12話〜初めての依頼と杖〜
「では、こちらが冒険者ライセンスとなります。自分の魔力に反応して記述内容が浮かび上がります。ランクアップ時以外の更新、再発行には銀貨2枚となりますのでご注意くださいね。」
発行された冒険者者ライセンスの色はEランクを示す灰。冒険者ランクは下からE〜A、さらにSランクが存在している。ランクを上げるには達成した依頼の種類や最新の一ヶ月間の達成率等の基準を満たす必要がある。Eランクで受けられる依頼は薬草等の素材採集や野生の獣の狩猟、そして街での雑用である。
「今日はこのまま街中でできる依頼やっちゃおうか」
「そうだね。あと、私杖を調達したい」
「それじゃあ、この、蜂の巣の撤去と迷子犬探しを受注しよう」
ギルドのボードに貼り出された依頼から2枚を取り出し、依頼を受注する。
二人の実力を知る受付嬢は「Eランクでももっといい依頼もあるのよ?」と、微妙な顔をしていたが街中を歩いて把握したい旨を伝えると了承してくれた。
最初に向かったのは蜂の巣の撤去。梓美は家の軒にできたスズメバチの巣をイメージしていたが実際は、
「なんでこうなるまで放置した!?」
庭木を覆うくらいに肥大化した蜂の巣だった。立地のよくない売地であり、買い手のないまま放置されていたために発見が遅れたらしい。
「纏めて燃やしたほうがよくない?私安くて度の高い蒸留酒買ってくる?」
「いや、この巣ができてる木、結構高値がつくらしくて可能な限り木に傷をつけることなく巣だけを取り除いてほしいって依頼書に書いてあるよ。それに巣も蜂も買い取ってくれるって」
焼却処分にしようとした梓美を諫める。
結局"眠りの帳"で蜂を無力化、片っ端から風魔法で吸引、袋に詰め込んだ。巣と成虫の蜂も蜂の子や酒に漬け込む等の需要があるためギルドで買い取るでミアルが回収のためのギルド員を呼びに行き、梓美はその間に巣の切り出しをした。巣に幼虫や蛹が残っているため生きた動物を入れられない"奈落"に収納できなかったのだ。
「作業自体はいいんだけど……」
巣の材質はスズメバチ同様木の繊維を固めたものだったのでナイフでも簡単に切り出せる。"身体強化"で大して疲れることなく作業も続けられる。しかし、
ヴヴヴヴヴヴヴヴーーーーー
袋に詰められた蜂が覚醒して羽音と共に袋が揺れてちょっと怖い。
ミアルがギルド員と共に荷車で戻ってきたのは作業が終わって30分ほどしてからだった。
その場で依頼完了の手続きもできたのでミアル達は迷子犬を探すことにした。
切り出した蜂の巣と共に袋に詰められて蠢いてる蜂を一人運ぶことになったギルド員は顔を引きつらせた。
その後蜂は袋ごと氷室に丸一日放り込むことで纏めて殺処分しされ蜂酒の材料となったが件のギルド員はしばらく蜂がトラウマになったのだとか。
◇
「あんのアホ面ドッグぅ……」
二つ目の依頼の迷子犬の捕獲は想像以上に困難だった。
今朝貼り出されたばかりの依頼で飼い犬が脱走してしまったそうだ。
前提として犬に怪我をさせてはいけないし魔法を街中で無闇に放てば人を巻き込む。
その条件下でまずは犬の捜索から始まり、広い街中で依頼書に書かれたものと同じ特徴を持つ犬を見つけるのに2時間。
依頼書にあった犬の名前を呼ぶと犬は振り向き目を輝かせる。そして口角を上げていた。
「ほら、おいでー」
これで駆け寄ってきてくれれば良かったのだが犬は尻尾を振りながら逃げていった。心なしかピョンコピョンコと跳ねるように。
完全に遊び相手と認識されたのだ。
「「待てえええええええええ!!」」
二人は"身体強化"も使って追いかけた。それが遊び相手を欲していた犬を喜ばせることとも知らず。
"身体強化"により瞬発力、速度共に飼い犬を上回る二人だが、
「おい、気をつけて走れ!というか"身体強化"使ってるのか!?危ねえだろ!」
「ごめんなさい!」
