨ててる。解体してれば血の匂いで今みたいに他の魔獣を引き寄せるからな。別に報酬だけで稼ぎは十分だったし」
これが単独の欠点であり利点でもある。一人で持ち運べる量が限られていること、解体中に襲われるリスクから素材を必要最低限しか持ち帰れない。しかし報酬を総取りできるので稼ぎは十分である。
パーティーを組む冒険者が積極的に素材を持ち帰るのは少しでも収入を増やすという点が大きい。
「とりあえず、収納終わりましたけど、なんか遠巻きに見られてます。ゴブリンですよね、あれ」
「うん、ゴブリンだね。ギリギリ見えるところで隠れて、なんか話し合ってるみたいだけど」
梓美が視線を向けた先には遠くで木の影に潜むゴブリン達。何やら会議しているみたいで一体が他のゴブリンの発言に対して首を振っているようだった。そして一体がこちらの視線に気づくと蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「狩りを終えた女冒険者はよくゴブリンに狙われるって聞くが、あんな風に逃げるのは妙だな。とりあえずこのままギルドに帰るぞ。追ってくるようなら待ち伏せして仕留める」
「あれ?今の言い方、フィリスさんは討伐後をゴブリンに襲われたことってないんですか?」
「ないな。なんか遭遇した時も基本的に逃げていく」
「爬虫人族もゴブリンの標的にされるんだよね?」
「って聞くけどな。楽ではあるんだが」
三人は疑問に思いながらも途中で使えそうな薬草を採集しながら帰路についた。
ミアルの母譲りの薬草知識にはフィリスも舌を巻いた。特に高額で売れる薬草を昔から見逃していたことを知ったのがショックだったようだ。
◇
少し時間は遡る。狩りに出ていたホブの断末魔を聞き、様子を見に行った若いゴブリン達。そこで見つけたのはボスごと仕留められたディノラプターの群れと三人の若い人型種族の雌だった。
本来なら狩りを終えた直後の雌は消耗していて襲いやすい格好の獲物なのだが、今回は話が違うことが一目でわかった。
決して女が強いということではない。強い雌からは自分達のように強い群れが生まれる。犠牲を出そうが捕らえて孕ませればすぐに損失は取り戻せるのだから消耗しているのなら襲わない手はない。
では何が問題なのか。それは三人の魔力だった。
(何故妖精ニ近イ魔力ヲ持ツ・・・子カ?アノ黒髪ハ耳長ノツガイカ?)
妖精族。遥か過去に同じ祖から分かたれた種族。同じ祖とは言っても猿と人間族並みに隔絶した種族ではあるが繁殖の性質は似ている。
形態の似た種族の優れた個体の胎、あるいは精を利用して優れた同族を増やすのだ。
これは太古に存在していた精霊が他の生物と交わる為にその生物に合わせた姿に変えていた頃の名残だという。
その後精霊の血を継いだ種族が分化の過程で精霊としての性質を強く残したのが妖精族、人型種族と交わった結果、精霊としての特徴を持ちつつも人型種族により近い性質を持つのがエルフ族、そして、繁殖能力を優先し野生化ともいうべき獣としての性質に寄ったのがゴブリンやトロールとされている。
ゴブリンはその殆どが雄であり、とにかく産ませまくって数を増やすというのが生存戦略である。『女王』と呼ばれる雌個体もいるがこの個体は群れの最頂点であり優れた雄の精でより優れた子を産み、質を高める為の存在だ。
ゴブリンは捕らえた雌を精と共に魔力を流しこんで侵食することで精神にも干渉し屈服させると同時に自分達の種族との相性の向上、つまり受胎率の向上とスキルや魔力性質の遺伝がされやすくするのだが、その過程が妖精族のそれとほぼ同じなのである。
魔力の扱いに長ける妖精族は直接的な行為を伴わずとも他種族の相手に魔力を流し込む、あるいは同調させて母胎、あるいは子種との相性を向上させる(その為妖精族は本能的に気に入った相手にはスキンシップを積極的にとり、こっそり少しずつ魔力を同調させることが多いとされている)が、これがなされた個体はゴブリンをはじめとした同様の繁殖方法をもつ種族との相性が最悪となる。ゴブリンらを孕みにくくなり、その為の魔力侵食も効きが悪く、妖精族やその血を色濃く残す個体も同様に相性が悪く慰み者としてしか価値がなくなる。ゴブリンはそれを微弱な《魔力知覚》で判断することができる。
(アレハ母胎ニ使エナイ)
つまるところ、妖精族との混血であるミアル、そのミアルから魔力同調を受けた梓美は犠牲を払ってまで襲う価値はなく、それなら手出しするべきではないと判断したのだ。
そして、フィリスが今までゴブリンに襲われなかったことも本人は知る由もないが妖精族と何かしらの縁があることに他ならない。
巣に捕らえた雌に飽きた個体がさらに慰み者を欲しがってはいるがリーダー格が割に合わない、全滅のリスクを払ってまで襲う必要はないと宥めていたが向こうに気づかれてしまった。ディノラプターを群れごと仕留める相手、奇襲できなければまず殺されることがわかっているので一目散に逃げ出した。
一際強く、知恵のある個体として生まれた彼らの目標は一つ。より強いホブ、さらに上位のゴブリンへと成長し『女王』の直系に自分の血を残し、種族に貢献することだ。
だからまずは生き残る。まだ生まれて一月、貧弱な身だが一先ずホブに成長できれば生存能力も増す。母胎から受け継いだスキルも存分に発揮できるだろうーーーーー
◇
