16話〜メガディノラプター討伐〜
「2時の方向に四つ脚?シェルヘッドベアより小さいのがいるよ。音から察するに重そうな体で、葉を食べている?見える梓美?」
「えーと、いた。ケラトプス系の恐竜だけど鼻先の角が二本……リノセラトだっけ?」
「それは放っておけ。挑発しなければ害はないが素材の需要も特にない。それよりメガディノラプターは見つけたか?」
「いや、そのくらいの大きさのは見当たらない。ましてやディノラプターもまだ感知できていない」
『星の嵐』にフィリスを加えた三人はメガディノラプターを狩猟すべく魔の森中層を探索していた。
現在は二人の魔法による探知を使って余計な魔獣との遭遇を避けつつ本命となるメガディノラプターを探していた。
「結構歩いてますけどフィリスさんの大剣みたいな重量のある武器を背負い続けて疲れませんか?」
「ボク達の装備は軽いおかげで大丈夫だけどね。その分いざという時のパワー不足なのが難点だよ」
フィリスは背中に片刃の大剣を背負っている。昨日それを見なかったのは座っていた席に立てかけていたらしい。
ミアルと梓美は昨日受け取ったディノラプターの革で作られた胴部と腕を覆う防具を装備している。
さらに中層での探索のために梓美は魔力を流すことで簡単な防護効果を発動できる外套を購入した。ミアルは同程度の防御力なら魔法で風を纏うことで賄えるので必要とせず、むしろ梓美以上に機動性頼りなので自身の重量を増やす防具は最小限に留めておきたかった。ディノラプターのレザーアーマーも梓美のと比べてミアルのそれは面積が少ない。
「爬虫人族の体力をエルフや人間族と一緒にするな。それに今回は遠くに何がいるのかわかるってだけでも常に気を張る必要がないから負担が大分マシだ。しかも二人で違う種類の探知だろ?」
「はい。私は闇属性魔法による生体反応の探知。ミアルは風魔法で音を拾う探知です。ただミアルは範囲が広い代わりに何かしらの方法で音を出さない相手は探知し損ねる可能性が、私は範囲がミアルほど広くない上に一つに纏まっていると数を間違える可能性もあるので過信は禁物です」
他にも大きな音のする環境では風の感知は使い物にならなくなったり、闇の方は生体反応を探るので休眠中の個体は弱い反応と捉えてしまい、そもそも生物ではない罠等は感知できない。どちらも明確な姿そのものはわからないのでその都度梓美が光属性魔法で光のレンズを作る望遠の魔法で確認する必要がある等、決して万能ではない。
「それと結構大きい欠点があるんだ。《魔力知覚》スキル持ちのような周囲の魔力に敏感な相手だと探知のために張り巡らせている魔力で逆に気づかれることもある。中層にはそんな魔獣はいないとは思うけど」
「まあ魔力を知覚できるっていったら妖精族や高位の竜の類だろうな。中層のさらに奥、深層だとこの探知は逆に自分の居場所を主張してるようなもんだから逆に危険、あるいは逃げられて狩りの邪魔になるだろうな」
「そうなると知覚を強化するような魔法の方がいいんでしょうか?」
「一長一短だろうな。少なくとも今使っている探知ほどの精度はなくなる。まああたしにできる芸当じゃあないが」
聞けばフィリスは魔力こそそれなりにあるものの種族特性上精密な操作は得意ではなく精々体の一部や武器に纏わせて叩き込む程度だという。
探知に使うように薄く広く展開するような魔力の扱いは不可能とのことだった。
そんな話をしているとミアルの探知に反応が引っかかる。
「いた!この間のディノラプターと似た反応!1時の方向!それと……人型?なんか戦ってる?」
「今こっちで視る。筋肉質、成人の人間族男性並み、肌は緑、あと剥げてる?鼻が凄い尖ってて……」
「ホブゴブリンか」
