9話〜ミアルの秘密〜
梓美と共に採集に出かける許可が降りて1ヶ月。ミアルの誕生日が近づいてきた。
今日はミアルに店番を任せてルルが梓美と採集に赴いている。
成人祝いのご馳走を本人に調達させるわけにはいかないからだ。そして梓美の『奈落』ならば後は当日まで隠しておける。
「でもミアルにはバレるんじゃないですか?」
「そこは仕方ないわよ。ご馳走は確定しててもその中身は秘密のままの方が楽しみは増すでしょ?」
会話をしながらも薬草を摘んでいく。梓美が教えてもらった薬草は見分けやすい物や単体でも毒消しや傷薬として使える物である。
「梓美ちゃんもこの2ヶ月でだいぶ生きていく力が身についてきたわね。正直驚いたわ。精々商人の見習い程度だったのにここまで成長するなんて」
「色々と運が良かったんです。しっかり育つことのできる環境と育ててくれる人がいたからですよ。ありがとうございます」
「どういたしまして。それでね、梓美ちゃんはそのうち旅立つでしょ?」
「はい、そうですね。少し心細くはありますけどいつまでも世話になるわけにもいかないですし、地球に帰る手段を諦めたわけじゃないんです」
魔法の扱いを覚えた現在でも《舞台装置》で地球へ帰還する魔法は構築できない。これは魔法を発動するための範囲が《舞台装置》の効果範囲を超えているからだと梓美は考えている。そして、もう一つ懸念していることがある。
「あの時、あの場所には私以外にも人はいたんです。そして、私はあの時の光の中心にはいなかった。だったら、あの場にいた人達もこっちに来てる可能性が高いんです。むしろ、本命は光の中心にいた人かも知れません」
この世界に転移したのが教室での光が原因なら自分一人がこの世界に来たとはとても考えにくい。もしそれが何者かによって意図的に起こされたのならば
「残りの人達がこの世界の一ヶ所にまとめて転移している可能性だってあります。もし召喚されたのだとしたら世界を跨ぐ方法はあるはずです」
「もし、これが何かしらの事故だったとしても?」
「だとしてもです。事故なら尚のこと再現できない道理はありません」
それに、と梓美は続ける。
「もし他のクラスメイトが召喚されたとして、彼らが私のスキルと同等、あるいはそれ以上の物を持っていないって保証、あると思います?」
ルルが息を呑む。梓美の《舞台装置》と同等以上?しかもそれが複数?しかも全員人間族。人間族至上主義の聖光神教が手中に収めればその力で大きな戦争を起こすかもしれない。
「全部憶測です。けど、ありえないなんて言い切れません。実際は何が起きているのかを知る為にも村の外で情報を集めたいんです。もっと色んな魔法も知りたい。あるいは他にこっちに来た人が何かを掴んでるかもしれないんです」
「その人に何か不利な条件を突きつけられたら?快く協力してくれるとは限らないでしょ?」
もしそうなら、と梓美は返す。
「その時はねじ伏せてやります。闇魔法は洗脳とか色々悪名も高いですからね。悪意には悪意で返してやりますよ」
村にいる間は特に悪意に晒されることもなかったので穏やかだったが、梓美は自分や周囲に降りかかる悪意に対してはかなり物騒な気質である。
下着を受け取りに再びメラールに赴いた時にしつこいナンパに絡まれ、相手が脅しをかけた瞬間"身体強化"した上でアッパーカットで昏倒させ追い打ちに金的を蹴り飛ばして騒動を起こしたことがある。「そっちが暴力に訴えるつもりのくせして逆に暴力でねじ伏せられないなんて馬鹿な話はないですよね?」と、今まで見せたことのない冷たい眼差しで男を睨んでいた梓美に周囲の野次馬は戦慄した。
その時に梓美の基本スタンスは「相手には有効的に。善意には善意で返すが悪意には報いを」だということが判明した。
「まあ意思が固いなら止めるつもりはないわ。ただ間違いなくミアルは梓美ちゃんについて行きたがる」
「断るべきですか?」
「いいえ、梓美ちゃんがミアルを大事に思ってくれているなら、連れて行って欲しいのよ。」
梓美は困惑した。てっきりミアルを説得するように頼まれるのかと思ったら逆であった。
「でも、そうしたらルルさんが独りになってしまいます。元々ルルさんはミアルが冒険者になるのに反対してたんじゃ、」
「遅かれ早かれあの子は村の外へ飛び出すわよ。だったら信頼できる相手と一緒の方が安心できるわ。梓美ちゃんが地球に帰るまででいい、ミアルと一緒にいてあげてほしいの」
「それは、こっちも心強いけど……」