冒険者ギルドに戻った三人は依頼のメガディノラプターの納品とディノラプター、採集した薬草の換金を終えた。担当はいつものアンジェラさんだ。
「お疲れ様です。こちらが今回の報酬と各素材の買取金額となります。徒党を組んでいたというホブゴブリンについても報告しておきますね。」
カウンターに出された金額はミアル達がシェルヘッドベアを討伐した時の買取額の倍以上だった。
依頼を通すか通さないかで討伐報酬に差が出るといのは本当だった。
ちなみに今回の取り分は指導側ということもありフィリスが4割、二人で3割ずつという形になった。二人で資金を共有しているミアル達はフィリスの取り分は5割でもいいと感じていたが素材代は梓美がいないと稼げなかったこと、探知魔法のおかげで余計な損耗が無く経費が浮いたとのことでフィリスは譲らなかった。
「それでフィリスさん、貴女から見てお二人はどうでしたか?」
アンジェラがフィリスに二人の評価を求める。Dランクに上げて問題ないかどうかを。
フィリスは小さく息を吐いて、
「Dなら特に問題はない。それぞれが異なる探知の魔法を持ってるし攻撃手段もある。欠点も理解しているようだし経験不足を補える奴と組めれば中層でも補助役としてやっていけるくらい。単純な能力だけならCでも不思議じゃねえ。まあ、当然ながら深層に行くのは早すぎ。探知魔法の特性上逆に気取られる危険もあるしできるだけ持って帰ろうとバンバン血抜きとかしていくから魔物も寄ってきやすい。威力の低い魔法と手数で済ませようとするから単純に固い相手も不向きだろうな。というか、だ」
言葉を区切って二人を半目で見る。
「こいつら、どうも余力を残しているように見えたんだよ。実際火力はあたしが担当したから最大威力の魔法を撃つ必要がなかったのもあるだろうが。全力でやるとどんなもんなのかが全然わからねえ」
「ですが、魔の森中層以降で全力を出し切る、というのは危険です。その後の帰還も考えなくてはならないのですから余力は残すべきでしょう。まあシェルヘッドベア相手でも素材の為に余計な傷をつけずに倒そうとするあたりそのレベルでも余裕ではあるのでしょうが」
いいでしょう、とアンジェラはミアルと梓美に目を向ける。
「ミアル・ルートさん、アズミ・トーヤさん。お二人をD級冒険者に昇格します。ライセンスを更新致しますのでお二人の冒険者ライセンスをお預かりします」
その言葉にザワッとギルド内の冒険者の視線がミアル達に集中する。
「えっ、何!?」
「一斉にこっち見られてる!?」
「いや、そりゃあそうだろ?」
驚く二人にフィリスが返す。アンジェラがこの状況の説明をする。
「片や便利な収納の魔法が使える珍しい二極魔法使い。片や広範囲の探知も使える薬草にも詳しい風と水の魔法使い。しかもどちらも試験官相手に勝つ程の実力者で初見のシェルヘッドベアを仕留められるコンビ。しかも見た目がいい。皆に広まってるだけでこれですからね。ならばパーティーに誘ったり合同で依頼を受けたくもなるでしょう。頑張ってくださいね」
基本的にEランク冒険者が受ける依頼は初心者向けということもあり報酬の安い物が多く、単独、あるいは2、3人の少人数パーティーで行うのが殆どだ。
それがDランクになると難易度が上がる代わりに報酬金額も増える。依頼によってはEランクの倍近くの報酬もあるほどだ。
そこでDランクに上がったばかりの冒険者達は自分達に足りない戦力を補う為に新人の動向に目を光らせる。Eランクの時点で声をかけないのは暗黙の了解でありDランクに上がるまでの様子も判断基準にしているからだ。
今回の『星の嵐』の二人は初日の珍行動が話題になっていたが魔の森での活動では手堅く探索しており能力面でもフィリスやアンジェラの述べた通り稀に見る逸材である。
見れば剣や槍等の近接武器を携えてる冒険者達の視線がすごい。魔法職を渇望しているのだろう。
とはいえ既にギルドの斡旋でCランクのフィリスとパーティーを組んでいる状態だ。今後もフィリスが二人とパーティーを組み続けるかどうかで冒険者達の行動も変わってくるだろう。パーティーを継続するのなら元々ソロで活動していたフィリスは近寄り難いが時折合同で依頼を持ちかける程度だろう。しかしこれで解散なら二人は勧誘の波に飲まれることになる。
「このままパーティー組んで!」と縋るような眼差しをフィリスに向ける二人。しかし現実は程々に非情だった。
「あ、パーティーは継続でいいが1週間程活動休む。装備をメンテに出したいし。その間色々Dランク向けの依頼やって慣れておけよ」
ガタッ!!
冒険者達が立ち上がる。
二人の顔が引きつる。
「それじゃ、あたしはこれで。色々頑張れよ?」
去り際のフィリスはニヤついていた。絶対にこの状況を楽しんでる。
「よし1週間フリーだな!?パーティー組もうぜ!」
「まてまて俺が先に目をつけてたんだ」
「男なんかより女の方がやりやすいよね!?わたしと組もう!」
「アンタ魔法使いだろ役職被ってるぞ!」
「ハイ!私槍使いです!」
「フヒヒ、美少女二人ぃー!げふっ!?」
「そこの変態縛って転がせ!」
「「うわあーーーーーーッ!?」」
そして二人は『1週間限定臨時パーティー』勧誘の波に呑まれていった。
気がつけば評価とブクマがされてました・・・!
皆さんありがとうございます。今後もこの作品をどうかよろしくお願いします。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