体高の低さと小回りを生かして人通りの多い場所を逃げる犬。二人はぶつからないように減速、あるいは止まったりをしなければならず思うように距離を詰めれない。というより一定以上離れたところで「ヘッヘッヘッ」と笑ってるような顔でこっちを見ているのだ。「もうギブ?もうギブ?」と言わんばかりに。
「ふふふふふ……上等だよコイツー!」
こうしてデビューしたての冒険者と犬との鬼ごっこが続いた。
路地裏に逃げ込んだり時には水路に飛び込み泳いで向こう岸に逃げる犬との追いかけっこは3時間にも及んだ。
途中ゴロツキに絡まれそうになったが犬を見失いたくないあまりに闇属性の幻術でビクンビクンさせたり「街中で爆走している二人組がいる」との通報で騎士団が出張って捕まって注意されたり(その間騎士の後方でお座りして犬がこっちを見ているのが気になって仕方がなかった)といったトラブルの末ようやく捕まえることができた。
決め手は一度見失った時に、登録の為の試験を受けてから何も口にしていなかったからせめて何か口に入れようと梓美が"奈落"から取り出したサンドイッチだった。
食べようとした瞬間、横にピタッとくっついてうるうるした目でこちらを見上げていたのだ。いつの間にそこにいた。
当然その場で捕獲し、胴にロープをハーネスのようにくくりつけた。最初から餌で釣ればよかったのでは?とは駆けずり回った3時間を思うとお互いにとても言えなかった。
犬の健康には悪いのでサンドイッチはあげられなかったが代わりにククラプターのササミ肉をあげたらとても喜んだ。
「お姉ちゃんありがとう!ロッキーなんかすっごい満足そうな顔してる!遊んであげたの?」
むしろ遊ばれたというかなんというか。ギルドで確認に来てもらった依頼主の家の娘さんに満面の笑顔でお礼を言われたが二人は精神的に疲れて乾いた笑いしか出なかった。ロッキーとは犬の名前である。
「それじゃ、依頼も達成したことだしボク達は失礼するよ」
そう言って部屋を出ようとしたのだが。
ヒーン、ヒーン、ヒーン
ロッキーがすごい悲しそうな声をあげている。
振り返ると(´・ω・`)としか例えようのない表情で耳をペタンと伏せている。
「あの、すみません、行って大丈夫ですよ?」
女の子も苦笑いだ。
再び部屋を出ようとすると、
ヒーン、ヒーーン、ヒーーン
「「…………」」
とても出て行きづらい。どうしよう。
「あ、あの……お二人共どこかにお泊りですか?」
犬の悲しそうな声が響く空気に耐えられず女の子が尋ねる。
「いや、これから宿屋を探すつもりだけど……」
「でしたら!うちの宿屋はどうですか?そうすればロッキーも寂しくないですし、お姉ちゃん達も泊まるところが確保できて一石二鳥です!あ、お金はしっかり払ってもらいますよ?」
ロッキーも鳴き止み耳を立てキラキラした瞳でこちらを見つめる。断る理由もなく、買い物を終えた後で向かうことを決めた。今度はロッキーは鳴かなかった。
◇
「はあ……犬探しがあんなに大変だったなんて……」
「あれ完全にボク達を遊び相手と思ってたよね。最後あっさり捕まったのって十分遊んで満足したからだよね?決してサンドイッチに釣られたからじゃないよね?」
「もしサンドイッチだったら心折れる。冒険者初日なのに」
思いの外あっさり折れそうだった心。そんな二人が向かっているのは追いかけっこ中に見かけた大きめの武具屋。梓美用の杖を購入するためだ。
店内は剣に槍、斧や盾、弓等様々な武器が並んでいる。やや広めに隔離されたスペースには丸太が立てられており、おそらく練習用のスペースだろう。ミアル達は杖の区画を探す。
杖は魔法の増幅や制御の補助に用いられ本人の能力以上の魔法行使を可能にする。
村にいた頃は本人の技量を向上させるためと梓美は杖の補助が必要なほどの大規模な魔法も《舞台装置》である程度補えるためそれほど必要としていなかった。
ミアルも携帯しているもののアサメイを使うことは滅多になく、そして待ちに待ったアダマートでの冒険者登録だったためすっかり杖のことが試験時まで意識から抜けていたのだ。