「成人した娘が独り立ちなんて普通のことよ。どこに行こうが元気でいてくれるならそれで十分だし、あの店で独りになったとしても元々あの子を産んで育てながら切り盛りしてたのよ?全然問題ないわ」
梓美の不安を笑って一蹴する。
「むしろ地球に帰れないってわかったらミアルと一緒になってほしいのよ。あの子の初恋だろうしね」
「ちょっと待ってください!一緒って、この国でも同性婚って認められてはないですよね!?」
ルルのいきなりミアルの心の内をぶっちゃけてさらに「娘を貰ってくれ」と言わんばかりの物言い。梓美も泡を食うが、
「ミアルが普通のエルフならね。でも、あの子は違うのよ」
ルルの顔は真剣そのものだ。
「ミアルはその気になったら相手の性別って関係ないのよ。そういう種族がいることは教えたわよね?」
梓美はその種族のことを知識として教わった。一般に人型種族としては扱われず、時に魔獣扱いもされるが高位の存在であるとされる種族。精霊と呼ばれる、肉体ではなく魔力による体を持つ生命体を起源に持つ種族、それは
「『妖精族』……!まさか、ミアルの父親って、」
「そうよ、ミアルは私と妖精族との間の子。ちなみにその妖精族は女性よりだったわ……っと、ごめんなさい。今向こうにククラプターが見えたわ」
話を区切り背負っていた弓に矢をつがえる。放たれた一矢はあっという間に見えなくなり、後に小さく鳥の悲鳴のような声が聞こえる。
「それじゃ、回収してくるわね。」
ククラプターを見つけた瞬間仕留めてくるのはさすがは親子ということだろうか。しかし、梓美には先程までの話が衝撃的すぎて、
「私……ミアルと子供できちゃうの……?」
顔を真っ赤にしていた。
◇
店番をしているミアルだが、基本的には暇である。商品用の調合はルルが全て取り扱っているので客が来なければやることがないのだ。
二人で採集に出かけたのは自分の成人が近いからその為なのだろうと想像がつく。
(あるいは、ボクに内緒の話かなあ)
どんな話をしているのだろうか。梓美に自分がついていこうとした時は止めるように説得?
(されたら凹むなあ……)
梓美と離れることを考えると悲しい気持ちになってくる。梓美は異世界人で、元の世界に帰ることを目標にしている。だから別れは必然だ。だから自分を止めるのと悲しみを先延ばしにさせない為の両方でそうする可能性もあるのではないか。
(それでも、できるだけ一緒にいたい)
現在むしろ同行を推奨しているルルからすれば親の心子知らずと怒りかねないことを考えていると薬屋の戸が開く。
「いらっしゃいまっーーーーー?」
「ご機嫌よう」
見覚えのない人だった。
外見年齢は自分と同じか少し幼いくらい。光の反射で緑の映る黒のウェーブのかかったロングヘア、ガーネットのような赤色の瞳。
そして人形のような端正な顔立ちとエルフ特有の長い耳。
黄色の刺繍の入った黒のレースワンピースには赤いリボンがあしらわれている。その物腰といい、いいところのお嬢さんだと言われても不思議ではない。
「私、『鷹の目』にご挨拶に伺ったのですけれど、今日はいらっしゃらない?」
「鷹の目、ですか……?」
「ええ、ルル・ルート。結構な腕前の元冒険者だと聞いております」
もうすぐ15なのに初めて母の異名を聞いたミアル。聞く話と言えば大体苦労話なので腕が立つ、というのも初耳だ。
「どうしました?豆鉄砲をくらった様な顔をされて」
「あ、えっと、すみません、かー……母の冒険者時代の話を母以外から初めて聞いたもので、驚きました。母は今近くの森に採集に行っています」
「まあ!ではあなたがあの人の子なのね?お名前をお伺いしても?」
黒髪の少女は手を合わせ、ぱあっと目を輝かせる。
「ミアルです。母とは冒険者時代に?」
「名乗りが遅れましたわ。ヴァイラナと申します。敬語も不要です。あなたのお母様とは縁はありますけれど面識はありませんわ。けれど預かり物をしているの」
ヴァイラナが差し出したのは古ぼけた革のポーチ。
「以前お母様達のところにいた時に置き忘れてしまったらしいの。代わりにお土産を詰めておきました」
「え、お土産って、これに?」
「見た目通りのポーチではありませんのよ?収納の魔道具ですから、そのポーチの倍の物は入りますの」
そんな物を忘れていったのか。そんな失敗談は聞いたことはなく、なんとも言えない表情でポーチを眺めるミアル。
「そういえば、ミアルはもうすぐ成人となるのでしたよね?『鷹の目』の子が生まれてもうすぐ15になるとお母様達が話していたわ。成人したらどうされるのかしら?」
カウンターに両肘をついてこちらを見つめるヴァイラナ。どこか親しげだが面識はないはずだ。
