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プロローグ〜女の子が空から落ちてきた!?〜

はじめまして、d-longです。この度は『妖精の子はデウスエクスマキナと旅をする』を読んでいただきありがとうございます。初執筆で至らない部分も多々ありますがどうぞ暖かく見守ってください。

「おい、一体何だ、何なんだ」


 荒っぽい口調ながらも困惑と恐れが混じった声で呟くのはダークグリーンの髪色の少女。特徴的なのはヒトとは異なる形の耳、髪と同色の鱗の様に硬質化した手の甲の皮膚、そしてワニを思わせる太い尾。この世界において『爬虫人族(レプトイド)』と呼ばれる種族だ。


 その少女が見上げているのは巨獣。正確には獣に分類される種族ではないが。

 全身の白い毛皮、背には巨大な鳥類の翼、熊のような強靭な四肢と鋭い爪、頭部には一対の大きな角を有するそれは『獣王竜(ベヒモスドラゴン)』。

 強大な種族である竜の一種であり、他種族差別の激しい人間族間の一大宗教においては『聖獣』とも呼ばれ神格視されている。

 この個体もその宗教『聖光神教』によって召喚されたのだ。他の人型種族やそれと共存する人間族への攻撃の為に。



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「何だよ、この力は」


 少女が今恐れているのは獣王竜ではない。自分達に与えられた、獣王竜をも斃す程の力があまりに異質すぎるのだ。


 獣王竜の骸から視線を外し振り返ると、人間族の少女が魔法用の長杖を支えにしながらも息も荒くへたり込んでしまっている。

 この世界では馴染みのないセーラー服と呼ばれた服の上に外套を羽織っているこの少女によって自分達に獣王竜を斃す程の力が齎された。

 彼女がいなければ、自分達は命を落としていた。しかし、この戦いより大きな、かなり厄介なことに自分は巻き込まれてようとしているのではないのか。そんな不安に駆られる。


「二人とも無事ー?」


 上からかかる声に空を見上げる。獣王竜と死闘を繰り広げたのは自分だけじゃない。視線の先でもう一人、この人間族の少女と共に旅を始めたというエルフ族が降下してきた。

 碧色の瞳にややブラウンの混ざったブロンドの髪だった筈のエルフの髪は今は青白く輝いており、背には二対の魔力で猛禽を思わせる形状に構成された翼、頭部にも一対、魔力で羽角が構成され、周囲、特に翼周りが放電している。

 妖精に近いとされているエルフが寧ろ鳥を想起させる変化をしているのは人間族の少女からの力によるものであり、その力の由来が鳥を象っているらしい。


「ああ、この通り二人とも生きてる。お前の連れの方はバテてるし、あたしもぶっ倒れたい気分だ。で、この人間族は一体、何だ?」


 ボーイッシュな雰囲気のエルフの少女、ミアル・ルートは人間族の少女、東谷梓美(とうやあずみ)に視線を向け、


「この子は、異世界人なんだ。」



 話は、数ヶ月前に遡るーーー




 ◇




 ミアルの生まれ育った村『ニオクス』は多種の人型種族の共存する国の辺境にある。広大な魔獣の生息域である『魔の森』に隣接する辺境では人に害を為す魔獣の駆除や魔の森でのみ発見されている素材採集をはじめとした冒険者業が盛んだ。


 ミアルの母も冒険者を生業としてきたがミアルを身篭ったことをきっかけに故郷の村に戻り、冒険者業の傍らで培った薬草の扱いを生かして薬師として生計を立ててきたのだが、


「何で駄目なのー!?」

「だから、わざわざミアルが冒険者になる必要はないの!」


 左側に下ろしたミディアムの三つ編みがトレードマークのエルフの少女ミアルとそれを宥める母、ルル。この二人の口論がここ最近の日課である。


 今年15歳になるミアルはこの国では成人扱いとなる。エルフ族は長寿であるためこれからの永い人生をこの村だけで生きるのは若いミアルにとってつまらないことこの上なく、外の世界に憧れていた。