しかし今後冒険者をやっていくならばやはり少しでも能力を上げておくべきだろう。
「杖ねぇ……どんなのがいいんだ?増幅系か?操作補助か?あるいは武器としての性能か?」
片肘をつきながら小柄で太い筋肉質なドワーフ族の男がカウンターで尋ねる。杖は素材によって性能が左右される。初心者用だと大体機能が偏るか広く浅くがコンセプトだ。
梓美のスタイルは二極魔法によるバフ、デバフがメインにレパートリーは少ないが二極で補った四元素魔法による攻撃や治癒を補助として使う。
操作技術は高いものの属性の適性上出力が低い梓美は増幅系、かつ武器としても使える物を希望した。手数で攻めるミアルと二人の場合、一撃の威力が求められる場面が不得手に感じたのだ。
「そうなると戦棍……いや、その細腕だったら長杖の方が取り回しやすいか」
ドワーフの男が見せてくれたのは木製の柄に鉄製の頭部の戦棍と木製に先端片側を金属で覆いエッジを効かせた長杖だった。手に取り軽く振って確かめる梓美。
「梓美、どう?」
「戦棍は重いかな。自由に振り回すには"身体強化"使い続けなきゃ駄目そう。土属性と闇の組み合わせでより重い打撃はできそうだけどね。長杖は軽くて扱いやすいね。こっちの方が魔法増幅効果が強いんでしたっけ?」
「というよりは打撃にもある程度使える本来姉ちゃんの冒険者ランクにはやや高めの品だ。だが制御補助用の魔力石が付いていないからその分手が届く値段まで落ちてる。大銅貨5枚で丸太一本に試し撃ちさせてやるがどうだ?ああ、商品巻き込んだら弁償な」
「お願いします」
練習用の区画で梓美が長杖を構える。発動するのは光属性で強化した火の弾丸を放つ"閃火弾"だ。思わぬ威力を出さないように杖を使う時の半分の威力で撃ってみる。
普通の"火弾"を上回る弾速で放たれたそれは着弾と同時に燃え広がり丸太を焦がす。さらに丸太に近づき"身体強化"を使った上で杖の金属部分に闇属性と地属性を組み合わせた金属の頑強性と質量を向上させる"重鋼化"を付与して加減無しで丸太に叩きつける。
轟音と共に砕け散る丸太。
「うっわー。熊の頭も一撃いけるねこれ」
「ほー。二極使いは初めて見たな」
ミアルとドワーフの男がそれぞれ感想を述べる。
「杖に損傷なし。杖があると出力が上がる、というより出力を上げられる、というのが正しい感じだね。"閃火弾"を出力上げたらどのくらいだろう?」
「あの打撃で丸太粉砕できるんだから丸焦げにはできるだろうな。で、これ買うか?大銀貨1枚だ」
「ミアル、どうかな?」
「魔力操作はそのままだし鉄のパーツと"重鋼化"との相性もいいから梓美にぴったりかも」
「そうだね。買います!」
丸太代も一緒に大銀貨1枚と大銅貨1枚を支払う。
これで今日受けた依頼分は全て吹き飛んでしまった。
「大丈夫、必要経費だから」
「でも、あの5時間近くかけての犬探しと追いかけっこ頑張った分かあっという間にって考えるとなんか複雑で……」
「なんだ、姉ちゃん達『暴走娘』か」
「「何その呼び名!?」」
とんでもない異名をつけられていた。
「日中犬を追いかけて走り回っていただろ?エルフの方が相方横抱きにして水路飛び越えたり黒髪の姉ちゃんに声かけたチンピラが指差されたと思ったら気持ち悪い顔で倒れて痙攣してたり騎士団に説教されてたりと結構話題になってるぜ?明日ギルドに行ったら皆に話題にされるかもな。おかしなエピソードがあるといつの間にかそれをネタにした異名で呼ばれるぜ?『暴走娘』」
「「ギャーーーーーーー!?」」
ルルは『鷹の目』という格好いい異名だったのに初日でどうしてこうなったのか。『暴走娘』なんておかしな名前になる前にパーティー名を決めて申請することが今夜の議題になりそうだ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『もっとバトルを!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。




