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10話〜成人とお祝いの蜂蜜酒〜

 ミアルは採集から帰ってきたルルにヴァイラナのことを話したが、やはり覚えはないらしい。しかし、収納の魔道具を見せた時に「まさか」と小さく呟いていたのでヴァイラナの母とは縁があったのは本当だろう。

 魔道具に収められていたのは魔の森で採集できる果実とヴァイラナの言葉の通り蜂蜜酒、それも要塞蜂の巣の一室丸ごとを瓶に加工した物に収まっていた。それが4本。


「要塞蜂の蜜蝋と蜂蜜酒ですって……!?」


 ルルは倒れそうになっていた。

 要塞(フォートレス)蜂蜜(ホーネット)とは魔の森、それもそれなりの深部に生息する蜂型の魔獣だ。体長は30cmほどで分泌する蜜蝋はとても強固でまさに要塞とも形容される巣を作る。そして無数の兵蜂が守りを固めているのだ。

 尾部の毒針も強力でしかるべき処方をしなければ一命を取り留めても強い倦怠感や吐き気といった後遺症を残す非常に危険な魔物だ。

 しかし、その巣はまさに宝の山に例えられ、栄養価の高い蜂の子はもちろん、女王蜂の卵巣の塩漬けも高級珍味とされている。蜜蝋も薬品と混ぜることで軟化、再硬化できるため武具等の高級なつなぎ素材として重宝される。花蜜や果汁を凝縮、貯蔵して作られる蜂蜜もその一つであり採集の難度もあり小瓶一つで金貨数枚相当だという。

 しかも独特の香りから蜂蜜を薄めるのに使った水も『泉樹』と呼ばれる希少な樹木から採取できる水分に富んだ樹液が使われている。泉樹の樹液は僅かながら薬効もあり飲む者の体を癒すと言われている。

これらが使われた蜂蜜酒は最高級品と言っても過言ではない。

 ここで普通なら売って一財産と考える者が多数なのだろうがそこは元冒険者のルル。

「こんな超レア物、楽しまないと勿体なさすぎるわ!」とヴァイラナの希望通りミアルの成人の日に楽しむことになった。成人を迎えるミアルがお祝いとして2本、ルルと梓美で一本ずつを分け合う形に決まった。

 蜂蜜酒は梓美の"奈落"に収納されることになった。万が一酒好きのルルや蜂蜜好きのミアルが魔がさして蜂蜜酒をつまみ呑みしない為である。

 その梓美だがミアルと顔を合わせると顔を赤くするのだが、一体何を話したのだろうとミアルは気になっていた。

 その理由は一週間後のミアルの成人の時に明かされる。



 ◇



 ミアルの誕生日、成人の祝いの晩餐の前にルルはミアルの出生の秘密を明かした。

 パーティーメンバーの裏切りに合い、陥った危機を妖精族に救われ、その後数ヶ月間妖精族の元で過ごしていたこと。

 ミアルがその妖精族との間に生まれた子であり《魔力知覚》を含めた妖精族の性質も受け継いでいること。梓美に惹かれるのもその妖精族の血の影響であり、性別は問題にならないであろうということ。

 そして、梓美はそれを受け入れていること。


「ヴァイラナの言っていた、『違う道』って、そういう事だったんだ」


 ヴァイラナもおそらく妖精族であり、持ってきた品の数々はミアルへの祝いの品だろう。

 ルルの妊娠した時期を知っていれば成人する頃合いを推し測ることもできるはずだ。

『違う道』とは妖精族の仲間としての生き方であり、ヴァイラナは歓迎する、と言っていたが


「ミアルはまず自分のやりたい生き方をしなさい。妖精族はエルフよりも若い時期が長くて長寿なんだからやりたいだけやってからでも遅くはないわ」


 ルルの言葉に違和感を覚える。それはミアルのしたい生き方をしても良い、ということで冒険者になることを反対してたのに何故?と疑問に思う。そんなミアルにルルは苦笑いする。