「ボクは旅をしたいな、って思ってる。だから冒険者をやりつつあちこちを巡りたい、んだけど母が冒険者で大変な目にあってるから冒険者になるのを止めてくるんだ」
「大変な目……」
ヴァイラナは僅かに目を伏せる。しかし、ミアルは気づかず続ける。
「依頼主とかパーティーメンバー関連みたいな実力でどうにもならないトラブルとかが多いんだって。運悪く予想外の魔獣が襲ってくる方がマシに思えるってさ」
「それは……大変ですわね」
苦笑いするヴァイラナ。
「でも最近一緒に冒険者になれるかもしれない人がいるんだ。その人はボク以上に知りたいことがあって、そのために冒険者になって各地で情報を集めたいんだ」
「その方は友達ですの?」
「うん、まだ会って二ヶ月だけど、大事な友達。できるだけ一緒にいたい、って思ってる」
「まあ、その方をお慕いしていらっしゃるのですね!」
顔を赤らめるミアルにヴァイラナが目を輝かせる。
「友達!友達だから!そもそも相手女の子なんだよ!?」
「あら、そんなこと、大した問題ではありませんわよ?」
あっけらかんと述べるヴァイラナにミアルが目を丸くする。
「あら?もしかして知らないのかしら?……でしたら、私から話すのは憚られますわね。とにかく、相手次第、ということですわ」
「一体どういう……?」
首を傾げるミアルにヴァイラナが微笑む。
「いずれわかりますわ。さて、あの人に会えないのは残念でしたが、そろそろお暇しないといけませんわ」
そう言うと慈しむ表情を浮かべてミアルの頭を撫でる。
「わっ、ヴァイラナさん?」
「もうすぐ成人おめでとう。魔道具の中には要塞蜂の蜂蜜酒を入れてあるわ。是非成人したら味わってくださいましね」
「えっと……ありがとうございます?」
「もし別の道を歩みたくなったら私の元を訪ねなさい。歓迎するわ。では、ご機嫌よう」
ヴァイラナが去ってからもしばらくぽかんとした表情が消えないミアルだった。
◇
「えーと、つまり、絶体絶命のところをその妖精族に助けられて、その姉妹に数ヶ月ほどお世話になったと」
「そう。そこでイロイロあってね。その後ミアルを身篭った時にエルフ寄りの子って事で街近くに戻されたの。妖精族のところじゃ人の子を育てるのは難しいから」
精霊の系譜である妖精族は基本的に女性寄りであるが実質のところ両性と言っていいだろう。同族同士以外でも必要に応じて人型種族の相手の精と共に吸収した魔力を元に子を宿したり逆に魔力を送り込んで子を宿らせる繁殖形態を持つ。
基本的には妖精族の子が生まれるが近縁であるとされるエルフが母胎となった場合、妖精族ではなく、妖精族の特性を持つエルフ族の子が生まれることがある。
ミアルのスキル《魔力知覚》も本来妖精族によく見られるスキルである。妖精族はこのスキルで魔力相性の良い相手を見つけるのだという。
ちなみに進化の過程で別れた時により子を宿らせる方に繁殖力を特化、野生的になった種がゴブリンとされている。
「成人の時にミアルにも話すわ。冒険者としての最後の数ヶ月のことは話してなかったの」
自分の出生にショックを受けるかもしれないしそもそも自分を妊娠した時の生々しい話でもあり話し難い話題だ。しかし、魔力相性がいい梓美に会って自分の感情に戸惑っているミアルにはむしろ教えるべきだと感じた。
「だから、その気になればミアルと一緒になれると思うの。でも、もし今の話でミアルに不安を感じたらミアルには諦めてもらうしかない。」
言ってしまえばミアルにとって梓美は性的な対象になりかねない。梓美が拒絶する可能性があるのだ。
「えっと、その……」
ルルの開示した真実に梓美は目を逸らしながら躊躇いがちに、
「地球に帰る手段が見つかる可能性がある間は、孫に期待しないでくださいね……」
頬を赤らめてそんなことをのたまった。
「孫って、気が早すぎるわよ!」
「そもそも私色々初日に堕とされてるからミアルなら問題ないというか……でも子供できちゃうと地球に帰れなくなりそうで……可能ならミアルごと地球に連れていきますよ?」
「そこまでは求めてないから安心して!取り越し苦労だったわねごめんなさい!お願いだからもうちょっとプラトニックでいて頂戴!」
まさかこんな感じの話をミアルともすることになるのだろうかと頭を抱えるルルだった。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『ミアルと梓美をもっとイチャつかせろ!』
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