15話〜先輩とパーティーを組もう〜
前話と比べて短めですが久々の更新です
防具が完成するまでの間、二人は魔の森への再チャレンジはお休みすることにして街中で済ませられる依頼をこなすことにした。
依頼の中には清掃活動や大量の薪割りなんかもあり、ミアルは風の魔法で落ち葉やゴミを集めたり、梓美が『身体強化』で筋力を補いつつ魔法で斧を強化してひたすら薪を割ってそれぞれが向いている依頼を片付けていった。
依頼の合間にミアルが魔の森の魔獣に関する本を探したり、梓美が市場で豆を使った発酵調味料類を見つけて目を輝かせて購入する等、それなりに有意義に過ごしていた。
冒険者ギルドで依頼の完了を報告し終えたところで二人は受付嬢のアンジェラに呼び止められる。
「お二人とも、確か今日防具が完成する予定で、明日からまた魔の森へ向かうのですよね?」
「うん、これから依頼を下見してから防具屋に受け取りに行く予定」
「ちょうど今いるので紹介したい人がいます。フィリスさーん!先日お話した二人ですー!」
ギルドの端の方で座って食事していたがアンジェラの声で面倒くさそうにこちらに歩いてくるフィリスと呼ばれた10代後半の少女。
ボリュームのあるダークグリーンの長髪をポニーテールにし、黒インナーで強調された豊満な胸を覆うビキニアーマー。袴のような意匠のガウチョの下にはグリーブが見える。
特徴的なのは手の甲から肘にかけて籠手のように覆うワニのような甲殻と同様の甲殻を備える太い尾だった。爬虫人族と呼ばれる人型種族の特徴である。
しかし、二人が何より驚いたのはその顔に見覚えがあったことだ。
「ミストル亭の風呂にいた人!」
そう、ミストル亭での初風呂時に二人にツッコミを入れ、ついでに妄想のあまりのぼせて沈んだおませな猫獣人の少女を引き上げたその人である。
最初の日以降宿で見かけなかったので少し気になってもいた。
「つい先程まで街の外で依頼をされてました、ランクCのフィリスさんです。お二人に話したいのはこの方とパーティーを組まないかということです」
姿を見なかったのは二人が魔の森の探索に行っている間に街の外での護衛依頼を受けていたかららしい。
それよりも急にランクCとのパーティーとはどういうことか
「フィリスさんは単独で冒険者活動をされていたのですが、魔の森中層となると単独は安全性や総合能力という面からギルドでは推奨していません。そこで、戦力面のみに絞ればお二人はCランクにも届くレベルということ、さらにフィリスさんの苦手とする多彩な魔法を扱えるという点から三人でパーティーを組んでみることをお勧めします」
冒険者ギルドでは時にソロ活動の冒険者や能力が偏っているパーティーに対して加入の斡旋を行うことがある。
爬虫人族は基本的に獣人族以上に身体能力に優れているが魔法能力はかなり低く、適性属性がなく『身体強化』を扱えるのが関の山の者がほとんどである。
フィリスは近接型で爬虫人族では珍しく火属性の適性があったこともありこの身ひとつでCランクに上り詰める程の実力者だったが魔の森中層での冒険者活動には限界があった。
迂闊に高出力の火属性魔法を森の中で放つわけにもいかず、その状況下で遠距離攻撃を得意とする魔獣と遭遇した場合は苦戦を強いられていた。また、物理攻撃や炎熱の両方に耐性のある魔獣も相性が悪い。
身一つであるため持ち帰れる素材も限られていたため身入りが少ない問題もあった。
それらの問題を補えるのが『星の嵐』の二人だった。
風や水属性の魔法をかなりの練度で操り攻撃や広範囲の索敵もこなせるミアル、高性能の収納の魔法や二極両方の魔法による支援ができる梓美の二人は逆に近接戦闘は魔法による撹乱で誤魔化しているものの得意ではなく、風や水属性が苦手とする破壊力を求める状況にも弱い。四元素に適性のない梓美では単体での破壊力はミアルの最大火力とそれほど変わらないのだ。
何より二人は冒険者として経験が圧倒的に不足している。
「このように、互いに欠点を補えるのです。性格面での相性が合うかはわかりませんが一度組んでみてはいかがでしょうか」
「えっと……ボクはむしろありがたいとは思うけど」
「私も賛成です。けどフィリス?さんは大丈夫なんですか?いくら実力はあっても精々普通の森での採集や狩人程度の経験しかない二人を連れて足手纏いになりませんか?」
梓美の質問に対してさっきからずっと半目でこちらを見ていたフィリスがため息を吐く。
「あたしだって気は乗らねぇよ。禄にパーティーを組んだこともないしフォローも面倒だ。けどな、遠くの魔獣を探知したり大量に物を詰め込める魔法はあたしには無い能力だ。不意打ち食らって余計な傷や物が壊れることが減ってさらに今まで持ち帰れなかった分も金にできるなら人数が増えた分減る稼ぎもそれほど気にならないだろ。まあ本当に役に立つかは明日のこいつで判断するけどな」
そう言ってフィリスが出したのは一枚の依頼書。内容は『メガディノラプターの狩猟』だった。