「一人で旅立つのは不安だらけだけど、梓美ちゃんと一緒ならまだ安心できるわ。それに好奇心だけならともかく恋心まで抑えるのは無理よ」

「でもかーさん、一人で大丈夫?働き手も減るしボクが狩りした分の収入もなくなっちゃうよ?」


 実際、薬屋の収入だけでは赤字なのだ。だから採集の合間に狩りをして食材を調達したり素材を収入源にしていた。恋心についてはスルーした。


「その分一人分の食費を浮くし子育てがない分ずっと楽よ。客足もまばらだから店の休み増やして代わりに狩りに行ってもいいわ。子供が心配しなくていいの」


 でもね、と言葉を続ける。


「時折近況を教えて頂戴。手紙でもいいし、いっそ里帰りでもいい。元気にやってる、ってことさえわかれば心配なことはないわ」

「かーさん……」


 優しく微笑むルルにミアルの目尻に涙がにじむ。


「あなたが妖精の子でも私にとっては大事な娘なのよ。ずっと幸せでいてほしいって思ってるわ」

「うん……」

「本当に冒険者って大変なのよ?いっぱい話したでしょ?」

「いっぱい聞いた。『鷹の目』って呼ばれるほどの冒険者でもこんなに苦労してるんだ、って思った」


 その言葉にルルが固まる。


「その話、どこで?」

「『鷹の目』?ヴァイラナが教えてくれたよ」

「できればその名で呼ばないで……『鷹の目』なんて異名のせいでどれだけ面倒ごとが舞い込んだか……」


 顔を覆うルル。有名になるのも考え物だなあ、と他人事のように思っているミアルだが後に自分も苦労することをまだ知らない。


「まあ、私の異名なんていいのよ。……けど、もしかしたら必要かも」


 顔を上げるルル。


「旅を認める理由にもう一つ。この間梓美ちゃんが気にしてたんだけど、梓美ちゃん以外の異世界人がいる可能性もあるの」


 二人で採集していた時に梓美の言っていたことを話す。多数を巻き込むような地球での最後の状況、もし意図的な物なら梓美と同等のポテンシャルを持つ者が一か所に集まっている可能性があること。同時にそれが梓美にとって手掛かりになりうること。


「推測の域を出ないけどもし異世界人関係で何かわかったら私に連絡して。捨てたつもりだったけどコネを引っ張り出してでも国に伝える必要があるかもしれない」


 ミアルは閉口した。国にまで通用するコネとはなんだ。『鷹の目』のネームバリューはそこまでなのかと。


「だから梓美ちゃんとの旅は大事なことかもしれない。梓美ちゃんと一緒の旅なら本当に止める理由が私の心配性だけになっちゃったわ」


 ミアルの気持ちをいよいよ止めきれなくなった。

 自分の失敗した時みたいな孤独でもない。ルルにはパーティーメンバーもいたがどこか距離があった。

 そして妖精族に助けられたあの時も彼らに裏切られたのだ。けれど梓美はミアルと依存に足を踏み込むくらいに心を寄せ合っている。本人達はただの友情と言い張っていたがミアルの出生を知ってる身からすればとてもそうは見えなかった。彼女達ならきっと自分の時みたいな裏切りはないだろう。

 とどめとばかりに梓美以外の異世界人の情報を集めるという使命も生まれた。異世界人の存在を村の外でどれだけ知られているかもわからない今、真剣に異世界人の存在を追えるのは梓美とミアルだけかもしれない。この国、あるいは世界に取り返しのつかない事態になってはならない。

 そういう意味でもミアルを送り出すメリットがあるのだ。

 しかし今日のメインはそんな重い話ではない。ミアルの誕生日、そして成人の祝いなのだ。先にミアルの出自を話したのは上げて落とす結果になるかもしれないよりは逆の方がいいという判断からだ。


「さて、大事な話はそれくらいにして、お祝いにしましょ。梓美ちゃんがククラプターで『カラ揚げ』っていうフリッターみたいな料理と『グラタン』っていう料理を作ってくれてるのよ。」


 梓美がこの場にいなかったのはずっと厨房にいるからだ。ミアルの祝いの為に自分も何か料理を作ってあげたかった。そしてある限りの食材でかつ豪華で梓美の料理技術で可能だったのが唐揚げとグラタンだった。


 唐揚げは香草と塩、少量の蜂蜜で下味をつけた塩唐揚げ風と、下味の香草の種類を変えたバジル風味等数種類。


 グラタンは川魚の燻製のほぐし身とスライスした芋を使ったチーズグラタンだ。これを大きい耐熱皿で作って取り分ける形だ。

 ホワイトソースとチーズは羊乳で作られた物を使っている。

 この世界ではホルスタインのような乳牛の品種が存在せず、代わりに乳用の大型の品種の羊がこの村でも飼われている。乳だけでなくその毛、肉、皮も羊皮紙として利用できるお得な家畜でありこの村の特産品でもある。世界が変わると家畜の品種や用途も変わる物だと梓美は思った。


 もちろんぶっつけ本番ではなくミアルが採集に行く間、昼食を兼ねてこの世界に合わせた唐揚げとグラタン作りを練習していた。なのでルルはある程度知っているがミアルにとっては初めての料理だ。


「うわあ、どれも初めて見る料理だ!これがニホンの?」

「地球の料理だけどこっちのグラタンは日本ではない国の料理でしかも結構アレンジしてる。でも料理が美味しい国の料理で日本でも人気なんだ。唐揚げもたしかルーツは違うけど日本で馴染み深い料理だよ」