本来1m程しかないゴブリンは単体ではククラプターに蹴り殺され餌食にされるほどだが(そのためククラプターは魔獣でありながら村近くに出没しても臆病な性格もありより有害なゴブリン避けに狩り尽くされることはない)ある一定の時期を境に急成長し成人男性並みの筋骨隆々の体躯とD級冒険者でも苦戦する程の戦闘能力を得る。
そのためホブゴブリンは外縁部で発見された時点で討伐依頼が出され、報酬も高めに設定されている。
ゴブリンは拐った人型種族の女性を母胎とする生態を持ち、魔の森の外に進出したただのゴブリン1体によって運悪く拐われた女性の救出が遅れればあっという間に群れが作られてしまい村に甚大な被害が起きることもある。母胎となった女性のスキルが遺伝する場合もあり、ゴブリン側もホブゴブリン以上に成長した個体が親の場合強いゴブリンが生まれやすく、犠牲者になりやすいE級、場合によってはD級冒険者を母胎に危険な群れが作られる可能性があるからだ。
梓美は3体のホブゴブリンが10匹のディノラプターに囲まれ、互いに睨み合っている状況を伝える。
「ホブゴブリンは基本的に外縁部まで行くと狩られることを知ってるみたいだからな。基本的に中層で活動している。だが、ホブで複数行動ってのはあまり聞かねえ。後で報告した方がいいかもな。それより、当たりだ」
その言葉に梓美が首を傾げた瞬間、その視線の先でホブゴブリンを上回る大きさの影が躍り出てディノラプターの包囲を飛び越えて一体のホブゴブリンに食らいつく。そのまま包囲の外まで拐うと地面に引き倒し、その脚の大きく発達した爪で腹部を引き裂いた。
「ガアアアアアアーーーーーッ!?」
響くホブゴブリンの絶叫。そのまま頭部を踏み砕いてトドメを刺したその姿は巨大なディノラプター。ただ大きくしただけでなくその頭部には鶏冠のように羽毛が生えている。これこそがディノラプターの群れの主、メガディノラプターである。
「本丸が出てきただろ?ディノラプター1頭じゃホブゴブリンには勝てない。例えディノラプターが群れていても複数のホブゴブリンにわざわざ包囲までして仕掛けるなんてことはしない」
「だから仕留めにかかるボスがいるはずだってことだね」
フィリスは自身の推測に続いたミアルに頷く。
メガディノラプターは足元のホブゴブリンが息絶えたことを確認すると動揺している残り二体のホブゴブリンの片方に襲いかかる。同時に残ったホブゴブリンに一斉にディノラプター達が飛びかかりその爪で血祭りに上げていく。
「ホブゴブリンは3体ともやられましたね。1体をメガが、2体は5匹ずつで食べ始めました。仕掛けますか?」
梓美の問いに頷くとフィリスは大剣を抜く。
「メガの方はあたしが引きつける。先に雑魚を始末しろ」
「わかった」
「了解」
二人の返事を聞くとフィリスはメガディノラプターに突撃していく。
「おらああぁぁぁぁ!」
男らしい雄叫びとともにメガディノラプターに切り掛かっていく。ホブゴブリンの肉を貪っていたメガディノラプターは即座に跳び退くが配下と分断されてしまう。そこへ、
「「「ギャァァァァァァァッ!?」」」
フィリスの襲撃に驚いた隙を突かれて風の刃と光弾に撃ち抜かれていくディノラプターの群れ。
「……マジかよ。あっという間に一掃しやがったっとお!」
振り返った一瞬を突いて向けられた牙を回避し、そのままメガディノラプターを殴り飛ばす。
怯んだメガディノラプターだったが配下が全滅しミアルと梓美が距離を詰めてくることを確認すると天に向かって大声で吠えた。群れの他の個体を呼んだのだ。
「残りが来る前に片付ける!梓美!」
ミアルの合図で精神にダメージを与える闇属性の弾が放たれる。しかし、素早く跳躍して回避と同時に梓美に襲いかかるメガディノラプター。
その爪が梓美に突き刺さるかに思えたがそのままメガディノラプターの脚は梓美の姿を通過する。