 一方でルルは冒険者時代に村の外で苦労したし、何度も命の危機にも陥った経験から、同じ苦労を娘に味合わせたくないのだ。願わくば自分の技術を継承して村の外に出ずとも安定した生活を送れるようになってほしい。

 そんなルルだが傍目には外見年齢20代であり、ミアルと並んでも姉妹にしか見えない。そしてその若い外見で冒険者時代の苦労話を冒険者に憧れる村の少年少女に容赦なく叩き込むので「若いのに夢が枯れてる」と村人達からはよく言われている。


「だからそれはかーさんが色々知らないで冒険者始めたからでしょ!どれだけボクが失敗談聞かされたと思ってるの!」


 実の娘のミアルが村の子供達の中で唯一へこたれずに外の世界への憧れを捨てなかった。

 最初のクエストで死にかけた、先輩冒険者に騙されて襲われそうになった、一緒に酒を飲み交わした同業者が帰って来なかった、目の前でパーティーメンバーが命を落とした。そんな暗くなる話を聞かされ続けてもだ。

 それでも知らない世界への好奇心が勝るのだ。むしろ最近ではその経験談の豊富さに引きつつあるのだが。


「それに、もう魔法の実力なら村の誰よりも上だし、採集や狩りも一人でできるんだよ?」


 薬の素材の採集の際に自衛の為に教えた魔法もどんどん覚え、天性の素質のおかげか今では魔法の扱いは元冒険者のルルを上回る。

 そして、幼い頃から採集への同行や薬師としての仕事の手伝いもさせられていた為薬草の知識も申し分なく、野生の獣程度なら難なく狩猟もこなせるミアルはルルから見ても実戦経験の乏しさを考えても初級冒険者としては問題ないくらいの能力はある。しかし、


「ミアルが冒険者をやっていくだけのことはできるのは知ってる。それでも危険と隣り合わせの道には進んでほしくないの」

「だから、狩りくらい問題ないって」

「だったら、この村で狩人としての道を進んでも問題ないでしょ?」

「それは・・・」


 冒険者という危険と隣り合わせの道に見合うメリットを示せない以上、母に説き伏せられてしまう。


「とにかく、これから森でその狩りと、採集でしょ?早く準備しなさい。私もお店開ける準備しないとだし」

「はーい・・・」


 とぼとぼと採集の準備を始めるミアル。こうしていつも通りの日常が始まるのだ。




「はあ・・・今日も駄目だったなあ・・・」


 村近くの森で薬草やキノコを採集しては籠に仕舞い込みながら一人ごちる。


「そりゃあ、かーさんがボクの事心配なのはわかるよ?酷い経験いっぱい聞かされたし同じ目に合わせたくないのもわかるけどさあ。」


 因みに、全てがルルの経験談ではなく、又聞きのエピソードもいくらかあることをミアルは知らない。


「でもエルフって数百年は生きれる種族でしょ?それをずっと村で?色々と無理でしょ!」


 そのことを母に話した時の返しは「永く生きられるんだから成人してすぐに冒険なんて生き急ぐ必要はないでしょ?」だった。


「何かきっかけ・・・できれば円満に旅立てるようなきっかけって何かないのかなー?」


 ミアルとしても家出じみた冒険への第一歩は踏み出したくない。女手一つで育てたくれた母には心身ともに健やかに過ごしてほしい。そして村を出て行かざるをえないような事件が身の回りに起きてほしいとも思わない。


「ん?」


 何か異変を感じる。原因は空か。しかし樹々の葉が邪魔で様子を見ることはできない。


「ぅゎぁぁぁぁぁー!?」


 なにやら遠くから叫び声らしきものが聞こえる。

 ただ事ではないと判断したミアルの足元に魔法陣が展開、発動した風の魔法で跳躍、そのまま樹を跳び上がり、樹頭から見上げると、


「あああああぁぁぁー!?私落ちてるぅー!?」



 空から、女の子が落ちてきていた。


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