メガディノラプターは何かしらの理由で群れを離れ単独で生活したディノラプターが倍以上にその体を成長させた個体であり、その危険度はシェルヘッドベアと同等か、場合によっては上回る。
単純に大型化したことによる身体能力の向上だけでなく、ディノラプター達を統率し獲物を襲わせて生じた隙を狙い一気に仕留めにかかる狡猾さを持ち、群れに対処出来なければシェルヘッドベア1頭よりも遥かに恐ろしい魔獣である。
より大きな獲物を求めるために中層をテリトリーとしているため中層に踏み込んだばかりの冒険者はディノラプターを見かけたらボスであるメガディノラプターを警戒しなければならない。
「この依頼ではできるだけ綺麗な状態で死体を持ち帰らなきゃいけない。加えて必然的にディノラプターの群れも同時に相手をしなきゃならない面倒なものだ。その分報酬は普通のメガディノラプター狩りよりずっと高いけどな。まああたし一人じゃこの依頼はやらなかっただろうがこれを三人でやればどれだけやりやすいかを見る」
必要なのはメガディノラプターを探し当てる為と群れへの対処の為の探知、複数の敵への対応能力と本丸を最小限の傷で倒せる戦力、そしてメガディノラプター丸ごと1頭を運べるための方法だ。これを満たせるかどうかをこの依頼で見極めるのだろう。
「わかったよ。まさかボク達魔の森二回目で中層に行くことになるとは思わなかったけどね」
「索敵でリスクを回避できるなら問題ないでしょう。それと、この依頼の達成状況によってはお二人をDランクに昇格させます」
「1週間も経たずに昇格!?早いですね!」
「いえ、元々狩猟や採集ができる方が早期にDランクに昇格するのは珍しい話ではないですよ。本格的に魔獣を相手にすることになるDからCへの昇格にはそれなりにかかる方が多いですが」
驚く梓美にアンジェラが返す。DからCへの昇格が冒険者としてランクを上げる上で最初の壁だという。Cランクとして認められることで単独での中層の探索が許可される。
ちなみにBランクに昇格するにはより高い能力と経験が求められ、さらにAランクには複数の魔獣生息域での実績が必要となる。この街に留まる限りはBランクより上には上がらないだろう。
「それと、あたしがあんたらに気にしてることがもう一つ」
そう言ってフィリスがこちらを見据えてくる。
ゴクリ、と唾を飲んだのはどちらか
「風呂場みたいに依頼中にイチャつくんじゃねぇぞ?前にいたんだよ。魔の森の中でイチャついてて足手纏いになった大馬鹿どもがな」
ずっこけそうになるミアル。
「しませんから!ボクも梓美も索敵と採集でそれどころじゃないから!」
「そうですよ!街中ならともかく依頼中ましてやどこに危険があるかもわからない場所でそんなことしません!」
「街中ならするのかよ」
「プライベートな時間ならいいじゃないですか!」
「梓美ストップ!」
「すみませんここ受付なのですが」
今回はミアルとアンジェラに止められた梓美。フィリスも呆れた様子だ。
「イチャついてることは否定しないのかよ。あとあたしも巻き込むなよ?そういう目で見られるの嫌いなんだよ。それじゃ、使ってる宿は同じなんだから明日直接魔の森へ向かうぞ。いいな?」
「そういえばミストル亭でしたね」
「明日はよろしくね」
二人で頷くとフィリスは元いた席に戻っていく。
「ボク達も防具を受け取りに行こうか。夕食はどうする?」
「ふっふっふー!ついに唐揚げの下味用のタレの配分が完成したからディノラプターの唐揚げを厨房借りて作ってあげるよ」
「例の豆の調味料だっけ。楽しみだなー」
「まさかこっちにも醤油があったとはね。あとミアルの好きなマルベリーの茶葉とドライフルーツが売ってたから買っておいたよ」
「やった!かーさんはいつも自分好みのブレンド茶ばかり淹れるからあまり飲めないんだよ。梓美ありがとー!」
「もう!抱きつくほど?村でもマルベリーは菜園にあるだけで量はなかったもんね。薬の原料にも使うから私達が持っていける分がないって知ったときのミアルときたら」
「その話はしないでよーだったら梓美だってーー」
仲睦まじく話しながらギルドを出る二人を見送りながらアンジェラとフィリスは同じことを思った。
「そういうとこだよ」と。
そして我に返ったミアルが人前で梓美に抱きついていたのを思い出して恥ずかしさのあまり頭を抱えたのは言うまでもない。
マルベリーとは桑のことですが梓美は気づいていません。最初に果実の存在を知ったため「桑」ではなく「マルベリー」として≪言霊≫スキルで認識してしまい初めて聞く名前だったので異世界の果実が採れる茶葉だと思っています。
次はもう少し早いペースで投稿したいです。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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