「ニホンの子供はみんな作れるの?」

「私の年代だと唐揚げはそこそこ作れる人いるかもしれないけどグラタンはいないんじゃないかな?私も昔作ったことがあるからなんとなく覚えてただけで」


 唐揚げはともかくチーズグラタンの作り方を梓美が知っているのは昔家庭科の調理実習で作った経験があるからだ。


「それと、この蜂蜜酒。ミアルはこの瓶でそのまま飲む?」


 梓美が"奈落"から蜂の巣の一室一室をそのまま加工した蜜蝋の瓶を取り出す。

 成人して初のお酒を最高級品蜂蜜酒をラッパ飲みという一生に一度あるかどうかの贅沢なので一口目は折角なのでミアルはやってみることにした。

 ルルと梓美は蜂蜜酒をグラスに注ぐ。梓美は酒精が強かった時のために果汁も用意する。ヴァイラナがくれた果実ではなく、それは食後に食べるつもりである。


「それでは、ミアルの成人と、来たる二人の旅立ちに、乾杯!!」

「「乾杯(かんぱ〜い)!!」


 ルルのグラスを掲げた音頭に二人もそれぞれグラスと瓶を掲げ、三人で軽く当てる。そして各々の口に傾ける。ミアルは一気に飲み過ぎないように両手で少しずつ傾けて飲もうとしている。

 そして蜂蜜酒を味わった瞬間、目が見開かれる。


「すごい美味しい!」


 甘口のお酒で要塞蜂の蜂蜜の風味が強く生きており、そして、泉樹の樹液の香りが後味をすっきりとさせる。初めて酒を飲むであろうミアルにも飲みやすいような優しい味わいのお酒だった。


「本当、うちの蜂蜜じゃここまでの風味は無理ね。泉樹の香りがいいわー」

「アルコールも弱めでそのままでも飲みやすいけど私は割って飲もうかな。」


 ミアルとルルはそのまま、梓美は果汁で割って飲むことにした。


「カラ揚げサクサクして美味しい!」

「魚の塩気と燻製の香りがチーズと合わさってお酒に合うわ〜」


 梓美の作った料理はミアルは唐揚げが、ルルはグラタンが気に入った。ルルは口の中を火傷しそうになりながらはふはふとグラタンを食べては蜂蜜酒を飲んでいる。

 梓美は少しずつ色々な果汁割りを試してみたり、それに興味を持ってミアルが少し味見をしたりしながらも料理が完食された。


 続いてデザートの果物だったのだが、一つ、ルルにとって大きな誤算があった。

 果汁割りを色々試していた梓美がヴァイラナのくれた桃に似た果物を一口食べた瞬間、しばらく味わいながら考えると、スプーンを持ってきてグラスに一切れ入れて潰した。それに蜂蜜酒を注いで飲んだらとても幸せそうな顔をしたのだ。

 それを見て二人は察した。この果物は蜂蜜酒に合わせる物だったのだと。

 早速ミアルはそれに倣って果物と一緒に蜂蜜酒を味わった。果実の濃厚な甘みと蜂蜜酒の風味と香りが絶妙に調和しており思わず顔が綻んだ。

 ルルは自分の蜂蜜酒の瓶を見た。元々お酒の進むルルは食事中も飲んでいた。そしてさらに食後の締めと言わんばかりにも飲んで残り一口分しかない。

 元々二本あり初めてのお酒だったため少しずつ飲んでいたミアル、水代わりに飲むとはいえ多めに果汁で割る為それほど蜂蜜酒自体の量は減らなかった梓美はまだそれなりに残っている。二人とも幸せそうに果実と蜂蜜酒を味わっている。


「あの、かーさん、ボクの蜂蜜酒、飲む?」


 自らの瓶を見て悲しそうな、とても悲しそうな表情を浮かべる母を見ていられなかった。


「いいの。娘の分のお酒を貰ってまで、飲まなくてもいいの」


 とても哀愁の漂う表情で顔を横に振られても説得力がない。むしろこのままの方が居た堪れない。


「あの、ルルさん、私もたくさんはお酒飲めないので少し貰ってくれませんか?」


 梓美も自分の分の瓶を持ってルルに勧める。ルルのあんな悲しそうな顔は見たことがなかった。

 大人のプライドとして(保ててなかったが)断ろうとしたルルだったが、とてもそんな様子のルルを見ていられなかった二人に押し負け結局グラス一杯分を二人から分けて貰って幸せそうな、けれど少し情けない顔で果実と蜂蜜酒を味わった。









 その晩。

 なんだかんだで結構な量を飲んで酔っていた上に一緒に旅に出られる嬉しさの勢いのままミアルは寝ようとしていた梓美の布団に潜り込んだ。

 もはや夜這いである。

 久しぶりの魔力同調とさらに《魔力知覚》で五感全てを使って梓美の魔力を堪能する始末。

 しかし今回は梓美も反撃と言わんばかりにミアルに自分の魔力を流しこんで同調し返し、気がつくと抱き合って気絶したまま朝を迎えていた。

 互いに記憶があり赤面しながらも最後の一線は無事だったことに安堵したが当然ルルにはバレていて二人は弄られまくった。

『面白かった!』

『続きが気になる!』

『もっとバトルを!』

他諸々という方がおられましたら大変励みになりますので感想やブクマ、広告下の評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎になってるやつ)を宜しくお願いします。

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