戸惑うメガディノラプターが顎から打ち据えられて大きく仰反る。
光属性の魔法で自分の位置を誤魔化した梓美がさらに長杖を振りかぶって勢いをつけたところを"重硬化"で威力を上げたアッパーを食らわせたのだ。
「ミアル!」
「任せて……っ!?」
脳が揺れたところにトドメを刺そうとしたミアルだったが中断して背後に風の刃を放つ。
「ギャアッ!?」
背後から仕掛けようとしたディノラプターが首を断たれて絶命する。ボスが呼んだ群れの残りが到着してしまったのだ。その数は最初にいた数の比ではなく20匹は優に超える。最初の10匹はボスの護衛戦力だったのだろう。
ミアルがトドメを刺せないとみて追撃しようとした梓美も別の方向から来たディノラプターの横槍で適わず、距離を離されてしまった。
脳の揺れから回復したメガディノラプターが小さく吠えるとディノラプターはミアル達を一定の距離を保ったままぐるりと包囲する。木々に隠れて姿を見せない個体もいることは探知で確認済みだ。隙を見せれば一斉に襲ってくるだろう。
「ねえフィリスさん、思ったんですけど」
「なんだ?」
「この状態、さっきのホブゴブリンに似てませんか?」
「それがこいつらの常套手段だからな。それとあたしらが余力残してなかったら笑えねえぞ」
フィリスが大剣を横薙ぎの態勢で構え、柄を強く握り込むと刀身が火属性の魔法により炎に包まれる。
「っらあああああっ!"緋刃"!」
大剣が振るわれた軌道そのままに炎の刃がディノラプターの群れの一角に飛んでいく。
刃の進路上のディノラプターは次々に切られていき断面から燃えていく。大木に衝突した瞬間炎の刃は爆発を起こし木の陰に隠れていたディノラプターを複数巻き込んだ。
大掛かりな攻撃の隙に残ったディノラプターが一気に仕掛けてくる。
「させないよ!」
フィリスのフォローの為に二人が迎撃に回ったところをメガディノラプターが牙を剥いて襲いかかるが、
「悪いな、もう次を撃てるんだよ!"緋刃"!」
すぐにフィリスが上段に構えた大剣が縦に振り下ろされ、炎の刃がメガディノラプターに襲いかかる。
堪らず跳んで避けるメガディノラプターだか、跳んだところに梓美の黒い弾丸が撃ち込まれる。
「数が減ればディノラプターはボク一人でも対処できるからね」
ミアル一人でディノラプターの相手をし、フリーとなった梓美がフィリスの援護をしたのだ。
「今撃ち込んだのは魔力減退の魔法です。フィリスさん!」
「おうよ!」
急速に魔力を失い大きく態勢を崩すメガディノラプター。そこへ距離を詰めたフィリスが跳び上がる。
「もらったぁ!」
その首にフィリスの大剣が"身体強化"を全開に峰から叩き込まれる。
「"爆炎刃"!」
さらに刀身に纏っていた炎を爆発、その衝撃を接触していた峰から送り込む。
ゴキン、と大きな音を立ててメガディノラプターの首が折られた。
そのまま崩れ落ちるメガディノラプター。そしてボスが力尽きる姿を見て残ったディノラプターは一目散に逃げていった。
こうして、三人のメガディノラプター狩猟は完了したのだった。
フィリスが魔法の術名を唱えるのは発動のイメージを助けるためです。より複雑な魔法になると術者の技量によっては詠唱が必要になったりします。
ミアルは詠唱や術名で手の内がバレるという話をルルから聞いているので詠唱はもちろん術名を唱えずとも発動できるよう訓練しています。
梓美も基本的に術名なしで発動できるようにしていますが≪舞台装置≫の補助もあるからこそ可能になっています。なので咄嗟に難しい魔法を使う場合、術名を唱えることはあります。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
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